ブサイク、珍しい物に興味津々
ネスク・テガロを出発して1ヶ月が経とうとしていた。道中、計3つの街を経由してわかったことがある。
魔力無の差別が笑えないレベルで酷いでござる・・・。
まずロストが泊れる宿が本当に無い。そもそも、入口をくぐることすら叶わないこともしばしばある。
始めの街では冒険者ギルドに紹介状を書いてもらったことで何とか泊まれたが、それ以降は駄目。結局、他の二つの街では買い出しだけして、街の外で野営することになってしまった。
それについてレリアが大変申し訳なさそうにしていたが、レリアのせいではない。当然のように、当たり前のように、ロストという存在を差別するこの世界が悪いのだ。決してレリアのせいではないし、貞一自身気にしていないと伝えている。
宿だけでなく、飲食店さえ拒まれることもある。3店に1店は入れるかどうかというほどだ。
ネスク・テガロではこんなことはなかった。ネスク・テガロでは、魔力以外も正当に評価しようとするギルドマスターのラーテラと、それを容認していたブーシィの功績が大きいだろう。
そして何より、貞一がいた。ネスク・テガロでは魔法使いである貞一の人気はすごかった。本人は逆転世界と言うことを気づいていなかったこともあり知らなかったが、誰に対しても謙虚で腰が低かった貞一の受けが良かったのだ。
ネスク・テガロの町民は貞一が魔法使いであることは知っていたし、レリアとパーティを組んでいたことも知っていた。そのため、レリアに対して内心どう思ってようとも、態度に出すことはなかった。しかし、他の街では違う。例え貞一が魔法使いだとわかっても、ロストに対する忌避感はぬぐい取ることはできなかった。
経由した街がおかしいのではない。それが普通なのだ。
ロストが差別の対象になるのは、2つの要素がでかいだろう。
一つは、言わずもがな魔力。この世界では魔力がすべての基準と言っても過言ではないほど、魔力が神聖視されている。魔王という明確な外敵がいるため、単純な強さがこの世界では重要になっている。魔力は多ければ多いほど強く、頂点に立つ者たちはすべからく魔力が豊富である。それゆえ、魔力を一切持たないロストは神に嫌われた異端者とされ、嫌悪される迫害の対象となっていた。
二つ目は身体的特徴。これほど差別するのにうってつけのものは無いだろう。ロストは人よりも耳が長く、髪は白髪で、肌は褐色という特徴がある。顔が醜いというのも特徴として入れることができるだろう。身体的特徴はパッと見ただけで理解することができてしまし、人間は自分と明確に違うというモノを拒んでしまう。
例えば、毛がボーボーでフケや垢が見るだけでこびり付いているようなホームレスを見たら、生理的に目を逸らしたり避けたり嫌な気持ちになったりするだろう。その至極当たり前に何の疑問も無く抱えてしまう気持ちが、この世界でロストが差別を受けている根幹だ。
理由は無い。魔力が云々とこじつけることはできるが、本質はそこではない。汚らしい、穢れている、同じ人間ではない。そう心の奥底で思ってしまうからこそ、彼らはロストを遠ざけ、決して受け入れない。
幼きことから叩き込まれた習慣は、理性ですらそれが正しいと判断させてしまうほど、価値観が定まってしまっている。
また、ロストの数自体が少ないというのも差別の歯止めが効かない大きな要因だろう。ネスク・テガロのような大きな街に一人いるかいないかの存在であるロストは、数による抗議の声すら上げることが叶わない。
決して表舞台には現れず、ひっそりと辺境の地で慎ましく生活する。それがロストにとって、唯一平穏に生きることができる選択肢なのかもしれない。
そんな当たり前に振るわれる差別を見た貞一は、憤るよりも先に恐怖を覚えた。今までテレビでしか見ていなかった差別という実態を、直接目にした時の衝撃はすさまじい。
貞一自体虐められ差別され苦しんできたが、それとはまた違うベクトルの話。当たり前のように周囲から存在を否定される恐怖は、当事者ではなくとも、それを目の当たりにすれば怖気づいてしまうほど、深い闇が垣間見える。
こんな様子で、イコ・ルマンでやっていけるでござろうか。拙者不安になってきたでござるよ・・・。
まるで犯罪者の様にこそこそと買い出ししなければいけなかったのだ。イコ・ルマンでもそうであればちゃちゃっとレア魔鋼を採取したら、すぐにでもネスク・テガロに戻ろうかと思っている。
「イコ・ルマンはネスク・テガロみたいだと良いでござるね~」
明日にはイコ・ルマンに着くだろう。思わず貞一から弱音が漏れてしまう。
「私がネスク・テガロに行く途中で経由した街も、そう大差なかったからな。イコ・ルマンも変わらないだろう」
怯える貞一に対し、レリアはあまり気にしていない。
レリアにとって、そんなことは些事でしかなかった。どうしようもないことであり、どうにかしようとも思わない。
レリアはただひたすらに、広い世界を見て回り、剣を極め、いずれは多くの冒険者たちが剣術を認め剣術を学んでいく。そんな夢を叶えるためにレリアは冒険者となり旅をしていた。よそ見などする余裕はない。
しかし、貞一が自分のせいで害を受けるのはどうにかしなければと思っている。街では別行動や、自分だけ街の外で待機することをレリアは提案したが、貞一は却下し共に行動している。貞一がレリアを束縛している線も濃厚ではあるのだが、さすがに貞一といえどそんな差別が横行している場所に女の子を一人で行動させるほど、常識が不足しているわけではない。
同じパーティメンバーなのだ。自由行動で別々に行動するのとは訳が違う。都合が悪いから別行動にしようだなんて、貞一の中の道理が許さなかった。だから、これで一緒に行動する大義名分を手に入れただなんて決して思っていない。ええ、思っていませんとも、これっぽっちも。
「せめて宿に泊まれるといいでござるねぇ」
「1回目に寄った街と同じように、ギルドに紹介状を書いてもらおう。さすがに、イコ・ルマンでは宿に泊まれないと荷物も置けないからな」
魔境探索では余計な物を持っていくほど余裕はない。必要ない着替えなどは宿に置いて探索に出る。
どれほど白混じりの魔鋼のドロップ率が渋いかわからないが、蒼剣たちの話からしてイコ・ルマンには長期間滞在することになるだろう。魔法使いというジョーカーを積極的に切ってでも、拠点は確保しておきたい。
宿に泊まれなかったらどうしようでござる。最悪家を借りればいいでござるかね? っは!? そそそれは拙者とレリアたんの愛の巣では!? ラブラブ同棲編スタートでござるかッ!?
『宿をどうすれば取れるか』ではなく、『どうすれば宿を取らずに家を借りれるか』を真剣に考えだす貞一。三十路を過ぎた童貞は、なりふり構っていられないのだ。
「いやー! すいません! ちょっといいですかい?」
貞一がくだらないことで悩んでいると、大きなカバンを背負った男が話しかけてきた。男は小太りで、もみ手をしながらニコニコとしている。
この世界では、容姿によってある程度の魔力量を推し量ることができる。顔が醜ければ醜いほど、肥満であればあるほど魔力量は多く、逆に顔が整っているほど、細身であるほど魔力量が少ない。この世界の価値観で言えば容姿の良し悪しは逆転するのだが、魔力量が容姿で分かることは変わりない。
その基準で言うと、話しかけてきた男は中々魔力が多そうだ。つまりブサイクである。
「お兄さんとってもカッコいいですね! お貴族様かと思いましたよ~」
「そんなことないでござるよ」
「またまた~、ご謙遜なさらずに!」
貞一に媚びるようにお世辞を言う男。この世界の基準で言えば、貞一は美男子の中の美男子として写っていることだろう。
「そんなお兄さんにぜひ見て貰いたい物があるんですわ! 私はしがない旅商人でしてね。立ち寄った街で目ぼしいものを見つけては、こうして旅をしながら売り歩いてるんですよ!」
「へぇ~! どんなものがあるんでござるか?」
交通手段が乏しいこの世界。ネスク・テガロと同じ東領にあるイコ・ルマンの街でさえ、1ヶ月もかけて行かなければならないのだ。他の街の土産物を見る機会なんて、そうそう無い。娯楽も少ないため、貞一も興味津々で男の商品を見ている。
旅の商人と名乗る男は、バッグをガサゴソと漁り出す。
「例えば、これなんていかがですかい? 北領の方で流行っているという、腕輪です。なんでも、魔境に赴く冒険者へと町娘が贈ったのが始まりらしくてね。彫られている模様が安全を願う模様らしいんですわ!」
「へぇー! 中々素敵な模様でござるねぇ」
腕輪を受け取り、しげしげと眺める貞一。薄水色の金属のような素材でできている。メッキや表面処理をしているようでもないため、貞一にとってその金属自体が珍しかった。
「この金属が綺麗でござるね。なんて金属でできてるんでござるか?」
「さすがお目が高い! それはコロライド鉱と言いましてね。魔境産の金属なんですよ!」
どうやら、使われている素材自体が価値のある物のようだ。澄んだ清流のような色をした腕輪は、価値があるといわれても納得の品だった。
「今なら安くしときますが、どうですかい?」
「う~ん。拙者こういうの付けないでござるからなぁ。辞めとくでござる」
「そうですか? なら他の物も見てみてくだせぇ」
貞一は男に腕輪を返す。能力のバフ効果でもあればそれを言い訳に付けれたかもしれないが、オシャレで腕輪を付けることに抵抗のある貞一。自分のようなお洒落でもなければ顔も良くないブサイクがアクセサリーを付けると、周りから馬鹿にされるのではと思ってしまうのだ。誰もそんなこと気にしていないのだが、本人がそう思うのだから仕方ない。
「ティーチ様。強化魔法をかけてくれ」
そっと、レリアが貞一に告げる。レリアに魔境以外で強化魔法を掛けることは滅多にない。それこそ、特訓した時くらいではないだろうか。レリア自身が、普段の感覚が狂うからと強化魔法を掛けることを断っているのだ。
例のごとく、この商人もチラリとレリアを一瞥しただけで、貞一にのみ話しかけていた。商品に興味が無く、手持無沙汰のため訓練でもするのだろうと、貞一はレリアに申し訳なく思いながらも魔法を発動する。
「強化魔法? 何を言って―――」
「わかったでござるよ。【オウフ】」
「え?」
男はレリアが言ったことを理解できていないようだ。それも当然だろう。魔法使いがこんな場所に、それもロストと二人でいるなんて全く思いもよらなかったはずだ。貞一が当たり前のように魔法を使ったことも、彼にはわかっていない。
「・・・三人、確定だな。敵意は感じない。何故? 物を売りつけたい? いや、足止め? なら―――」
強化魔法を受けると周囲を見回し、何やらブツブツと呟くレリア。どうしたんでござろうかと疑問の顔をする貞一と、何やら焦った様子で貞一たちから一歩距離を取る旅の商人を名乗る男。
「ティーチ様、こいつらは盗賊だ」
「えぇっ!!??」
突然の衝撃発言に、貞一は驚き男と話していた位置から飛び退く。
「な、何言ってんだロス―――」
「敵意もなく話し込むのは足止めの役割だろう。ティーチ様を先に行かせたくないということは、誰かが襲われているかもしれない」
男を無視し、レリアは貞一に簡単に説明をする。
「まだ間に合うかもしれない。急ごう」
「おい! 勝手なこと―――」
レリアを押さえつけようと男が迫るが、腹部を蹴り飛ばされ盛大に吹き飛ぶ。男は魔力が多いと思われるが、魔法使いの強化魔法と比べれば圧倒的に劣る。結果、為す術もなく無様に地面を転げまわった。
突然のレリアの暴力に思考が停止する貞一だが、両脇の林から物音が聞こえたと思えば、いかにも悪そうな人相をした男たちが出てきた。
「早くッ!」
レリアは固まる貞一に鋭く叱咤すると、道を駆けだす。呆けている貞一だが、崇め奉っているレリア神の言葉は伝わるようで、え? え? と?マークを大量に頭に浮かべながらも、何とか身体を動かし先を行くレリアについていく。
蹴り飛ばした男も林から出てきた男たちも必死に追いかけてくるが、二人の速度に追いつけず置き去りにする。
レリアは男を不審に思っていた。旅の商人と名乗っていたが、格好も様子も長旅をしているようには見えなかった。そしてバッグを漁っているときに見えた中身で、怪しさは確信へと変わった。ちらりと見えた中身は、とても旅をしている者とは思えないものだった。
旅をしているのならば、自ずと出し入れの多い野営道具はバッグの上に来るはずだ。しかし、タオルすら見当たらず、売り物と思しき商品ばかりが入っている。とても旅をしているようには見えなかった。
男が纏う雰囲気にも拭い難い違和感を、レリアは感じた。警戒をしようと強化魔法を掛けてもらった瞬間、鋭くなった感覚が林に数人潜んでいることを感じ取った。
この世界では、ある程度容姿から魔力量を推し量ることができる。魔力量を推し量れるということは、すなわち強さを判断することができるということだ。
彼らがただの盗賊であれば、貞一のような見るからに魔力量が多く強そうな男は安全を優先しスルーすればよい。それがわざわざ話しかけ、商人を装って品物を吟味させる。油断させて攻撃するわけでもなく、男からは敵意が感じられなかった。
ならば、答えは足止め。魔力が豊富な貞一を道の先に行かせたくない理由がある。つまり、道の先で本隊がターゲットを襲撃している可能性があった。
そう結論付けたレリアは、貞一を引き連れ道を進んでゆく。勘違いならばそれでよし。当たっていたらまだ救えるかもしれない。
レリアは人助けがしたいかと問われれば、違うというだろう。ならば、何故救おうと駆けているのか。それは理不尽な暴力が嫌いだからだ。
魔力無として生を受け、今まで数え切れない理不尽を味わってきた。だからこそ、そんな理不尽が目の前で起こっているのなら、そしてそれを助けられるというのなら、レリアは手を貸したいと思ったのだ。
自分が貞一に救われたように。
少し走れば、風に乗って喧騒が聞こえてきた。どうやらレリアの予想は当たっていたようだ。
この距離ならば、全力で走っても強化魔法の範囲から外れることはない。そう判断したレリアは、貞一を置き去りに加速する。
襲われているのは商人だろう。1代の豪華な馬車に、2台の荷馬車。商人は馬車の中にいるのか姿は見えないが、馬車の様子から大店の商人かもしれない。
護衛には冒険者たちが雇われているようだ。しかし、賊の方が2倍近い人数がいる。冒険者の動きも悪くはないのがだ、人数差をひっくり返せるほどの技量も魔力もなさそうだ。
すでに護衛の冒険者たちは瓦解しており、数人地面に伏して動かない者達がいる。全滅するのも時間の問題だろう。ギリギリのところで間に合ったようだ。
「加勢するッ!!」
レリアは一際大きく声を上げる。賊の注目を集め警戒させ、これ以上冒険者に被害が出ないようにするためだ。
賊には一人魔力量が見るからに豊富なリーダー格がいる。こいつを落とせば、あとは十把一絡げの烏合の衆。取り逃がすこともないだろう。
「なんだあいつは!? 疾いぞッ! 奴を警戒しろッ!!」
リーダー格も抜剣し警戒するが、レリアは構わず突っ込んで行く。
「止まりやがれッ!!」
賊の一人が魔力に任せた大ぶりな一撃を、突っ込んでくるレリアにタイミングよくぶちかます。それを待っていたと言わんばかりに、レリアはその攻撃に合わせ全力で加速する。
疾いと思っていた新手の冒険者。そのスピードに警戒していた盗賊達だが、しかし、それを大幅に上回るほどの速度で加速されたことで、その場にいた全員がレリアを見失う。
リーダー格がレリアを見失った一瞬の隙を活かすため、レリアは死角を縫うように、他の盗賊や冒険者をリーダー格のブラインド代わりにし、一気に距離を詰める。彼我の距離が数メートルまで接近すると、レリアは近くの盗賊をリーダー格めがけ蹴り飛ばす。
「グブォフッッ!!」
ただの蹴りだが、魔法使いの強化魔法を身に纏ったレリアの蹴りは、それだけで十分な殺傷能力を持つ。盗賊の強化魔法を容易に貫通し、内臓は破裂し背骨は砕け、くの字の体勢でリーダー格へ突っ込んで行く。全力で蹴れば、鋭すぎて身体を両断してしまう。レリアは見事に加減し、盗賊を殺しつつも形を保って蹴り飛ばして見せた。
突然の乱入者に思考を乱され、部下が攻撃したと思ったら見失い、どこだと探せば不意に飛んでくる部下の死体。それに反応し、飛んでくる死体に袈裟斬りで迎え撃ったリーダー格は、確かに強かった。
だが、魔力に頼り、ただ大ぶりなだけの隙だらけの攻撃では、レリアには指一本ほども届くことはない。
リーダー格が最後に目にした光景は、部下を両断し剣を振り抜いたままで固まる己の身体と、その横に佇むフードを目深に被った乱入者の姿であった。
突然の加勢。そして即座に自分たちのリーダーが首を落とし殺された。それはまるで魔法のようで、何故そこにお前がいるのかと盗賊達は呆けた顔でレリアを見る。
この世界の戦い方は、魔力によるゴリ押しが基本だ。真正面から突っ込んでいき、お互いの魔力を込めた攻撃を打ち合い勝敗を決する。そんな戦い方。
故に、身を潜め敵を掻い潜り進むなど、邪法であり想定外の戦い。そんなロストの戦い方に、彼らは狐につままれた様に処理が追いついてこないのは、致し方ないのかもしれない。
彼らは常に人数で勝り、必勝の状態で襲いかかり一方的な戦闘ばかりを行ってきたのだ。そのツケは、命を持って支払うことになる。
リーダー格の側にいたと思っていたレリアは、気付けば必死に走ってくる貞一を迎える様に、来た道の端に立っていた。護衛の冒険者達が消えたレリアを探すように慌てて周囲を見渡せば、盗賊達がゆっくりと首を切断され崩れ落ちてゆく姿があった。




