ブサイク、パーティを組む
気絶から目を覚ました貞一だが、しかしピンチは終わっていなかった。全身で感じる落下の空気抵抗が、まだ地面に衝突していないことを教えてくれる。
まだ空中でござる! そう思った刹那、背中から衝撃が走った。
―――ッッッドドゥゥン・・・
樹の枝を突き破り、背中から地面に衝突する貞一。砲弾が地面にめり込むような重低音を轟かせ、数回高くバウンドを繰り返し停止する。
衝撃で土が盛大に巻き上げられ、生えていた草や苔、突き破って折れた樹々の枝葉が舞い上がる。
土煙が収まり視界が回復しても、貞一とレリアは動けずにいた。辺りを見回し、ぱちくりと二人で見つめること暫し。
「っは、ははは、拙者たち、生きてるでござるか?」
「ああ、生きています」
呆けたような顔から、二人は歓喜の表情を浮かべ喜びを分かち合う。
「生きてる! 凄いでござるよ!! 拙者たち生きてるでござる!!」
「死んだかと思いました。ティーチ様まで飛び込んできた時は、もうダメかと思いましたよ!!」
レリアを助けたい一念で飛び出した貞一は、見事役目を果たしていた。始めはレリアを通り過ぎてただの飛び降り自殺を敢行するところだったが、レリアの見事なフォローのおかげで空中キャッチをすることができた。しっかりと貞一が衝撃を受けるように地面を背にし、無事墜落することに成功。
貞一が下敷きになり、大きく主張するふくよかなお腹の上にレリアが乗っかている。その様はまるでトト〇のあのシーンのようで、今にも貞一が大声で『ヴォォォオオ』と喜びの声を叫び出しそうだ。
ひとしきり喜び笑いあった後、まるで抱き合うような恰好をしていることに気づいた二人は、慌てて離れる。
「痛ててて。背中が痛いでござるよ」
のそのそと起き上がる貞一は痛む背中をさすろうとするが、ぜい肉が邪魔で腰辺りを撫でている。悲しいかなデブの貞一では身体の柔らかさ以前に、稼働範囲が狭いのだ。
いかに魔法使いの身体強化魔法とはいえ、100メートル以上の高さから100㎏以上のデブの落下の衝撃を完全に防ぐことはできなかったようだ。それでも背中の打ち身程度で済んでいるのだから、強化魔法の頑強さがわかるというものだ。
「っ!! 大丈夫ですか!?」
「心配するほどではないでござるよ。背中がちょっと痛いだけでござるし、大丈夫でござる」
心配そうに駆け寄るレリアに手を上げ、問題ないと告げながら腰をさする貞一。この様子では、打ち身に効く塗り薬を手に入れても自分で塗れそうにない。
「それよりも、ここはどこでござるかね。荷物も一緒に飛んでしまったでござるし、ピンチでござる」
ロックバード来襲に備え荷物を置いて戦闘態勢に入っていたため、ロックバードの起こす突風で二人と同じく荷物も飛んで行ってしまった。
「ああ、それなら大丈夫です。落下する際に、ここがどこかも荷物がどこへ落ちたかも把握してます」
当然のようにレリアが進言してくる。
え、あの状況でそんなこと可能なんでござるか?
貞一は怪物を見るかのような目を向けるが、魔境においてレリア程頼れる人はいないとも思っているので、今更かと思う。魔物の発見も、周囲の探索も、魔境でのルート選びも、デスゾーンの回避も全てレリアが率いてくれているのだ。
貞一はレリアがいないと何もできない、しがない魔力タンクでしかない。
「ティーチ様は無理なさらずここで待っていてください。私が取ってきます」
そう言って走り出そうとするレリアを、貞一は慌てて止める。
「待つでござるよ! 拙者がいないと強化魔法が使えないでござる! もう動けるでござるから、一緒に行くでござるよ!」
そう言って、貞一はレリアの後を追う。いつものようにレリアが先頭に立ち、その後ろを貞一が歩くかたちだ。
歩き始めて少しして、貞一は口を開く。
「歩きながら聞いてほしいでござる。拙者の過去のことを」
ポツリポツリと話し出す。貞一が生まれ育った世界を、そこでの貞一の評価を、詳細は言えないが死んでしまいこの世界に来たこと、そこで神から才能を授かったことを。
レリアは何も言わなかった。黙って貞一の話を聞いていた。
貞一が最後まで話し終えたのは、ちょうど飛ばされた荷物の場所に到着した時だった。
「あはは・・・。別の世界から来たなんて、いきなり何言ってるんだって思うでござるよね?」
「信じます」
「でも、本当に別の世界から・・・え?」
「信じますよ。ティーチ様」
レリアは荷物を拾い上げ背負うと、岩山の頂を指さし貞一に告げる。
「行きましょう。今からならまだ間に合いますよ」
そう言って、レリアは進んでいく。貞一も慌ててその後を追った。
「たしかに、俄かには信じられない話です」
ですよねー、と貞一も困ったような顔をする。
「ですが、同じくらいティーチ様も信じられないような存在です」
レリアはずっと疑問に思っていたことが解消された様な、そんなスッキリしたような気持ちで言葉を紡ぐ。
「あなたは誰にでも優しいです。ブーシィ様のような魔法使い様だけでなく、ギルドの受付嬢にも、他の冒険者にも、市場の店員にも街行く人にも」
「そして、ロストである私にも」
険しい岩山をほいほいと登っていくレリアに何とか付いていきながら、貞一も黙ってレリアの話を聞いた。
「ティーチ様はロストがどうゆう存在で、どのような扱いを受けているのか知りませんよね」
レリアの声に感情は無い。無機質なような声に、したくない過去を話そうとしていることだけはわかった。
「今度は私の過去をお話いたします」
そうして語られたレリアの過去は、貞一ですら顔を顰めてしまうような話であった。
「それは・・・あまりにも惨すぎるでござる」
「でも、私はロストの中では恵まれた方ですよ。何せ母さんは私を見捨てず、愛してくれましたから」
決して母の口からは愛の言葉など聞いたことはなかった。厳しく辛い訓練ばかりを課してきた。それでも、レリアは母親の愛を確かに感じて育ってきた。
「だから、私からすればティーチ様の方が辛かったと思います」
親から愛されず疎まれ、周囲に頼れる者もいない。何をしても難癖をつけられ、歯向かおうという気持ちすら持つことを許されず、本人でさえそうされることが普通だと思わせるほど日常的な暴力。
レリアからすれば、その方が辛い人生に思えた。
暫く無言で登っていく二人。
貞一はレリアに、過去の自分を重ねていた。どこへ行っても嫌な顔をされ、何をしても認められず、評価を覆せるほど力を持っていない。
冒険者は実力こそが正義の世界。レリアの剣術の才能は天性のものがあるが、それでも魔力で強化された者には及ばない。
レリアが文字通り必死で倒したハイコボルトも、カッパー級の冒険者であれば問題なく倒せるレベルなのだ。達人の域に至っても、ようやく魔力のある人間に並ぶことができる程度。魔力量が少しでも多かったり、魔力を持っている者が努力すれば、到底追いつくことなどできはしない。
拙者はただ耐えていただけでござる。努力も全然してこなかったでござるし、何かを成したいという気持ちもなかったでござるよ。
だから、自分と重ねるのは申し訳ないかもしれない。ただ、この世界では魔力がすべての物差しだ。そんな世界で魔力を持たないというのは、容姿にも頭にも運にも家族にも友達にも恵まれなかった貞一と、同じくらいハンデな人生なのだろう。
レリアの様な魔力無は、田畑を耕すにも力不足で、炭鉱などで働かせても掘り出した鉱石を全然持ち運べない。多くの富をもたらす魔境でも、魔力が無いためレベルの低いエリアでしか活動できない。おまけに顔は醜いため、接客の仕事をさせてもクレームが来る。
奴隷にすらしても意味のない存在。それが、この世界でのロストなのだ。
そんなロストのレリアでは、これから先も苦労が絶えないだろう。一人では周囲の圧力を受け、思うように動けなくなることが多くなるだろう。
ゴッド。拙者分かったでござるよ。
「レリア殿! 拙者と、正式にパーティを組んでほしいでござるよ!!」
拙者のやることは、この世界でハーレム生活を送ることなんかじゃないでござる。
「拙者が、レリア殿の強さを一緒に証明するでござるよ!!」
拙者と同じような境遇の人を、助けることでござるよ!!
「正式なパーティ・・・ですか」
「レリア殿は知らないかもしれないでござるが、実は冒険者ギルドに登録しないと正式なパーティとして認められないんでござるよ」
「あ、それは知っていました」
貞一が衝撃の事実という雰囲気で話したが、レリアはすでに知っていたようだ。
ば、馬鹿な!? 拙者でさえ、この前飲んだ時にガド殿から初めて聞いたっていうのに!? というか、知っていたのに何で教えてくれなかったんでござるか!!
レリアはそんなこと、当然貞一も知っていると思っていた。魔法使いであり、このパーティの上位者は貞一のため、貞一がこの話をしないのならば自分がする必要はないとレリアは思っていた。
「それよりも、いいんですか? ティーチ様が思っている以上に魔法使い様というのは特別で、ロストというのは足を引っ張る存在ですよ」
「そんなこと関係ないでござる! レリア殿の凄さは拙者が一番知っているでござるよ!」
貞一は胸を張って宣言する。
「拙者は魔力が無い世界から来たのでござる。だから魔力じゃなくて、それ以外の強さで判断するのでござるよ!」
この世界で軽視されている剣術。剣術よりも、魔力を増やすことに心血を注ぐのがこの世界だ。
確かに、普通ならばレリアがいくら剣術を磨こうとも、魔力ブースト前提のこの世界では埋もれてしまうよう存在なのだろう。しかし、魔法使いである貞一ならば、魔力ブーストをレリアに施すことができる。
魔力というハンデが無くなれば、素人に毛が生えたようなブンブン丸たちと、剣術の達人であるレリアでは、どちらが強いかなど明白。
そう、拙者のチートは魔法が使えることではないでござるよ。鍛えまくったレリア殿を超強化できることこそ、拙者のチートでござる!
「だからぜひ、拙者とパーティを組んでほしいでござる!」
右手を差し出し頭を下げる姿は、思いを告げた男子学生のよう。
だが気づいているのか貞一。それは駄目だとネスク・テガロに来てすぐに学んだろう。
「・・・・・・ありがとう。よろしく頼む」
レリアは仮面を外し、しっかりと貞一を見る。頬を伝う涙も気にならないくらい、レリアは感謝と歓喜と感動でいっぱいだった。
「っ!! よ、よろしくでござっざざざあぁああぁああああ!!」
貞一は喜び顔を上げれば、そこにはいつの間にか仮面を外した女神と見まごう美しいレリアと眼が合う。傷痕があることで戦を司る女神のように感じられた。
そんな美女と貞一が手を繋げばどうなってしまうか。
ややっややあさやばっばばばば!!?? れれれレリアたんのおててて手てテテてててて
バグった貞一は、まるで寒い日に用を足した時のように大きく震えると、先ほどとは打って変わって落ち着きながら、レリアの手を離す。
だから言っただろう。それはまずいと。
しかし、レリアと握手した手を大事そうに天に掲げる貞一の顔には、一片の悔いもなかった。
「レリア殿、二つお願いがあるでござるよ」
そういって、何故か賢者の様な悟った顔の貞一が、レリアに向き直る。
「一つはちょっとトイレに行かせてほしいでござる。あと一つは―――」
二つの願いを告げた貞一は、トイレに行くのに邪魔な荷物をわざわざ背負い、草むらへ消えていくのであった。
◇
貞一のトイレが済んだ後、二人はロックバードの卵を奪うべく岩山を登り続けた。そして、貞一たちが吹き飛ばされたあの馬の背のような見晴らしのいい山道へと、再び戻ってきた。
周囲は見晴らしが良く、木も岩も無い。そのため、安全を確保するための縄も結ぶことができないような道。こんな道でまたロックバードから突風攻撃を受けてしまえば、為す術もなく吹き飛ばされてしまうだろう。
ではどうするか。
「走るでござるよぉぉおおおおおお!!!」
二人は細い道を爆走する。隣は崖で玉ひゅんものの景色だが、落ちても打ち身程度で済むならと、必死のダッシュをする。
レリアなら速攻で通過できそうだが、貞一に合わせているため時間がかかる。それでも強化魔法による底上げで速いのだが。
「カルルゥゥルゥキュアアアアァアアァアア!!!」
再び聞こえるロックバードの嘶き。怪鳥は貞一を嘲笑うような速度で、優雅に大空を飛翔し向かってくる。
「ティーチ様止まれ! 迎え討つ!!」
レリアはティーチを制止させ、腰の剣を抜刀する。
ティーチが先ほどお願いした二つ目の内容とは、敬語を止めてほしいというものだった。最初は渋っていたレリアだが、『仲間は敬語なんかで話さないんでござるよ!』という貞一の謎ルールに妙な納得を覚え、折れてくれた。
それでも様付けは辞めてくれないが、そこは諦めた。
「迎え討つって、また飛ばされてしまうでござるよ!?」
貞一の懸念の通り、ロックバードは前回同様ホバリングすると、恐ろしい勢いで翼を仰ぎ始めた。
「足を地面に埋めれば飛ぶことは無い!! 真似しろッ!!」
そう叫ぶレリアの足元を見ると、確かに足首ほどまで埋まっていた。前回体重が重い貞一は吹き飛び、逆に華奢なレリアが留まっていたのはこういうカラクリだったのだ。
「ええぇぇええ!! そ、そんなの真似しろってできるわけ・・・できたでござるぅぅううう!!」
えーこう!? と自棄くそ気味に地面に足を突き刺すと、思いのほか簡単に地面に足が埋まった。なんだか自分も化け物の世界に片足を踏み入れたみたいで、ちょっと嬉しい貞一。
「ぐぅぅうう!!」
強化魔法でも、顔に吹きつける風からは守ってくれない。余分な肉に包まれている貞一の顔は、突風のせいで酷い有様だ。頬は高速に振動し唇は捲れ歯茎がむき出し。顎に付いている弛んだ肉が波紋が広がるように震えている。本人はまじめに耐えているのだが、笑わせにきているような顔になってしまっていた。
だが、この突風。崖に吹き飛ばされることも危険だが、受けて耐えるのもまずい。風が強すぎて、うまく息が吸えないのだ。貞一は陸なのに溺れるような感覚を覚え、ギブアップ寸前であった。
「キュァァアアアアアア!!!」
ロックバードは突風攻撃で吹っ飛ばないことがわかり、怒りの声を上げ引いていく。あ、意識が・・・と気絶しそうになった貞一は、九死に一生を得た。
「はぁ・・・はぁ・・・、これで終わりでござるか?」
ロックバードは大きく旋回するように、貞一たちから遠ざかっていく。
「いや、まだだ。あの様子だと、頭から突っ込んできそうだぞ」
ロックバードの見た目から、3つの攻撃が予想される。1つは先ほど受けた羽ばたくことで起きる突風攻撃。残りはかぎ爪による攻撃と、鋭く尖った嘴での攻撃。
ロックバードが遠ざかっているのは諦めたのではなく、嘴を武器に突っ込むための助走をつけているのだとレリアが予想する。
「ど、どうするでござるか!? あんなのまともに食らえば、ただじゃ済まないでござるよ!!」
強化魔法でどれくらいの攻撃が防げるかわからないが、試したいとは思わない。
「私が首を斬り飛ばす! ティーチ様はロックバードの身体を受け止めてくれ!!」
「そんなの無理でござる!! 首を斬れても、嘴が拙者に突き刺さるでござるよ!!」
高速で飛翔する物体を斬ったところで、慣性まで無力化することはできない。レリアが上手く首を斬り落としても、そのまま貞一へとぶつかってしまうはずだ。
「大丈夫だ! 奴は迂回したことで山道沿いに突っ込んでくる! ティーチ様にぶつかる手前で、私が頭をどうにかする!!」
ロックバードの突風攻撃は、山道の側面からの攻撃であった。山道は細いため、側面からの突進攻撃であれば、レリアが首を斬り飛ばす前に嘴が貞一のお腹にぶち当たるだろう。
だが、ロックバードは助走のため迂回したことで、山道の直線状を進む軌道で向かってきている。そうした方が冒険者たちの逃げ場もなく一気に攻撃できるため、ロックバードとしても利点があるが、おかげでレリアが貞一にたどり着く前でロックバードの首を斬り落とすこともできる。
ロックバードは旋回し距離を十分稼いだ後、貞一たちに照準を合わせてグングン加速し迫ってくる。
「まずいまずいまずいでござるよ!! 無理でござるって!」
どんどん大きく見えてくるロックバードにパニックを起こしながら、貞一は無理だ無理だと首を振る。
「大丈夫だッ! 私を信じろッッ!!!」
そんな貞一にレリアが一喝する。
今までなら貞一に合わせて作戦を変えていただろう。撤退も視野に入れたはずだ。
だが、仲間であるなら、仲間だからこそ、信じて協力してほしい。
その思いを汲み取ったのか、貞一はうだうだ言うのを辞めた。覚悟を決め、地面に埋め込んだ足に力を入れる。
「・・・分かったでござるよ!! かかってこいでござるよぉぉぉおおおお!!!」
上空から降下しながら速度を上昇させるロックバードの速度は、優に時速300kmを超える。小型飛行機ほどもあるロックバードが自分めがけて猛スピードで迫りくる。その迫力は、気合を入れてもブルって腰が引けてしまうほど強烈だ。
それでも貞一はレリアを信じ、大きく腕を広げて受け止める姿勢を取る。
飛翔していたロックバードは違和感を覚えた。この山道を通っていた者は二人いたはず。しかし、ロックバードからは一人しか見つけられなかった。崖から落ちたのか逃げたのか。ロックバードは見つけられない敵を無視し、的の様に大きなお腹を広げた貞一に向かって加速していく。
ロックバードが山道擦れ擦れの超低空飛行で突っ込んできたとき、レリアが動く。
山道の隅で気配を消し、姿勢を屈め待機していたレリアの集中力は、極限に達していた。
「―――ッシィ!!!」
鋭く吐く呼吸とともに、レリアがすれ違いざまに剣を振り上げる。魔力が無いにも関わらず貞一よりも抜群に魔力操作の上手いレリアは、貞一から供給される魔力をふんだんに剣に纏わせる。
その威力は、筋肉が隆起しまるで岩のようにゴツゴツしたロックバードの首をたやすく切断する程。
だが、レリアの攻撃はこれで終わらない。
首を切断しロックバードが絶命しても、慣性は働き鋭利な嘴は貞一へと突き刺さってしまう。レリアは振り上げた剣を握り直し、剣の側面で斬り飛ばした頭を地面に叩きつけたのだ。
時速300㎞以上で飛翔するロックバードの首を正確に切断するだけでなく、通り過ぎた頭を叩きつけるなんて芸当は、まさに神業。
シルバー級の冒険者であるガドや、治癒姫親衛隊程度の魔力による強化魔法では絶対に成しえない技。
魔法使いである貞一の膨大な魔力と、その魔力を十全に活かせるレリアの技術。この二つが合わさってようやく至れる、無茶苦茶な力技による解決策。
ロックバードの頭を叩きつけたレリアは、勢いそのままに地面に這いつくばるように伏せる。頭上をもの凄い勢いでロックバードの胴体が通過した。
首を斬り落とされたロックバードの死体は、当初の予定通り貞一のお腹めがけ飛び続ける。一瞬でロックバードの首が無くなり、赤黒く生々しい切断面のまま迫りくる様は、パニックホラー映画もビックリの映像。
だが、ぶつかるのが怖くて目を瞑っている貞一には関係なかった。
ドチュリッという粘性のある液体がぶつかった感触がした瞬間、凄まじい衝撃が貞一を押し込む。踏ん張りが効かず、貞一は押し込まれてしまう。
10メートルほど押し込まれたが、そこで止まった。貞一はロックバードを受け止めることに成功したのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・、拙者、止めれたでござえええええええ!?」
受け止められちゃったよと驚きいっぱいで目を開けば、そこには首が無くなったロックバードの死体が。ヌチャァアアと糸を引きながら貞一のお腹から離れ地面へ横たわる。
せ、拙者のお腹硬すぎでは!? 拙者にぶつかって嘴も潰れてなくなっちゃったでござるよ!?
貞一のお腹が硬すぎてロックバードの嘴と頭がひしゃげたと勘違いする貞一。自慢しようとレリアを探せば、山道に首がめり込んでいるのが見えた。どうやらレリアが宣言通り、何とかしてくれたみたいだ。
「さすがティーチ様だ。よく止めた」
「レリア殿こそあんな疾かったロックバードの首を斬ってしまうなんて、凄いでござるよ!」
本当は斬るだけではないのだが、目を瞑っていた貞一に分かるわけもなかった。
「ロックバードはこのまま血抜きをしておいて、先に卵を取りに行ってしまおう」
最大の障害であるロックバードを倒した二人は、特に苦労もなく頂上にあったロックバードの巣へとたどり着き、卵を回収することに成功する。
ただ、その卵の大きさが凄かった。小さいバランスボールくらいはあるサイズなのだ。ロックバードの死体も持ち帰りたい二人は、泣く泣くレリアが一つだけ抱えて持ち帰ることに決めた。
最後まで何とか二つ持てないだろうかとレリアが四苦八苦していたのが面白かった。そして、岩山からみた絶景を、二人はきっと忘れないだろう。
◇
「「おっいしーーー!!!」」
二人は思わず顔を見合わせ、頬を綻ばせてしまう。
「ロックバードの肉まで頂けるなんてね。本当に、いつもありがとね」
そう言いながら、店主が追加で料理を運んでくる。
「今日は貸し切りにしているから、好きなだけ楽しんでいってくれるといいよ」
貞一たちが持ちかえったロックバードの素材と卵で、ギルドは一時期大騒ぎになった。
魔境は奥に行けば行くほど、魔物が強くなっていく。ロックバードの生息地は魔境の奥深く。つまり、ロックバードはネスク・テガロでも指折りの強さを持つ魔物だ。討伐難易度で言えば、ネスク・テガロの魔境で最も難しいといえるだろう。
魔物としての強さはもちろんのこと、制空権を握られての一方的な攻撃は凶悪だ。こちらの攻撃は当たらず、ロックバードは高速で一撃離脱していけばいいのだ。これを攻略するのは至難の業だ。
そのため、ネスク・テガロの歴史を見ても、ロックバードの討伐は数えるほどしかない。ネスク・テガロの魔境は中級規模で、高ランクの冒険者が少ないのも理由の一つではある。しかし、それを差し引いても討伐難易度がわかるというものだ。
ブーシィ率いる治癒姫も、空への攻撃が乏しいため見送ってきた敵でもある。
そんなロックバードの死体は、大変貴重なもの。羽毛は弓矢から最高級の寝具に羽ペン、装飾品に使用され、牙は鏃に、嘴や骨は軽くて丈夫なため盾や防具、武器の柄などにも使われる。
そして、ロックバードの肉は滋味に溢れた最高級食材。あの巨体の量の肉となると、いかほどの価格になるのか。
魔物一体で大金を稼ぐ。まさに冒険者ドリームに溢れる成果であった。
ロックバードは解体してもサイズが大きく持ち運べないと判断した二人は、内臓などの処理だけ済まして、馬車を貸し切りそのままネスク・テガロに運んだ。
馬車といっても屋根付きの豪華なものではなく、軽トラの台車が巨大になったようなものなので、ギリギリロックバードを乗せることができた。それでも、ロックバードははみ出てしまうくらいのサイズだった。
ロックバードを一目見ようと冒険者たちが群がってきたので、卵と一部の肉だけ解体し、ことりの卵亭へ避難してきたという訳だ。
「明日は久々に大変だろうなぁ」
嬉しさを滲ませながら、亭主は厨房へと戻っていく。
ロックバードの卵は巨大であり、二人で食べきれるサイズではない。なにせレリアが抱えるようにしなければ運べないようなサイズなのだ。
貞一たちがロックバードの卵をこのレストランに卸したことはすでに知れ渡っており、明日にはロックバードの卵を目当てに客が殺到することだろう。
「あぁ~~、オムライスめっちゃ美味いでござる~~~」
「この親子丼も凄いぞ。蕩けるようだ!!」
大はしゃぎで食べる二人。ひとしきり食べ終わりひと段落した時、明日の重要なイベントの確認を行う。
「明日はいよいよパーティ申請だな」
冒険者ギルドに登録する正式なパーティ。
基本的に、冒険者はパーティを組んで活動している。一人でできることには限界があるため、必然と言えよう。
「それで、パーティ名はどうするんだ?」
正式なパーティと臨時パーティとの大きな違いは、名前を付けて冒険者ギルドに登録すること。名前を付けるというのは認識されるということで、その効果は思っているよりも大きな意味を持つ。
「デュッフッフ。拙者、実は腹案があるのでござるよ」
そう言って、貞一はにちゃぁと笑い語り出す。
「この名前には、少数が多数を打ち砕くっていう意味が含まれているのでござる。レリア殿の剣術は少数も少数派でござろう。それを拙者たちが活躍し認めてもらい、評価を覆す。まさにぴったりな名前でござるよ!」
貞一は自信満々に、パーティ名を告げる。
「拙者たちのパーティ名は―――」
◇
翌日。
受付のピークを終えた頃、冒険者ギルド ネスク・テガロ支部に、二人の冒険者が入っていく。
「あ、ティーチ様だ」
「ロックバード討伐なんてすげーよな」
「ああ、まじで憧れるぜ」
彼ら二人を遠巻きに見ながら、周囲の冒険者たちはこそこそと話す。冒険者にとって実力こそ正義。アイアン級だからと貞一を侮るものなど、誰一人としていない。
「それにしても、いつまであの魔力無と組んでるんだろうな」
「誰も声かけないからじゃないか? 案外、俺とか行けそうじゃないか?」
「バーカ。お前じゃロストと大差ねぇよ」
実力こそ正義。だが、寄生しおこぼれを貰っている者を評価する者など、誰もいない。
貞一と仲のいい者たちは、貞一がレリアをべた褒めしているために、レリアを評価をしている。だが、大多数の冒険者たちにとって、レリアの評価は低い。
雑用係は欲しいが、魔境探索は一人で十分。下手に魔力の高い者を仲間にすれば、貞一が無双しても貞一だけの評価ではなく、パーティ全体の評価が上がってしまう。
だが、ロストの様な最弱であれば、話は別だ。先日のロックバード討伐も、冒険者たちに貞一とレリアのパーティによる討伐という認識は無い。彼らは貞一がレリアに強化魔法をかけているとは、これっぽっちも思っていないからだ。魔法使いに強化魔法をかけてもらえるのはこの上ないほど名誉なことであり、まさかロストがそんな栄光にあずかっているとは考えることすらない。だからこそ、ロックバード討伐は貞一単独の成果として認識している。
他のメンバーに評価がいってしまうことを忌避し、ロストを連れている。これが、冒険者たちが貞一に対して出している見解だ。
現に、二人はパーティを組んで数か月が経っているが、未だ正式なパーティとしてギルドに登録していない。普通ならとっくに登録して然るべき期間だ。
正式にパーティを組めば、成果はパーティのモノ、つまり二人の成果になってしまう。だからこそ、未だに臨時のパーティとして組んでいるのだろう。
今日この日まで、彼らはそう思っていた。
「クラシィ殿、正式にパーティを登録したいのでござるが、お願いできるでござるか」
一気にザワツク冒険者たち。耳をそばたて、聞き間違いではないか集中して会話を盗み聞く。
ざわついているのは、冒険者たちだけではない。貞一の専属受付嬢だと宣いているクラシィも、頬を引きつらせながら聞き返す。
「せ、正式なパーティとなりますと容易に解散することができなくなりますが、大丈夫でしょうか?」
「もちろんでござるよ!」
その返答を受け、クラシィは貞一の決意が固いことを理解する。
(落ち着きなさい。落ち着くのよクラシィ。ティーチ様が他の女と正式なパーティを組むのは許せないけど、相手はレリアさんよ)
最近妄想が行きすぎ、貞一ともはや付き合っているのではと錯覚し始めていたクラシィだが、嫉妬で狂いそうになるのを何とか抑える。
(そうよ! ブーシィ様のパーティに入ることに比べたら全然マシじゃない! むしろよかったと判断するべきよ!!)
あまり言いたくないが、ロストは総じて醜いとクラシィも思っている。容姿では圧倒的にクラシィに分配が上がり、かつコミュニケーション能力だって自分の方が勝っていると判断できる。
(これはピンチではなくチャンス。ティーチ様に他の女が寄り付かないようにするまたとないチャンス!! いいえ、これはティーチ様が私に配慮してくださった結果。迂遠な告白ではないかしら!!??)
クラシィはいつものように妄想を爆発させながら、そんな様子はおくびにも出さず、にっこり笑顔で受付を続ける。
「ようやく正式に登録されるのですね! おめでとうございます。それで、パーティ名はもうお決まりになりましたか?」
ざわつく冒険者たち。
妙ににっこにこの受付嬢クラシィ。
そんな彼らを気にせず、貞一は胸を張ってパーティ名を告げる。
「拙者たちのパーティ名は―――〝下剋上″でござる!!」
これにて第二章は終わりとなります。
活動報告にも投稿いたしましたが、第三章は3月上旬辺りから投稿する予定です。それまでこの作品を覚えていていただけましたら、とても嬉しいです。
最後に、感想をくださりました方、ブックマーク登録や評価をしてくださりました方、本当にありがとうございます。とても励みになっております。めっちゃ喜んでます。感想にも簡素ですが返信させていただきました。ありがとうございます。
感想、評価、ブックマークは、本当に執筆する上でとても大きなモチベーションとなります。していただけると、嬉しいなぁ・・・。




