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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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レリア、朱色のゴーレムと戦う

 きらめくあかき魔力光が、蒸気の様に身体から噴き出している。鉱石を打ちつけきしませ砕いたような、聞きなれることの無い不快な音を上げていた。


 轟音を上げながら接近し、出現と同時にティーチを吹き飛ばした正体は、朱色に純白が混じるゴーレムであった。


 あれは、ゴーレム・・・なのか。


 ゴーレムの異様な出で立ちに、レリアは思わず疑問の声を上げてしまう。


 今まで戦っていたゴーレムたちは、鉱石を無理やりくっつけて動かしているような生き物っぽさの無い形をしていた。ティーチはゴーレムを見て『近代アートみたいでござる』と言っていた。ゴーレムも洞窟に近づくにつれ強くなり、洞窟エリアのゴーレムは別格なほど強力だ。


 一通りのゴーレムと戦ってきたレリアたち『下剋上』の見解としては、『強くなればなるほど生き物っぽい形に変わっていく』だ。洞窟エリアで強さの筆頭である恐竜型のゴーレムも、顔がありあぎとがあり、生き物としての生命を感じる姿形であった。無機質な案山子かかしのようなゴーレムから、知能があるゴーレムへと強化されていくように。


 その観点から言えば、目の前のゴーレムは相当な知性を感じさせる。キトキトと周囲を見回す動きは実に自然であるし、声帯を模擬しているのか時折聞こえる不快な音は、生き物の鳴き声と取れなくもない。動きも滑らかで、ゴーレムと呼んでいいのか判断が付けられぬほど、他の魔物と遜色が無かった。


 大きさは洞窟で遭遇する他のゴーレムたちとそう変わらない。魔鋼があるであろうボディは太く分厚い。そこから生えるのは、4本の手足。細長く蜘蛛の様に4本とも地面に着けている。細いとは言うが、大きさに反してというだけで、レリアの胴体よりもずっと太い。更に筋肉質と言っていいのか、ゴツゴツとした鉱石に覆われた太く長い尻尾が生え、大きく開いた口からは大小様々な牙が生えていた。表面を覆う鉱石は朱色と白の混じるもので、血管の様に浮き出る管が、脈動するように赤に白にと魔力の光を明滅している。


 ゴーレムは周囲をぐるりと見回すと、踏みつけていた貞一たちが倒したゴーレムを掴み上げた。


 ゴーレムがゴーレムを、喰らっている・・・!?


 レリアは驚愕しながらも新手のゴーレムを観察する。掴みあげられたゴーレムの胴体部を、噛み砕くように喰らっている。魔鋼は取り出す前だったため、まだゴーレムの胴体に入ったままだ。朱色のゴーレムは残された魔鋼ごと、噛み砕き体内に取り込んでいった。魔鋼を取り込んだからか、一度大きく身体が発光すると、掴むために持っていた残された部分を放り捨てた。


 レリアはその様子を、崩落した天井の瓦礫に身を隠すようにして窺っていた。ティーチは朱色のゴーレムに反応できなかったが、レリアは寸でのところで跳び退しざることで攻撃を避け、即座に移動し隠れることに成功していた。


 だが、これはまずい。まず過ぎる・・・。


 レリアが隠れたのと同時に、ティーチが壁に叩きつけられた。直後、全身を襲う倦怠感。それはティーチからの強化魔法が切れたことを意味していた。


 ティーチ様は生きてる。大丈夫だ。おそらく気絶したんだろう。


 強化魔法を使っている魔法使いが気絶してしまえば、魔法もそこで終わってしまう。壁にめり込むようにしてぐったりとしているティーチを見れば、胸が上下に動いていることが確認できた。吐血している様子もないため、内臓の損傷もないだろう。目を覚ませばいつも通り動けるはず。今のレリアにはそう願うしかなかった。


 だが、問題は朱色のゴーレムがティーチが目を覚ますまで待ってくれるか、ということだ。


 魔鋼を取り込んだゴーレムは、再度キトキト周囲を見回す。その様子は生き物の用であり、けれども決定的に異なるような気味の悪い動きだ。そして、壁に埋もれるティーチを見据える。レリアには気づいていないのか、はたまた強化魔法も受けていない魔力無ロストはそもそも視界にすら入らないのか。理由は定かではないが、朱色のゴーレムはティーチを標的にしたようだ。手足を獣のように這わせ、ティーチへと迫る。


 その様子を見るレリアは、焦燥に駆られる。ティーチは眠っていても、自分自身の強化魔法をかけ続けたままなのは知っている。だが、気絶した場合もそうなのかは確認したことが無い。


 いや、そんなこと問題じゃない。強化魔法があっても、気絶していればただじゃ済まないぞ!?


 魔法使いであるティーチは、驚くほど頑丈だ。食らえば即死のようなゴーレムの攻撃を何発も受けているのに立ち上がり、怪我をしても打ち身程度で済んでいる。そのティーチが気絶するほどの攻撃。朱色のゴーレムがどれほど強いかわからないが、強化魔法をかけた魔法使いであろうとも気絶するほどの威力だ。そんな奴の攻撃を気絶しながら受ければ、強化魔法をしているかどうかなど関係ないだろう。


 しっかりしろ。冷静になれ。この場を切り抜けるなら、優先度はティーチ様の方が圧倒的に高い。この中で最も命が軽いのは、私だ。


 ティーチが死ねば、あとに残るのは自力で強化魔法すらできない非力なレリアだけ。可能性は極めて低いがこの場を乗り切れたとしても、上級魔境の奥深くから抜け出すのは無理がある。だが、ティーチならば違う。目を覚ませば、強化魔法が使える。朱色のゴーレムを倒すことはできずとも、この場から逃げ出すことはできるはずだ。動かなければ二人死ぬだけ。動けばティーチが助かるかもしれない。


 だから、動けッ!!


 レリアはへたり込みそうになる脚を叱咤しったし、なんとか立ち上がる。呼吸は浅く乱れ、震える手で瓦礫の破片を拾い上げる。それを朱色のゴーレムに向かって投げた。


 宙を舞う瓦礫は放物線を描いてゆく。強化魔法の無いレリアの全力の投擲とうてきはハエが止まりそうなほど遅く、しかし正確に朱色のゴーレムの頭部へ命中した。


 振り返ったゴーレムは、瓦礫の陰から姿を現したレリアを見て、わらった。鉱石を軋ませたような甲高い音が洞窟に響き渡る。今まで戦ってきたゴーレムに、感情など一切見られなかった。嗤うなんてことができる目の前の朱色のゴーレムは、変異種という枠にも収まらない不気味さがある。


 ゴーレムの意識がレリアに向いた。握りしめた剣を構える。


 どう出る。集中しろ。ティーチ様が目を覚ますまで時間を―――


 勘だった。ただの山勘だ。まずいと感じたら身体が動いていた。


 直後、顔の横を高速で過ぎ去る何か。目では追えなかった。背後で響く衝突音を聞きながら、朱色のゴーレムの様子で瓦礫を投げたのだと理解した。さっきレリアが投げたのを見て真似したのだろうか。猫が鼠を弄ぶ様な、そんな雰囲気を感じられる。


 耳のすぐそばを横切ったためか、風圧のせいで右耳が痛く音がぼやけて聞こえる。そんな中、レリアは自分の死を悟る。


 これは時間を稼ぐとかそんなレベルじゃないな。


 10秒も持てばいい方かもしれない。朱色のゴーレムは避けたことが嬉しかったのか可笑しかったのか、依然として嗤いながら、標的をレリアに変え動き出す。離れていたと思っていたが、恐ろしい勢いで近づいてくる。


 すまないティーチ様ッ!! あなただけでも、どうか生きてくれッ!!


「うぉぉおおおおお!! 来いッ! ゴーレムッッ!!」


 瞬き一つするだけで、驚くほど近づいて来る朱色のゴーレム。腕が動いたと知覚したと同時に、大きく地面を蹴り横へ跳ぶ。先ほどまでレリアがいた場所は大きく抉られ、少しでも動くのが遅ければ即死していただろう。


 初撃を避けたレリアだが、その後は続かない。地面が抉れるほどの衝撃は大きく、強化魔法の無いレリアでは、揺れる地面の中次の行動へ移すにはラグがある。そんなことはお構いなしに、朱色のゴーレムは反対の手で二撃目を繰り出してくる。


 初撃を避けられたことが奇跡なのだ。ここまで引き付けただけでも、僥倖ぎょうこう。胸を張っていい。


 二撃目が迫りくる時、遠くで叫ぶ声がした。それはレリアが最も聞きたかった人の声だった。


「【オウフ】ッッ!!!」


 目で追うことすらできなかった朱色のゴーレムの攻撃が、途端にスローモーションのように認識できるようになる。身体には圧倒的な魔力がみなぎり、別人に生まれ変わったような気分だ。


 朱色のゴーレムの攻撃が通過した時には、すでにそこにレリアはいなかった。


「レリア殿ごめんでござるよ!! 寝てしまっていたでござる!!」


 ティーチは目を覚ますと同時に、レリアへ強化魔法を掛けてくれたようだ。レリアは寸でのところで命拾いした。だが、危機はまだ脱してない。


「ティーチ様助かったッ!! こいつは強い!! 気を付けろッ!」


 先ほど攻撃をかわした時、レリアは朱色のゴーレムの腕を斬り落とそうと攻撃を加えた。しかし、刃こそ通れど斬り落とすことはできなかった。今までのゴーレムの比じゃないほどの硬さ。無理に斬り付ければ剣が折れてしまいかねない。


 ティーチも加勢しようとするが、レリアと朱色のゴーレムの攻防の中へ入っていくことができない。いつもは洞窟のゴーレムであろうと翻弄できたレリアの速度も、朱色のゴーレムには通じない。レリアの動きを先読みするように繰り出される腕を避けるだけでも、至難の業だ。むしろこちらが翻弄されかねない。そんな中レリアは果敢にもカウンターを食らわすが、ダメージらしいダメージを与えられずにいた。


 硬すぎるッ!! 半端な攻撃じゃすぐに直されて埒が明かないぞッ!!


 突破口は無いか模索するが、いい解決策が思いつかない。何度も手足を斬り飛ばそうとするが、浅い傷をつけてはすぐに修復されてを繰り返している。背面に回れば尻尾が迫り、それ以外では長い手足が別の生き物のように追い詰めてくる。距離を取れば地面を抉り、破片を砲弾の様に投げつけてくる。強化魔法のおかげで綱渡りの様な攻撃をできているが、有効打を一切与えられていなかった。


「どりゃあぁああああぁあああ!! ぷぎゃッ!!」


 ティーチも何とかハンマーを振り回し攻撃を仕掛けるが、カスリもせず逆に吹き飛ばされてしまう。『下剋上』はレリアが足を使って翻弄し、ティーチが止めの一撃を食らわす戦法で戦ってきた。レリアでは翻弄どころか、避けに専念せざる負えないほど朱色のゴーレムの攻撃は多彩で疾く、ティーチの一撃を与える隙が作れない。


 そして何より、朱色のゴーレムには余裕がある。ギリギリの戦いをしているような感覚が無い。まるで、普段レリアたちが洞窟のゴーレムを相手にしているような雰囲気が感じられるのだ。もてあそばれているとまでは言わないが、終始余裕を感じる。


 このままでは埒が明かないか。ティーチ様のダメージも気になる・・・。ダメもとで魔鋼付近を攻撃してみるか。


 試せることは全て試してから次の策を練ればいい。ティーチの攻撃が当たっていないため、朱色のゴーレムは魔力を全然消費していない。そのため、朱色のゴーレムが纏う魔力は未だ健在で、付け入る隙は無い。駄目で元々と、レリアは繰り出された腕を伝い朱色のゴーレムの背中に駆け上がる。


 数発背中から魔鋼がありそうな位置を斬りつけるも、ダメージはおろか傷すら入らない。他のゴーレムでも同じだが、最も重要な魔鋼の周辺は最も堅固けんごだ。腕ですらまともに斬れないのに、朱色のゴーレムの魔力も乱さず身体に傷を入れるなど無理な話だった。


「なッ!? しまったッ!!」


 離脱しようとした時、朱色のゴーレムの背中から手が生え、レリアの脚を掴んだ。急造された腕は脆く即座に斬り飛ばすが、体勢を整えるまでゴーレムは待ってくれない。


 眼前に迫る大きな拳。バランスの崩れた姿勢でかわすことは無理だった。


「ちぃッ!!」


 なんとか剣を当て軌道を逸らそうと試みるが、無駄に終わる。


 パキィィ――――


 澄んだような音を奏で、レリアの剣は綺麗に折れてしまった。無理やり魔力を流し性能以上の力を振るい続け疲労の蓄積した愛剣は、最悪なタイミングで最低の結果として最後の結末を迎えた。


 目の前で折れた刃の先が飛んでいくのを茫然と見ていると、すぐさま黒い何かに視界が覆われる。それがゴーレムの拳と理解したのは、全身に激しく貫く痛みを感じたのと同時だった。


「レリア殿ッ!!!」


 ティーチが叫んでいるが、レリアの視界は白く塗りつぶされ意識は飛びそうになる。だが、ゴーレムの攻撃は終わりではない。吹き飛んでいくレリアの脚を殴った逆の腕で掴むと、勢いよく地面へ叩きつけていく。幼児が癇癪を起し人形を叩きつけるように。そこに加減は見られない。


「離せでござるよぉおぉおおおお!!!」


 ティーチはハンマーを両手に持ち、朱色のゴーレムへ迫る。だが、ティーチでは朱色のゴーレムの速度についていくことはできなかった。振り下ろされるハンマーよりも早く、朱色のゴーレムの腕がティーチを殴りつけゴムまりの様に勢いよく転がりながら吹っ飛ばされる。


 だが、ティーチの行動は無駄ではなかった。追い打ちをかけるように、朱色のゴーレムは握っていたレリアを貞一に投げつけたのだ。


「レ―――」


 砲弾の様に飛来するレリア。受け止めようとしたティーチだが、受け止めきれず一緒に壁際に叩きつけられた。態勢を整えようと、ティーチが起き上がろうとしたとき、地面にヒビが入る。


 崩落。


 朱色のゴーレムが現れた時の様に、レリアとティーチは奈落に落ちるように地面へ吸い込まれていくのであった。

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