ブサイク、活躍する
ぴちょんぴちょんと、天井から鍾乳石を伝い水滴が落ちてゆく。荒れ地の乾燥したエリアとは裏腹に、この洞窟エリアでは多湿なくらいだ。どういう原理でこんな環境になっているというのか。改めて魔境は不可思議なエリアだと思わせられる。
「ティーチ様、ここはダメだ。迂回しよう」
そう言って、レリアは引き返す。貞一は何も言わずにレリアに従う。レリアがダメだということは、この先は行き止まりか危険なエリアなのだろう。
実際、振り返る時、天井に鍾乳石が見えた。この道を通らないのは、このまままっすぐ進めば、天井の鍾乳石が一斉に落ちてくるトラップがあるからだ。落ちてくる鍾乳石よりも早く走り抜けることは、実はできる。魔法使いのような豊富な魔力が無くとも、シルバー級冒険者になった者たちなら本気で走れば切り抜けられる落下速度だ。
しかし、その絶妙な速度が実に厭らしい。この道を走ると、床が崩落する仕組みになっている。突如床が抜け、下には大量の先端が尖った天井とは逆に生えた鍾乳石。崩落に巻き込まれれば下に生えた鍾乳石に貫かれ、時間差で落ちてくる天井の鍾乳石からも刺されるデスゾーンだ。
ここはイコ・ルマンの魔境の奥に位置する、洞窟エリア。すでにここも慣れた様子で、貞一たちは進んでいく。
「あ、あそこ採取できそうでござるよ」
貞一が指差し、レリアに確認する。影になって分かりにくいが、光球で照らせば壁面の岩が薄青い場所があった。
「ミカリ鉱石が取れるかもしれないな」
「採取するでござるよ!」
二人は手分けして、ピッケルで岩を砕いていく。埋まっている鉱石を傷つけないように、慎重に行う。
「採れた! でござるが、小さいでござるね」
指の爪程度の小さな鉱石だ。これはミカリ鉱石と言われる物で、磨くと水色に輝く鉱石だ。魔道具や武器製作の触媒、それに装飾品などにも使われるもので、このサイズだと磨くとかなり小さなものになってしまう。
「私の方は外れだ。行こうか」
イコ・ルマンの魔境は、ゴーレム魔境と呼ばれるほどゴーレムばかりでてくる魔境だ。だが、魔境の奥にある洞窟エリアでは、宝石を採取することができる。あまり数も出ないし、見つけるのも困難だが、宝石は大きさに対し価格が高いため、いい小遣い稼ぎになる。
周囲を見回しながら、二人は進む。荒野エリアではよく他の冒険者とも鉢合わせたが、洞窟エリアで活動する冒険者は少なく、周囲には誰もいない。薄暗い洞窟は不気味だ。湿って表面が濡れた岩壁が、光球の光を怪しく照り返す。
「ゴーレムだ。あれは・・・恐竜型だ。それに赤みがかっている」
「これは期待できるでござるね」
ゴーレムは決まった形を持たない魔物だ。ムカデの様に多くの足が生えたようなゴーレムもいれば、人を模したようなゴーレムまでいる。だが、ある程度形状も分類分けできる。そんな中で、貞一が適当に名付けた分類をレリアも真似して使うようになった。
人型、辛うじて人っぽく見えるゴーレム。動物型、4~6本足で、見ようによっては動物に見えるゴーレム。虫型、地面を這うように移動し、形は複雑怪奇。分類分け出来ないのは大体これ。そして恐竜型。ティラノサウルスを彷彿とさせるように、大きな二本足に強靭な身体を持つゴーレム。
荒れ地でよく見るゴーレムは本当に岩が集合して動いているようなゴーレムが多いが、洞窟エリアのような魔境の奥では、生き物としての明確な形状を持つゴーレムが現れるようになった。レリアが発見した恐竜型のゴーレムも、モノを掴むための腕が生え、噛み砕くための顔が二つ生えている。形状は歪ではあるが、より生き物らしさを感じられる。そして、その形のゴーレムの方がレアな魔鋼を持っている。
眼前に見えるゴーレムは恐竜型で、大きい。市営バスくらいのサイズはあるだろう。そんなサイズのゴーレムは、鉄を含む鉱石で覆われている。岩よりもはるかに頑強な身体は、洞窟の隙間から差し込む陽光を反射し、赤黒く光っていた。
ここまで魔境の深くまで来ると、出てくるゴーレムは岩ではなく鉄などの金属や鉱石を纏いだす。サイズもかなり大きく、生半可な攻撃ではびくともしない。これまでのような無双プレイはできず、二人合わせての攻略が必要になってくる。そのため、ゴーレムが複数いる場合は見送り、単体でいるゴーレムを探して倒している。
呼吸を合わせ、二人はゴーレムへダッシュする。貞一の足音に気付きゴーレムが振り返るが、その時にはすでにレリアはゴーレムの目前まで迫っていた。
ゴーレムがレリアを認識した時には、すでにレリアはゴーレムを通り過ぎ攻撃を終えている。ゴーレムに生えていた大きな腕は根元から斬り落とされていた。
だが、魔鋼は無事。腕など気にしないとばかりに、ゴーレムはその場で旋回し、尻尾をレリアに叩きつけようとする。が、すでにレリアはゴーレムの攻撃射程外。風を唸らせながら振るわれた攻撃は、空を切る。
「うぉおおお!!」
遅れて追い付いた貞一は、レリアに気を取られたゴーレム目掛けハンマーを振るう。ハンマーを振るうのにも慣れてきた貞一の攻撃は、見事尻尾に命中し、粉砕する。
だが、大振りの攻撃によって無防備にさらされた貞一を、ゴーレムは逃さない。貞一を掴もうと腕を伸ばしてくるが、それは再度レリアによって斬り落とされる。
このサイズになると、レリアの攻撃でも一撃で胴体を斬り落とし、魔鋼を露出されるのは難しい。胴体はかなり分厚く、魔鋼は鉱石によって厳重に保護されているためだ。そのため、細かくダメージを稼ぎ魔鋼のエネルギー切れを狙いつつ、貞一の攻撃をゴーレムの胴体へ当てて大ダメージを狙っていく。荒れ地で戦っていたゴーレムたちはワンパンで倒せていたが、洞窟のゴーレムを倒すのにはかなり骨が折れる。
ゴーレムは声帯を持たぬため叫ばないが、それでも怒っているのは伝わる。斬り落とされた腕を再生し、再度こちらに突っ込んでくる。
翻弄するようにレリアがゴーレムの周囲をちょこまかと動き回り貞一をサポートし、貞一は隙を見て振り回したハンマーを当てていく。それでも、貞一のような武術の心得が全くない者では、何発か攻撃をもらってしまう。
「くぅ~~、ちょっと痛いでござるよ!!」
再生した尻尾ビンタを喰らった貞一は、転がりながらも即座に起き上がる。上級魔境の奥ともなれば、魔法使いの強化魔法も貫通する攻撃をしてくる。それに貞一の魔法も通じない。このエリアでは、貞一の魔法使いというチートが猛威を振るうことはない。それでも魔物と戦うためにこんな魔境深くへ潜っているのだから、ネスク・テガロで一人で冒険者をしていた時では考えられないことだ。
上段から思いっきし振り下ろした渾身の攻撃は、しかしゴーレムに躱されてしまう。お返しとばかりにゴーレムは鋭い牙のはえた口を大きく広げて貞一に噛みついてくる。
「させないッ!!」
レリアが下あごを蹴り上げ、強制的に口を閉じさす。貞一も追撃を恐れ、大きく後ろへ飛びすさった。
「ティーチ様! そろそろ脚がいけそうだ!!」
「オーケーでござるよ!!」
レリアは再度ゴーレムに迫る。右に左に攻撃を避けながら、攪乱していく。しかし、初めよりも効果が薄い。ゴーレムもレリアでは軽傷は負えど、致命傷にはならないと気づいたのだろう。明らかに貞一を警戒し、狙って攻撃してきている。
「いくぞッ!!」
レリアは裂ぱくの気合を込め、ゴーレムの太い脚へ仕掛ける。ゴーレムを覆う鉱石には、冒険者が魔鋼の武器に魔力を流す様に、魔力が流れている。生半可な攻撃は通らず、レリアのような鋭利な武器では剣が負けて痛むこともある。そのため太く頑強な脚を攻撃するには、脆い部分にダメージを与えて再生にエネルギーを消費させ、纏う魔力にムラを生じさせる必要がある。
ゴーレムの魔力が再生にエネルギーを使いすぎて乱れた時、レリアはその隙を逃さず致命の一撃を与える。レリアが放つ斬撃がゴーレムの脚を斬り飛ばす。踏ん張りがきかなくなったゴーレムは、砂埃を巻き上げ横転した。そこへ、貞一が迫る。
「止めでござるッ!!」
先ほどは空振りした上段からの攻撃を、しっかりと胴体に叩き込む。顔を攻撃したいところだが、ゴーレムのエネルギー源は胴体にある魔鋼のため、例え顔を斬り飛ばしても死にはしない。魔鋼まで響くように、貞一は渾身の一撃をお見舞いした。
爆裂魔法が炸裂したような轟音が周囲に広がる。その一撃が決め手となり、ゴーレムの胴体はひび割れ砕け、力なく手足を動かすだけだ。
「さぁ、取り出すでござるよ!」
ゴーレムは魔鋼がある限り動き続ける。貞一たちはピッケルを使いひびを広げ、鉱石をどかして魔攻を摘出する。ゴーレムは放っておけば魔力を回復し、元通りの状態に戻る。だが、どんどん身体を掘られてしまえば回復も出来ない。やがて、ハンドボールくらいのサイズの魔鋼が取り出された。
「あぁ~~、強かったでござるが、これでもダメでござるか」
「おしいんだけどな。本当に出ないな」
魔鋼を抜き出されたことで音を立てて崩れていくゴーレム。このゴーレムの動力源は色付けの魔鋼であったが、白混じりとは呼べない純度だ。赤みは強いためかなり価値のある魔鋼だが、目的の物ではない。
ゴーレムは動力源の魔鋼がいい物であればあるほど、巨大で強いゴーレムとなる。ゴーレムは魔鋼を通じて魔境の魔力を吸収し、動力源に変えていると言われている。魔境は豊富な魔力に満たされたエリアだ。その魔力を吸収して動くのがゴーレムで、その時いい魔鋼であればあるほど、吸収効率も良くなり、結果巨大化し纏う鉱石も頑強なものになっていく。今回戦ったゴーレムは巨大で、ボディの鉱石も赤みがかっていたため、レア魔鋼は確定しているようなものだった。だが、目的の白混じりには程遠い。
「これを持って帰るとなると、さすがにこれで今回は終わりだな」
「そうでござるね。一度帰るでござるよ」
取り出した魔鋼は、それなりのサイズがある。サッカーボールよりも小さいが、フットサルのボール程度のサイズはある。大きさもさることながら、鉱石は形も変えられないため、バッグに大量に詰め込みにくいのだ。貞一のバッグに入れていた別の魔鋼を取り出し形を見ながら、先ほど採った魔鋼をバッグに詰めていく。貞一はイコ・ルマンに来て、今までよりもさらに大きなバッグを買って魔鋼採取に勤しんでいる。
道具はできるだけ最小限にしているが、洞窟エリアまで魔境の奥深くに来ると、出てくるゴーレムも採取できる魔鋼もかなりの大きさだ。一度の探索で多くの数を持ち帰るとなると、必然的に持ち運べる量を増やす必要がある。台車を引くことも考えたが、荒れ地エリアではまだしも、入り組んだ洞窟エリアで台車は厳しい。結果、貞一のバッグを拡張することになったのだ。
「まだ日も高いでござるし、ゴールデンサボテンでも探して帰るでござるか」
「それはいいな。付け合わせように火花茸も見つけていこう」
ゴールデンサボテンは、黄金色に輝くサボテンだ。ウチワサボテンの様に薄く広がったサボテンで、太陽の光をめいいっぱい吸収し黄金色に輝いている。ゴールデンサボテンはその肉厚な葉が食材となっており、かなり美味しい。耐熱布で巻いて焚火に突っ込めば、それだけで調理可能。耐熱布と一緒に表面の棘が付いた皮もめくれ、トロトロな身を食すことができる。焼きナスに近いだろうか。塩をまぶしただけでも、頬が落ちるほどうまい。
レリアの言う火花茸も、食材だ。火花茸は活火山のような見た目をした茸だ。時折噴火するように傘の上から胞子と共に火花を出す、クレイジーな茸。食材としてだけでなく、薬品などにも使用される素材である。
「次はまた洞窟アロワナを食べたいな」
「ならレモンを持ってこようでござる。絶対合うでござるよ」
「それはいいな! 次が楽しみだ」
魔境で採れる食材は美味な物が非常に多い。お目当ての魔鋼はゲットできなかったが、二人は食べ物の話に花を咲かせながら、イコ・ルマンへ向けて帰路につくのであった。




