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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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  9話 誕生パーティーに行く悪女

マカリスター伯爵家では、嫡男であるトーマスの誕生パーティーの準備で朝から使用人達は大急がしだった

その為、パーティーの主役であるトーマスは邪魔だと屋敷を追い出され

「信じられないよね?主役の俺を邪魔扱いして追い出すなんて。毎年毎年、邪魔者扱い・・まさか当主になってもじゃないだろうな?」

やれやれという顔をしながら、目の前に居る婚約者に愚痴る


「実際邪魔でしかないのだから、仕方がないでしょ?」

果実の入った炭酸水を飲みながら、冷たく言い放つティナ

二人は高級カフェのテラスでお茶をしている

「私だって、支度があるんですからね。ずっと、貴方のお守りはしていられないわよ?」

「うんうん、判ってるよ。俺の為に精一杯綺麗に着飾ってくれるんだろ?楽しみにしてるよ」

ニッコリ笑う調子の良い婚約者に「なんか支度するのが馬鹿らしくなってきた・・・」はぁっと溜息を吐く



夕方、トーマスの誕生パーティーに呼ばれているヴィクトリアは、ドキドキしながら婚約者のルシフェルが来るのを待っていた

「た、誕生パーティーって、夜会とは違うから、あまり派手じゃない方が良いわよね?このドレスで可笑しくないわよね?」

ヴィクトリアは以前購入した青いドレスにルビーのネックレス、髪をアップにしルビーの髪留めで、少し大人な感じを出している

「はい、とてもお綺麗ですヴィクトリア様」

アメニも他のメイド達もうっとりしながら美しい主人を褒めてくれる


記憶を無くしてから結局、今まで友人らしい人は誰一人として見舞いに来てくれなかった

ヴィクトリアにとってそれはとても悲しく、自身が悪女として嫌われている事を思い知らされる

だからルシフェルやトーマスとティナはヴィクトリアにとって本当に大切な存在であり、自分の所為で彼等に嫌な思いはさせたくない

(変に目立たずに、大人しくしていれば、その内悪女のレッテルも消えるかしら・・・?)

今のヴィクトリアにとって切実な願いは、悪女だった自分を払拭させる事だ


準備が整い、ドキドキしながらお茶を飲んで待っているとルシフェルが迎えに来てくれる

「綺麗だよ」

馬車に乗り込み、彼女を抱き寄せながらルシフェルは耳元で囁く

「んっ・・・あ、ありがとうございます」

(何だかルシフェル様、耳元で囁く事が多い気がする・・・)

ヴィクトリアは顔を赤らめ、耳を触りながらそう感じる


「大事な物を渡さないとね」

ルシフェルは、以前婚約指輪を買いに入った宝飾店のロゴが入ったシックな小さな紙袋をヴィクトリアに渡す

「あっ、指輪が出来上がったんですね!?」

嬉しそうに受け取り、紙袋に入ってある二つの箱を取り出す

ドキドキしながらその箱の一つから指輪ケースを取り出し開けると、プラチナの指輪が入っていた


「これはルシフェル様のですね」

彼に箱ごと渡し、もう一つの指輪ケースを開けると青い石の付いた指輪が入っていて「綺麗・・・」嬉しそうにその指輪を取り出す

「気に入った?」

ルシフェルが尋ねると嬉しそうに「もちろん、凄く嬉しい」そして彼に

「あ、あの・・・ルシフェル様につけて欲しいのですが・・・」

そう言って指輪を渡すとルシフェルは笑って指輪を受け取り、ヴィクトリアの左手を取り薬指に指輪を通す

「ありがとうございます。本当に綺麗」

嬉しそうに指輪を見つめる彼女にルシフェルは「ヴィクトリア、俺にもつけてくれる?」彼女の掌に指輪を渡す



マカリスター家ではすでに大勢の来客で賑わっていた

「トーマス様はとても慕われているんですね」

大勢の人達を目の当たりにして、自分とは大違いだとヴィクトリアは羨ましく思う

「ちがう。マカリスターと懇意にしている者や同僚達が義理で来ているだけで、あいつを慕ってる訳ではないよ」

冷たく言い放つルシフェル

「ルシフェル様は、トーマス様に厳しいですね」

「そうですね」


あっさりと認める彼に「・・・少し羨ましいです」その言葉に驚くルシフェルに「私には優し過ぎますから」ぎゅっと彼の手を握り

「もう少し、私に甘えて下さい・・その、頼りないと思いますが」

恥ずかしそうにそう伝えると

「ええ、今夜はたっぷりそうさせて貰います」

意味深な事を言う彼に「あ、あの・・そういう事ではないのですが・・」俯きながら顔を赤くするヴィクトリア


二人は招待状をマカリスター家の執事に見せ、屋敷の中へと入る

賑やかな屋敷の中で、相変わらずヴィクトリアは自分に向けられている視線を感じる

(うう、幾ら嫌われているとはいえ、相変わらず皆の視線が痛い・・・・・)

ルシフェルが傍に居るから怖くはないが、突き刺さるような視線で注目を浴びるのは嫌だ

貴族達がヒソヒソと、自分を見て噂をしているのを見るのも辛い

「トーマスにプレゼントを渡したら、さっさと帰ろうか?」

ルシフェルは周りを見渡し、主役である彼を探す

「えっ?今来たばかりですよ!?」

ヴィクトリアも貴族達の視線に居た堪れないのでそうしたいが、それでは折角お祝いに来たのにトーマスに失礼だと真面目な彼女は思う


「・・・早く帰りたい」

ボソッと呟くルシフェルに顔を赤らめ「駄目です、暫くはここに居ないと・・・」彼の意図が判り、ドキドキしながら周りを見る

「じゃあ、休憩室に行く?」

溜め息混じりに聞いてくるので「だから、まだ来たばかりです!!」

(だんだんルシフェル様が壊れていってる・・・)そう感じるヴィクトリア


主役であるトーマスを来客で賑わっている屋敷内、キョロキョロと探すがなかなか見つからない

「普通、主役はずっとホールの後ろ、邪魔にならない所に居座って挨拶に来る来客の対応をするものなんだがな」

トーマスの父親は妻と一緒に彼の友人と楽しそうに話しをしているが、肝心の主役の姿が無い

「あの馬鹿には毎年同じ事を言っているんだが」

イライラしながらルシフェルは、今だ見つからない友人に悪態吐く

「・・・ティナも居ないのかしら?」

彼女には以前約束していたオペラの事で話がある


「ヴィクトリア!!」

二人を探していると突然名前を呼ばれ、驚いて振り向くと顔立ちの整ったかっこいい男性が、自分の傍に嬉しそうに近づいて来る

(誰?)

ヴィクトリアは当然知らないが、悪女ヴィクトリアの浮気相手の一人だった


「・・・マルク・ディホンスター」

ルシフェルは不快な目を彼に向けるのは、マルクが悪女ヴィクトリアの浮気相手だという事を知っているから

「ヴィクトリア、君が大怪我をしたって聞いた時は心配したよ」

そう言いながら近づいて来る

(心配?)

あの事故から大分経つが、今まで誰もお見舞い来てくれなかったし、手紙もくれていない筈だ

(・・・帰ってから彼宛の手紙を探そう)

もしかして記憶が無い所為で、見舞いの手紙を無視した形になり彼に礼を欠いたかも?とヴィクトリアが心配していると


「元気そうで安心したよ。良かったら一緒に踊らないか?」

彼が婚約者であるルシフェルを無視し、ヴィクトリアにダンスに誘ってくるので

「あの、私、記憶を無くしてまして、貴方の事も忘れていますので、お断りします」

そう伝えルシフェルの後ろに隠れると、ルシフェルが立ち塞がる


そんなヴィクトリアの態度に、マルクは気にしない

「なんだ、記憶喪失の噂は本当なのか。でも別に構わないだろう?折角なんだし、こいつの事は放って置いて、俺と楽しもうよ」

ルシフェルの後ろに隠れているヴィクトリアの手を掴もうとするので、ルシフェルがすかさずマルクのその腕をギュッと掴み

「ディホンスター、俺の婚約者に気安く触らないでくれないか?」

イライラが募っていたルシフェルは、マルクを睨む


「!!」

その眼にゾクッとするマルクだが、怯まずルシフェルに言い返す

「なんだ、俺がヴィクトリアの恋人だと知ってるんだろう?お前こそ邪魔するなよ」

「えっ!?」

マルクの言葉に驚愕し(・・・彼が私の恋人?)青褪めるヴィクトリア


「悪いが、ヴィクトリアは俺の婚約者だ」

ルシフェルは彼の手を離しヴィクトリアを抱きしめ「お前に渡す気はない」冷やかな眼でマルクを睨み、マルクは青褪めているヴィクトリアを見て

「ヴィクトリア、君は忘れてるかもしれないけど、ルシフェルなんかよりも俺の方が好きだと言ってくれたんだよ?俺の顔が好きだと」

そう訴えてくるので、ヴィクトリアは(何て事をルシフェル様の前で言うの!!)顔を強張らせ思わずルシフェルを見ると、彼はマルクを睨んでいるだけだ


「わ、私は・・今の私は、ルシフェル様が好きなので・・ごめんなさい」

震えながらそう言うと、抱きしめてくれているルシフェルにしがみ付く

ヴィクトリアにはそれが精一杯だったが、ルシフェルにはそれで十分だった。ヴィクトリアを抱きしめる手に力が入る


(大体、お見舞いにも来てくれなかったのに・・・)

それを思うと、婚約者の立場で仕方なくだろうが、自分を嫌っていたルシフェルだけが唯一お見舞いに来てくれた


「何だよ。散々笑いながら、こいつの事なんかどうでもいいって馬鹿にしていただろう!?俺と一緒に居る方が楽しいって、そう言ってくれたじゃないか!!」

そうヴィクトリアに必死で訴えると、ルシフェルを馬鹿にするよう鼻で笑い

「お前だって判ってるだろう?自分がヴィクトリアにどれだけ嫌われているか。ずっと眼中に無く、無視されてたも同然だったものな!?ヴィクトリアが周りに、お前との婚約なんてじょうだんじゃ・・・」

「やめて!!それ以上ルシフェル様を傷付ける事を言わないでっ!!」

ズキンッと、胸を痛めるヴィクトリアはマルクの暴言に堪らず叫ぶ


「・・・私が貴方に何を言ったか忘れてるけど、それを今、彼の前で話して傷付けるのは、やめて下さい!!」

震えながらマルクを睨む

ヴィクトリアに睨まれ(えっ?ヴィクトリアがあいつを庇うのか?あのヴィクトリアが・・・・!?)衝撃を受けるマルク

「いや・・・だって、婚約者がこんな伯爵子息だなんて冗談じゃない、自分とは釣りあわないって・・・」

そんな彼の言葉を遮るように

「私だって、以前の自分が最低だって事は判っています」


声が震え、泣きそうになるのを堪えながら

「どれだけ、ルシフェル様を傷付けてきたかも・・・でも、今の私は・・・」

『ヴィクトリア様は、まるで生まれ変わった様でございます』

アメニに言われた事を、ずっと心に留めていた


「自分がどれだけ嫌われてたか知った時は凄く悲しくて、ショックだったけど、それでもルシフェル様は、今の私を愛してると言ってくれたし、大事にしてくれてる!!」

キッとマルクを責める様に

「でも貴方は、一度だってお見舞いに来てくれてないじゃない!!どうしてそれで恋人だなんて言えるの!?心配してるって言えるの!?口先だけで心配していると言われても、信用出来ない!!ルシフェル様は私を嫌ってても、お見舞いに来てくれたし、いつだって気遣ってくれたわ!!貴方なんかより、ずっとずっと、ルシフェル様の方が優しいしわよ!!」

涙目で震えながら訴えるヴィクトリアの姿に、いつの間にか騒がしかった周りはシーンと静まり返っている


(どうしよう・・・こんな事になるなんて・・)

正直マルクの言動に、カッとなってしまってつい叫んでしまったが、思いっきり注目を浴びているこの状況に、ヴィクトリアは我に返って冷や汗が出る

「ご・・・ごめんなさい」

マルクの所為で彼を酷く傷付けた、ヴィクトリアはルシフェルに謝る


傷付いているだろうルシフェルは優しくヴィクトリアに笑い掛け、マルクに目を向けると

「お前が何を言っても、俺は気にしない」

ヴィクトリアを離し、マルクに近づくと彼の胸座を掴む

「ここでこれ以上の騒ぎは起こしたくない。お前は場違いだ、消えろ。二度とヴィクトリアに近づくな」

冷たく脅すようにマルクの眼を見て、そう警告する


「ヴィクトリア・・・」

愛する恋人に縋る様な目を向けるマルクだが、ヴィクトリアはマルクを涙目で睨んでいる

マルクはヴィクトリアに言われた事にショックを受け、他の貴族達からも冷やかな目を向けられ、彼自身も居た堪れなくなり、その場から逃げ去るように項垂れて帰って行く


ヴィクトリアとルシフェルは周囲の好奇な注目を避ける為、暫く二階の個室を借りて休む事にする

(・・・ルシフェル様、凄く傷付いてるわよね)

『俺の方が好きって言ってくれたよね?こいつの事なんかどうでもいいって、馬鹿にして』

『伯爵子息なんて冗談じゃない!!自分とは釣り合わない・・』

(なんてこと・・・)

マルクが暴露した、悪女ヴィクトリアの言葉に頭を抱えるヴィクトリア


「ヴィクトリア、大丈夫か?」

頭を抱えているヴィクトリアを心配し、寄り添ってくれるルシフェルに震えながら謝る

「・・・あのマルクって人の言った事、本当にごめんなさい」

(今だって自分が傷付いているのに、私を心配してくれている)


ルシフェルはヴィクトリアの頭を優しく撫で

「嬉しかったよ。ヴィクトリアが俺の為にあいつに言った事」

「それは・・・ルシフェル様を傷付ける様な事を言ったから」

ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめると

「以前の彼女の事なんかどうでも良いよ。俺は今のヴィクトリアを愛しているんだから・・・だからあいつの言った事は、心底どうでも良い。でも」


ルシフェルはヴィクトリアの頬に手を当て

「今のヴィクトリアに愛していない、どうでも良いと言われたら物凄く傷付く」

いや・・・と真顔になり「正気でいられないだろうな・・・」ヴィクトリアの唇に自分の唇を重ねる

(そう、このキスを拒まれたりしたら・・・)



誕生パーティーでは、ヴィクトリアの一件で大盛り上がりだった

『貴方より、ルシフェル様の方がずっと優しい』

令嬢達の噂により、ヴィクトリアの名言の一つになってしまった


「信じられないよなぁ。俺の誕生パーティーなのに、話題はヴィクトリアの事ばっかりでさあ」

トーマスは不満そうな顔をしながら、内心では笑っている

屋敷内で彼の姿がなかったのは、お腹が空いたからと事も有ろうか台所で盗み食いをしていたからだった

最も料理長達も心得ていて、きちんと軽食を用意してくれていたので盗み食いにはならないが


「ご、ごめんなさい。その、ルシフェル様に酷い事を言ったから、つい・・」

申し訳なさそうに謝るヴィクトリアに

「うーん、これはあれだね。お詫びに一曲踊ってって、いってぇ」

ルシフェルがプレゼントを置きに行っている間にヴィクトリアと何とかダンスをと思っていたのだが、早々に戻って来た彼に殴られる

「お前は本当に、独占欲が強過ぎる。ヴィクトリアも大変だな?」

本当に痛いんだけどと、殴られた脇腹を擦る


「俺達はこれで帰る。ティナによろしく言っといてくれ」

さっさと帰ろうとするルシフェルに「駄目ですよ、ティナにオペラの事をまだ伝えてないので」ヴィクトリアは少し困った様にまだ帰れませんと告げると

「なに?何か用事でもあるの?」

ピンッと察しの良いトーマスが聞いてくるので、ヴィクトリアは顔を赤くしながら「いえ、そういうのではないんです」恥ずかしそうに俯く


ルシフェルはムスッとしながら

「早く、こんなつまらないパーティーから帰りたいだけだ」

「うわっ、それ主催者の本人を前にして言う?ねえヴィクトリア、酷くない?」

ヴィクトリアに甘えようとするので「お前は本当に」イラッとしながらトーマスとヴィクトリアの間に入るルシフェル

「あの、トーマス様。その、もう少しティナの事を考えてあげて下さい」

ヴィクトリアは思い切ってトーマスに注意をするので『えっ?』と、トーマスとルシフェルは彼女を見る


「もちろん、トーマス様がティナを大事にしてるのは判るんです。でも、トーマス様がその、私や、他の女性を、からかったりしますよね?そういうの・・・あまりティナの前でしないであげて欲しいんです。出来れば居ない時にもですが。その・・私だったら、他の女性にルシフェル様が同じ事をしたら嫌なので、きっとティナも同じだと思うんです。あまり良い気はしないと」

トーマスが自分をからかう姿を見て、きっとティナは良い気はしないだろうと思っていた

だからティナの友人として、思い切って注意したのだ


「うーん、ティナはあまり気にしないと思うけど」

トーマスは考える・・・振りをして

「でも、そうだね。これからは少し気をつけるよ。可愛い、ヴィクトリアの忠告だしね」

ニッコリ笑う彼に、苦笑いをするしかなったヴィクトリア・・・余り効果はなさそうだ

「馬鹿に説教だな」

ボソッとルシフェルが呟く(※ルシフェルが考えた格言である。意味は、時間の無駄)



女性専用室サロンから出て来たティナが、トーマスの所へ戻って来るのを見つけ駆け寄るヴィクトリア

ティナに、オペラの席が取れた事を伝えると「三日後ね、凄く楽しみ」嬉しそうに喜んでくれ、二人はそこでそのまま暫く話しをする

話しの内容は当然、さっきのマルクとの遣り取りだが、ヴィクトリアは恥ずかしそうに、夢中だったからと笑い、そんな二人を他の令嬢達が驚いた様子で見ている


楽しそうに話しをしているヴィクトリアを見て、溜息を吐くルシフェル

「お前、さっきから変だぞ?」

シャンパンを飲みながらトーマスが笑うと

「お前よりはまともだ。それより、どうしてあいつが来たんだ?」

あいつと言うのはマルクの事だ

「招待なんてしてないけどね。あれじゃない?この前の夜会にヴィクトリアがお前と一緒に現れたの、結構噂になったから、それを耳にして来たんじゃ?」

「煩わしい」

腹立たしげにルシフェルはグイッとシャンパンを飲み干す


(これからもああいった馬鹿が、ヴィクトリアに寄って来るのか)

「モテる婚約者を持つと苦労するねえ」

笑いながらトーマスはからかうと「・・・そうだな」これから彼女に近づく男は、後を立たないだろう

それが判っているからルシフェルとしては気が気でない


漸くおしゃべりから戻って来たヴィクトリア

「もういいだろう?」

ルシフェルが尋ねると、恥ずかしそうに頷く彼女にホッとし「それじゃあ、これで」急いでヴィクトリアを連れて帰ろうとするので

「ねえ、何かあるの?」

ニヤニヤ笑いながら尋ねるトーマスに、その質問に答えず帰っていく二人


「・・・何だか急いでるみたいだったわね」

ティナは残念そうに二人を見送るが、トーマスは嬉しそうに笑いながら

「まあ、この後お楽しみでもあるんじゃない?」

意味深な事を言い「俺達も楽しもう」婚約者の頬にキスをする



ヴィクトリアとマルク、そしてルシフェルの遣り取りを見ながら一人苛立ちを感じている者が居た

ミディアル・アンガストだ

彼女はこの前のマカリスター家の夜会の時、ルシフェルがずっとヴィクトリアから離れず、護る様に寄り添っていた事に激しい嫉妬を抱いていた


(どうしてあんな女を大事にするの!?私の方がずっとずっとルフェを愛しているのに!!)

幼い頃から憧れていた、王子的存在のルシフェル

その彼が、婚約者の悪女ヴィクトリアに酷い扱いを受けている事は当然知っている

なのに彼はずっとあの女を護る様に傍を離れず、自分と踊ってもくれなかった


(どうして?どうしてよ!?)

だから困らせてやろうと思い、あの女の恋人であるマルクを仕掛けた


『この前のマカリスターの夜会に、ヴィクトリアが現れたのは噂で知ってるでしょう?きっとトーマスの誕生パーティーにも現れるわよ。貴方を見つけたら、とても喜ぶと思うわ。だって貴方、彼女のお気に入りだったものね?』

予定通り、彼は誕生パーティーに現れた・・・そしてヴィクトリアに絡む


(上手くいった)

これでルシフェルは怒ってヴィクトリアから離れる・・・筈だった

なのに彼はヴィクトリアを庇い、マルクに立ち塞がる

(どうして?彼はその女の恋人だったのよ!?なんで庇うのよ!!)


イライラしながら成り行きを見ていたら、あの女がマルクを責め始めた

彼に抱きしめられながら、彼の優しさについて語るあの女に心底腸が煮えくり返った

(ルフェが優しい事なんて、あんたに言われなくたって判ってるわ!!彼が時折見せる冷淡さだって知ってる!!だって、だって私はずっと彼を見て来たんだから!!)

悔しさで歯軋りするミディアル


(くやしい、くやしい!!失敗した、余計あの二人の絆が深まった!!どうすればいい?あの二人を引き離せるなら、私は何だってする!!)

ミディアルはヴィクトリアに対する激しい嫉妬と憎悪の炎を燃やす



トーマスの誕生パーティーを後にして、馬車に乗りヴィクトリアとルシフェルは帰路に着く

ルシフェルは愛する婚約者を抱きしめながら、ずっとキスをしてくるので

「ル、ルシフェル様・・・もう、この辺で・・・」

堪らずヴィクトリアは荒い息をしながら、恥ずかしさで顔を赤くしながら彼の胸に手を置き、少し離れようとするがその手を握り締められ

「ずっと我慢させられて来たからな、無理だ」

ルシフェルに耳元で囁かれ「んんっ」彼の息にビクッと身体が反応してしまう


「ヴィクトリアが言ったんだろ?俺が望んだら、いいよって」

そう言うと首筋にキスをし

「ヴィクトリアも、俺にしたい事をしてくれていいよ?」

期待する様に「ねっ?俺に何をしたい?」顔を近づけ、愛する婚約者を見つめる


顔を赤く染めながら、ヴィクトリアは恥ずかしさで涙目になり震えながら

「・・今まで傷付けてきた、以上に・・・ルシフェル様を・・・愛したいです」

それはずっとずっと思ってきた事

優しい彼の気持ちに答えるよう、自分が出来る限りの精一杯愛し、大事にして、もう二度と傷付けない

ふわっと笑みがこぼれるルシフェル

「そう、それなら今夜は遠慮なく愛して貰うよ。俺のヴィクトリア」


二日前のプレゼントを買いに行った帰り、ルシフェルはヴィクトリアを連れて自宅の屋敷に帰りたかったが、流石に急な為に今夜になったのだ

パーティーからの帰り、そのまま彼女を連れてルシフェルの屋敷に帰る事になっている

だからルシフェルは、早く帰りたくて仕方がなかった

愛し合う二人を乗せた馬車は、彼の屋敷へと向かって走って行く

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