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結城さんの物語  作者: 木本 泰士
1/1

第1話 始まり

この作品はフィクションです。現実の団体、人物とは関係ありません。

 人を焦がさんとする真夏の太陽。街路樹から出る水蒸気に蒸された空気は、集合体と見間違うような人混みにいる、少年ーー結城 或真、の精神と肉体をじわじわと殺しにかかっていた。今年から高校生になったばかりなため、どこか大人を模した雰囲気ーーー全くそんな感じではないーーーを出しているため、それも合わさって疲労困憊である。


「ーーーーー......あ、.....あつい..............。」


そんな嘆きも、何の救いにもならない。現に時間が経つほど日光の殺傷能力は増していく。それを嘲笑するかのように荷物の入った袋ーーーちなみに荷物の中身は大量のアイスであるーーーが揺れる。

........悲しいかな。その内容物の殆どは、或真の妹様の物である。今頃クーラーで冷えた部屋でゲームでもしている妹様を想像すると、...........。とても殺意が湧く。


フォオン。


と、現実の妹様から連絡が来た。なんだろうと、携帯電話をポケットから取り出し、その内容を確認する。


『おそーい。はよかえれーーー!(怒りのスタンプ)』

「あぁ?!」


人混みがちょうど少なくなり出したところで、ちょっと大きい声を出してしまったため、周りの人が、ビクッと肩を震わせている。そこであっ。という顔をした後、誤魔化すように咳払いをして画面に目線を集中させる。と、


どんっ

「あっ.........。すいません」


人混みが少なくなり、多少よそ見してもぶつからない。と無意識過信してぶつかってしまった。なぜかこちらに痛みはなく、むしろどこか軽やかな浮遊感を感じたことに疑問を感じたが、反射的にか後ろを見ながら謝罪の言葉を述べる。


     そこで、おかしなことが起こった。


まず、そこに人がいないことだ。ぶつかったのが壁や木でないかぎり、そこに人がいて然るべきだ。だが、そこには人の一人もいない。

そして、ーーー明らかにそこは先ほどまでいた場所ではなかった。そこは。まるで、


「ーーーーー荒野?」


そう。あたり一面に広がる砂、砂、砂。立ち上る砂埃。そして、かつては栄えていたことを仄めかすような、枯れ果てた草木の数々。それらで、ここは荒野ということがわかった。ーーーーーだが、それは問題ではなかった。問題はただ一つ。


ーーーーーどうやってここに来たということだ。


..........それが全くわからない。魔法だとか、奇跡の力を使えばこんな超常的なことも可能だと思う。だが、現代社会において、そもそもソレは禁忌ではなく、”存在しないモノ”である。すなわち、そんなことは、使えれば可能だが、()()()()使()()()()のだ。なのにそうとしか考えられない状況。


(ーーーもしかして、異世界転生。いや、()()()()()。的な?)


否。と即座に否定した。そのような現象は、漫画や小説といった想像の世界のものだ。現実で起こるのは、天変地異が起こってもあり得ないだろう。と、暫く考え込んでいると、遠くから()()()()のような音が聞こえて来る。そして、何者かの声も。


「ーーーーーて.........!」

「なんだ?」

「ーいーーーて....!」

「よくきこえな........」

「どいてどいてぇえええええええええええええ?!!」


ドォオオオオオオン!!!


.............わー。もーわっかんない。

そう思考停止したくなるほど、頭の痛くなる現象ばかりである。ここまでをまとめたら、妹のアイスを買いに行ったら、いつの間にか荒野にいて、そして、馬にぶつかる。...........ホントナニコレ。


そんな風に、しばらく思考停止をしていると、少女が急に立ち上がった。どうやら騎乗手は彼女らしい。そしてその少女を流し見る。


幼さを残しつつ、少し大人に成長したかのような、少女の顔立ち。スラッとした四肢。白銀の髪と純白のドレスは、一国のお姫様を思わせる。.........そんな少女が、なぜ馬を走らせているのか。と疑問になったが、そこに触れないことにした。そして、少女の艶やかな口が開く。


「何で避けないのよ、馬鹿なの?動けるだけの身体能力ないの?」

「.........................はい?」


.........一応断っておくが、ぶつかって来たのはあっちだ。こちらは可哀想な被害者だ。そして、聞こえにくいところもあわせても10秒もなかった。..............これ、俺悪くないよね?


「ーーーーーというか、何でこんなところにいるのよ」

「いや、.............気づいたらここにいて」

「はぁ?こんなところに?」


突然の問いに多少びっくりしつつ答えたが、余計に嫌悪の目を向けられた。それに多少傷つきつつ、こんなところの意味を探る。見渡す限りは何もなく、面白みにも欠けるようなところだ。だが、少女の目は、そんな物好きを見るような目ではなかった。まるで、馬鹿を見る目。もとい、ーーー()()()()を見る目だ。


そこで、少女の顔色が青ざめていたのがわかった。そして、まるで()()()()()()()()()()()ように後ろを見続けている。


ハッとなって後ろを振り返る。ーーーーー少し遠くに、やはりというか、”バケモノ”がいた。


全身、夜のような黒で彩られ、長い二の触覚と細い六の脚。或真の倍以上はあるほど巨大な三頭身で存在しているその正体はーーー


「ーーーーーーー蟻じゃん?!!」

「あり?」


疑問のあまり小首をかしげる少女。だがそんなことよりも、完全に軽く大きいだけの蟻である。だからだろうか、(ほしょくしゃ)の前で油断していた。


   そして、その油断は、”バケモノ”が、或真の眼前に迫るまで続いた。


「ーーーーーーー.................は、.....あぁ?」


ーーーーー全身から冷や汗が出る。『逃げろ』の脳からの信号(メッセージ)が届く。現に気づいた時、少し或真の体は傾いていた。だが、ーーーーー足りない。逃げるためなら、それは全く足りない。蟻の攻撃はそのまま少年の体を引き裂こうと、足の一つを振り上げ、そして、ーーーーーーー


「ーーーーーーー《フラッシュ》!!」」


後方からの声がしたかと思えば、背中を灼くような光が照らされた。その光を直射したと思われる蟻は、悶え苦しみ、倒れ、そして、灰になって消えた。


「.................」

「.................」


辺りに沈黙の時間が流れる。........まだ光があるかもしれないと言う不安を言い訳に後ろを振り向けない、実際は助けてくれた少女(おんじん)に謝ることに少し、抵抗があることだ。先ほど会ったばかり。さらに、最初の言葉が罵倒である。だが、何にせよ助けてもらった。ありがとうございます。とはとても言えなかったが、軽く感謝を言うだけでもいいかと、楽観的に考えながら後ろを見た。

ーーーーーそこで愕然とした。


その少女は先ほどの高圧的な顔をしていなかった。代わりに、ーーー今にも倒れそうな顔で、やってしまった。と言いたげな表情をしていた。口を金魚のようにパクパクさせ、目の前の人間(あるま)に畏怖しているかのようであった。なぜそんな顔をしているのか、それが全く不明瞭だった。もしかして、蟻がまだ死んでいない?ーーー否。目の前で死んで灰になるのを見た。その可能性は薄い。もしかして、ーーー自分が何かしてしまったか。その考えに至った時。自分のしてしまったことを考えた。だが、全くわからない。彼女がそんな顔になるのは、蟻の一件の前では、想像もつかなかったからだ。そんななか、ひとつのくだらない、ありふれた考えがよぎった。ーーーーーそして、()()を実行する。


「ーーーーーーーありがと。正直助かった」

「ーーーーー.........えっ」


顔を逸らしながら、謝意を述べた。.......言ったのは、言わなくちゃならないと言う曖昧な理由だ。正直、クサイ台詞に吐きそうになるが、これが正解だろうかと言う軽い不安から顔をあげ、少女の顔を見る。


ーーーーーその少女は、驚いた顔でこちらを見ていた。


まるで信じられない、想定外のことが目の前で起きたような顔である。だが。突然ハッとしたように、少女が途端に顔を下に向け、先ほどの顔は見れなくなってしまった。そこからしばらくの沈黙の後。少女は小さい呟くような声で「.........うん。」と言った。そこで何やらほっこりしたような、ぎこちない雰囲気になった。まぁ。そんな雰囲気も続くわけもなく、案の定。


「「「「「シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」

「わぁあああああああああああぁあああああ?!!」

「へ?」


大量の蟻達がやってきた。それに驚き狼狽える自分。そして、蟻と自分の反応で、現実に引き戻される少女。

とりあえず逃げることにしよう。その思考が追いついたのは、少女が絶叫を上げる少し前のことだった。かくして。少年と少女は枯れた荒野を駆け抜けた。


そうして、物語が動き出した。





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