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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第三章 魔鋼厳選編

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ブサイク、だからお前は弱いんだ

 深い森の中を、貞一たちは進んでいく。


 辺りの樹々は大きく、巨木とよべるサイズ。折り重なるように密集した木の葉が、光を妨げジメジメした空気を作りだす。太い樹の根がのたうつように地面から這い出ており、その上を苔やツタがコーティングしている。湿った場所を好むのだろう。濃い緑の苔たちが、実に綺麗だ。


 根を超えようと踏みしめれば苔で滑り、岩や樹の根がまっすぐ歩くだけでも一苦労させる、そんな森。


 転ばぬよう注意しながら進み、視界をキョロキョロせわしなく動かす。


 周囲を見れば小動物程のサイズもあるガガンボの様な虫が飛んでいたり、鳥たちの鳴き声が木霊して聞こえてくる。リスとウサギを合体したような小動物が、チロチロと動き回る姿が微笑ましい。


「あった。あの葉じゃないか?」


 前を行くレリアが、背の低い木を指差す。それは木というよりも、背の高い草と呼んだ方が正しいかもしれない。レリアと同じくらい高さのある植物だ。


 太く丈夫な茎からは大きな双葉がはえている。よく見れば、双葉はシダの様に細長い葉が密集して大きな葉の様に見えていたようだ。


 そんな草が、ぽつりぽつりと点在している。


「資料で見たのと同じでござるね! 探してみるでござるよ」


 そう言って、二人は草へと近づいていく。もやがかかっているように湿った薄暗い森であっても、その草は大きく生命に溢れていた。


「いたでござる! 軟血虫でござるよ!」


 シダの葉っぱには、黒いイモムシの様な虫がくっついていた。葉っぱをよく見ると、その黒いイモムシは一匹だけでなく、複数確認できる。


 黒いイモムシは軟血虫と言い、ネスク・テガロの迷宮で取れる立派な素材だ。他の魔境ではあまり採取できない虫らしく、ネスク・テガロの名産にもなっている。薬剤の素材らしいのだが、貞一はどうやって使用するのか怖くて調べていない。


 軟血虫は、薄暗く湿った場所に生えているこの草の葉を好む。軟血虫は初夏にこの草に卵を産み、夏の終わりに卵がかえる。卵から出た軟血虫は今のイモムシ状態で、この葉をんで成長する。秋が深まるとさなぎとなって冬を越し、春に羽化して大きな蛾のような成体となるのだ。


 軟血虫はイモムシの状態でしか素材としての価値はなく、秋口の今がまさに旬の素材という訳だ。


 貞一はバッグから木箱を取り出すと、軟血虫を箱に入れていく。シダの様な葉っぱも数枚、一緒に入れることを忘れない。軟血虫は生きたまま納品する素材のためだ。


「来るのは大変でござったが、すぐ見つかってよかったでござるよ」

「ああ。数も十分だ。依頼分よりも余分に持って帰れそうだぞ」


 この辺りはギリギリ日帰りで帰れるくらいの魔境の深さだ。そこまで深い魔境となると、出現する魔物もデスゾーンも凶悪なものになってゆく。


 デスゾーンで凶悪なのは、底なし沼だろう。特にこの森は湿気がひどく、地面がぬかるんでいる場所も多い。そんな場所に、ランダムで底なし沼が発生しているのだ。片足でも入れば、もう厳しい。反射的に残った足で踏ん張れば、沼が広がり残った足も呑み込まれ、腰まで沼にはまってしまう。


 もがけばもがくほど吸い込まれるように沼へと沈み込んでしまう。仲間が全力で引っ張り出すしか助かる道はないが、魔力が多くなければ強化魔法を使って引っ張り出すのも困難。沼に嵌っている方も強化魔法で身体を守らなければ、引っ張られる衝撃で身体を痛めてしまう程、引っこ抜くには強い力が必要だ。


 それに、このあたりには毒性の強い蜘蛛や、その蜘蛛を好んで食べるため蜘蛛よりもさらに強力な毒を内包する獣の魔物もいる。


 推奨冒険者ランクはカッパー級以上。アイアン級では死ぬ確率がぐっと高くなるエリアだ。


 アイアン級冒険者だった貞一たち下剋上は、つい先日カッパー級に昇進した。元々シルバー級推奨のエリアでも活動しており、ギルドでも昇級させようという話は出ていたそうだ。


 決め手となったのはロックバード討伐。シルバー級でさえ避けて通るような魔物を討伐したから昇級、という訳ではない。


 元々魔法使いの貞一がいるため、戦闘力は問題視されていなかった。


 昇級のポイントは、『ギスカの岩山を踏破できるほど、魔境探索に関する知識を持ち合わせている』という点だ。


 そんな基準はシルバー級でもいいようなレベルだが、やはりこなす依頼の数も重要になってくる。二人は冒険者になってまだ日も浅く、こなした依頼数も少ない。そのせいで、昇級がこれほど遅くなってしまった。


 貞一たち下剋上も急激なランクアップを望んでいなかったこともあり、ようやくカッパー級に昇進でも全く気にしていない。ようやくとは言うものの、二人の昇級は異例の速さだ。同じく魔法使いであるブーシィがリーダーを務める治癒姫と同程度だろう。昇級を速めることができたのは、レリアが魔境に関する知識や、森での探索のノウハウがあったおかげだろう。貞一だけでは、今でも魔境の探索はできていなかったはずだ。


 カッパー級になれば魔境で受けられる依頼の幅が一気に広がる。今回貞一たちが採取している軟血虫も、その一つだ。この時期でしか取れないため、報酬もいい依頼となっている。


「一匹だけで見ればまだ大丈夫でござるが、こう箱にいっぱい詰めると気持ち悪いでござるね」


 密集しすぎないようにいくつかの木箱に分けて入れてはいるものの、複数の軟血虫がモゾモゾと動く様は気持ち悪い。姿を葉っぱで隠すように、上から餌となる葉っぱを入れて箱を閉じる。


 軟血虫はイモムシの様な見た目をしているが、レリアは問答無用にむんずっと掴み、採取に勤しんでいる。たくましい。昆虫だろうが爬虫類だろうが、レリアにとっては素材か食材かそれ以外かとしか思っていないのかもしれない。


 二人は手分けして箱詰めを終えると、地図を取出し帰りのルートを確認する。


「まだ時間があるな。帰りはこのルートを通って、水泡カズラの実を採取しないか?」

「あの美味しい果物でござるね! もちろんいいでござるよ!!」

「よし! では行こう」


 バッグを背負い直し、二人は若干遠回りとなるルートを選び、進んで行った。




 ◇




 水泡カズラとは、水源の近くで自生している植物だ。秋になると真っ赤な実をつける、魔境産の美味しい果物だ。サイズは小ぶりのスイカくらいで、粒が密集して一つのふさを作っている。ピンポン玉サイズの葡萄がる、丸い房を想像してもらえば近いだろう。


 今貞一たちが歩いている場所は、薄っすらと地面に水を張ったような場所だ。軟血虫を採取した森よりも湿っている。天井の無い洞窟の様な、左右を大木や岩が塞いでいる狭い道。貞一よりも二倍くらい太い樹の根や枝が折り重なるように頭上を覆い、洞窟の天井の代わりをしていた。


 光は全然射さず、まだ日も高いというのに光球で辺りを照らさなければ足元も見え難い。地面のコンディションも最悪で、水はけは悪く、永遠に水溜りが残っているような地面。さらに、足元の土は泥状で、滑りやすくなっている。


 魔境は広い道だけでなく、こういった自然にできた迷路のような場所も通らなければならない。幅広い貞一にはしんどい場所だ。貞一のお腹が原因で素材を諦めざる負えない日が来るのも、そう遠くないだろう。


「もうすぐだな」


 少し開けたところで地図を広げ、レリアが確認する。この辺りは初めて来た場所だ。壁には茸が生え小さい虫が飛び回り、いたる所に蜘蛛が巣を張っている。壁にはヒカリゴケが僅かに発光しているが、光に集まる虫を狙ってヤモリが息を広める光景は、幻想的だと素直に喜べない。そんなエリアだ。


「レリア殿、これって足跡でござるか?」


 貞一が道の先の窪んだ箇所に光を当て、尋ねる。


「ん、どれだ?」


 レリアは足跡に近づき、観察する。


「魔物の足跡だ。この辺りだとアナコングかドドガレスだな。・・・尻尾を擦った跡がないから、アナコングだろう」


 アナコング。

 大蛇みたいな名前のこの魔物は、顔すら長い毛で覆われた毛むくじゃらのオラウータンの様な魔物だ。体長は2メートルを超える大柄で、比較的おとなしい性格をしている。暗い場所を好み、こういった狭い場所の陰に身を潜めたり、上空のツタを音もなく伝って上から攻撃をしてきたりと、陰湿な攻撃が多いのが特徴だ。


 そしてこの魔物。残念なことに、倒しても特にうま味の無い魔物なのだ。毛は硬質なため防具の素材になるにはなるが、硬質ゆえに剥ぎ取るのも一苦労。骨は使えるが、毛が邪魔で取り除くのも難しい。売値も高くないため、殺してもそのまま放置されることが多い、可哀そうな子。


 恐らく、このじめじめした通路を通る冒険者を待ち伏せしているのだろう。


 警戒しながらも先に進むと、徐々に水嵩みずかさが増していき、くるぶしくらいまで水位が上がってくると、目的地へたどり着いた。そこは樹々の切れ目から光が射す、開けた場所だ。腰くらいの水深だろう小さな池があり、水はそこから流れていたようだ。


 目的の水泡カズラも赤々と実を付け、池の周りに群生している。そしてレリアの予想通り、アナコングが水泡カズラを美味しそうにむしゃむしゃ食べていた。


 アナコングも貞一たちに気が付いたのか、振り返ると威嚇なのか吠えながら体を上下に揺らしている。


「戦うでござるか?」

「向こうはその気のようだし、仕方ない」


 暗く狭い場所を好むせいか、全身を覆う毛は土や泥で汚れていて触れたくない。髪がぼーぼーのホームレスのようだ。


 貞一の魔法で殺してしまうとアナコング汁が池を汚してしまうため、ここは素直にレリアに任せることにしよう。普段は貞一も練習のために魔物と戦うことも多いが、1体だけのため今日は観戦することに決めた。


「ボフォロオォオロロロォオ!!!」


 ひと際大きく吼え、手に持っていた水泡カズラの実を投げつけるアナコング。それと同時に大きな音を立てながら跳躍し、レリアに迫る。


「その程度の不意打ちが通じると思っているから、お前たち(・・)は弱いんだ」


 そう言うと、レリアは飛来する水泡カズラを軽く避けて振り返ると、木の根を伝い背後から貞一を襲おうとしていたもう一匹のアナコングを斬り飛ばす。


「も、もう一匹いたのでござるか!!?? アイタッ!!」


 レリアが背後のアナコングを倒すために動いたことで、前方のアナコングが投げた水泡カズラは見事貞一に命中する。痛みは強化魔法のおかげでないが、赤い水泡カズラの果実が弾け、服は汚れてしまった。


 ビックリして尻餅を着く貞一を他所よそに、レリアは飛び掛かって来ていた前方のアナコングも絶命させる。硬質な毛で覆われていようとも、剣に魔力を纏わせたレリアの攻撃を防ぐことなど、出来やしなかった。


 防具は汚れるし転んでお尻は濡れるし、最悪なのでござるが・・・。


 レリアに全て任せて棒立ちするからこうなるのだと、天が貞一に囁いているようだ。


 幸い池がすぐそこにあるため、上着の汚れはすぐに落とせるだろう。そう思いバッグからタオルを取出しながら、倒してくれたレリアにお礼を言う。


「さすがでござるよレリア殿。拙者、後ろのアナコングは気が付かなかったでござる」


 アナコングの攻撃は、不意打ちや奇襲が多い。目の前のアナコングはあえて貞一たちの注目を集め、仲間による不意打ちの成功確率を上げていたのだ。レリアには引っかからなかったが、見事貞一は引っかかってしまった。まだまだである。


「レリア殿?」


 貞一の声は聞こえているはずだが、レリアの反応は薄い。自分の剣の具合を確かめるように、刃を角度を変えながら確認している。


「最近剣が痛んでいるようなんだ」


 レリアが装備している剣は、母親から受け継いだもの。この世界に鋭利な武器は珍しく、稼いでいるはずだが同じものを使い続けている。


「買い替えるのでござるか?」

「いや、これは母の形見だから買い替えたくは無いのだが」


 レリアの母も、魔力無ロストと揶揄されるほど魔力が少なかった。そのため、特注の剣は魔鋼を一切使わず、鋼のみで仕上げられている。


 その刃に、今は無理やり魔力を流して使用しているのだ。長年の疲労も重なり、剣はだいぶ傷んでしまっているようだ。


「それは買い替えられないでござるね」

「ああ。しかし、このまま使い続けて折れてしまえばそれこそ最悪だ。この剣に魔鋼を付加したり、打ち直せればいいのだが・・・」


 深刻に悩むレリア。剣士にとって命を預ける武器(相棒)の重要度は極めて高い。貞一と組む前ならば魔鋼を付加することなど考えもしなかったが、今は強化魔法もある。魔鋼を加えて魔力の流れが良くなれば、どんな堅固けんごな鱗を持つ魔物であろうとも斬り伏せられるだろう。


「魔鋼をプラスするでござるか・・・。これはあれでござる! 困ったときのガドニキでござるよ!」


 ネスク・テガロの冒険者の兄貴分、炎龍の牙のガドは、シルバー級ということもあり魔境に関してかなり詳しい。魔鋼は魔境で取れる素材のため、もしかしたら何かいいアイデアを持っているかもしれない。


「確かに、ガドさんなら何かいい案がありそうだな」

「決まりでござるよ! それなら美味しい食材を取って、ことりの卵亭に誘ってみるでござる!」

「それは名案だ! 帰りに魔牛でも狩っていこう!」


 ベテラン冒険者であるシルバー級の炎龍の牙でさえ狩るのを躊躇ちゅうちょする魔牛を、気軽に持ち帰る食材として提案するレリア。この半年間で、ずいぶんレリアの常識も変わってきたようだ。


 そうして、善は急げとばかりに、急いで水泡カズラの実をもぎ取る二人であった。

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