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魔王城編

 

 魔王軍に人質として捕えられた。


 プリーストとして勇者パーティーに居たが、一番戦闘能力が低かった為に狙われたようだ。


 ジャラリと鎖で繋がった手錠はもふもふで……


「……これ何でもふもふしてるんですか?」


「鉄だと冷たいし痛いだろう」


「……お気遣いありがとうございます」


 おかげさまで手首が小動物に触れてるみたいに気持ちいい。ちなみに鎖は目の前の人物と繋がっている。


 僕は魔王軍の捕虜となったわけだが、想像していた生活とは違う。


 日の光の入らない冷たく狭い牢屋に入れられてないし、冷え切った腐りかけのスープや石のように硬いパンとかも食べていない。


 じゃあどうしてるかって言うとなんか魔王の膝の上でチーズケーキとか食べてる。


「……魔王さんの膝の上である必要はあるのですか?」


「貴様は捕虜だからな。目を離すわけにはいかん」


「そうですか。トップ自ら面倒な仕事を引き受けるなんて良い組織ですね」


 皮肉のつもりで言ったのに、何故か魔王は嬉しそうだ。表情があまり変わらないから気のせいかもしれないけど。


 この魔族のトップは何がしたいんだと見ていたが、気が付けば綺麗な顔してるなーとどうでも良い事を色々と疲れた頭で考えていた。


 魔族は基本的に美形が多い。人間を惑わす目的もあるのだろう。その中でも魔族のトップ、魔王は群を抜いて綺麗な顔をしている。さすがトップ。


 漆黒の癖のない髪は長くて背中まである。肌も褐色で、爪も黒い。ただ、瞳だけは血のように赤い。


 対して僕は全体的に白い。


 瞳はシルバーグレイで、男のくせに肌は病的に白くて髪も白。よく『体調悪い?』って聞かれる。たいがい体調は絶好調です。


 ちなみに僕の髪はくせ毛だから魔王のまっすぐな髪が少し羨ましくてついつい見てしまう。


 今よ! そのままキスして内股をまさぐるのよぅ!


 僕らの背後でふよふよ浮いているサキュバスが何やら物騒な事を呟いている。


 なんなのこの人。


 戸惑う僕の口にクッキーが押し付けられる。


「ほれ、貴様の好きなチョコチップクッキーだ」


「何故知っているんですか?」


「私に知らない事など無い」


「……お見逸れしました」


 そらそこでクッキーごと指を突っ込んで口の中ぐちゃぐちゃにかき回して無理やり性感帯を引き出すのよぅ!


 かんべんして下さいサキュバスさん。クッキーの味が分かりません。


「甘い物を食べる時はコーヒーはブラックだったな?」


「ありがとうございます」


 知らない事など無いって言ってたけど、その情報は知ってる必要があるんだろうか。


 そこでわざとコーヒーをこぼして服を脱がすのよぅ!


 僕は慌ててもふもふ手錠が付いた手でカップをしっかり握った。


「んもぉ魔王ちゃんたらぁ! 好きな子連れてくるから気を引く為のアドバイスをくれって言われたから来たのに全然だめじゃないのよぅ!」


「私は人選を間違えたようだ」


 急にサキュバスが僕らの間に入り文句を言ってきた。魔王が雇ったアドバイザーだったのか。


 うん、明らかに人選間違えたよね。


「それより聞け。突然で驚くかもしれんが、私は、貴様が好きだ」


 面倒くさくなったのか吹っ切れたのか、魔王がカップを持った僕の手を握って真剣な目で見つめてくる。


「驚くかもしれませんが知ってます。さっきサキュバスさんが言ってました」


「ならば話が早い、私のモノになれ。拒むことは許さん。私のモノになるまでは永遠に魔王城から出られないと思え」


「でも僕、来週教会の炊き出し手伝わないといけないんですけど。準備もあるしそろそろ帰らないと」


「なら送って行こう」


「魔王城から出さないんじゃなかったのん?」


「サキュバスさん余計な事言わない!」


 魔王の気が変わる前にさっさと送ってもらう事にした。


 魔王直々の移動魔法で教会まで送ってもらい、ついでに僕の好きなクッキー詰め合わせを貰って礼を言う。


「次はいつ捕虜になれる?」


「………炊き出しが終わったらですかね」


「ならその頃にまた貴様を捕らえに来る。決して逃さんから覚悟しろ」


「事前に連絡を頂けると助かります」


「ふむ、そうしよう」


 僕のおでこにキスを落して、魔王は音も無く消えていった。


 なんか疲れたな……。


 そういえば勇者達どうしてるだろ。




 ※ ※ ※




「プリースト! 助けに来たぞ誰だお前!?」


「サキュバスのさっちゃんよぅ」


「プリーストは?」


「帰ったわん」


「マジか。命がけで乗り込んだ意味……」


「クッキーたべる?」


「うん」


 end

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