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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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ブサイク、閉じ込められる

 朱色のゴーレムは、貞一へ向けて勢いよくレリアを投げつける。そんなレリアを受け止めた貞一だが、勢いは殺せず、結果二人一緒に壁へ叩きつけられた。今度は気絶することなく起き上がろうとしたとき、地面が抜ける感覚を覚えた。


 崩落。普通に生活していたら中々感じることの無い吸い込まれるような感覚。階段を一段少なく勘違いし、歩こうと思ったら地面が踏めなかった時のような感覚だろうか。ふっと身体が浮くような感覚の直後、全身に嫌な汗が流れる。


 幸いなことに、奈落の底へ落されることはなかった。落下を初めてすぐに、背中に何か突き刺さるような感触があった。それは頭や足、全身に感じる。だが、痛くはなかった。発泡スチロールでできた棒の上に落ちたようなものだ。ぽきぽきと折れたり押し潰す感触が背中越しに感じられた。その直後、地面に衝突する。


「だ、大丈夫でござるか? レリア殿」


 貞一は壁にぶつけられた時と同じく、レリアを抱えたまま一緒に落下した。レリアを護るように抱きしめながら落ちたが、残念なことに落下する恐怖で抱きしめた時の感覚は覚えていない。ロックバードにギスカの岩山から吹き飛ばされた時と同じだ。


「レリア殿? 大丈夫でござるか!?」


 返事の無いレリアに貞一は慌てて揺さぶり起こす。こういう時は頭をぶつけている可能性もあるため安静にさせるのが普通だが、目を覚まさないレリアに焦る貞一に、そんなことを配慮できるほど余裕はない。


「・・・ん。ティーチ様か?」


 貞一の揺さぶりが効いたのか、レリアは目を覚ます。意識もはっきりしており、無事と思っていいだろう。


「どこだここは?」

「壁にぶつかったら、地面が崩落したんでござるよ。ほら、上のあそこから―――」

「ティーチ様伏せろッ!!」


 貞一が天井を指差したとき、空いた穴から朱と白の混じる魔力光が光って見えた。レリアが貞一に覆い被さるように押し倒した直後、ゴーレムが腕を穴に突っ込み二人を掴もうとしてきた。


「調子に乗るなよッ!!」


 レリアは貞一から離れると、転がっていたハンマーを手に取り伸ばされた手を攻撃する。ハンマーに込められた魔力が魔鋼を通し、発光した。威力は抜群で、あれだけ剣で斬っても浅い傷しかつけられなかった腕はひび割れ、魔力が蒸気のように噴出する。


 上空から聞こえる朱色のゴーレムの不快な声。痛みに呻く声なのか、それとも怒りで吼える声なのか。貞一たちにはわからない。


 だが、朱色のゴーレムは腕を引っ込めると、それから腕を突っ込んでくる様子はなかった。


「ここはデスゾーンか」


 光球で辺りを照らすレリア。浮かび上がるのは、天井に伸びるかのように地面から生えている鍾乳石だ。デスゾーンに上から鍾乳石が落下し、地面が抜けて下からも刺さるものがある。ここはそれの一部と思われた。


「狭いでござるね。というか、拙者背中に刺さったけど大丈夫でござるか?」


 レリアに背中を確認してもらう貞一。防具のパーカーも含め、問題ないようだ。仮にもデスゾーンと呼ばれるものだが、魔法使いの貞一には効果の無いデスゾーンだったようだ。


「って、それよりもレリア殿大丈夫でござるか!? さっきあんなにゴーレムに攻撃されてたでござるよ!?」


 殴られ叩きつけられ、貞一からしたらレリアが死んでしまったかと思うほど凄まじい攻撃を受けていた。


「ああ。思ったよりも大した怪我は負っていない」


 身体を確認するように動かしながら、レリアが答える。しっかりと防御していたからか、強化魔法によって防御力が上がっていたからか、マントは汚れ仮面にヒビが入っているが、大した怪我はないと言う。


「ほ、本当でござるか? 無理してないでござらんか?」

「大丈夫だ。ティーチ様こそ気絶していたようだが、怪我はしていないか?」

「拙者は打ち身くらいでござる。動けるし問題ないでござるよ」


 痛むお腹をさすりながら答える。いつも喰らう攻撃よりもかなり効いたが、動けないほど痛かったり骨が折れているわけではない。


「それは良かった。なら現状を整理しよう」


 レリアは周囲を見回し、情報の整理を始める。


「見た限り小さな部屋見たいだな」

「そうでござるね。出られる場所があるかもしれないでござるし、とりあえず調べてみるでござるか」


 そう言って、二人は落ちた穴を調べていく。貞一が動くたびにでかい腹に鍾乳石が当たって折れていくが、誰もツッコまない。日本では鍾乳石を折るなんてとんでもないと批難が殺到するだろうが、ここは異世界で魔境だ。鍾乳石をいくら折ろうとも、数日もすれば元に戻ってるそんな世界。そもそも、ここはデスゾーンのトラップであり、破壊しておけば感謝されこそすれ批難されることはない。ぐるりと小部屋を一周すれば、ほとんどの鍾乳石が折れてしまっていた。


「密室でござるね」

「ああ。穴どころか亀裂もないな」


 見たまんまで、ここは四方の塞がれた落とし穴の中のようだ。


「外が空洞になっているわけでもなさそうだしな。壁を破壊して脱出も無理そうだ」


 レリアは壁を叩きながら薄い場所がないか探していたようだが、ダメだったようだ。


「となると、あの穴から出るしかないのでござるね」

「そうなるな」


 貞一たちは落ちてきた穴を見る。高さはかなりあるが、強化魔法の恩恵を受けていれば、貞一でもなんとか脱出することはできるだろう。


「もういなくなったとかないでござるかね?」

「確認してみるか」


 レリアが忍者のような身軽さで壁をよじ登り、穴から外を覗く。すぐに落下し音もなく着地した。


「まだいるな。私たちを待っているのか、たまたまか」


 すでに逃げてくれていたらよかったものの、朱色のゴーレムはまだすぐそこにいるらしい。


「それにしても、あれは何だ? 変異種とはここまで極端に強くなるのか?」


 圧倒的な力。理不尽とすら思えるほどの強さだ。こちらの攻撃は表面を傷つけるだけで、魔力で強化された鉱石に弾かれてしまう。逆に、向こうの攻撃は強化魔法を突き破ってダメージが入ってくるのだ。疾さも尋常ではない。貞一の攻撃はおろか、レリアですら強引にリスクを負わなければ攻撃できないほど素早く、多彩な攻撃を仕掛けてくる。


「拙者が思うに、あれは魔王ではござらんかね」

「魔王・・・だと?」


 魔王とは魔境を統べる王。数年周期で魔境に現れる災厄の化身。魔物は魔境から出られないという縛りがあるなか、そのことわりから外れた存在。配下の魔物を率い、周囲の街や村を破壊する歩く災害だ。


「そうでござるよ。拙者一度戦ったことがあるからわかるのでござるが、魔王は理不尽なような存在なんでござる」


 初めて戦った魔王であるゴブリンキングの魔法を喰らった貞一は、全身殴打され痺れてすぐには動けないほどの威力だった。先ほど戦った朱色のゴーレムも、同じくらい理不尽な強さだ。


「魔王・・・そうか、魔王か・・・」


 レリアも納得がいったのか、自分が戦っていたゴーレムの正体に、今更ながら震えがやってくる。一歩間違えていれば、いや普通であればレリアの命などすでになかっただろう。突然の魔王襲来という不幸が降ってきたように、辛うじて生き残れる奇跡が訪れたようだ。


「多分あれは強化型の魔王でござる。フィジカルお化けの魔王でござるよ」


 魔王は指揮型、強化型、特殊型、混成型の4種類に分けられる。朱色のゴーレムは、配下のゴーレムを連れているわけでも、特殊な能力を発動しているようにも見えなかった。動きは貞一では追いつけないほど早く、レリアの攻撃をことごとくはじき返していた様子から、強化型と推察する。


「魔王を討伐するのは貴族の仕事でござる。倒せば白混じりの魔鋼がゲットできそうでござるが、今回はここで待機していなくなるのを待つのがいいと思うのでござるが、どうでござろう?」


 貞一は逃げの選択肢を提案する。朱色のゴーレムは表面ですら白く輝いているため、倒せば白混じりの魔鋼が確実に手に入るだろう。しかし、レリアの剣は折れ、貞一の攻撃は当たらないような敵と無理やり戦っても、勝てる見込みがない。それよりも、次はさすがに死んでしまうかもしれない。


 白混じりの魔鋼は、洞窟エリアで厳選していけばいずれゲットできるはずだ。まだ100体倒した程度なのだ。激レア素材なら、そんな数でドロップする方がおかしい。これから頑張っていけば、いつの日か手に入れることができるはず。


 死んでしまえばおしまいなのだ。ここは無理をするべきところではない。貞一はここで戦うのは蛮勇だと、そう判断した。


「私も賛成だ。ここは無理すべきところではない」


 レリアも貞一の意見に賛成してくれる。今のレリアは、白混じりの魔鋼が喉から手が出るほど欲っしているはずだ。愛剣が折れてしまったのだ。それを修復するには白混じりの魔鋼が必要で、その素材を持っているであろう魔物が目の前にいる。自分の欲よりも、レリアは二人の安全を優先してくれた。


「しばらくはここで待機だな」

「早くどっか行ってほしいでござるね。お腹空いてきたでござるよ」


 吹き飛ばされてこの穴に落ちたため、荷物も上に置き去りにしたままだ。光球はベルトに着けていたため持っていたが、水筒や火杖はバッグの中に閉まっている。どのみちここから出なければ、餓死してしまう。早くいなくなれと祈りながら、貞一たちは穴の中で待機した。




 ◇




「ふぁ~~」


 貞一は大きな伸びをしながら、目を覚ます。周囲は暗く、未だデスゾーンの穴にいる。


 寝起きは最悪だ。ただでさえ光が全然入らない洞窟なのに、今は四方を囲まれた穴の中にいるため全く光が無い。時計もないため、今何時なのかもわからない。


 光が無いと、こんなに寝起きが悪いんでござるね。まったくスッキリしないでござる。


 いつもなら水筒の水で顔を洗えるのだが、今はそれもできない。


「ティーチ様、起きたか」

「おはようでござるよレリア殿。寝れたでござるか?」

「思ったよりも。魔境なのに魔物の気配が全く無いからな」


 昨日から洞窟の穴に魔物が来ることはなかった。朱色のゴーレムも腕をレリアに叩かれて以降、無理やり入ってこようとはしない。レアアイテムでもないかと何回も部屋を調べたが、そんなうまい話はなく。ここは本当にただの落とし穴のようだった。


「まだいるでござるかね?」

「ちょっと待っててくれ」


 レリアは身軽に壁を登り、穴から外の様子を窺う。


「駄目だな。昨日から位置も変わってない」


 レリアは昨日から何回も確認しているが、朱色のゴーレムの位置は微動だにしていないようだ。


「八方塞でござるよ。拙者たちが出てくるのを待ってるのでござるか」

「恐らくな。石を投げても反応しなかったし、私たちが出ないと動かないかもしれない」


 昨日、あまりにも朱色のゴーレムが動かないため、レリアが外に向かって石を投げた。音に反応してどこか行ってくれないかと希望を込めて。だが、朱色のゴーレムは微動だにしなかった。朱色のゴーレムに向かって投げても、動くことはなかったほどだ。


 死んでいるわけではない。魔力は今も脈動し、発光している。


「そろそろ喉も乾いてしょうがないでござるよ」


 昨日から何も食べていないどころか、水すら飲めていない。気を紛らわすためにも寝てみたが、起きたら一層ひどくなっている。洞窟の中は涼しいのが不幸中の幸いだろう。もし荒野と同じ温度であれば、今頃貞一は汗のかきすぎで脱水症状で死んでいただろう。


「そろそろ限界かもしれないな」


 レリアは貞一を見据え、状況を改めて整理する。


「これから私たちが取れる選択は二つだ。このままあのゴーレムがいなくなるまで待機。もう一つはここから出て逃げるだ」

「ここに籠っていても、ゴーレムがいなくならないと拙者たち餓死しちゃうでござる」


 もしかしたら急にいなくなるかもしれない。そう願いながら、我慢比べをするのが一つ目の案だ。


「そうだ。これ以上ここに待機していては、満足に動くこともできなくなってくる。動くか留まるか。決断するなら今が最後だ」


 このままどっちつかずでここにいれば、体力は削られていく。そんな体で脱出しようとすれば、倒せるものも倒せないだろう。今ならまだ体力がある。戦うにしろ逃げるにしろ、やりようはあるだろう。


「でも、逃げるにしても、出口にはゴーレムがいるでござるよ」


 朱色のゴーレムも逃げ場がないとわかっていてずっと待機しているのだろう。ここから出ても、結局朱色のゴーレムと一戦交えなければならない。レリアだけならいけるかもしれないが、貞一では朱色のゴーレムから逃げきれる自信は皆無だ。


「私が囮になる」


 そう、レリアは当然のように言ってのけた。


「そんなのダメでござるよ! 危ないでござる!!」


 これにはさすがの貞一も待ったをかける。いつもレリアにおんぶにだっこだが、魔王であろう朱色のゴーレム相手に一人で囮を任せるのは危険すぎる。


「だが、二人でも奴に勝てそうにないだろ。逃げるにしても立ちふさがって邪魔をするなら、誰かが囮にならなければ無理だ」


 貞一の攻撃は当たらず、レリアは武器が折れ攻撃の手段がない。そんな状態で魔王である朱色のゴーレムに勝つのは厳しいが、逃げるだけならやりようはある。


「あのゴーレムは疾いが、避けられないほど疾くはない。私なら、適度に引き付けながら殿しんがりをすることができる」


 確かに、貞一は叫びながら突っ込んで行って吹っ飛ばされることしかできなかったが、レリアは攻撃を避けながら背中にまで登って攻撃していた。レリアと貞一どちらが囮の役目をできるかと言われれば、レリアしかいない。


「だが、さすがに手ぶらではしんどい。ティーチ様には申し訳ないが、ハンマーは貸して欲しい」


 そう言って、立てかけていたハンマーを手にするレリア。折れてしまった剣は、朱色のゴーレムに掴まれて振り回された時に落としてしまっていた。いつも使っている武器とは全然異なるが、何故かレリアが持つとしっくりくる。穴に落ちてすぐ手を突っ込んできた朱色のゴーレムの腕を粉砕してのけたように、レリアの方が貞一よりもハンマーを上手く扱えるだろう。


 う~~~ん。レリア殿は強いでござるし、あのゴーレムでも攻撃を当たらず殿くらいこなしてくれそうでござるけど・・・魔王でござるよ? 超強いんでござるよ? いや、レリア殿も超強いでござるが・・・。


 貞一はレリアに任すべきかどうか悩む。空腹すぎて頭に糖分が足りていないのか、思考はまとまらずどうすればいいか決めあぐねる。


「大丈夫だティーチ様。ハンマーは専門外だが、ティーチ様が振るう姿をずっと見てきたんだ。扱いこなしてみせるよ」


 そう言いながら、器用にハンマーを操り軽く素振りをする。それを見ただけでも、貞一より数倍使いこなしている。


「な?」

「でもでござるね・・・」

「心配しないでくれ。それよりも、時間が惜しい。そろそろ行きたいが、いいか?」


 レリアは軽くストレッチをして身体をほぐし、今にも穴から飛び出していきそうだ。そんなレリアに貞一も覚悟を決め、任せるかと思う。


「・・・わかったでござるよ。お願いするでござる」

「よし。私がゴーレムの気を引いてる間に、ティーチ様は全力で出口へ向かってくれ。私はそれに合わせ―――」


 レリアがこれからの流れを説明しながら、外していた仮面をつけようとした時、貞一はレリアの両肩を掴み言葉を止めた。


「ティーチ様?」


 突然のことに首を傾げるレリアだが、貞一は肩をわななかせ震えている。どうしたものかとレリアが困ったとき、貞一は小さく呟いた。


「レリア殿、拙者、怒るでござるよ」


 顔を上げた貞一の表情は、レリアが見たことのない顔だった。それは怒り。貞一は怒っていた。


「ど、どうしたんだ?」

「震えているでござらんか」

「え・・・?」


 レリアは己の腕をみる。貞一に言われて初めて気が付いた。レリアの身体は震えていた。


「気づいてなかったでござるか? レリア殿、本当は無茶だって自分でもわかってるんじゃないでござらんか?」


 体力も万全で挑み、何とか避けながら攻撃を加えることもできた。だが、今は体力も減り、決して万全な状態ではない。貞一には何てことないと言ったが、朱色のゴーレムに攻撃された時から手足が痛んでいる。致命的な傷ではないが、骨にヒビくらいは入っているだろう。レリアは自分自身死ぬかもしれないと思いながら、囮をすると進言したのだ。


 このままでは二人死んでしまう。自分一人が犠牲になれば、貞一は死なずに済むかもしれない。なら、ここは自分が先陣を切るべきだと。この人を死なせてはならないと。


「何がわかったでござるか。拙者どんだけ馬鹿なんでござるか」


 貞一は歯噛みする。レリアに任せようとして顔を上げた時、かすかに震えるレリアを見て、貞一は激しい後悔に襲われた。自分を犠牲にしようとする仲間に、貞一はなんて言った。


 お願いするでござる? ふざけるなよ拙者。危険なことまで全部仲間にやらせる気でござるか。震えてるレリア殿に、拙者でも逃げ出したいような相手を任せるでござるか。拙者はその隙に尻尾撒いて逃げるんでござるかッ!!??


 貞一は許せなかった。不甲斐ない自分のことが。自分を簡単に犠牲にする目の前の仲間のことが。貞一は許せなかった。


「いいでござるかレリア殿。怖かったら怖いって言っていいんでござるよ。無理なら逃げてもいいんでござる。今みたいにどうしようもない時は、一緒にどうするか相談してほしいでござるよ」


 レリアは貞一よりも判断力に優れ、いつも的確な指示を出してくれていた。今回の囮作戦も、客観的に見ればいい作戦なのかもしれない。ゲームの世界であれば、貞一も同じ作戦を取ったかもしれない。一人を犠牲にし、確実に一人を生かすこの作戦を。


 だが、ここはゲームの世界ではない。死んでしまったら終わりなのだ。それなのに、自分を犠牲にするような作戦をレリアはしてしまう。何でもないかのように、いつもの様にそれが最善だと。


 そんなの見過ごしちゃだめでござるよ。何でもできるからって、全てを任せるのは絶対に違うでござる。拙者はレリア殿と笑って過ごせる未来を目指してるのでござるよ! 拙者だけが生き残っても、そんな未来意味なんてないでござるよッ!!


「拙者は弱いでござる。魔力しか取り柄が無いでござるよ。レリア殿のように疾く動けないでござるし、全然攻撃も当たらないでござる。デスゾーンも全然見つけられないでござるし、魔物も発見できないでござる」


 貞一は自分の至らないところを挙げていくが、多すぎて思わず苦笑してしまう。


「って、多すぎでござるね。でもでござる。頼りないかもしれないでござるが、それでも頼ってほしいでござるよ。拙者、意地張って生きていくって決めたんでござるから! 拙者に任せてほしいでござるよ」


 事なかれ主義はもう止めた。人に任せっきりの人生を歩むつもりはない。貞一は意地を張って生きていくと、なけなしのプライドを守って生きていくと、そう決めたのだ。


「だ、だけど、どうするんだ? 私の剣も折れてしまった。翻弄しようにもあいつに効果はないし、逃げるにしてもすぐに追いつかれてしまうぞ」


 レリアは貞一に頼ってしまいたいと、そう思ってしまった。全てを任せたいと。だが、現実は甘くない。依然として朱色のゴーレムは貞一たちを待ち構えており、何事もなく通してなんてくれやしない。策もなく勢いに任せて行けば、二人とも殺されてしまう最悪な結果に終わってしまうだけだ。


「大丈夫でござるよ。任せろって言ったでござろう。拙者があいつを止めるでござる」

「どうやってだ?」

「拙者がゴーレムと取っ組み合うでござる。あいつの両腕を押さえて、動きを封じるでござるよ」


 貞一の策は簡単なもの。貞一では攻撃が当たらず、レリアは攻撃手段がない。なら、ハンマーをレリアに持たせ、貞一は朱色のゴーレムを抑えればいい。貞一が朱色のゴーレムと取っ組み合いをし、がら空きになった背中を、レリアがハンマーで攻撃する。そんな作戦だ。


「無茶だ! あのゴーレムの力は尋常じゃないぞ! いくらティーチ様とて、無傷じゃ済まないはずだ!!」


 ゴーレムと取っ組み合うということは、逆に言えばゴーレムに捕まるということだ。強化魔法があろうとも、魔王であるゴーレムならば魔法を突き破って貞一にダメージがいってしまう。


「平気でござるよ。拙者痛みには強いでござるから! けど、痛いのは嫌でござるから、レリア殿には早く倒して欲しいでござるけどね!」


 そう言って、ハンマーを持つレリアを見る。きっと貞一の攻撃でも、簡単にはダメージを与えることはできないだろう。一回当たったところで、次につなげなければ修復されてしまう。だからこそ、レリアに任せ、貞一はゴーレムの動きを封じることに専念する。一回でダメでも、十回なら効果があるかもしれない。レリアに重たい一撃を何発も繰り出してもらい、ゴーレムの背中を破壊し魔鋼を取り出してもらうのだ。


「拙者はレリア殿を信じるでござる。レリア殿ならきっとできる。だから、レリア殿も拙者を信じてほしいでござるよ」

「ティーチ様・・・」


 レリアは目頭が熱くなる思いだった。貞一を護るなんておこがましい話だったのだ。


 一緒に戦う。貞一とレリアは同じパーティ。『下剋上』の仲間だ。どちらかが助かる道なんて、どっちも望んでいない。どっちも助かる道を、二人で歩むんだ。


「・・・そうだな。二人で共に戦おう。ありが―――」

「ストーーーップ!!」


 目じりに涙をたたえお礼を言おうとすると、貞一が待ったをかける。


「お礼は朱色のゴーレムを倒してからでござる! 今はトイレに行っている場合ではないでござるからね!」


『何故今トイレの話が?』とレリアは疑問を浮かべるが、貞一なりに緊張をほぐそうと冗談を言ってくれたのかと、素晴らしい解釈をするレリア。若干腰が引けている貞一だが、もう少しすれば回復するだろう。危ないところだった。レリアの泣き笑いを浮かべた感謝を受けていれば、貞一の貴重な水分が発射されてしまうところだった。


『ちょ、ちょっと気を落ち着けてから行くでござるね』と苦しい言い訳をしながら地面に座る貞一に、心の中でレリアは感謝をささげるのであった。

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