ブサイク、素質が開花する
「フォ、【フォカヌポウ】!!!」
貞一がそう叫ぶと、最も接近していたゴブリンが、まるで花火のように内部から爆裂し、死に絶えた。
その光景はあまりにも衝撃的で、貞一はおろか武器を振り下ろそうとしていた他のゴブリンでさえ、硬直してしまった。
ゴブリンだったモノは、貞一を割けるように放射状に散らばり、周囲に濃厚な血の臭いと臓物をまき散らしていた。爆裂したゴブリンの両隣にいたゴブリンたちはそれをもろに受け、まるで血のシャワーでも浴びたかのように真っ赤に染まっている。元の深緑色の肌を探すのが困難なほどだ。
何匹かのゴブリンはあまりの恐怖に武器を取り落とし、まるで貞一をマネするように尻餅をついてしまっている。転んだゴブリン以外も、皆恐怖に身を縮こませ武器をカタカタと震わしている。その瞳には、先ほどまであった残忍な欲望など霧散し、あるのはただの怯えだけであった。
そして、貞一もゴブリン同様に放心していた。目の前でゴブリンが破裂したように死んだのだ。夢に出てくるほどのトラウマもののショッキング映像を直接目にした貞一は、未だ脳がフリーズしており、固まったままである。
「ギャ・・・ギャギギギギャ! ギャギャ!!」
そんな中、リーダー格のゴブリンは何とか立ち直り、周囲のゴブリンに命令を下す。叫んだゴブリンも腰が引けていたが、その眼には怯えだけではなく幾ばくかの闘志を併せ持っていた。
その闘志が伝染していくように、声を聴いたゴブリンたちは恐怖にかられながらも、何とか武器を取り立ち上がった。
目標は変わらない。何故仲間のゴブリンが弾けたのかは知らない。けれど、目の前の獲物を殺さなければ次は自分の番だということを、ゴブリンたちは本能で理解した。そして、それだけ知っていれば命懸けで襲うのには十分な理由だった。
「ギャギギャーッ!!!」
先ほど声を上げたゴブリンが、大声で合図を下す。構えなおしたゴブリンたちが、再度貞一へ攻撃するべく飛び掛かった。
ゴブリンの声で我に返った貞一は、またも自分に飛び掛かってくるゴブリンたちを目にし、パニックで言葉にならない言葉を叫んでしまう。
「うわぁああああ!! 【くぁwせdrftgyふじこlp】!!!」
・・・―――・・――――――ッッッ!!!!!
再度巻き起こる耳をつんざくような爆裂音。しかし、先ほどよりも激しく、周囲の樹々さえも震わせる爆音が周囲に轟いた。
その音は、貞一の周辺に展開していたゴブリン、総数9匹が一斉に爆裂したことによって発生した音だった。爆音は樹々を揺らし、森一帯に木霊するように響き渡ってゆく。
再度、辺りに静寂が漂う。貞一の耳には、遠くのほうで鳥が驚いたように飛んでいく音だけが、聞こえていた。
周囲を見渡せば、貞一を中心に真っ赤なペンキをぶちまけたような、凄惨でいてどこかアートチックな現場が出来上がっていた。はじけ飛んだゴブリンの中には、周囲を警戒していた貞一に矢を放ったゴブリンも含まれていた。文字通り、貞一と遭遇したゴブリン全てが爆裂四散していたのだ。
そのあまりにもグロテスクな光景を見て、貞一は再度フリーズする。幸いなことに、飛び散った血やゴブリンを構成していたものは、貞一に一切かかっていなかった。けれど、目の前の光景は貞一のグロに対する許容量を余裕で三周くらいぶち破るほどのものだ。魚すら捌いた経験のない貞一にとっては、目の前の光景はゲーム画面の中でしか見たことのないもの。
しかしゲームはゲーム。二次元でしかない。どれほど高画質になろうとも、現実にはいまだ追い付いていない。風に乗って漂うむせ返るような血の臭いに、臓器から出ているのか、何とも言えないすえたような異臭。グラフィックでは表すことのできない、生々しい血や臓物が飛び散りこびりついている360度の光景。体液は粘性を持っており、草木にべっとりとくっつきヘドロの様にドロドロと垂れている。それらが目だけではなく五感を伴って感じられるこの場所は、貞一には刺激が強すぎた。
その強すぎる刺激を、貞一の脳はシャットダウンすることでしかやり過ごせなかった。
◇
どれだけの時間が経っただろうか。それくらいの時間をかけ、ようやく貞一の脳みそは起動し始めた。
「こ、この惨劇は・・・拙者がやったでござるか?」
貞一は現状を確認するために、周囲を見渡す。辺りには、とても直視できないようなグロテスクな光景が広がっていた。
周囲には真っ赤な鮮血だけでなく、ところどころ白いブニブニした何かや、緑色の破片もへばりついていた。キモい。すでに鼻は麻痺しており、深呼吸でもしなければ臭いが気にならないのが、せめてもの救いだ。ちなみに3回くらい吐いてしまっているが、その臭いも気にならないくらいだ。
「グロイでござるな・・・。これはゲーム以上でござる・・・。P〇4でも再現できないグロさがここにはあるでござる」
貞一はその場から動けない。なぜなら、ゴブリンの液体がかかっていない場所は、貞一が座っている場所以外無いのだ。もれなく360度、ゴブリン汁の被害を受けていた。
「拙者がこれを・・・。やっぱり、この力は魔力だったでござるね」
貞一は異世界に来て以来感じていた、第六感ともいえる不思議な感覚が魔力なのだと確信した。確信できた理由は、パニックの中ゴブリンが汚い花火と化したとき、その不思議な力、魔力が減った感覚が確かにあったからだ。
このグロさから目を背けるように、貞一は自らがなした力の大きさに興奮する。いや、興奮して自らを奮い立たせなければ、失禁してしまいそうだったのだ。この光景の中、数回吐いただけで済んでいるのが奇跡なのだ。否が応にも気を逸らすために興奮せざる終えない。
貞一は立ち上がり手を腰に当て、精いっぱいの悪そうな顔をつくって虚勢を張る。
「フ、フハハハハハハハ!! ゴブリン如きが、拙者に逆らったことを地獄にて悔い改めるがよいでござるよ!!」
幾分か気分がマシになることを願い、貞一は高笑う。
すると、背後からガザゴソと草をかき分ける音がした。
「ひぎぃぃ! 調子乗ってごめんなさいでござるーーッ!!」
貞一はブタのような悲鳴を上げながら、身を竦ませる。片手で頭を隠し、もう片方は相手に向ける。片手を上げたのは、もちろん先ほどの攻撃をするため。
その音を聞き、貞一の頭には深緑色をしたゴブリンがよぎった。
それもそのはず、丘から半日歩いてきたが、遭遇したのはゴブリン以外いないのだ。そして、そのゴブリンには死という強烈な恐怖を味わらされた。貞一がゴブリンを想像するのも必然であり、魔法が発動するかは別として反射的に手のひらを向けてしまうのもしょうがなかった。
「あー、大丈夫だ! 俺たちは敵じゃねぇよ。武器を下ろしてって、構えてねぇか」
しかし、聞こえてきたのは『ギャギャギャ』と聞いている者に不安を掻き立てる錆びついた歯車のような声ではなく、意味の通じる言語、日本語であった。
「うっ・・・。すげー匂いだな。すでに魔物は倒された後だったか」
「これは凄いですね・・・。一体何をしたらこうなるのでしょうか?」
草木をかき分けて現れたのは、冒険者風の恰好をした二人組だった。
貞一に危害はないと声をかけてきた男は、言葉こそ普通だが声質や喋り方からどことなく軽薄さがにじみ出ている。そして、男は喋り方だけでなく、服装も身軽なものだ。
布製の服をベースに、金属類の防具は手の甲や胸の付近だけと最小限に抑えている。肘や膝などには厚手の革が使われており、重量のある金属をギリギリまで省いた軽装を心掛けていることがわかる。背中には弓と矢筒らしきものを背負っており、手に握っているのはスタンダードな両刃の片手剣。貞一と同じくらい身長があり、立ち居振る舞いから自分の力に自信を持っていることが見て取れた。貞一が街で見かければ、道を譲るタイプだ。
もう一人は『標準的な冒険者』という言葉がぴったりの服装だ。厚手の革でできた服に、ガントレットに胸当て、脛もしっかりと金属の防具でおおわれている。地味な感じのマントを羽織っており、武器は片手剣にラウンドシールドとこれまたゲームでよく目にする一般的な装備だ。身長は小柄だが堂々としている。全体的に遊びは無く、堅実な印象だ。貞一が街で見かければ、道を譲るタイプだ。
この二人に共通して言えることは3つ。1つは魔法のアイテムを所持していないことだ。いや、もしかしたら防具や装備、腰にぶら下げているポーチに入っているのかもしれないが、少なくとも貞一から見てそういった装備はしていない。その根拠は、見るからに魔力を帯びていそうなおどろおどろしい特殊エフェクト付きの装備がないためだ。二人とも、装備はスタンダードな量産装備に見える。
そして共通項目の2つ目。それは二人が絶妙にブサイクであることだ。
え?拙者が言うなって? いやいやいや、確かに拙者はブサイクでござるよ? それはもう目の前の二人など歯牙にもかけないほどでござるよ? でもブサイクなものはブサイクと言うでござるよ? もういいでござるか? 先いくでござるよ?
そう、二人は実に残念ブサイクなのだ。
軽装なほうは、明るめな茶髪を無造作ヘアーのように手を加えてないように見せつつもしっかりと整えており、物腰の柔らかそうな接しやすいチャラ男を演じておりモテそうな雰囲気を出してはいるが、いかんせん目が点のように小さい。それでいてキラキラと純粋な瞳をしているのだから、ブサイクさに拍車をかけていた。眼だけでもインパクトが大であるのに、さらに彼はブタ鼻なのだ。鼻は丸みを帯びて肉厚、鼻の穴は大きく、ビー玉でも入っているのかと疑うほどだ。もはや髪型や雰囲気だけではごまかせないブサイクさである。茶髪にチャラい雰囲気、目が点でおまけにブタ鼻。それはまるで売れないホストのようであり、おどけた感じがより一層の哀愁を感じさせる。
標準装備の方は、前髪ぱっつんのおかっぱヘアーをしており、ぱっちりとした目をしている。小柄な体型も相まって小動物を感じさせる姿は、年上お姉さんにモテそうな雰囲気だ。しかし、出っ歯にたらこ唇である。ぽってりを通り越した分厚いたらこ唇もインパクトが大きいが、それよりもそこから飛び出している出っ歯の方だ。そりゃもう一目でわかるほどの出っ歯だ。突き出している。かわいらしい見た目からの出っ歯のギャップで、こちらもブサイクさに磨きをかけている。出っ歯とたらこ唇が合わさり、相乗効果をなしている。もう怖いものはないという組み合わせだ。体型と合わせて、小動物は小動物でもハダカデバネズミのそれだ。『キャラ付のためにとりあえず出っ歯にしました』というような、漫画のキャラのような印象を受けるブサイクだ。ご飯とか食べづらそうである。
そして最後に共通項3つ目。とどめとばかりに、お互いデブなのだ。軽装の体型は、服装の軽さとは真逆で太っている。男は身長もあるため、体格と合わせてそれなりに威圧感がある。売れないホストの様相もあって、不良グループにいる力自慢のデブを彷彿とさせる。
標準装備の方も太っている。身長が小さいため、ちびデブだ。出っ歯でちびデブなので、ハダカデバネズミっぽさに拍車がかかっている。
デブでブサイクなこの二人に、なぜだか貞一は親近感が湧いていた。『その容姿じゃ今まで大変だったでござろう? 拙者はわかるでござるよ』と心の中で語り掛ける。
そんな二人は貞一と目が合うと、一瞬目を疑うように貞一の顔を凝視し、はっと我に返り誤魔化すように周囲の惨状を見まわした。
その様子に、貞一は特に何も思わない。貞一は、そのブサイクさやコミカルな体型を物珍しそうに凝視する視線には、すでに慣れてしまっていた。
この異世界でも、拙者の扱いはかわらなそうでござるね・・・。ただ、この二人を見た限り、異世界だからといって美男美女だらけということでもなさそうでござるよ。それなら、拙者のことを好きになってくれる子もいるかもしれないでござる!
イケメンばかりの中に貞一のようなブサイクがいても、貞一のことを好きになってくれる人は壊滅的だろう。人間誰しも、周りの眼というものに敏感なのだ。『自分だけがブサイクと付き合う』という不名誉にあずかろうとする者など、それこそフィクションの世界にしかいない。家族や友人に胸を張って紹介できる恋人が欲しいのだ。
しかし、周囲にもブサイクと付き合っている者がいた場合は、その限りではない。『自分だけ』という言葉は、ポジティブな意味では皆が羨むが、ネガティブな意味では誰しもが拒絶する。しかし、『自分以外にもいる』となれば、ブサイクでも付き合ってみてみいいかと思う者も、きっといるはずだ。いる。いるに違いない。いないと困る。
貞一は美人な嫁を手に入れるという大いなる野望を、再度胸に刻み込む。この野望だけは、なんとしても達成してみせると。地球初の異世界転生者として、全ヲタクの夢を背負う所存である。
「申し遅れました。我々はディーエン侯爵家が聖騎士でございます。何が起こったかご説明いただいてもよろしいでしょうか?」
「このような場所で申し訳ございません。しかし魔王に関わることです。ご容赦ください」
チャラ男風な男はチャラさを一切封じ、背筋を伸ばし貴族にでも話しているかのような丁寧な言葉で質問してくる。もう一人の出っ歯も同じく、丁寧というよりもむしろ腰が低いくらいだ。
聖騎士? 騎士と言ったでござるか? それに侯爵に魔王ですと?
その素敵ワードを聞いた貞一は、何やら考え込む。
・・・ハッ!! これはフラグでござる! フラグでござるよ拙者!! きっとゴッドが用意してくれた大貴族とお近づきになれる系のイベントでござる!! そうでござらんと、こんな簡単に大貴族の騎士と接触なんてできるわけないでござるよ!!!
「あ、あああ! もちろんでござるよ! 実はでござるね!」
貞一はゴブリンとの遭遇戦を二人に話した。もちろん、貞一が異世界から来た件は話していない。話した内容は、森を抜けようと草原を目指して歩いていたら、ゴブリンに襲われたというストーリーだ。一切嘘はついていないため、貞一はすらすらと話すことができた。
貞一が初対面の人間でも気後れせず話せているのは、貞一のコミュ力が高いから・・・では決してない。そう、決して。
話せているのは、二人がブサイクだからだ。ブサイクのよしみというか、共通な部分というか、シンパシーを感じたからこそ、貞一は既に二人に仲間意識を持っており、普通に喋れている。これがイケメンであれば、生物的違いから気後れして、もっとどもりながら話していたことだろう。ウェーイ系やオラオラ系なら話すことすら不可能だった。
それに彼らは異世界で初の人間だ。周りは暗く森の中。おまけにゴブリンに襲われ憔悴した貞一の精神は、人間という味方を見つけたことで変にテンションが上がっていた。
「あわやゴブリンに襲われそうになった瞬間、拙者の魔法でゴブリンを汚い花火に変えてやったでござるよ!!」
貞一は自慢げに語る。果たして本当にあれは魔法なのかという疑問は、この際気にしない。
あれが魔法以外ならなんだというでござるか? 実際に魔力的なモノが減った感覚はあったでござるし、きっとこの世界にも魔法は存在するでござる! なら、なんにも問題ないでござるね!
「やはり魔法使い様でしたか」
二人はなぜか戦慄したように貞一を見ている。その表情を見て、貞一は確信した。
拙者、魔法のチート素質ゲットでござる!!!
きっとゴブリンはメジャーな魔物で、そこまで強くはないだろう。けれど、数が多かったうえに、知能もあれば貧弱な体躯でもなかった。貞一が剣だけでこれだけの数を相手にできるかと言えば、不可能だ。一匹だって無理そうだ。
数の力は偉大だ。たとえそこそこ剣が使えたとしても、10匹近くのゴブリンに囲まれれば、相当な手練れでもなければ無傷で殲滅などできないのではないだろうか。良くて辛勝、普通なら死んでしまうのではなかろうか。
いやいや、ゴブリン相手でしょ? と思うことなかれ。貞一もこれまでアニメや漫画に出てくるゴブリンを見た時、『拙者でもこれくらいなら蹴っ飛ばせば殺せそうでござるな。デュフッ』とか思っていた。だが、実際にゴブリンと遭遇した貞一にとっては、そんな考えは雲散霧消していた。
組織だった行動、低身長とはいえ筋肉質な体型に武器を所持し、油断なく追いつめようとするゴブリンたちは、十分な脅威と言うべき存在であったのだ。
それに、もしこの世界では自慢にもならないゴブリン討伐だったとしても、これだけ派手に殺したのだ。きっとここまで圧倒的に殺す方法は、珍しいのではないだろうか。
それを肯定するように、二人の冒険者の瞳には畏敬の念が込められている。普段貞一に向けられる視線など、蔑み、憐み、嫌悪のようなマイナス的な視線か、そもそも貞一を視界にすら入れない完全無視の扱いなのだ。それ故、貞一は人の視線には敏感になっていた。
そんな視線を常日頃浴び続けた貞一は少しずつ少しずつ傷ついていき、心はその傷に耐えられるよう強くなっていった。今や貞一にとって負の視線は慣れたものだ。しかし、尊敬や畏怖などのプラス的な視線は慣れていない。
おうふ・・・。これが優越感というものでござるか・・・! たしかに、これは癖になるでござるよ・・・! ・・・拙者をいじめていたあ奴らも、こんな気分だったのでござろうか。
貞一は一切の負の要素が込められていない視線を受け、むずがゆさと心地よさを感じていた。貞一にとっては畏怖であろうとプラスな要素なのだ。
さすが異世界でござるね! 地球であれば拙者が偉業をなしても、拙者の見た目からどこかに嘲笑めいた負の要素が入るところを、純粋に尊敬の眼差しを向けてくるとは・・・! 日本なら『ヲタク必死すぎwウケるww説明乙www』で終わりでござるよ!
たった一つの視線でさえ、貞一には異世界へ来てよかったと思える代物だった。
「浅学故貴方様のことは存じ上げないのですが、どちらの貴族家の―――」
「ちょっと二人とも! どうなっているのよ!? そっち行っていいの!?」
出っ歯の冒険者の質問を遮るように、二人がやってきた茂みの向こうから女の声が聞こえてきた。その内容から、二人が様子を見に行っている間待機していた彼らの仲間だろうと推測できる。
「ああ、姫! 悪い悪い! こっちきて大丈夫だぞ!」
「姫! 魔物はすでに倒されてました! 危険はありません!」
二人は声の主であろう女に向かって、至極真面目にそう言った。
・・・ひ、姫ですと!? まじもんのお姫様でござるか!? ・・・いやいやいや! それは、おかしいでござるよ。もちつくでござるよ拙者!
さすがに、こんな森の中にお姫様がいるわけないでござろう!! ・・・でもこの二人は侯爵家の騎士でござるし・・・。
いや、この二人の馴れ馴れしい話し方からして、きっと侯爵令嬢などではないでござる! つまり、ここでいう姫とはあだ名のようなものでござるね! あだ名が姫、それに目の前のブサイクたち、これらが導き出す答え・・・・・・つまり騎士サークルの姫でござるかッ!?
男ばかりの騎士団。その中に交じる場違いなほど可憐な女騎士。彼女は団員から敬意と親しみを込めて"姫″と呼ばれている・・・。
これでござる! きっとこれでござるぞぉぉおお!!
貞一はこちらに向かってきている"姫″に期待し胸を高鳴らせていた。オタサーの姫なんかではないでござるよ! 異世界、それも騎士サーの姫でござる!! 可愛くないわけがないでござるよ!! 本物のくっ殺様でござるぞ!!
異世界で初めての女性、それも騎士サークルの姫との遭遇に、貞一はドッキドキだ。草をかき分ける音とぼんやり光る明かりが近づくにつれ、貞一は食いつくように茂みを見つめる。
「もー! 何にもないなら早く呼んでよね!!」
ぷりぷりと怒っていますオーラを出しながら、それが自分を可愛く見せるポーズなのだと熟知した動きで、上目遣いに二人を睨む女。唇を若干突き出し、アヒル口のようにしながら、「むー!」なんて威嚇音のような声をわざわざ言葉にしている。
まごうことなき姫の所作。異性にチヤホヤされまくっているせいで、外から見たら痛々しい行動も平気でできる。まさに騎士サークルの姫といえるだろう。
しかし・・・だが、しかしッッ!!! 現れた女は可憐な女騎士でも、凛々しい美人系女騎士でも、太陽のように明るい姉御系女騎士でもなかった。
そこに現れた女は、まごうことなき―――ブスであった。