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ブサイク、またあの世界へ行く

 ・・・・・・・・・い・・・。・・・・お・・い・・・。


 ん? なんでござるか?


 ・・・・おい。起きぬか・・・。


 何やら声が聞こえるでござる。誰でござるか? 最近聞いたことがあるような声でござる。


 ・・・・これ。起きるんじゃ。


 誰だか知らないでござるが、うるさいでござるよ・・・。拙者はもう少し寝るんでござる・・・。


「起きろと言うとるじゃろが」


 ゴツンっと頭に衝撃が走った。


「いったいでござるっ!!」


 衝撃はそこまで大きくなかったが、びっくりして貞一は跳ね上がるように起き上がった。


「ここは・・・?」


 目が覚めると、真っ白い世界にいた。


 あれ? デジャブな予感でござる。


「1日ぶりじゃの」

「ゴッド!!」


 振り向くと、そこにはゴッドがいた。白いローブのようなものを纏い、手には木でつくられた大きな杖、そして地面に届きそうなほど長い白ひげをこしらえている。


 きっとあの杖で拙者の頭を小突いたんでござるね。痛いでござる・・・。


「な、なんで拙者ここにいるでござるか? 振り出しでござるか?」

「いや、そういうわけではないぞ」

「ッは!! まさか拙者死んでしまったんでござるか!? 治癒姫たちに殺られたんでござるか!?」


 まさか寝込みを襲われたんでござるか!? 拙者のことを信用できないとか言っておいて、自分たちが拙者をあやめたんでござるか!?


「違う違う。おぬしは死んでおらん」

「じゃ、じゃあなんでここに?」

「おぬしもいきなり異世界にいったから混乱しとるだろう? いろいろ聞きたいこともあるかと思っての。アフターサービスというやつじゃ」

「アフター・・・サービス・・・?」


 なんと、ゴッドは聞きたいことがあるなら質問すれば答えてくれるという、アフターサービスを実施してくれたらしい。アフターサービスはこれ一回きりで、もう会うことは無いとのこと。


「さすゴッドでござるよ!! 助かるでござる!」

「じゃろう? これが神対応というやつじゃぞ」


 誇らしげに胸を張るゴッド。


 異世界に連れていってくれただけでなく、アフターサービスまで充実しているとは! 控えめに言って最高でござるよ!


「それで、聞きたいことはあるかの?」

「いっぱいあるでござるよ! まずは拙者が転送された異世界について知りたいでござる! 魔力のこととか文明について詳細キボンヌ!」


 貞一が送られた先はただっぴろい野原であり、異世界の文明レベルすらわかっていなかった。

 都市部に行けば高層ビルが建ち望んでいるということもあり得る。


「ふぅむ、クリティカルな質問じゃのう。神の秘め事にも触れるような内容じゃが・・・ワシの世界でないし、いっか」


 神の秘め事という不穏なワードが飛び出したが、ゴッドは軽いノリで説明を始めた。


「前に一つの世界に一人の神がいることは説明したじゃろ?」

「聞いたでござる。拙者が送られた世界は別のゴッドが管理してるんでござるよね?」

「そうじゃ。神は自分の世界を創るとき、あらかじめ世界の仕様を設定するのじゃ」


 世界の仕様・・・ゲームみたいでござるね・・・。


「地球で説明するとしよう。ワシが地球を創った時は、メインキャラを人間にし、与える力は知識力と技術力に絞った。メインキャラは何でもよいが、与える力が肝でな。与えすぎるとその力に見合う試練を課さねばならぬ」


 地球ってそうやって生まれたのでござるか・・・衝撃の事実でござる・・・。


「地球で言う試練は噴火や凶作、地震や竜巻など様々じゃ。じゃが、これらの試練は順調にメインキャラが力を合わせておれば、被害を最小限に食い止められるものばかりじゃ。そうならないのは・・・。まぁここで言っても栓無き事じゃな」



【悲報】今年の凶作はゴッドのせいらしい【悲報】

 1: 名無しのブサイク 1835/7/17(金) 05:39:44

 許すまじ 泣


 2: 名無しのブサイク 1835/7/17(金) 05:43:13

 まじか・・・ゴッド最低だな


 3: 名無しのブサイク 1835/7/17(金) 05:56:96

 今年の年貢払える自信ない・・・


 4: 名無しのブサイク 1835/7/17(金) 06:36:56

 つまりゴッドを殺せば・・・( ゜д゜)ハッ!


 5: 名無しのブサイク 1835/7/17(金) 06:38:26

 >>4 通報しますた



「で、じゃ。おぬしを送った世界は、メインキャラは人族。与えられた力が知識力、技術力、魔力の3つじゃ」

「人族でござるか?」

「まぁ、それは置いておくのじゃ。人間とそう変わらん。力は制限をかけることでうまくバランスをとっておる。そのせいで、技術力が与えられていても地球の様にはなっておらん。ビル群など存在せんしの。レンガ調のヨーロッパな街並みでも想像しておけばいいわい」


 なんだか難しいでござるな。人族というエルフや獣耳娘を連想させるワードだけ覚えておけばおkでござるかね? 胸熱なのでござるが。


「この世界は地球と同じタイミングで創られたからの。技術力と魔力のおかげで生活する分には地球とそう大差はないはずじゃ」

「そうなんでござるか? 地球と同い年にしては、昔ながらに感じたのでござるが」


 街道だというのにアスファルトどころか土むき出しな道。冒険者たちの装備は、ややもすれば中世の騎士を思い出すような装備。舗装された道路が当たり前で、敵と戦うならば特殊作戦群のような装備や重火器を思い浮かべる貞一にとっては、まだ一日しかたっていないが、地球と比べるといささか遅れていると感じられた。


「はっはっは! そうであろうそうであろう! あ奴にも聞かせてやりたいわ」


 貞一の疑問に、ゴッドは嬉しそうに笑っている。まるで自分の作った盆栽(作品)を褒めてもらったおじいちゃんのようだ。


「地球の発展はわしの神調整による結果じゃからの。この世界はあ奴の思惑とは違う方に収束してしまったからのぉ」

「あ奴というのはこの世界のゴッドでござるか?」

「そうじゃ。まぁ、あまり言うと怒られてしまうのでな。この話は終わりじゃ」


 同期よりもいい結果が出せて満足しているってことでござるか・・・。俗でござる・・・。


「ほれ。次の質問はなんじゃ?」

「えーと。次は拙者のチート、魔法について聞きたいでござる!」


 自分が使える魔法を教えてもらえるまたとないチャンスでござる!


「よいじゃろう。おぬしの魔法は爆裂魔法じゃな。爆裂魔法はその名の通り、敵を爆裂四散させる魔法じゃ。おぬしが選んだ任意の生物、それかおぬしが敵と判断した相手を攻撃対象とする魔法じゃな」

「爆裂魔法! 爆裂四散! カッコいいでござる!」


 炎魔法とは違うんでござるかね!? もしやユニークスキル的なやつでござるかッ!? テンション爆上げでござるよ!


「質問でござる! 敵と判断ってことは見えてなくても対象になるんでござるか?」

「そうじゃぞ。おぬしが認識しておれば、攻撃の対象となる。じゃが、敵が初めから姿を現さず、おぬしが認識できない場合は攻撃できんがの」


 なるほどでござる。つまり一度は目視する必要があるんでござるね。ただ顔を隠していたり変装していても、敵と認識したことにはなりそうでござるね。


「攻撃できる範囲はどれくらいでござるか?」

「おぬしならば100メートル以内が適切かの。それ以上遠くでは、途端に魔力の消費が大きくなるので、気をつけるのじゃ」


 100メートルならだいぶ広範囲でござるよ! 条件も目視くらいでござるし、ひょっとしないでもめちゃくちゃ強いんじゃないでござるか!? 拙者異世界で無双状態なのではござらんか!?


「それにしても・・・うーむ、ずいぶん残念な魔法を得たものじゃな」


 ・・・え?


 ゴッドは可愛そうなものでも見るかのような眼で、浮かれる貞一をみている。その様子に得体も知れぬ嫌な予感を感じ、思わず貞一はゴッドにオウム返しのように質問した。


「 残念・・・でござるか?」

「そうじゃぞ。まず攻撃対象は生物しか適用されぬため、壁を攻撃したり敵の武器を破壊することはできん。応用が利きにくいのぉ」


 言われてみれば応用は聞きにくいかもしれなでござるな。炎の魔法であれば炎を使った防御技なんかも出来そうでござるし、焚火をするにも便利でござる。拙者の魔法はただ壊すだけ・・・デュフフ。それはそれでカッコいいでござる。


 が、言うほど残念でもないでござるぞ? ゴブリンを倒したときは圧倒的な威力でござったし。


「納得してない顔をしておるの。考えてみるのじゃ。爆裂魔法は相手を破壊する魔法じゃぞ? まず制圧には向かん。殺すしかないからの」


 貞一は残骸すら残さず液体とかしたゴブリンを思い出す。


 たしかに殺さずに捉えることは無理そうでござるね・・・。


「まぁ、それはおぬしが魔力操作の経験を積めばいくらか改善するじゃろう。腕だけ爆裂させるくらいはできるようになるぞ」

「それはそれでエグいでござるね・・・。でも攻撃魔法として強いのは変わらないでござる。もしかして他にもデメリットがあるんでござるか?」

「もちろんじゃ。これが一番の問題じゃ。爆裂魔法は強力であるが、それ故格下にしか使えぬのだ」


 格下にしか使えない?


「んん? ど、どう言うことでござるか?」

「魔力量が劣っている相手なら、爆裂魔法を喰らわすことができる。じゃが魔力量が多い相手には使えんのじゃ。レジストされてしまう」


 な、なななんですとーーー!? ゴブリンみたいな雑魚キャラにしか使えないってことでござるか!? ボスキャラには意味がないと!? ボスキャラを一撃で爆裂四散させて『ふっ、口ほどにもないでござる・・・』というのが夢でござったのに!?


「レジストってどれぐらいの確率なんでござるか!?」

「ほぼ100%じゃ。格上でも相手が弱っておれば通用するかもしれんが、通常時ではまず無理じゃの」


 100%とな!? 弱らせないと使えないなんて、一撃必殺の意味がないでござるよ!? モ〇スターボールじゃないんでござるよ!?


「わかりやすく例えを出せば・・・今共に行動しておるお嬢ちゃんがおるじゃろ? あれには通じん。いわゆる魔法使いではレジストされると思っておくのじゃ」

「そんな! それでは貴族に襲われたらひとたまりもないでござるよ!」


 圧政に立ち向かえないでござる! 権力に屈するしかないでござるか!?


「さらに、お嬢ちゃんの仲間の騎士3人にも、高確率・・・まぁほぼ確実に弾かれるぞ。彼らは魔法使い程ではないが、魔力量は多いからの」

「魔法使い以外もダメなんでござるか!?」


 ブーシィ殿だけじゃなく、パーティー全員にレジストされてしまうのでござるか!!??


「もっと言えば、おぬしが倒したゴブリンの上位種であるゴブリンキングも無理じゃな。魔王と呼ばれとる上位種や、強力な魔物には軒並み通用しないと思っておくのじゃな」

「そ、そんな・・・!」


 キングとはいえ、ゴブリンにも勝てないと・・・? それはチートと呼んでいいのでござるか・・・?


「おぬしの魔法は相手の体内に干渉する魔法じゃ。強い魔力が流れておればレジストされて当然じゃぞ。炎を使える魔法使いが相手の体内に炎を出現させるなんて無理じゃろ? 理屈は同じよ」


 確かにそれは卑怯臭いでござる・・・。でも炎の魔法使いなら炎で攻撃できるでござるよね? でも拙者はレジストされる攻撃しかできない・・・ざ、残念でござるッ!!


「騎士の3人が子供であれば魔法は通用するじゃろうが、長い間身体強化を行うために体内で魔法を循環している大人には通用しにくいの。まぁ、おぬしがほとんどの魔力を振り絞れば、強引に発動できないこともないじゃろうが・・・それでも同格相手には失敗するじゃろうな」


 相手の魔力を突き破れれば効くってことでござるか? それなら拙者にも活路が見えるでござるよ!


「拙者は最高クラスの魔力を持っているんでござるよね? それなら魔法使いにも使えるんじゃないでござるか?」

「世界最高クラスの素質と言うたろ? おぬしの魔力は多いが、圧倒的に多いわけではないぞ。他にも魔法を使う際の魔力効率が高いとか・・・とにかく、一芸に秀でるような素質じゃないのじゃ。ゆえに、おぬしより格下の相手には無双できるが、魔力が多い相手には、無意味な魔法じゃの」


 残念であろう? と肩をすくめて見せるゴッド。


 まるでザから始まる即死の呪文でござる。

 高位の敵にはお飾り魔法でござるか・・・。

 雑魚狩り専門の雑用ではござらんか・・・。


「えらい落ち込み用じゃのぅ。残念とはいえ攻撃魔法じゃぞ? 散々ゆうたが、魔物も魔王とそれに準じる魔物以外にはレジストされにくいし、強力な魔法であることは変わりないぞ? 残念ではあるが」

「残念を否定してほしいんでござるよ・・・。そういえば、魔王ってなんでござるか? あの魔王でござるか?」

「おぬしが想像しておる魔王とは異なるが、まぁあの世界の魔物のボス的存在じゃな」


 やっぱり雑魚専門じゃないでござらんか! さすがに弱い者いじめしてイキる系男子にはなりたくないでござるよ・・・。ボスが出たら逃げるのはダサいでござる・・・。


「人もダメなんでござろう? ブーシィ殿の護衛にも効かないでござるし、盗賊も追い払えないかもしれないでござる・・・」

「ああ、言い方が悪かったかの。確かに護衛の騎士たちにも効かぬとはいったが、彼らの魔力量は一般的に相当高いんじゃ。社畜だったおぬしに分かりやすく言えば、魔力を年収だと例えたら、年収2千万くらいの財力といえばよいかの。いないことはないが、そう多くはないじゃろ?」


 詳しく話を聞いてみれば、そう捨てたものではない魔法であった。魔力が高い者にはレジストされてしまうが、そもそも魔力が高い者が滅多にいないのだ。


 下世話で申し訳ないが、魔力を年収に置き換えて説明しよう。


 平民の年収(魔力)が0~500万程度としよう。平民にはロストと呼ばれる年収0もいれば、そこそこ多い年収500万もいる。


 次に騎士や一流冒険者。彼らの年収(魔力)は500万~2000万程度。戦闘を生業(なりわい)としている者たちは、相応に魔力を求められる。冒険者として中堅ならば、500万~1000万。聖騎士クラスや超一流冒険者にもなれば、年収が2000万程度の者もいるだろう。


 最後に貴族。彼らの年収(魔力)は1億以上。もはや平民など歯牙にもかけない強さだ。例え騎士団長クラスが相手だろうとも、大した傷さえ負わずに札束の暴力で蹂躙できる。それが貴族なのだ。貴族の中には年収が2億、3億の者だっている。貴族とそれ以外の者には、隔絶たる差があるのだ。


 そして、貞一の魔力は貴族並み。ゴッドの話では、年収1000万クラスの中堅以上の冒険者にならば防がれるが、それ以下の年収(魔力)の者にはレジストされないとのことだ。


 つまり、貴族とドンパチしなければ無双できるのだ。魔物も1000万クラスは珍しい部類らしいので、細々と冒険者をやっていれば問題ないかもしれない。むしろ、中堅程度の冒険者として有意義に生活することさえできるかもしれない。


 しかし、貴族に対して何もできないのはちょっと怖いでござるねぇ。しかも爆裂魔法だと死体もグロいでござるし、人相手には使えないでござるよ。レジスト以前に拙者のSAN値のために。なかなかピーキーな魔法でござる。それに冒険者として雑魚無双していれば、やがて大きな依頼が来るかもしれないでござる。そうなったときに何もできないのは辛いでござるな・・・。


「そんな特殊な魔法を引くとは、おぬしも大概じゃの」

「ゴッドが拙者に与えたんじゃないでござるか?」

「違うぞ。ワシはあくまで素質を授けただけじゃ。使える魔法はおぬしによるものじゃぞ」


 なんてこったでござる・・・。拙者は魔法でさえ、ボスには役立たずのいらない子になるのでござるか・・・!?


「魔法は自分が強く望んだカタチで現れるものじゃ。大方、『リア充爆発しろーー!!』とでも思っておったんじゃろう?」

「ぎくぅぅうう!!」


 まさか!? まさか拙者の魔法はリア充への嫉妬だというでござるかッッ!!?? それも! 大して役に立たない!! 残念魔法ッッッ!!! キィィィイイイイイイーーーッッ!!!! またしても拙者の邪魔をするか!! リア充ッッ!!!


 ただの八つ当たりを始める貞一。少しして落ち着くと、他の質問がまだまだあることに気が付きゴッドに向き直る。


「そ、そういえば、魔法の呪文について聞きたいでござる。あの呪文はあれで固定でござるか?」


 せめて呪文だけでも変えたいという思いから、貞一は質問する。【フォカヌポウ】や【くぁwせdrftgyふじこlp】なんて呪文と言っていいのかわからないものではなく、もっとカッコいい呪文に変更できれば、まだ頑張れる。


「あれで固定じゃの」


 しかし、現実は残酷であった。


「呪文は一度唱えてしまうと魂に定着するからの。おぬしの場合は、殺されるという強い思いから発言した言葉が呪文として認識され、力ある言葉になってしもうたんじゃ。諦めるんじゃな」


 あんな呪文では、どんなにカッコいい戦闘シーンでもふざけているようにしか見えない。そのシーンを想像し、貞一はその場でうずくまってしまう。


「慣れが必要じゃが、無詠唱で魔法を使うこともできるぞ」

「!! 無詠唱でござるか!」

「そうじゃ。じゃが、ここぞという時は呪文の詠唱が必要じゃぞ。呪文は構えと一緒じゃ。ぼーっと立ったままからでも走れるが、本気で走るときは走る態勢をとるじゃろ? それと同じじゃよ」


 本気で魔法を使う時は結局あの呪文を言う必要があると。それも真剣な場面で・・・。


「魔法は残念じゃったが、魔力効率も良いのじゃぞ? 雑魚限定じゃが、魔法撃ち放題といってもいいんじゃぞ? 雑魚限定じゃが」


 ゴッドが慰めるとみせかけ煽ってくる。しかし、傷ついた貞一の心は、そんな言葉では怒りもわかない。


「それに言葉だって通じておろう? あれはおぬしに異世界での言葉を覚えさせたのじゃ。現に冒険者とコミニケーショんとれとるじゃろ? あれワシのおかげよ?」


 さすがにかわいそうと思ったのか貞一に与えた素質を持ち出して慰めようとするが、それでも貞一の心には響かない。フォカヌポウってお前・・・リアルじゃ言わねぇよ・・・と呟くだけだ。


「・・・あー、うむ。あまりにも不憫じゃのう。まぁ、なんじゃ。おぬしは初めて儀式を達成した者じゃ。どうせなら幸せになってほしいと思うのが、神心かみごころというものじゃ」


 なにやら可哀そうな目で貞一を見ていたゴッドが、仕方ないのぉというオーラを出している。


「どれ、一つ能力を授けてやるぞ。とても珍しく、二つとない能力じゃ」

「なんと! 本当でござるかゴッド!?」


 女の子の泣きまねが如く、ケロリと表情を輝かせて喜ぶ貞一。


 すごいでござる! ここまでよくしてくれるゴッドが、今までの異世界モノにいたでござろうか!? いや、いないでござる! ゴッドこそ至高! ビバゴッド!!


「うむ。おぬしに授けるスキルは―――」


 ドキドキでござる! ここまできたら何でもいいでござる! カモンでござるよ!


童貞の心(チェリーハート)じゃ!!!」

「馬鹿にしてるんでござるかッッッ!!!」


 もう!! ゴッドの馬鹿!!! せめて純潔の心(ピュアハート)とかにしてほしいでござる!!


「急に大きな声を出すでない。びっくりするじゃろうが、まったく」

「あ、ごめんでござるよ。申し訳ないでござる。で、本当のスキルは何でござるか?」

「じゃから童貞の心(チェリーハート)じゃと言っとるじゃろ」


 ・・・ふむ。


「名前については後でじっくり話し合うとして、そのスキルはどんな効果があるのでござるか?」

「このスキルはおぬしの精神に呼応するスキルじゃ。言いにくい台詞や、ここぞというときに自然と主人公のようなカッコいい台詞を恥ずかしげもなく話すことができる、メンタルUPも兼ねたスキルじゃぞ」


 つまり、戦闘力は一切上がらない、ということでござるね・・・。


「おぬしはコミュ障じゃからのぉ。このスキルはきっと大いに活躍するぞ」


「いいスキル思いついた」と、ゴッドは満足そうにうなずいている。


 いや・・・いやいや、ゴッドさんよ。あなたぁ何にもわかってないよ。確かに拙者はコミュ障でござるよ。治癒姫たちのように類友ブサイクならばいざ知らず、それ以外にはでゅふふしか言えないので役に立つと思うでござるよ?


 けれどね。主人公のようなカッコいい台詞ってのは、主人公が言うからいいんでござるよ。拙者の様なブサイクが言えば、『お前が言うんかい!』と笑いの種になるくらいでござる。ウケを取れればラッキーまであるでござるよ。


「ん? 何か不満そうじゃな。・・・ああ! 大丈夫じゃ! 安心せい」


 不満そうな貞一の様子から、何かを察したようにゴッドが安心しろという。


「何がでござるか?」

童貞の心(チェリーハート)は相手が男でも問題なく発動するのでの。誰に対してもカッコいい台詞言い放題じゃ」

「男でも?」

「男でも、じゃ。甘い台詞も言えるぞ」

「ホモじゃないか(歓喜)」


 じゃないでござるよぉぉぉおおおお!!! 拙者は! ノンケで!! ござるよ!!!


 ノンケなんでござるぅぅううう!!! と叫ぶ貞一を、ゴッドは愉快そうに眺めている。


「はぁ・・・。せっかくなら童貞の心(チェリーハート)なんかじゃなくて、童貞の願望(ハーレムスキル)とかにしてほしかったでござるよ」

「む? なんじゃそのハーレムスキルというのは」

「簡単でござるよ。ハーレムをつくれるように、女性が拙者を好きになってくれるたぶらかしスキルでござる」


 恥ずかしげもなくのたまう貞一に、ゴッドは冷ややかな目を向ける。


「そんなスキルに頼ろうとするから、おぬしはいつまでたっても童貞チェリーなんじゃよ」

「うっ・・・! けど、せっかくの異世界でござるし? 拙者もモテたいんでござるよ」

「スキルでモテてどうするんじゃ! 異世界でくらい自分で頑張ってみようとは思わんのか! おぬしが好きなアニメや漫画のように!! そんな体たらくじゃからダメなんじゃぞ! この家系図ストッパーめッ!!」


 やめて・・・やめてくださいゴッド・・・。もう拙者のライフはゼロでござるよ・・・! ひどいでござる・・・。


「で、まだ聞きたいことはあるかの?」

「いや、もう大丈夫でござるよ・・・。精神ダメージが許容値をオーバーしたでござる・・・」


 すでに考えることを放棄した貞一は、もう何も聞くことがなかった。


「よし。では楽しいハーレム生活を目指すのじゃぞ? 頑張るのじゃ」

「ハーレム・・・ありがとうでござるよゴッド。拙者なりに頑ってみるでござる」


 フラフラになりながらも、明確な意思を宿し告げる。そんな貞一を見て、ゴッドは優し気な顔を向けていた。


「あ、それと、おぬしは身体強化の魔法とか使えぬじゃろう? あれは自然と身に付くものじゃからの。だから、身体強化の魔法が常時発動するようにしといてやったぞ。感謝せい」


 薄れゆく意識の中、ゴッドは最後の最後に素敵なプレゼントを渡してくれた。


「ありがとうでござる! むしろ、変なスキルよりそういうのが欲しかったでござるううぅぅぅ・・・」


 断末魔のようなツッコミを上げながら、貞一の視界は真っ白に染まっていくのであった。

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