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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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ブサイク、素材を売る

 ぱんっぱんに太っている貞一が、ぱんっぱんに詰まったバッグを背負っている。その様子はまるで弟を背負う兄のようでいて、鏡餅を彷彿とさせる縁起がいい見た目であった。


 貞一が巨大な荷物を持っているということは、それだけ魔境探索の戦果が大きかったということを意味している。この世界には無限に入る魔法の鞄も無ければ、アイテムボックスなんて便利なスキルも存在しない。


 一度に持ち帰れる量には限りがあり、ただでさえ解体道具などでいっぱいのバッグに押し込むように素材を詰めるのだ。それも、今日の様に魔牛なんて狩った日には大変だ。


 魔境初日に狩ったはぐれた緑毛魔牛はまだ小さかったが、それでもカモシカを筋肉質にしたような、そんなゴツイ存在だった。それが成体になると、巨大なアメリカバイソン並のサイズになる。体長は3メートルを超え、体重は1トンにもおよぶ。1匹でも狩ると、貴重な部位は解体して持ち帰るが、それでもほとんどがバッグに収まりきらない。


 結果、昨日の野営時のご飯にしたり、魔境の外の野営所にいる冒険者たちにおすそ分けすることになる。ロックバードの時の様に馬車を借りればいいのだが、魔牛はレリアが気に入っており定期的に狩ってるため、無理してでも持ち帰ろうという気にはならない。


 ちなみに、魔牛は群れで行動するのだが、一頭でも傷つけると群れで襲ってくるという厄介な習性を持っている。ある種デスゾーンのような存在で、魔牛にちょっかいを出して轢き殺される冒険者は割と多くいる。アメリカバイソンに群れで襲い掛かられれば、そりゃあイチコロだろう。


 そんな魔牛も、レリアにとっては関係ない。疾風の様に駆け抜け、瞬時に一頭の魔牛の首を斬り落とし離脱する。魔牛は仲間がやられて怒り心頭にレリア目掛け突っ込んでいくが、レリアはあえて魔牛が追えるスピードで逃げることで現場から魔牛たちを引き離し、強化魔法の範囲ギリギリで姿をくらませる。


 魔牛はレリアを見失い、そのままレリアが逃げていた方向に突き進んでいってしまう。後に残るのは、首を斬られ血抜きをされている魔牛だけだ。無論、群れが襲い掛かってこようとも対処できるが、むやみに殺す必要は無いためこの方法を採用している。


 当然バッグをパンパンにしているのはレリアも同じだ。貞一は強化魔法のおかげで重さを全然感じないため、ある意味魔法の鞄を持っているようなものだが、レリアは違う。魔境以外ではレリアの希望で強化魔法をかけていないため、その重量はダイレクトに効いてくる。レンジャー訓練かと突っ込みたくなるが、事実レリアにとっては体力づくりの一環なのだろう。


 そんなわけで、貞一たちは今日も今日とて大量の戦果を背負い、冒険者ギルドへ帰ってきた。


「おい、シコティー(・・・・・)が帰ってきたぞ」

「本当だ。今回も依頼以上の素材を持ち帰ってきたみたいだな」

「さすがシコティーだな」


 貞一たちがギルドに入ると、ひそひそと貞一たちを見て遠巻きに会話をする冒険者たち。別に貞一の態度が横暴なわけでもないのだが、直接話しかけてくる者は全然いない。むしろ、ゴブリンキング討伐に参加していたパーティくらいしか、貞一に話しかける冒険者はいないまである。


 シコティーって・・・。これ絶対、拙者いじめられているでござるよね・・・。


 シコティー。それは貞一に対して冒険者たちが最近よく使う呼び方だ。貞一とレリアが『下克上』という正式なパーティを組み始めたあたりから、そう呼ばれるようになった。もちろん面と向かって言われることは無い。貞一に声をかけない冒険者たちが、ひそひそとそう呼んでいるのだ。


 彼らには貞一の悪口を言っているつもりはない。シコティーとは、醜女しこめ使いのティーチを略した名前だ。決してシコった後のティッシュという意味ではない。シコって死んだ貞一を馬鹿にしているわけでもない。断じて違う。多分。


 全く失礼極まりないでごるよ! こんなに可愛いレリアたんを醜女なんて、眼が腐ってるでござる。女性の容姿を馬鹿にするなんて、許せないでござるよ!!


 散々ブーシィや受付嬢たちをブスだデブスだと罵っていた男とは思えない発言だ。大人って汚い。


 今までも貞一とレリアは何かと注目と言うか目立っていたと言うか、周囲の冒険者たちから遠巻きに話されていることはあった。しかし、正式なパーティを組んでからは、より一層多くなった気がする。


 正式なパーティは冒険者たちにとって大きな意味を持つのだろう。


 居心地が悪いなと思いながらも、貞一とレリアは受付には並ばず、素材の買取を行っている窓口へ向かう。魔境で採れた素材は、冒険者ギルドが一括管理している。依頼者への受け渡しも、ギルドの仕事だ。


 冒険者ギルドが儲けたいがために、独占しているわけではない。迷宮産の素材はどれも高価なものだが、冒険者ギルドは手数料を取る程度で大して中抜きはしない。というのも、冒険者ギルドは国営施設のような立ち位置のため、利益追求は行っていない。


 この世界の脅威は、なんといっても魔境から這い出て暴れまわる魔境の王―――魔王の存在だ。魔王が出現するのは魔境であるため、魔境の管理を行っている冒険者ギルドは、重要な組織だ。


 そんな重要組織を、国が管理しないわけがない。


 管理とは言うものの、冒険者を束縛するような干渉は一切ない。魔境の記録を王都から派遣されている管理官に報告する程度で、冒険者自身にはノータッチだ。唯一魔王が出た場合は協力を要請されるが、何もしなければ街が襲われ自分にも被害が出るため、至極当然の要求だろう。


 冒険者ギルドは依頼を精査し納められた素材の良し悪しをしっかり判断することで、冒険者にも依頼者にもWinWinの関係を手助けしている。ギルドは手数料だけでなく、冒険者が採取してきた素材や討伐した魔物を記録することで魔境の状態や異変について調査できるデータも得られる。三者が得する構造になっているのだ。


 もちろん、何を採取したか報告して確認してもらえばいいので、必ずしもギルドにすべて売る必要はない。あくまで魔境で採取した素材は冒険者に所有権がある。魔物の素材や鉱石で防具を造ったり、貞一たちの様に食材を自分たちで食べたりすることも自由だ。


「依頼の軟血虫20匹と、水泡カズラの実とかを採ってきたので、買い取って欲しいでござるよ」

「いつもありがとうございます。下克上は・・・スーカ薬品店からの依頼ですね。素材をこちらのテーブルにお出しください」


 貞一と同い年くらいの男性が、丁寧に対応してくれる。彼は素材の鑑定を行う資格を保有する、ギルド職員だ。依頼された品が規定に満たしているかをチャックする重要な仕事だ。この仕事がずさんになってしまうと、冒険者ギルドの信頼も落ちてしまう。それ故、何年も下積みし、厳しい試験をパスしなければこの職に就くことはできない。


 魔境の素材はファイアーサラマンダーの様に、採取に特殊なやり方が必要になる素材も多い。様々な素材の採取の状態や方法、処理の仕方はもちろん、生肉だけを見て何の肉かまで判別できるほど彼らの目利きは確かなものだ。


 今回依頼された軟血虫は、サイズが大きく生きていれば良い素材なので問題ないだろう。箱を開け、丁寧に一匹一匹確認していく。


「どれもいいサイズですね。26匹いますが、余りの6匹も買い取らせていただきます」


 そう言ってメモを取ると、残りの納品物も見ていく。


「また魔牛を狩ってきてくださったんですね。部位はどこでしょうか」

「ヒレとランプとロース。それぞれいい部位を切り分けてきたから、確認してくれ」


 肉に関してうるさいレリアは、魔牛のどの部位が値段が高く美味しいかを熟知している。狩る魔牛の選定すら行っている徹底ぶりだ。


 どの部位も美味しいが、やはり価値は変わってくる。ことりの卵亭でガドと食べる分は多めにキープしているため、若干量が少ないのはご愛嬌だ。


「追加分の軟血虫6匹と、魔牛の肉、水泡カズラの実が7個と魔境ハーブが4種類ですね。合計で62万4千ゴールドになります。こちらの紙を受付までお持ちください」


 そう言って表に購入品や金額が記載されている紙を差し出され、受け取った。


 追加分の軟血虫は1匹2万ゴールド。採取自体は用意だが、魔境深くまで潜る必要があるため、いい金額だ。逆に、水泡カズラはアイアン級でも探索できるエリアでも取れることから、1個6千ゴールドと安い。水泡カズラの実は大きく嵩張るため、金稼ぎとしては美味しくない素材だ。魔境ハーブは4種類で4千ゴールド。これはオマケみたいなものだ。アイアン級の時の癖で採取してしまう。


 最後に、魔牛の肉が45万8千ゴールド。10㎏程度の買取だったため、いいお値段になった。


 水泡カズラの代わりに肉を詰め込めばより収入はよかったが、高級肉にも需要と供給のバランスがある。あまり頻繁に持ち込みすぎても、値崩れしたり買取価格が下がってしまう。お金は十分稼いでいる二人は、偏らずに多くの種類の素材を採取するようにしていた。


 これに依頼達成金44万ゴールドを含めると、約100万ゴールドが今回の魔境探索の報酬となる。うまい仕事だ。だが、これは魔牛を狩れたからこれだけ稼げている訳であって、他のカッパー級冒険者たちはこうはいかない。


 準備に1日、移動は往復で2日、魔境探索1日で合計4日間。食費や素材採集用の容器、虫除け粉などの使い切りアイテムの雑費が数万ゴールド。これで報酬は魔牛の肉を差し引いた額で約60万ゴールド。経費を差し引けば55万ゴールド程度だろう。


 だいたい冒険者パーティは4~5人で結成されているため、頭割りすると一人当たり10万ゴールド程度。ここから、パーティの共有財産にプールしたり、道具や装備の新調をすれば別途金がかかるし、手入れも必要だ。結局、手元に残るのは数万ゴールド。更に、そこから宿代もかかるし、街にいる間の食費だって当然必要になってくる。


 命懸けで魔境に入り魔物と戦い素材を集め、4日もかけてろくに風呂にも入れずへとへとになって手に入れられる額としては多いのか少ないのか。4日間、日当1万の仕事をこなす方が賢い気さえする。


 いっぱしと呼ばれるカッパー級でこれなのだ。新人のアイアン級がどれだけ大変で金に困っているかわかるだろう。一獲千金を夢見る者たちが、現実を知って辞めてしまうのも頷ける。


 貞一たちは混雑している受付へ並び、『シコティーだ!』『また魔牛を狩ったらしい。さすがシコティ-だ』という褒めながら相手にダメージを負わす周囲の声に耐えることしばし。受付嬢に依頼分納品の証明書と、買取証明書を提出する。


 ちなみに、今回の受付嬢はクラシィではなかった。クラシィは貞一を対応している受付嬢に般若のような形相を向けているが、貞一は気が付かなかった。


「20万ゴールドを超えるため、報酬は銀行・・に振り込みますね。パーティの口座でよろしいでしょうか」

「下克上のパーティ口座にお願いするでござるよ」


 そういって、振り込みの証明書を発行して貞一へと渡す。


 この世界には銀行システムが存在する。日本の様に企業が行っているわけではなく、王家が管理している銀行だ。そのため金利などは特にないが、金を預かってくれ、他の街でも銀行に行けば好きにお金を引き出すことができる。


 このシステムが無ければ、稼いだ金を常に持ち歩かなくてはならず、非常に邪魔で不便であっただろう。ただでさえ魔境探索には荷物の余裕もないのだ。そこに数百万などバッグに詰めて行くなど、無駄でしかない。


 この世界では魔道具を始め、王家が主導し多くの事業を行っているため、実に便利に貞一は過ごすことができている。


「ちょっと聞きたいのでござるが、炎龍の牙は今ネスク・テガロにいるでござるか?」


 冒険者は、魔境へ行く際もスケジュールをギルドに報告する必要がある。そのため、受付に聞けば炎龍の牙が依頼に出ているのかネスク・テガロにいるのかわかる。


「炎龍の牙ですと・・・本日から魔境探索に行かれていますね。戻ってくるのは2日後の予定です」

「あちゃー、入れ違いだったでござるか。ありがとうでござるよ」


 そう言って、貞一とレリアは受付から離れる。混雑しているため、だらだらしていてはまたシコティ-と呼ばれてしまう。


「う~ん、これは仕方ないでござるか。今度武具屋か資料室で探してみるでござるか?」

「それがよさそうだな」


 そう言ってギルドを出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。


「ティーチ様、レリア君。お久しぶりです。魔境探索の帰りですか?」


 振り返ると、鮮やかな青いマントを羽織った小太りな青年が立っていた。


「これはフールー殿。それに蒼剣の皆さん。お久しぶりでござる。魔境帰りでござるよ」

「またロックバードを仕留めてきたんですか?」


 キザっぽく笑うこの男は、シルバー級冒険者パーティ『蒼剣』のリーダーである、フールーだ。後ろには盾職っぽい重装備の大柄な巨漢と、服は軽装なのに全く身軽そうに見えないふくよかな女性がいる。彼らは蒼剣のメンバーだ。


「この前教えてくれた薬品店、とても良かったでござるよ。ありがとうでござる!」

「何、気にすることはないですよ。困ったことがあればいつでも頼ってください」


 デブなのに爽やかな微笑みを浮かべるフールー。貞一のにちゃぁとした笑顔とどうしてこうも違うのか。


「あ、それなら魔鋼や武器について相談したいのでござるが、よければこれからご飯でもどうでござるか?」


 途中でレリアをチラ見し、蒼剣を誘うことの許可を得ることも忘れない。レリアも意図を察したようで、頷いた。


 コミュ障にとって、友達の友達は天敵のようなもの。気まずいったらありゃしないのだ。レリアも蒼剣と面識はあるが、しっかりと確認を取ってから誘う。


「もちろんです。みんなもいいよね?」

「ああ。大丈夫です」

「もちろんですわ!」


 そうして、貞一とレリアは傷んだ武器の修復方法を聞くために、蒼剣と共にことりの卵亭へ向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >鏡餅を鏡餅を彷彿とさせる縁起がいい見た目 ただのオデブさんを縁起がいいとかw 一々表現が面白いw
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