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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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レリア、休日の過ごし方

 イコ・ルマンに着いたのは冬だったが、気づけば温かくなり春を迎えていた。雪が降り積もる日もあったが、今では懐かしい。魔境との境目で綺麗に雪が積もる景色と乾いた荒野が広がる景色は、何とも言えない不思議な光景だった。


 季節が変わるほど、イコ・ルマンで魔鋼集めを行っているレリアたち『下克上』。今では魔境の奥にある洞窟エリアで活動しているが、一向に白混じりの魔鋼が手に入らない。色付きの魔鋼は何度も手に入れたが、最高でも原色をギリギリ超えない程度で、白が混じった魔鋼には辿りつけていなかった。


 蒼剣も途中で挫折したと言っていたが、気持ちはわかる。だが、当時カッパー級だった彼らは、荒れ地エリアのみ探索していたと言っていた。洞窟エリアを主戦場にしているレリアたちなら、白混じりの魔鋼をゲットできるチャンスはかなり高いはずだ。実際、色付きはかなりの数を入手してるため、後は根気との戦いになるだろう。


 幸いなのは、ティーチ様が魔鋼採取に乗り気でいてくれていることだな。


 レリアはこの数か月のティーチの様子を思い出す。新しい魔境に興奮し隅々まで目を輝かせ確認し、何度も何度も同じ魔物であるゴーレムと戦っているというのに楽し気に魔鋼を採取している。『拙者も強くなってきたのではござらんか!?』とハンマーを振り回す姿は、何とも頼り気のある背中であった。


 魔鋼採取ではどの形状のゴーレムだと色付きが出やすいとか、表面の色が魔鋼の色に影響を受けているとか、冒険者ギルドの資料にも載っていない、一部の冒険者のみが秘匿しているような情報まで分析していった。そのおかげで、倒すゴーレムとスルーするゴーレムに分けることができ、効率がぐっと上がったほどだ。


 ゴーレムとの戦闘だって、今ではティーチが大活躍している。洞窟エリアのゴーレムは非常に硬く、強化魔法を受けたレリアであっても直接魔鋼へダメージを与えることは難しい。浅い傷ではすぐに修復されてしまい、無理に攻撃すればゴーレムの硬度に負けて剣が折れてしまいかねない。


 だが、武器をハンマーに変えたティーチの攻撃は、衝撃を通してゴーレムに深いダメージを与えることができる。一撃でも当てれば、衝撃で周囲までひび割れ粉砕してしまう威力なのだ。レリア一人で戦っていたら、一体倒すのにどれだけ時間がかかるか。ゴーレムから攻撃をもらっても怯まず立ち向かっていく姿は、一緒に戦う者としてとても勇気をもらえる。母が生きていれば、どれだけ自慢話を聞かせられていただろうか。


 この世界の魔法使いは、滅多に魔境まで行くことは無い。基本的には冒険者たちが探索し異常を調べたり、聖騎士である部下たちだけで様子を見に行く程度だ。魔法使いが魔境へ行っても魔物と戦うのは梅雨払いの聖騎士たちで、魔法使いは戯れに魔法を放つ程度。


 その点、ティーチは自分でもガンガン戦っていく。魔法を使うとゴーレムの場合魔鋼もばらばらになってしまうため、基本的にティーチの強すぎる魔法は使わないでもらっている。ロストであるレリアが魔法を使わないでくれなんて言えば、普通の魔法使いならレリアに向けて魔法をぶっ放してくるだろう。だが、ティーチは違う。『拙者の魔法は強すぎる故、力を封印しておく必要があるでござる。デュフフフ』と暗く笑いながら、レリアの言葉を受け入れてくれる。


 ティーチが別の世界からこの世界に来ており、元の世界では価値観が全然違ったことは聞いている。元の世界では魔力そのものが存在せず、美醜の価値観が逆の世界ではティーチはさげすまれ生きてきたと言っていた。レリアの過去同様、ティーチの過去も深く重いものだった。レリアにとって魔力が無い世界というのも考えられないが、ティーチのような神に愛されたように整った容姿を持つ者が、醜悪だとロストの様に虐げられていたという話が、最も信じられなかった。


 だから、ティーチ様からしたら魔物のようだと罵られてきた私のような顔が、その・・・凄く可愛いいというのも、信じられないな。


 思わずレリアは仮面の下で微笑み、いや口をにやけさせてしまう。浅黒く汚れたような肌の色も、老婆のような白い髪もティーチにとっては『逆にそれが萌えるんでござる! 白髪褐色とかもうテンプレでござるよ! 性癖ビンビンでござる!!』というのだそうだ。内容はいまいち理解できなかったが、褒めてくれているのは伝わった。


 幼いときはこのせいでいろいろ言われたから自分でも嫌だったが、今ではティーチ様が喜んでくれるのだから誇らしい。我ながら単純だな。


 それに、ティーチは耳の傷も顔の傷も気にしない。顔の傷に至っては、『むしろいい! 拙者レリア殿のおかげで新たな扉が開いたでござる! ダイバーシティでござるよ!!』と力説していた。こちらも例によって内容は理解しづらかったが、褒めてくれたのだろう。


 初めは容姿を褒められるなんてありえないと思っていたのだが、ティーチが何度も言うものだから嬉しくなってしまっている。それを気取られて嫌われてしまったらと思い、本人の前ではました顔をしているが、内心は湯だった蛸のように真っ赤になっている。


 今日は魔境探索をしない休日だ。お互い知らない町ということもあり初めは休暇もギルドに詰めて勉強などをしていたが、今ではお互い好きなように過ごしている。ネスク・テガロにいた時と同じだ。買い出しなどあれば明日の探索準備日で行うので、買い物は良く二人でしている。


 ティーチが散歩を趣味としているように、レリアも散歩が好きだった。今日も筋トレや訓練が終わると、イコ・ルマンの街を散策している。生まれ育った村は閑散とした村だったため、ネスク・テガロやイコ・ルマンのように大きな街は、ある物すべてが物珍しく見えた。


 あの村では行商人すら来なかったからな。こんなに冒険者の装備に種類や物があるとは思っていなかったよ。


 魔境探索で使えそうなものは無いか、レリアは物色している。イコ・ルマンの魔境は基本ゴーレムばかりを討伐し、持ち帰る素材も魔鋼がほとんどだ。そのため、採取用の袋やケースはあまり必要ではなく、品ぞろえも少ない。逆に、ピッケルや梃子てこを使って無理やり押しつぶす大きなラジオペンチのような工具など、ネスク・テガロでは全然目にしなかった物が多く並んでいる。


 特に、ここイコ・ルマンは鍛冶師も多い影響からか、金属を加工した道具が充実していた。探索を楽にするアイテムとして、折りたためる机や椅子なんかも売っているくらいだ。人数がいて持ち運べる量が多ければ選択肢に入ったかもしれないが、ただでさえ魔鋼を持ち帰れる量が少なくて悩んでいるというのに、そんな不用品を持っていくことはできない。


 色々な物がありどれも欲しく思えるのだが、いざ買うか悩むとそこまでの物は見つからない。


「ん? 何だこれは?」


 レリアはガラスのショーウィンドウに入っている、四角く薄桃色の板を眺める。それは初めて見る物だった。辺りを見ればちょうど店員が見えたので、聞いてみることにした。


「すまない。これは何に使う道具なんだ?」

「ロストって、ああ、あなたはティーチ様のパーティの!」


 店員はレリアが誰かわかったようで、ロストだからと邪険にせずに対応してくれた。ヴァンドゥーフ盗賊団を壊滅させた下克上の噂は、イコ・ルマンに住む者なら誰もが知っている。冒険者が関わっていたことで人々の関心は高く、冒険者ギルドも大々的に動いたからだ。


 冒険者ギルドは非難の眼がギルドに向かないよう、全力で事件を対処するとともに、盗賊団討伐を行ったティーチを英雄化して街の人々へ情報を流布したのだ。冒険者が解決したという事実が重要で、ティーチが魔法使いだったため英雄化させやすかったのも理由の一つだろう。


 そのため、イコ・ルマンの街では今までの街の様に門前払いされることがめっきり無くなった。ネスク・テガロ程ではないにしろ、生活するうえで困ることは無い。ティーチが積んだ善行が、レリアにも恩恵として与えられている。そのことにレリアは感謝し、改めてティーチを尊敬した。


「これね。これは岩塩でできたプレートだよ」

「プレート?」

「この上にお肉とか野菜を置いて、プレートごと火にかけるんだ。それだけなのに食材が美味しくなるって商品だよ」


 フライパンの代わりのようなものだろうか。レリアは岩塩でできたプレートをしげしげと眺める。


「使われてる岩塩は魔境産で、酒禅山しゅぜんざんの岩塩が使われててね。その分値は張るけど、安物の肉がまるで魔牛の肉かの様に美味しくなるって―――」

「買おう」


 店員が説明しているのに被せながら、レリアは購入を決める。確かに高価なものだが、イコ・ルマンの魔境で色付き魔鋼を採取し続けたおかげで、正直お金は引くほどある。いつもは身を崩さぬよう無駄なものを買うのは控えているが、これは無駄なものではない。これで美味しい肉が焼ければ、きっとティーチも喜んでくれるのだから。


「そ、そうかい。お買い上げありがとう。割れないように専用のケースも付けておくよ」


 プレートの詳しい使用方法や、手入れの仕方を聞いたレリア。レリアの頭の中には、このプレートで何を焼こうか、そればかりが浮かんでいた。




 ◇




 良い買い物ができた。


 岩塩プレートを購入したレリアは、満足げに街道を歩いている。荷物の都合上あまり調理器具や調味料は持ってはいけないが、これがあればより魔境産の食材を美味しく頂けそうだ。


 そんなレリアは一軒の店に入る。花屋だ。色とりどりの花々は、見ているだけで楽しくなってくる。視覚だけでなく、花のいい匂いが嗅覚でも楽しめた。


「あら、レリアさん。今日は何にする?」


 花の手入れをしていた店主が、レリアに話しかけてくる。レリアの名前を知っていることから、どうやらレリアはこの店に何度か来たことがあるようだ。


「前回は白だったからな。違う色がいい」

「ならピンクなんてどう? 差し色にオレンジも入れれば、明るくって春みたいでしょ」


 そう言いながらピンクをベースにいくつかの花を手に取り、花束のサンプルを作ってくれる。店主のいう通り、ピンクやオレンジの花は見てると元気が湧いてくるようだ。


「綺麗だな。その色合いでお願いする」

「はいはーい。いつもありがとね」


 慣れた手つきで花を包んでゆき、リボンでラッピングをしてくれる。それを受け取ったレリアは、目的地に向けて歩いて行く。


 賑やかな街道からは少し外れ、周りには大きな煙突を付けた鍛冶工房がそこかしこにある。この道を歩いていると、まだ日も高いため、彼らが作業をしている音が聞こえてくる。金属を叩く音や、時折師匠が弟子に対して怒鳴っている声も。


 そこから少し歩けば、目的地であるベドロス鍛冶工房に着いた。


「ああ、レリアさんですか。どうぞどうぞ。親方ー! レリアさんが来られたよ!」


 ノックをすれば、ベッソの弟子であるフォッカが扉を開け招き入れてくれた。赤茶色の髪を持つベッソとは違い、フォッカの髪は亜麻色だ。『筋は良いんだが抜けてるところがあってな。まだまだ任せられん』とは、フォッカがいない時にベッソがこぼしていた台詞だ。


 ベッソはレリアが来たが、作業を続けている。フォッカも声をかけたが、その反応が返ってくると予想してたようだ。前にも作業中に来た時は、一区切りするまで待つことがあった。集中を乱せない作業なのだろう。


「親方は今作業中でさ。ベルル嬢さんのところだろ? 案内するよ」


 そう言うと、フォッカが先導してくれる。レリアも場所は知っているが、当然ながら人の家なので勝手に行くことはできない。


 応接室を抜け工房の奥にある扉から、彼らの生活する家へつながっている。廊下を抜けたところで、フォッカが声を上げた。


「女将さん! レリアさんが来たからお願いしてもいいかい?」


 ベッソの妻である女性、ルーナがフォッカに呼ばれて駆けつけてくる。エプロンを付けた姿から、ルーナは家事をしていた途中だったのだろう。


「レリアさん、いつもありがとうね。ささ、上がって頂戴」

「奥さんも、体調が戻られたようで何よりだ」


 ルーナは娘を盗賊に攫われたショックで、身体を壊してしまっていた。レリアたちに依頼をした時のベッソも相当やつれていて今にも倒れそうであったが、ルーナはその時にはすでに動くこともままならないほど衰弱していたという。貞一たちが初めてベドロス鍛冶工房に訪れた時も、お礼の言葉を言いに来るのも難しい状態だったとか。


 ベッソは娘だけでなく、妻も失うところだったのだ。依頼金が低く情報もろくにないというのに、即座に依頼を受けて達成してくれた『下剋上』に、彼らは心の底から感謝していた。


「おかげさまでね。またお花を買ってきてくれたの?」

「ああ。少しでも気が紛れればと思ってな」

「本当、ありがとうね。預かるわ」


 レリアの心配りに、ルーナは思わず目頭が熱くなる。涙は流さないようにしようと試みるが、歳のせいかすぐに涙は頬を伝い零れ落ちた。


「ごめんなさいね。先に部屋へ行ってあげてくれるかしら。お茶を入れて持ってくわ」

「気を使う必要はない。私が好きでやっていることだ」

「あら。なら私も好きでお茶を入れて持ってくわね」


 軽く微笑みながら、ルーナはレリアを見送った。




 ◇




 ベルルは今日もベッドで横になり、窓から差し込む光を眺めていた。窓辺には前回持ってきた白い花が飾られている。前回来たのは2週間ほど前だ。少し萎れてはいるが綺麗に咲いているのは、しっかりと水を変え手入れされているからだろう。新しく落ちた花びらが数枚あるだけで、窓辺はホコリ一つないほど掃除が行き届いていた。


「何度も来て悪いな」

「・・・・・・」


 近くの椅子に腰かけ、レリアは声をかける。だが、返答はない。


 レリアが救出した時には、すでにベルルは瀕死の状態だった。ご飯もろくに食べていなかったようでやせ細り、元の肌を探すのが困難なほど、全身は殴打による痣で覆われていた。だが、外傷はきれいさっぱり無くなっている。回復魔法使いによる魔法のおかげで、凄惨な事件を思い出させるような傷は何一つ残っていなかった。


「まだそのマントを使ってるのか。汚いだろう?」

「・・・・・・」


 ベルルは何も答えないが、レリアの方は見ている。


 外傷は綺麗に治ったが、心までそうはならない。彼女の心は体よりも先に死んでしまったようだ。あれだけひどいことを受けたというのに、人に対して恐怖するような素振りもない。他の捕らわれた女性が男が近づくだけでパニックになっていた者もいた中で、彼女は何の反応も見せなかった。感情が無くなってしまったように、彼女の眼はうつろで濁ったままだ。


 そんなベルルだが、レリアが助けた時にかけてあげたマントを、大事そうに握っている。それに希望を見つけたベッソとルーナは、武器の新調や手入れのために店に寄ったレリアへ、あの子に会ってほしいと言われたのだ。


 始めはレリアが来ても反応はなく、窓の外を眺めるだけだった。だが、定期的に訪れるようになると、彼女はレリアの方を向くようになった。


 相槌も無いが、レリアはたまに来ては近況を話すようにしていた。ベルルからの反応は無いが、こうして近況を誰かに話すという経験が無かったレリアにとっては、自分が思っていた以上にこの関係が気に入っていたようだ。


 レリアが話すことなんて、基本的に魔境のことかティーチのことだ。やれこんなゴーレムと戦っただの、やれティーチ様は鉱石を掘り出すのが上手いだの。そんな話。ベルルはいつも通り、その話を黙って聞いている。


 知らなかったが、どうやら私はおしゃべりなのかもしれないな。


 そんな意外な自分の一面を見つけながら、いつの日かお互いの近況を話せるようになればいいなと、レリアは思うのであった。

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