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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第二章 魔境探索編

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ブサイク、立てたフラグをすぐさま回収する

 コボルトとの戦闘、もとい虐殺を終えた貞一たちは、睡眠草群生地に向かって探索を続けていた。


「ティーチ様、睡眠草群生地に着いたみたいです」

「本当でござるか!」


 レリアが指さす先に、同じ形をした草が生い茂っている。どうやら目的地である睡眠草群生地に無事たどり着けたようだ。


 目的地である睡眠草群生地はすぐそこだというのに、貞一たちは辺りを見回し、草の少ない場所を見つけてバッグを置き始めた。


 バッグからサラマンダーを捕獲した箱と同じくらいの四角いポーチを取り出す。中には蓋の付いた小さめの試験管が緩衝材を挟み等間隔に詰められていた。


 続いて手ぬぐいを取出して口元を覆うように縛り、簡易マスクを作る。


「拙者が先に採取に行ってみるでござる」

「わかりました。時間はまだあるので、無理せず早めに交代しましょう」


 簡単なやり取りを交わし、貞一は一人で睡眠草へ近づいていく。


 睡眠草はスズランによく似た形をした植物である。鈴のような形をした小さな丸い花が下を向くように咲いている。


 主に鎮痛剤や睡眠薬として使われる睡眠薬は、当然自然の状態でも眠りを誘う効果がある。


 採取するのは垂れ下がっている花の部分だけで、根元からハサミで切り落とす。このとき花は試験管に落とすのだが、すぐに蓋を締めないと採取した冒険者も眠ってしまう。


 睡眠草の花は切り落とした直後に強力な睡眠作用のある成分が溢れ、しばらくすると成分の放出は収まる。そのため、試験管内で睡眠作用の成分を充満させ、ゆっくりと花弁に浸透させることで、睡眠草の素材として使えるものになるのだ。


 当然、すぐに蓋を閉めても成分はある程度出てしまうわけで、ずっと採取を続けているといつの間にか眠ってしまう。


 睡眠草が取れる場所は魔境であり、危険な魔物も毒性の強い生物も豊富にいる。そんな場所で眠りこけるなど、死を意味する。


 それに、たとえ無事に起きれたとしても時間は刻一刻と流れるわけで、日帰りのはずが野宿することになり、どっちにしろ危険な状態に変わりはない。


 そのため、睡眠草を採取する場合、一人は離れた位置で待機し、採取中の仲間が眠ってしまった場合は引きずって睡眠草から離れ、気付け薬で起こす必要があるのだ。


 ちなみにこの気付け薬、とてつもなく臭い。眠ってしまった者に小さな瓶に入っている気付け薬を嗅がせるのだが、試しに嗅いだ貞一は涙を流しながらむせまくったものだ。


 アンモニアを嗅いだことがある人はそれを思い出してくれればいい。強烈さがわかってくれると思う。


 貞一は絶対に寝ないように気合を入れ、睡眠草採取に勤しんだ。




 ◇




「ぐふぉッッッ!!!??? ゲホッ!! ゲホッホゲホ! ペッペッ!! うぇ~きついでござる・・・」


 本日二度目の気つけ薬で目が醒める貞一。


「ティーチ様は無茶しすぎですよ。ちょっとでも瞼が重くなったら引いた方がいいです」

「分かってはいるんでござるが、気を付ける間もなく寝ちゃってるんでござるよ・・・」


 ベッドで横になりながらスマホをいじっていたり、コタツに入ってテレビを見ていると、気づけば寝落ちしていることがあるだろう。あれの数倍は早く眠りについてしまう。


 眠いとも思わず、瞼が重いとも思はない。どのタイミングで寝たのかも定かではないほど、簡単に寝てしまう。


「レリア殿はすごいでござるね。一度も寝てないのに、もう容器全部採取が終わっているでござる」


 ポーチには50本の試験官が入っているが、レリアはすでに全部の容器に睡眠草を詰め終わっていた。

 一方貞一はまだ10本くらい残っており、レリアの器用さと引き際の良さに舌を巻く。


「コツをつかめば大してことはないです。残りは私がやってくるので、少し休んでいてください」


 そう言って、レリアは貞一のポーチを掴んで睡眠草の下へ行ってしまう。


 レリア殿は凄いでござる。こんな右も左もわからない森の中をすいすい迷わず進めるでござるし、採取もほいほいしてくるでござる。


 貞一は立てかけていた槍を手に取り、不備がないか確認する。その切っ先は手入れが行き届いており、新品特有の一切傷の無い綺麗なものだ。


 ゴブリンキング討伐の時も結局使えなかったんでござるよね。レリア殿にお願いすれば魔物が出てきても速攻で片づけてくれるでござる。


 数刻前に貞一の魔法で倒したコボルトも、貞一が手を下さずともレリアがきっと瞬殺してくれた。村でゴブリンを殲滅したときのレリアを思い出せば、それが容易なことがすぐにわかる。


 だけど、それじゃダメなんでござる。冒険者として生きていくのなら、これはきっと避けては通れないでござるよ。拙者の覚悟が試されているのでござる。


 貞一のいう通り、冒険者として活動するならば、魔法にばかり頼っていてはいけないだろう。貞一の魔法は爆裂魔法で、対象を粉々にしてしまう。魔物の素材が欲しければ、やはり損壊の少ない殺し方が求められる。


 全てを仲間に頼るのも一つの手ではあるが、それは貞一のちっぽけな矜持が許さない。


 貞一が魔力を提供し、レリアが魔力を使って魔物を倒す。それは対等な関係であるはずだが、安全圏で女の子だけを戦わせるなんて、貞一にはできなかった。


 この世界ではみんなが平等に貞一を評価してくれる。何をやっても煙たがられた日本とは違うのだ。


 だからこそ、貞一はパーティメンバーのレリアとは対等でいたいのだ。魔力の付与が対等な関係というのは理解できるが、理解できても納得はできないというやつだ。


 だからこそ、拙者はこの槍で魔物を殺せるようにならなければいけないんでござる。頑張れ、拙者。


 一人槍を握りしめ浸っていると、レリアが残りの睡眠草を採取し終え帰ってきた。


 道案内から採取全般に至るまでレリアにおんぶに抱っこという現実を、貞一は全力で見ないようにしていた。


「レリア殿、拙者の分もありが―――」

「っし! 静かに。見てください」


 採取から戻ってくるや、身を屈めて睡眠草とは逆報告を指さすレリア。貞一も釣られてそちらを見ると、眼を細めてようやく見えるかどうかの距離で何かが動いているのがわかった。急いでバッグから単眼鏡を取り出し覗いてみれば、一頭の魔物がいた。


 それは薄緑色の四足獣。牛のような小さな角に、猪のような筋肉質の身体。まるでカモシカをごつくしたような見た目をした獣であった。


「魔牛です。生息は隣のエリアのはずですが、群れからはぐれたのでしょう」


 魔牛とは、魔境に住む牛のことだ。正確に言えば緑毛魔牛りょくもうまぎゅう


 緑毛は魔牛の中では最もランクの低い魔牛だが、家畜として飼われている牛よりも断然美味く、いい値で売れる。


 群れで活動する魔牛は何もしなければ大人しいのだが、一匹でも狩ろうとすると群れ全ての魔牛が襲い掛かってくる習性を持っており、下手にちょっかいをかけると冒険者パーティなど蹂躙されてしまう。


 罠で捕獲し他の魔牛がいなくなるまで様子を見たり、うまく数匹を誘い出して狩るなど、魔牛狩りにはテクニックがいる。


 貞一たちが見つけた魔牛は群れからはぐれてしまっているようで、辺りには仲間は見られない。


「こ、これはラッキーでござるよ」

「ああ。こちらにもまだ気が付いていないようだし、今のうちに仕留めたいですね」


 レリアが腰の剣に手をかけ身を低くし、今にも魔牛を殺しにロケットスタートを切ろうとしている。


 それを見た貞一は、慌ててレリアを止めた。


「待ってほしいでござる! あの魔牛は拙者にやらせてほしいでござるよ!」

「ティーチ様が?」


 貞一は槍を強く握りしめ、ここを正念場とする覚悟を決める。


「しかし、魔牛は肉も皮も使えるので魔法は使ってほしくないんですが・・・」

「大丈夫でござる! この槍で首を刎ねるでござるよ!」


 殺すにしても、ボロボロにして殺してしまっては意味がない。レリアならきっと首を切り落とすと思い、貞一も同じ方法で殺すことを宣言する。


 レリアに任せたほうがいいのは百も承知だが、狩り童貞を卒業するのならば早い方がいいと貞一は思っている。自分の性格上、次やればいいでござるは一生やらないと知っているからだ。


「・・・わかりました。私も後ろからついて行きます。他に魔牛を見つけたら殺すのは無しです。それでいいですか?」

「ありがとうでござるよ! 問題ないでござる!」


 仮に群れごとこのあたりにいれば、あの魔牛を殺せば厄介なことになってしまう。レリアの剣技と貞一の魔法があれば問題はないだろうが、初めての魔境探索のためレリアは安パイを選択している。


「では行きましょう。向こうが気づいたら即座に全力で仕留めてください」

「わ、わかったでござるよ」


 彼我の距離はまだ百メートル以上離れている。貞一はフードを目深に被り、腰を低くしながら出来るだけ音を出さないよう近づいていく。


 いつもはレリアが先導してくれるが、今回は貞一が道を選んでいく。時折樹に身を潜めながらレリアを振り向くと、軽く頷いてくれる。


 それを問題無いのサインだと受取り、貞一はなおも進んでいく。


「キュンッ」


 魔牛は草をむのをやめ、頭を上げ貞一たちに視線を定める。


「魔牛の警戒音です。これ以上近づくのは厳しいですね。他の魔牛は見られません。好きなタイミングで全力で駆けてください」


 魔牛のくしゃみのような警戒音にびっくりして止まった貞一は、正解だったようだ。これ以上近づけば全力で魔牛は逃げるだろう。


 やる。やるでござるよ。レリア殿は拙者のわがままを聞いてくれたんでござる。ここは成果を出してこそ男でござるよ!!


 握りしめた槍に力が籠る。そうしていないと、槍を落としてしまいそうだった。魔牛の首を刎ねるのをイメージしてしまい、無理やり力を込めないと腕に力が入らないのだ。


 軽く深呼吸し、息を整える。

 魔牛と貞一の睨み合い。

 先に動いたのは貞一だった。


「行くでござるッ!!」


 貞一のダッシュと同時に、魔牛も反転し逃げに徹する。群れであれば襲ってくる魔牛も、個では敵わないことを知っている。


 魔牛は牛よりも断然早く、足場の不安定な魔境でも全力で駆け抜ける。平地で過ごす人間では追い付けない、森に特化した獣の走り。


 だが、それはあくまで素の人間に限った話。身体強化によって底上げされている貞一は、容易に魔牛に追いつくことができた。


 ジグザグに樹々を避けながら逃げる魔牛の首に標準を合わせる貞一。


 行くでござる行くでござる行くでござるッ!!!


 震えてビビる気持ちを押さえつけ、槍を振りかぶる。


「ごめんでござるッッ!!!」


 槍を振り下ろす瞬間、貞一は目をつぶってしまう。そのせいで、槍が魔牛の首を切り落とす感覚が鮮明に伝わってくる。


 背骨を砕く硬質な感触。皮の弾力は、まるで固いゴムに刃物を突き刺したようだ。一度骨を砕き皮を切ってしまえば、あとは抵抗も弱くするすると刃が通っていく。最後に勢いよく振り抜けば、ブツリという感触が首を切り落としたことを教えてくれた。


 たたらを踏みながらなんとか止まる。振り返れば、倒れた衝撃で土を被った魔牛の首は無く、切断面からはプシュップシュッと未だ動いている心臓に合わせ血が噴き出していた。


 一斉に襲い掛かる虚脱感。こんなものかと思う感覚と、もう戻れないという気持ち。自分の手で直接殺すという感覚は、貞一の精神に多大な疲労を与えた。


「お見事です! さっそく血抜きをしましょう! 頭をお願いします!」


 駆け付けたレリアは即座に魔牛を担ぎ上げた。身体強化によって補正されているレリアは、自分よりも何倍も重い魔牛を担ぐと、すたすたと戻っていく。


 もし見落としていた魔牛がいれば襲われてしまうため、即座に離脱するのが正解だ。


 貞一は感傷に浸る間もなく、切り落とした頭の角部分を手に持ち、レリアの後を追った。


 この時の貞一は知らない。解体作業という地獄が待っているということを。




 ◇




 後日、貞一は語る。


 中途半端にやりますなどという発言は、自分を苦しめるだけなんでござる。行動する前の覚悟はただの強がりであって、行動した後に覚悟の真価が問われるのでござるよ。


 魔牛の首の切断面を下にした状態で木に吊るし、血抜きを行った。解体は魔境から出てからするため、血抜きが終わり次第貞一が担いで魔境を出ることになった。


 そこからのレリアは早かった。魔牛というレア食材を前に、ファイアサラマンダーを捕獲した以上のテンションで準備を進めていた。


 魔牛は群れで襲ってくるという特性上、あまり市場には出回らない。


 見つけるのが困難というわけではないため供給が無くなることは無いが、出回っても市民が口にできることなど滅多になく、高級レストランなどで提供される高級食材だ。つまりレア素材だ。


 それも今回貞一たちが探索した睡眠草群生地では見られない魔物のため、かなり運がいい結果であった。


 魔牛の血抜きをしている間に、魔牛の頭を解体することになった。


 魔牛の頭で取り出すのは角と舌。


「では、解体もティーチ様がやってみましょう」


 そう発言するのは、鬼教官レリア。えっ、とレリアの方を向けば、すでにその手には解体用ナイフや小型のノコギリが握られていた。


「まずは角から行きましょう」


 有無も言わさず貞一にノコギリを手渡すと、和牛の頭を押さえつける。生き物を直接殺した精神的疲労から半ば放心状態の貞一は、レリアに言われたことをトレースする機械と化していた。


 ギコギコと根元から魔牛の角を切り落とす貞一。感想は、意外に簡単に切り落とせるでござるなぁ。


 ここまではよかった。角を切り落とすのは、そこまで苦ではなかった。だが、解体の本番はここからだった。


「この魔牛は小柄だから頬肉は辞めておきましょう。次は舌を切り取ります」


 そういってナイフを手渡し、魔牛の口を大きく開くレリア。


「ここの部分を切って、口を開けてください」


 言われた通りに切る貞一。切るために魔牛の頬を掴んだ際、虚ろな生命を感じさせない魔牛の瞳と目が合ったのは、絶対に気のせいだ。


 指示された部分の肉だが筋を切ると、顎が外れたのかガパリッと口が大きく開いた。


「では舌を根元から切り取ってください」


 ここで、貞一は完全に思考を停止させる。ただ、レリアの言う通りに動く。そうしなければ、考えてしまえば、貞一のSAN値がまずいことになると本能で悟った。


 まだ温かい口の中。

 肉厚な舌の感触。

 ぶちぶちと繊維を切り取るナイフの感覚。


 そんなものは一切感じていない。感じていないったら感じていないのだ。


 心ここにあらずの貞一を無視し、レリアは摘出した舌を水で注ぎ、バナナの葉っぱのような大きな葉で包み容器に入れる。


 吊るしていた魔牛の首から血が出てこなくなったのを確認すると、切り口に同じく葉っぱで封をするように覆いヒモで縛った。


「それでは重いですがティーチ様お願いします」


 肩車をするように魔牛を背負い、貞一たちは帰路につく。


 旅の帰りは短く感じるように、放心状態の貞一も魔境を抜けるまではあっという間であった。


 早く解放されたいという思いから、貞一は休憩も挟まずに歩き続けた。レリアもそれに文句を言うこともなく、「早く解体したほうがいいですから!」とむしろ乗り気であった。


 貞一が茫然と歩いている間も、レリアは倒木を持ち上げてファイアサラマンダーがいないか探したり、薬草や素材の採取をしたり、襲ってくるゴブリンを始末したりしていた。


 往路では1度しかエンカウントしなかった魔物は、帰りは3回も襲って来た。魔牛に吸い寄せられたのか時間帯の問題なのか。その3回は全てレリアが瞬殺した。


 貞一は初めて襲われた時の様に取り乱したりなど一切ない。なぜなら心ここにあらずだから。ただただ前を進み、時折切断面を覆った葉っぱからポタリッポタリッと血を垂らす、この魔牛から解放されたい気持ちでいっぱいだった。


 無事魔境を抜けるも、そこからが本番。


 仮面をしているのににっこにこなのが伝わるレリアから解体ナイフを持たされ、解体開始。


 腹をかっぴらき内臓を取り出していく。赤に黒に白色の内臓たちを無心で取り出した後は、毛皮をはいだ。


 センスがいいだの、手際がいいだのレリアが褒めてくれるが、貞一の心には一切響かなかったとつづっておこう。


 解体を一通り終え沈みゆく夕陽を見ながら、貞一は『もうなんでもできそうな気がするでござるよ』と、悟った顔で呟くのであった。

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