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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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ブサイク、新たな武器を得る

 ヴァンドゥーフ盗賊団は、貞一たち『下剋上』によって壊滅した。その情報はイコ・ルマンの冒険者たちに衝撃を与えるには、十分な内容であった。


 たった二人の冒険者パーティに、悪名高いヴァンドゥーフ盗賊団がやられたことも衝撃ではあるが、彼らはなんとあのヴァンドゥーフを生け捕りで連れてきたのだ。強化魔法があるこの世界では、魔力量の多い強者程生かして捕まえるのは難しい。ヴァンドゥーフはシルバー級冒険者の中でも上位に位置する者たちと変わらない魔力を持っている。そんなヴァンドゥーフが怯えたように周囲をキトキト伺うさまは、彼が今まで行ってきた蛮行を知っている者たちからしたら目を疑うような変貌だった。


 何より、魔法使いである貞一に怯えているのではなく、ロストであるレリアの言葉にビクつき従う様は、にわかには信じられない光景だった。


『遅い』

『列を乱したな』

『脚が不揃いだからまっすぐ歩けないのか。なら揃えてやろう』


 レリアが声を発する度に、ヴァンドゥーフだけでなく後ろに続く盗賊たちが震える光景は異様であった。それを見ていた冒険者たちは、頭ではロストだぞと馬鹿にし、何とか自分の方が優位に立っていると思う気持ちはあるものの、身体で、いや本能でこのロストを甘く見たらまずいと彼らは理解した。


 異質だから魔法使いの聖騎士に成れたのか、聖騎士として取り立てられたから異様な雰囲気を纏っているのか、はたまた魔法使いの異常さの影響を受けたのか。少なくとも、あのロストはロストであってロストで無しというのが、イコ・ルマンの冒険者たちがレリアに付けた評価であった。


 そして、ヴァンドゥーフ盗賊団に冒険者が関与していた事実も、同時に知れ渡った。下剋上は盗賊たちにボロ布を着せ、頭には麻袋を被せてイコ・ルマンの街まで連れてきた。そのため捕まった盗賊たちが誰なのかは、冒険者ギルドに引き渡された後、ギルド側が発表したことで彼らはヴァンドゥーフが捕まったことを知り、またシルバー級冒険者、ババテーナーが関わっていたことも告げた。この事実を冒険者ギルドは重く受け止め、全力で解決することも合わせて報告した。


 ギルドの高位冒険者まで引っ張り出して捕らえられた盗賊やババテーナーから情報を聞き出し、アジト周辺の散策も行われた。その甲斐もあり、街に潜んでいたスパイも押さえることができた。


 また、ギルドがイコ・ルマンに滞在している回復魔法使いに要請し、攫われた者たちへ回復魔法も施された。心理的な傷は依然として残ってしまうが、おかげで外傷はきれいさっぱり無くなった。傷はなくなっても、起きた事はなくならない。心療内科も精神科も発達していないこの世界では、彼らがもう一度立ち上がるのにどれほど時間がかかるか。ヴァンドゥーフ盗賊団は、彼らの未来も傷つけたのだ。


 そんな貞一たちには、依頼金に加え、ギルドからも報奨金が出た。依頼金200万ゴールドと、報奨金600万ゴールド、合わせて800万ゴールドが今回の依頼の報酬だった。報奨金はヴァンドゥーフや冒険者を生け捕りにしてきた報酬も含めた金額だ。


 依頼金の200万ゴールドは、この手の依頼にしたら安すぎるものだ。相場で言えば10倍の2,000万ゴールドから依頼を受けるかどうかのテーブルに乗ってくる。ヴァンドゥーフ盗賊団のような規模も戦闘力も大きな盗賊団の討伐ともなれば、シルバー級の冒険者が4・5パーティで受けるのが通常だ。アジトの捜索から始め、慣れない人間同士の殺し合いをしなければならない。2,000万ゴールドと言っても、それは総額の話だ。ヴァンドゥーフ盗賊団の数は50人を超えている。シルバー級20人以上で安全かどうかと言うところ。20人も参加すれば、一人当たりの取り分は100万ゴールドを切ってくる。


 シルバー級冒険者はベテラン冒険者だ。魔境で探索していれば、それくらい稼ぐのはそう難しいことではない。彼らは魔物相手に特化しているため、盗賊を相手にするよりも魔物と戦った方が安全に稼げる。だからこそ依頼は残り続け、被害者も増え続け、依頼金も徐々に増え続ける。しかし、依頼金が冒険者たちにとって魅力たりえる額に届く前に、彼らは拠点を移してしまう。残された者たちはやるせない思いを胸に、生きていくしかなかった。


 冒険者ギルドも問題視はしていたが、冒険者ギルドの本業は魔境の管理であり、盗賊討伐で貴重な戦力を削るわけにはいかない。今回貞一たちが破格な金額で依頼を受注し、市民にとって魔物と同じくらい脅威に感じる盗賊たちを始末した行為は、英雄的な行動としてイコ・ルマンの町民に映っていた。おかげで、レリアと一緒に街の中で買い物をしても誰もやっかむようなことはされなくなった。


 やっぱり人助けは大事でござるね!


 始めは面倒くさそうだなと依頼を断ろうとした男とは思えない発言をする貞一だが、結果的に救ったのだから見逃そう。


 今日はヴァンドゥーフ盗賊団の討伐の依頼主である、ベッソの鍛冶工房へと向かっていた。魔境探索に必要な道具や武器を調達するためだ。貞一たちの今の人気なら他の店でも大丈夫そうだが、せっかくだからとベッソの鍛冶工房を選ぶことにした。


 ベッソの娘ベルルは、貞一たちが来た時にはすでに心を閉ざしていた。レリアのマントに包まれたベルルを見た時、貞一は人間の闇を見たような気がした。何をされたらこんな表情をするというのか。貞一は思わず視線を逸らしてしまうほど、彼女の瞳は濁り淀んでいた。


 貞一にとって今回の盗賊討伐の依頼は、『ああ、定番の盗賊退治でござるね』という軽い気持ちでいた。考慮したのは、盗賊と戦うことでこちらが怪我するリスクがあるかどうか、それと人を殺すことの覚悟くらいだろうか。盗賊討伐なんて、ラノベでも漫画でもアニメでも、貞一は飽きるほどその展開を目にしてきた。だから、余裕だろうと。深く考えずに依頼を受けた。


 実際、盗賊の討伐自体はそこまで苦労はしなかった。レリアがアジトを制圧してくれたし、貞一も見張りに出ていた敵を倒したりもした。だが、盗賊が普段行っている蛮行を、何を生業にして、どんなやつらなのか、それを貞一は深く考えることをしていなかった。


 盗賊とは、犯罪をすることで生計をたてている者たちだ。それはつまり、日本で言うところのヤクザや半グレと同じだ。日本よりも規制が緩いこの世界の犯罪者組織が行う非道な現場は、常軌を逸する。漫画やドラマとは違う。生だからこそ感じられる人間の残虐性。


 まだ生きていた者たちを貞一たちは保護し、イコ・ルマンまで連れて帰った。しかし、当然その場にはすでに息絶えている者たちも多くいた。


 糞尿にまみれ、節々が歪んだ骨格が彼ら彼女らに振るわれた暴力の生々しさを伝えてくる。睾丸を潰され全身に刺し傷を受けた死体もあれば、精器に酒瓶を突っ込まれ髪や顔が燃やされ爛れている死体もあった。隅に寄せられた死体に蛆が湧いているそんな光景は、生きながらにして地獄を垣間見たようだった。


 あの時、レリアが生かした盗賊たちが逃げないよう脅していたのを貞一も見ていたが、一切同情はしなかった。それと同時に、レリアには絶対に逆らわないようにしようと決意した。思わずちびってしまうくらい、あの時のレリアの追い込み方は怖かった。


「ベドロス鍛冶工房、着いたようだ」


 レリアが家の前に置いてある看板を読み、目的地に着いたことを教えてくれる。ベドロスとはベッソの祖父の名前らしく、ベッソはこの鍛冶工房の三代目親方だ。イコ・ルマンで上位を争うほど有名な鍛冶工房ではないが、中堅どころとしてしっかり質のいい物を造ることで評判は良いようだ。


 工房と住居を兼ねているようで、二つの家がくっついているような形をしている。手前が工房のようで、太く大きな煙突から黒煙が上がっていた。


 貞一は武具屋に行ったことはあるが、鍛冶工房は初めて訪れる。どんな場所なのか興味津々だ。


 レリアが工房の扉を叩くと、すぐに扉が開いた。黒煙が上がっていたため作業中なら待つかと思っていたが、そんなことはなかった。


「ティーチ様、レリアさん。ようこそ私の工房へ。入ってください」


 ベッソに促され中へ踏み入る。工房は手前と奥で様相が違っていた。


 手前は応接スペースのようで、木製の大きなテーブルや椅子が並び、棚や壁には武器や農具が飾られている。木箱には材料らしき鉱石が入れられており、その横には鍵付きのタンスがある。あの中にはレアな素材が入っているのだろうか。気になるところだ。


 奥は鍛冶を行う作業場だ。手前の床は木製だが、作業場は石畳となっており、みるだけで作業エリアだとわかった。壁には大きさや形の異なる火箸ひばしつちが立てかけられ、大きな窯や火床ほどからはここまで熱気が来そうなほど、赤く熱を発している。ふいごに金床かなとこ、熱した剣を冷ますための水槽、火入れ前の大量の炭が入れられた木箱もある。貞一では何の道具か何に使うのかわからない物も多くあるが、ここで物を作っているのだということはすぐにわかった。


「ベッソ殿は一人でやられてるのでござるか?」


 武器の作り方を知らない貞一だが、ひとりだと大変そうだなということは理解できる。


「いえ、弟子と一緒にやってます。今日はティーチ様が来るので、休暇にしたんです」

「そ、そうなんでござるか? わざわざありがとうでござるよ」


 鍛冶をしている様子も見たかった貞一だが、気を使わせてしまったようだ。


「それと、レリアさん。マントを貰っちまってすまなかったね」


 ベッソがレリアに対し頭に手を当てながら謝罪する。ベッソはレリアがロストでも、見下すような態度をとったりはしない。昔からそうだったのか、それとも盗賊という悪意に触れ、人の価値は魔力ではないということに気づいたからか。貞一の目論見通り、ベッソは貞一たちの鍛冶の依頼なら問題なく受けてくれるだろう。


「いや、マントは新調したから気にしないでくれ。あれで少しでも気が紛れるのなら、使ってやってほしい」


 ベルルを保護した際、レリアは自分のマントをベルルへかけてあげた。その後アジトから服や防寒具を調達し、捉えられていた人たちに渡したのだが、ベルルはレリアのマントを掴んで放そうとしなかった。無理やり取る必要もなく、レリアは貞一のマントを羽織っていたので、なし崩しでそのままにしていたのだ。


 ネスク・テガロに戻っても、ベルルはマントを羽織ったままだった。元々マントも古くなっていたということもあり、レリアは新調するからとベルルにマントをあげたのだ。その時、貞一から借りていたマントはしっかりと洗って返された。


 レリアから『洗って返す』と言われた時、洗わなくていいと言いたいがそれは限りなく変態の発言だと言葉を飲み込み、何とも言えない顔でありがとうでござると貞一は言った。彼女も友達も貞操観念も無いと思われていた貞一からしたら、言葉を飲み込んだのは目を見張るほどの成長と言えるだろう。元が低すぎる。


「ありがとう。ベルルはまだ部屋に籠っていてね。挨拶もできないが、許して欲しい」

「気にする必要はない。ゆっくり休ませてやれ」

「ああ。私の娘だ。いつまでも待つさ」


 回復魔法で心の傷も治せたらいいのにと、貞一は思ってしまう。脳裏によぎったのは貞一が知っている回復魔法使い、ブーシィの姿。そして彼女が魔王との戦闘中に回復魔法を使ったシーン。


 ダメでござるね。あれでは逆に心に傷を負うでござる。


「それに、今日は私たちは客として来させてもらったのだ。頼んでいた物はできてるか?」

「ああ、もちろん。ティーチ様とレリアさんの分もしっかり」


 そう言って、ベッソは棚から道具を取出し、木製のテーブルへ並べていく。並べられたのは2本のピッケルと、つちだ。


 イコ・ルマンの街の魔境はゴーレムばかりが出現する。ゴーレムは魔鋼をエネルギー源としており、今回はその魔鋼を採取するためにここまでやってきた。しかし、この魔鋼はゴーレムの中心に位置しており、取り出すのは容易ではない。


 ゴーレムは周囲の無機物を集積して身体を構築しており、土や木などが集まったものもいれば、岩や鉱石に覆われたゴーレムもいる。岩や鉱石で覆われた身体から魔鋼を取り出すのは骨が折れるし、そもそもそんな相手に対して剣で戦うのは厳しい。刃こぼれはするは、衝撃は伝わりづらいはで、遭遇しても避ける冒険者も多くいるほどだ。


 そこで、ゴーレムに対しダメージを容易に与えるために殴打系の武器である鎚が、イコ・ルマンの冒険者たちのメインウエポンとなっている。そして、倒したゴーレムから魔鋼を発掘するためのお供として、ピッケルが役に立つのだ。


「こっちがティーチ様、これがレリアさん用のピッケルです」


 形は一緒だが、貞一のピッケルの方が一回り大きなサイズとなっている。大きさは登山家が使うピッケルとそう変わらない。長さは60センチ程で大体片腕くらいの長さだ。柄の部分は木製で、少し弧を描くようにしなっているのがカッコいい。黒地に濃い紫の木目が美しい。形状はTの字というよりもL字の方が近い。突き出している部分は鋭利なヘラのような形で、先端部分と他の部分では使われている金属が異なっている。先端は暗色だがはっきりと色がわかる深緑色をした金属だ。恐らく色付きの魔鋼だろう。逆側は少しだけ柄よりもはみ出しており、金槌のような丸く平らな面になっていた。


「いい物をということでしたので、柄は北領のコルテ・フィーツク魔境の黒紫魔樹を使用しました」


 魔樹は魔境で採取される木材のことで、魔鋼同様魔力の通りをよくする素材だ。魔力を流すことで耐久力が底上げされ、強化魔法化でも全力で振るっても壊れない代物になる。ピックは武器ではないが、丈夫に越したことは無い。


「ピックの先端には深緑色の魔鋼を使用してます。これだけの強度があれば、ゴーレムも容易に壊せるでしょう。崩すのが難しければ、反対側の丸く平らになっている部分を鎚で叩いてください」


 そう言って、ベルルは鎚を持ちピックの尻を叩く動作をする。


「こちらの鎚はレリアさんのです。ティーチ様は武器にもしたいとのことだったので、こちらをこしらえました」


 ピックとは異なり、鎚は全然異なる形をしていた。レリアの物はよく見る形のハンマーだ。ピックと同じく少し小さめで、シンプルなデザインをしている。


 一方貞一の方は、本当に武器としてのハンマーで、ゲームにでも出てくるような巨大なハンマーだ。柄も金属製で、柄の両端に握る用のグリップが設けてある。両端を持って小回りが利く攻撃も出来、端をもって渾身の一撃も繰り出すことができる造りだ。ハンマーの頭の部分は、片方は平らでもう片方は鋭利に尖っている。面での衝撃を重視した攻撃も、点攻撃による貫通力を高めた攻撃もできる様だ。それぞれ接触する先端部分は、ピックと同じように色付きの魔鋼が使われている。こちらも緑色だが、ピックの物よりも暗色だ。ピックとは比べ物にならないほど材料が必要なためだろう。


 ハンマーの頭は巨大な金属の塊だ。大きさで言えば電子レンジよりも若干大きいくらいか。そんな重量物の塊を先端に付けたハンマーなど、普通は振り回すことなどできないだろう。


 しかし、この世界には魔力による強化魔法がある。底上げされた力を使えば、これほどの重量物であろうとも扱うことができる。それには相応の魔力も必要になる。冒険者に魔力量が豊富な者が多い、つまりブスブサイクが多い理由はこういった所からもわかるだろう。


「カッコいいでござる! 持ってみてもいいでござるか?」

「もちろんです」


 貞一は興奮気味にハンマーを手に持つ。どれくらいの重量があるか不明だが、そんな持ちあげ方をしたら腰を怪我するだろ、と注意したくなるような姿勢で、貞一はハンマーを持ち上げる。怪我をするどころか、軽々しく持ち上げてしまった。強化魔法の恩恵は計り知れない。


「ちょ、ちょっと振ってみてもいいでござるか?」

「大丈夫ですよ」


 貞一は周りに十分注意しながら、剣道の素振りでも行うようにハンマーを上に下に振り下ろす。重さはあるが、本当に竹刀を振り下ろしているくらいの感覚だ。グリップはしっかりと手に馴染み、握りやすい。


「最高でござる! 拙者にはハンマーが合ってるでござるよ!」


 まだ実戦していないが、貞一は確信した。


 今まで貞一は槍を使っていた。できるだけ魔物との距離を保ちながら攻撃したかったためだ。だが、素人の貞一にとって魔境で槍を振るうのは難しかった。ネスク・テガロの魔境は森林型のため、周囲には樹々がある。障害物の多い森の中で振り回すのは難しく、また刃物が付いてるため注意しなければレリアに害を及ぼす可能性もあった。


 それに見栄えもよろしくない。縦にも横にも大きな貞一が、細っこい初心者向けのシンプルな槍を振り回すのはカッコ悪い。見栄えはやはり大事だ。貞一の図体とハンマーは、見事にマッチしている。


 その理屈で言えば、レリアたんのような女性が大きなハンマーや背丈より大きい大剣を振り回すのはかなり拙者の性癖に刺さるのでござるが・・・無理でござるね。


 レリアはゴーレム相手でも剣のままのぞむようだ。剣も傷んでいるとはいえ、すぐに壊れるというようなものでもない。慣れない武器を使うよりも、慣れ親しんだ剣の方が力が出せると言って、武器としての鎚を辞退した。貞一の性癖を満たすために武器を強制させるわけにはいかない。


「そうでござる。レリア殿の剣をベッソ殿に見てもらうのはどうでござるか?」


 鍛冶師ならば、詳しい状態の確認や手入れができるかもしれない。そう思っての発言だ。


「どの剣ですか?」

「これだ」


 そう言ってレリアは愛剣を差し出す。レリアは常に帯剣をしているため、今日も持ってきていた。


「ほぉ、魔鋼を使ってないんだな。・・・いい鋼だ。造りがいい。疲労してるが痛んでないな。よく手入れされている」


 ベッソが真剣にレリアの剣を見る。何を見たら疲労しているとわかるのか、貞一には全くわからない。


「少し高いが、ココドラキンの髄液を精製した薬品を使えば、鋼の状態を良くすることができる。どうする?」

「本当か!? ぜひお願いしたい!」


 何と、白混じりの魔鋼でなくとも、剣を復活させることができる方法があるという。


「やったでござるね! 定期的にそれをすれば、剣の疲労は心配なくなるでござるよ!」

「いや、これはそう万能なものではないんです」


 喜ぶ貞一だが、ベッソが首を振り説明する。


「ココドラキンの髄液を使えば状態は良くなりますが、完全に疲労が抜けるわけではないんです。それに、これは鋼に別の素材を添加するようなもので、二回目以降は特に効果がありません」


 どうやらココドラキンの髄液というのは、ある種コーティング剤のようなもののようだ。それで一時的には復活するが、今までの様に疲労は徐々に剣に蓄積されていってしまう。


「それでも助かる。よろしく頼む」

「ああ、任せなさい」


 そう言うと、ベッソは準備を始める。柄杓ひしゃくのような物に、瓶から液体を注ぐ。恐らくそれがココドラキンの髄液を精製したものなのだろう。おどろおどろしい色をしていると思ったが、薄くオレンジがかった液体だった。


 ベッソはココドラキンの髄液を入れた柄杓を、炉の中へと入れる。貞一たちも少し離れたところに立っているが、そこでも熱気が伝わってくるほど、炉の温度は高い。だが、ベッソは慣れた様子で剣を金床に置き、準備を進めていく。


 ココドラキンの髄液が十分熱されたことを確認すると、ベッソはそれを剣へまんべんなく垂らしていった。先程までは薄いオレンジ色だった髄液は、蒸発するのでもなく、粘り気のあるマグマの様に濃いオレンジ色に変貌していた。それが剣を覆っていく。白煙を上げながら、ぼこぼこと泡立ち剣へと染み込んでいくようだ。これ形変わっちゃうのではござらんか? と心配する貞一を他所に、白煙が無くなった後の剣は、見た目的には何も変わらない元の姿のままだった。


「・・・うん、いいな。ほら」


 剣を角度を変えながら仕上がりを確認し、ベッソはレリアに剣を渡す。レリアも同じように剣を見て、状態を確認する。


「すごい。本当に良くなってる」

「ココドラキンは体内に鉱物を溜め込む習性がある魔物でな。髄液は魔鋼と似た成分があると言われているんだよ」


 よく髄液なんて熱して剣にかけようと思ったなとは、貞一は言わない。


「仕上げに研がしてもらうよ」


 レリアから再度剣を受け取り、ベッソは砥石を使って仕上げを行う。慣れた手つきで研ぐ様は、職人の技をせられているようだ。


 これが鍛冶師の仕事でござるかぁ。今度は剣を作ってる様子を見させてもらえるか頼んでみるでござるか。


 貞一はきょろきょろと工房の中を物珍し気に眺めながら、研ぎ終わるのを待つのであった。

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