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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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ブサイク、次の目標を決める

 ネスク・テガロの表通りから外れた場所に、ひっそりと佇むレストランがある。貞一たち『下克上』行きつけのお店、ことりの卵亭だ。店内はこじんまりとした作りだが、置かれた家具や雑貨には店主のこだわりを随所に感じ取ることができ、とてもセンスが良くお洒落な内装だ。


 そんなことりの卵亭は、下剋上が魔境での探索を終えると打ち上げに必ず利用するレストランとして有名になっている。今日もまた、貞一とレリアはこのレストランに訪れていた。蒼剣というお客も連れて。


 蒼剣は3人組のシルバー級冒険者パーティだ。若くしてシルバー級まで昇りつめた才気あふれるパーティで、つまりブサイク三人集だ。


 だが、貞一とはニュアンスの違うブサイク。貞一がコミカルなブサイクだとしたら、彼らは騎士風のブサイク。キザっぽい振る舞いが見事にマッチしている、爽やかおデブサイクだ。


「ここがことりの卵亭か・・・噂には聞いていたが、まさかティーチ様と共に来れるとはね」


 リーダーであるフールーが、興味深く店内を見回す。落ち着いて見回す様には品すら感じられた。


「噂でござるか?」

「ええ。ティーチ様の行きつけと言うことで、予約も中々取れないと聞きましたよ」

「そうなんでござるか?」


 ちょうど料理を運んできた店主に、貞一が確認する。いつも空いているため、予約でいっぱいとは本当だろうか。


「おかげさまでね。二人が来るときは予約を受けつけてないから、気づかなかったんじゃないかな」


 店主は二人が何故このレストランに来てくれているのか知っている。もちろん味を気に入ってくれたというのもあるだろうが、一番の理由は静かで落ち着いているからだということを。魔力無ロストであるレリアに魔法使いである貞一が配慮し、人気の少ないこのレストランを利用してくれているのだろうと。


「知らなかったでござるよ。ありがとうでござる」

「こちらこそ。いつも二人には食材を提供してもらっているしね」


 そう言って、魔牛の肉をふんだんに使った料理に、サラダやシチューも並んでいく。空腹時には辛い光景だ。まるで待てと言われた犬の様に、思わずよだれが出てしまいそうになる。


「デザートには水泡カズラのパイを焼いているから、楽しみにしていてね」


 水泡カズラはそのまま食べても十分美味しいが、熱を加えると甘味成分が増えて絶品となる。前に焚火で熱して焼き水泡カズラを作って食べてみたことがある。その時も、ただ焼いただけなのに甘くさっぱりとした味わいのデザートになった。


「本当に私たちも食べていいのですか? 魔牛なんて、最高級の肉ですよ」


 辛抱堪らんと肉に被り付こうとした貞一に、フールーが訪ねてくる。残り二人のメンバーも貞一を見ていることから、蒼剣としての質問だろう。


「もちろんでござるよ! 魔牛はとっても美味しいから、ぜひ食べてみてほしいでござる!」

「ありがとうございます。正直、これ以上のお預けを耐えるのは厳しいところでした」

「拙者もでござるよ!」


 そう言って、5人は魔牛に食らいつく。食事中は無言。あまりの美味しさに、ただ食べることに集中していく。肉は逃げないというのに、思わずガッツいてしまう。それほどの美味さだ。


 何と言っても、お肉には一切の妥協が無いレリアが厳選した部位の中から、さらに厳選したのが皿に盛られている肉たちなのだ。霜降りが乗ったとろけるような部位から、赤身の美しい部位まで。全てが狩った魔牛から極わずかに取れる、最高にうまい部位だ。


 夢中で食べること暫し。落ち着きを取り戻してきたころに、フールーが本題を切り出す。


「魔鋼について聞きたいということでしたが、どういったことでしょうか?」

「私から説明させてもらう」


 そうして、レリアが説明を行った。要約すると、魔鋼の使われていない剣に魔鋼を付加して打ち直すことは可能かどうか、と言うことだ。


「武器の打ち直しか・・・可能だよ」

「本当か!?」

「ただ、魔鋼のランクが極めて高くなければいけないがね」


 さすがと言うべきか、まだまだ若い三人だがシルバー級に相応しい知識量である。あっさりと解決の糸口を見つけることができた。


 魔鋼にはランクがあり、黒⇒色付き⇒白の順で価値が上がっていく。以前貞一も黒に限りなく近い紺色の魔鋼をゲットしたが、それでもレアと呼ばれる代物。


「どれほどの魔鋼でなければいけないんだ?」

「最低でも白が混じっている必要がある」


 貞一よりも身長のでかい巨漢のダフが、レリアの問いに答える。


「白・・・。そんな厳しいのか」

「ああ。それで俺も諦めた」

「以前ダフも同じように剣を強化しようとしてね。実際ゴーレムも狩っていたんだけど、空振りに終わってしまったんだ」


 白が混じるということは、最低でも淡い色付きでなければならないということだ。ゴーレムを精力的に狩ったことはないが、二人の様子からドロップ率が相当渋いことはわかる。


「けれど、あの時はまだカッパーだったじゃない。魔境の奥深くに行けば、確率はもっと上がるはずよ」


 軽装ながら重戦士のような体形のケネットが、ポジティブな情報を提供する。カッパー級とシルバー級では、探索できる魔境の深さも大きく異なる。魔境は深くなればなるほど魔物も強くなり、つまりレア素材採取のチャンスが広がっていく。


「魔境の深くというと、ギスカの岩山でござるか?」


 ギスカの岩山はネスク・テガロの魔境の中では最奥に近い深さだ。貞一がゲットした色付き魔鋼も、ギスカの岩山で現れたゴーレムから採取したものだ。


「いいえ、私たちが潜った魔境は、ネスク・テガロとは違う魔境です。イコ・ルマンと言う街の魔境なんですよ」

「ここと同じ東領でも、王都に近い場所ですわ」

「東領?」


 どうやら、蒼剣がゴーレム狩りに勤しんだ魔境は、ネスク・テガロとは別の魔境らしい。それは理解できたが、東領という聞き覚えの無い言葉に、貞一はついオウム返しをしてしまう。


 レリアを見ると頷いているため、どうやらレリアは知っているようだ。つまり、この世界の常識という訳だ。


 知っていて当たり前と思われる常識を知らない貞一に対して、蒼剣の三人は特にいぶかしむ事もなく紙を取り出して説明を始めてくれる。貞一がそういった常識を欠けているということは、ネスク・テガロの冒険者たちにとっては常識であった。


「東領はディーエン侯爵家を筆頭貴族とした、王国の東に位置する領地です」


 王国を×印に分断し、東西南北に分けたものが、この世界の大まかな領地だ。×印が交わる中心に王都があり、王都を囲い込むように東西南北に天級魔境が位置している。


 4つの天級魔境は、四大貴族家が守護を任されている。その一角であるブーシィの実家、ディーエン侯爵家は、東に位置する東領の天級が担当だ。


 東領で最も偉い貴族がディーエン侯爵家のため、東領をディーエン侯爵領と呼ぶこともある。東領の中にもネスク・テガロを始めとした魔境が各地に点在しており、それぞれに貴族家が守護として街に居を構えている。


 貴族は明確な領地を持っていない。王国の土地は全て王家の所有物となっている。強いて言えば、貴族の領地は守護を任された街と担当の魔境だろうか。ただ、税収も魔境から得られる素材の売買も王家の管轄であり、貴族たちは任されている魔境の大きさや魔王討伐の功績の大きさにより、王家から支払われる手当が変わってくる。つまりお小遣い制だ。


 のんびり遊んですごせるほどの額をお小遣いと呼んでいいかは微妙なところであるのだが。貴族は領地運営というよりも、国会議員というか高級官僚というか。王家()に雇われた魔法使いというニュアンスがしっくりくる存在だ。


 貴族家は基本的に一つの街を守護する。つまり、家族経営で魔王から街を護るのだ。イコ・ルマンの街にも守護貴族は当然いて、家族で守護を行ている。ネスク・テガロのように中級規模の脅威度が小さい魔境では、貴族家ではなく、ブーシィのように単身で守護されている街もある。


 逆に、天級魔境のような脅威度がすこぶる高い魔境は、貴族家総出で守護するのが普通だが、ブーシィが回復魔法使いであり、ディーエン侯爵の意向もあって、ブーシィはネスク・テガロの街を守護している。例外中の例外だ。


「イコ・ルマンの魔境は上級です。危険度はネスク・テガロよりもずっと高い、厳しい魔境なんです」

「そのせいで、俺たちは魔境の深くへ進むことができなかった、です」


 ダフが悔しそうに呟く。中級魔境のネスク・テガロよりも、上級魔境ははるかに凶悪なのだろう。


「そのイコ・ルマンの魔境は、ゴーレムが出現しやすい魔境なのか?」

「ゴーレムばかり、と言ってもいいくらいゴーレムが湧く魔境だよ」

「荒れ地と洞窟がくっついたような魔境ですわ。私たちは難易度的に荒れ地しか行けなかったのよ」


 どうやら、イコ・ルマンの街は魔鋼厳選をするにはうってつけの魔境があるようだ。


「上級魔境はアイアン級では依頼も受けられない場所です。カッパー級に昇級した下剋上のお二人なら、ちょうど良い魔境かもしれませんね」


 ゴーレムばかりが出現する魔境でも、蒼剣の口ぶりから白混じりの魔鋼は相当ドロップ率が渋そうだ。だが、厳選という名の作業を、貞一は嫌いではなかった。


 理想のキャラを引き当てるまでリセマラを繰り返す作業も。延々と狩り続けても遭遇しないレアエネミーから超低確率でドロップするアイテムを、実装されていないのではと疑問に思いながら繰り返す作業も。理想の個体値かつ特性を持った色違いを出すために、徹夜して自転車で駆け回る作業も。


 貞一は嫌いではなかった。むしろ、苦心して苦心して苦心するからこそゲットした時の快感は果てしないものになる。貞一はドエムなのだ。


 厳選してレア魔鋼をゲットする作業でござるか・・・燃えるでござる! レア素材をゲットして武器強化とか、拙者大好物でござるぞ!!


 イコ・ルマンの魔境は上級魔境だということは、意図的に気にしない方向でいく。中級魔境のネスク・テガロでは、ピンチと言うピンチはロックバードの突風攻撃で岩山から落下した時くらいしかなかった。


 魔境は確かに危険だ。魔物は当然ながら、デスゾーンと呼ばれる踏み込めば致死性の高いトラップがいくつも隠れ潜み、猛毒を持つ生き物だって数多くいる。だが、それらは事前に調べ上げることで対策することが可能だ。


 冒険者同士によるデスゾーンの共有、デスゾーンの発動条件やどういった特性の物なのか。おもむく魔境には、毒や麻痺などの状態異常を発動する生物がどういったモノがいるか。それに対する解毒剤はあるかどうか。


 魔境は危険の多い場所だが、未知の場所は数少ない。今までの先達が残していった記録を学べば、危険は事前に取り除ける。準備を十全にすれば、実質魔物の脅威が魔境での主な危険だ。そして、魔物の相手が一番二人にとって安全ともいえる脅威である。


 天級とよばれる魔境ならばいざ知らず、上級魔境であれば二人ならなんとかやっていけるだろう。それが貞一がイコ・ルマンの魔境に前向きな理由であった。


「上級魔境か・・・。中級魔境でゴーレムの発生が多い魔境に心当たりはあるか?」

「あるにはあるけど、イコ・ルマン程ゴーレムに偏った魔境は、東領ではないよ」

「それに、白混じりは上級以上でなければ出てこないだろうな」


 ダフの言う通り、白混じりという貴重な魔鋼は、上級か天級でしか採取することはできない。魔境はランクが上がれば上がるほど、脅威度も上がるが得られる素材の価値も上がる。リターンはリスクと釣り合っているのだ。


「レリア殿、イコ・ルマンの魔境行ってみるでござるか?」

「いいのか? 上級ともなれば危険度はネスク・テガロよりもずっと上だぞ?」

「大丈夫でござるよ! それに拙者も装備を新調したいところでござったし!」


 貞一は未だにログの革でできたパーカーを着ている。素材も十分確保できるしお金もあるのに新調しない理由は、動き難そう、着辛そう、暑そうだ。パーカーは着るのは楽だし、丸めてバッグに詰めてもおける。心配な防御力だが、岩山から落ちてもちょっと痛いと思う程度しかダメージを受けない貞一に、恐れるモノは無かった。


 防具は変わっていないが、革の靴から膝下まである丈夫なブーツになったりと、ちょこちょこ変わってはいる。


 貞一が新調したいのは、強そうな魔物の革でできたパーカーと、カッコいい武器だ。

 貞一は未だに最初に買った槍を使っている。この槍は魔樹という魔力の伝達をよくする素材が使われているが、魔鋼は使われていない。


 貞一の様に魔力をドバドバ武器に流して戦うのならば、魔鋼の武器の方が圧倒的に効率的で強い。しかし、そもそも武器を使う機会が全く無い。


 レリアが魔物をサーチアンドデストロイしてしまうためだ。たまに貞一も戦うが、レリアの様に傷むほど使ってはいない。


 レア魔鋼を手に入れてカッコいい武器を作るとか、そんな胸熱なイベントはぜひとも貞一は実行したい。イコ・ルマンの魔境へ行くのは、レリアのためだけではなかった。


「なら、お願いしたい」

「もちろんでござる! 『下剋上』の次の目標は、イコ・ルマンの魔境を制覇するでござるよ!!」


 貞一は宣言し、蒼剣も応援してくれた。そして、成功を祝って店主も含めて6人で水泡カズラのパイを食べたのであった。

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