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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第二章 魔境探索編

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ブサイク、現実を思い知る

 ここが魔境でござる。


 それが、貞一が初めて魔境を見た感想であった。


 数週間をかけて資料室でみっちり勉強し、依頼をこなして資金を集め、必要な物を買い揃えた貞一たち。購入した物は、貞一が想像していたよりもはるかに多かった。


 魔物の解体用工具をはじめ、素材保管用の袋と瓶数種類、単眼鏡、3日分の食事に保存食、丈夫な縄に鳴子と紐、厚手の手袋、タオル数枚、バスタオル兼防寒兼マットにもなるマント、虫除け用の特殊な粉、応急処置用の清潔な包帯と回復薬という名の塗り薬、武器の簡易手入れ道具、そして冒険者必須の魔道具3種に地図。


 貞一の初期装備であるリュックでは収まるはずもなく、バックパッカーのような大きなバッグも一緒に購入した。二人で分けて入れているためリュックに空きはあるが、魔境で採取した素材を持ち帰るためにパンパンに詰めることはない。


 それでも貞一が想像していたよりもずっと多く、改めて魔境は過酷な場所なのだと認識した。


 そんな貞一たちは、ネスク・テガロから歩いて半日ちょっとかかる魔境へ到着した。魔境を見た貞一の感想が、先ほどのもの。


 何を当たり前なことをと思うかもしれない。しかし、これは実際に見たことがある者にしかわからないだろう。


 一面の草原にポツポツ木が生えた景色が急に途切れ、まるで入るものを拒むように一面樹が生い茂る原生林が現れるのだ。違和感。ここは何か違うと肌で理解できる。風が吹いて揺れる樹の音や、鳥や動物の鳴き声が魔境の奥から聞こえてくる。まるで獲物を誘い込むように。


 夕暮れという時刻も合わさり、魔境の内部は暗く見通せず、ひどく不気味に感じられた。


「・・・一度戻って、野営の準備を始めてしまいましょう」

「そうでござるね。他の冒険者もいた場所まで戻るでござるよ」


 そう言うと二人は魔境へ背を向け、来た道を戻りだす。


 魔境を見てビビッて帰るわけではない。貞一がビビっている部分は当たっているが、元々魔境まで距離が離れているため、魔境近くで夜を明かし、朝から魔境へ挑む予定となっていた。


 魔境とネスク・テガロを往復する乗合馬車が一日二便あるが、初めての魔境は歩いていこうと決めたのだ。


 貞一たちは明日の朝から魔境探索を行い、夕方までに魔境を出る予定だ。今日と同じ場所で明日も夜を過ごし、明後日の朝にネスク・テガロへ向けて出発する。


 ほとんどの冒険者はこのスケジュールで魔境を探索している。もちろん、カッパー級やシルバー級にもなれば魔境深くへ探索することもあるため、魔境に泊まることもある。が、入りと出はだいたい同じだ。


 歩き始めて30分ほどすると、いくつかの小屋と冒険者たちが見えてきた。


 ここは魔境近くにある冒険者たち用の宿泊地だ。宿泊地といっても管理人がいるわけでもなく、小屋が数棟あるだけで他は草原が広がるのみ。草原では冒険者たちがすでに野営の支度を始めていた。


 小屋が数棟あるが、この小屋を使えるのはカッパー級以上で、アイアン級の貞一たちは利用できない。悲しいかな体育会系の上下関係は異世界でも変わらず存在していた。


 ただ、カッパー級やシルバー級だからといって必ず利用するというわけでもない。明日魔境へ探索する冒険者たちは、基本的に外で野営を行う。


 小屋を利用するのは、魔境で探索を終えたカッパー級以上の冒険者たちだ。彼らの多くは前日まで魔境で泊っており、十分な休養が取れていない。小屋で安心して休息をとることは彼らの冒険の終わりを意味しており、そのありがたさを他の冒険者たちも理解しているためだ。


 それだけでなく、彼らは魔境でたんまりと素材を採取している。採取した素材の状態を確認もしたいし、整理もしたい。だが、中には一攫千金の素材もあり、他の冒険者のいる場所で大々的にやるのはリスクがある。


 だからこそ、彼らには小屋が必要なのだ。


 アイアン級が探索できるエリアで高級なレア素材が取れることは稀なため、新人の彼らはへとへとで魔境から出てきても野宿が待っている。世知辛い世の中だ。


 貞一もその話は聞いていたため、野宿を選択する。


 黄色に塗装された小屋の方へ向かうと、小屋から十分離れた場所に荷物を下ろした。どうやら貞一たちの本日の宿泊場所はここにするようだ。


 小屋に近い場所を拠点にするのは、小屋の中の会話を盗み聞かれる可能性があるため、当然NGエリアだ。


 小屋はそれぞれ赤だの青だのと、カラーリングされている。これはネスク・テガロの魔境をエリア別に区分けした際に、小屋の色によってどのエリアを探索したかわかるようになっているのだ。


 貞一が選んだ黄色は、睡眠草群生地エリアを意味する色だ。睡眠草は貞一たちが明日の探索で採取する目的の花であり、新人が魔境探索を行うエリアとして有名な場所だ。


 そのため、黄色い小屋には誰かが入っている気配は感じられない。周りの小屋を見てみれば明かりがともっているものが多いことから、新人以外の冒険者には旨味がないエリアであることがわかるだろう。


 何故探索するエリアごとに冒険者たちが固まっているのか。それは野営の準備を始めた貞一に近づいている、この冒険者が教えてくれる。


「あ、あの、ティーチ様、初めまして。アイアン級冒険者パーティ『オレゴン』のリーダをやってますオレオです!」


 牛乳に浸すと美味しそうな名前の冒険者が、貞一に話しかけてきた。


 魔法使いである貞一に話しかけるのが緊張するのか、きょどきょどとせわしなく周囲を見回し落ち着きがない。頭を動かすたびに、焦げ茶色の巻き毛も同時にふわふわ揺れていた。


 貞一に話しかけてきたこの冒険者。彼はまごうことなき美少年だ。優し気な垂れ眼に小動物を思わせる仕草が、どこぞの出っ歯とは違い全面的に推せる。その気がない貞一をもその気にさせてしまいそうなビジュアルをお持ちの少年だ。


 よく見れば少年同様整った顔立ちの女の子二人が、少年の後ろに隠れるようにしながらちらちらと貞一を見ていた。


 ジュニアアイドルかよと思うほどかわいい女の子を二人も連れている少年に、ヤるなら徹底的に『攻める』しかないなと思う貞一。


「初めましてでござる。アイアン級のティーチでござるよ。そしてこちらが」

「アイアン級のレリアだ」


 貞一が振り返ると、いつものごとく短文の自己紹介を行うレリア。貞一が『コミュ力はレリア殿はまだまだでござるね』と謎のマウントを取りつつ振り返ると、バツが悪そうな顔でレリアから目を背けるオレオ君一行。


 貞一は知らないが、彼らはレリアが冒険者登録を行った日に、レリアからパーティに入れてほしいと声を掛けられていたパーティだ。結果はご存知の通り却下であり、それ故彼らは気まずげに目を逸らす。


 その様子に首をかしげながら、貞一はオレオたちが薄汚れていることに気づいた。


 ズボンの裾は土汚れや草をすり潰してできたと思われるシミがついており、転んだのか女の子の一人には土汚れが目立っていた。オレオも汚れた手で汗を拭ったのか、頬の当たりが汚れている。


 三人の草臥くたびれた雰囲気からもわかるように、どうやら彼らは魔境探索から帰ってきたようだ。


「あ、もしかしてデスゾーンの情報でござるか?」

「そ! そうです! 毒風船が見つかった情報があるのでお伝えしようかと!」


 そう。冒険者たちが探索するエリアごとに固まっている理由は、そのエリア探索を行った他の冒険者からデスゾーンの情報共有をしてもらうためだ。


 もちろん貴重な素材が取れる場所やおいしい狩場などの情報は秘匿されるが、死に直結するデスゾーンだけは些細な情報でも冒険者間で共有される。


 それだけデスゾーンは危険なのだ。


「えっと、場所ですが・・・」


 オレオたちが地図を出そうとしたところ、すでにレリアが察して地図を広げていた。レリアは仕事が出来る女なのだ。


「毒風船というとここでござるか?」

「あ! そこです! もう知ってたんですね!」


 昨日魔境へ行く途中にすれ違ったアイアン級の冒険者たちから、貞一たちはすでにそのデスゾーンについて聞いていた。万が一新たな毒風船であれば重要な情報のため、オレオたちの情報もありがたく聞かせてもらったのだ。


 ちなみに毒風船とは、辺り一面に毒をまき散らす花の名称だ。ラフレシアのような花がぷっくり膨らんだ蕾の状態で生えており、刺激を与えると毒とともに開花するというものだ。刺激を与えなければ毒を出さないため、デスゾーンとしては簡単な部類だ。


 膨らんでいる様子が風船のような見た目であったことから、そのような名前が付けられている。


 情報ありがとうと伝えると、彼らは顔を赤らめながら嬉しそうに去っていった。


 貞一と会話した多くの冒険者が、オレオたちのような態度を取ってくる。魔法使い=貴族という図式のこの世界では、きっと魔法使いは芸能人のようなものなのだろうと、貞一は思っている。


 ブサイクな自分にもあんな態度を取ってくれるのは、貞一がそんな有名人である魔法使いだからだ。娯楽の少ないこの世界では魔法使い=めっちゃ凄い人と置換され、無条件に尊敬されるのだろう。そうでなければ、ブサイクな自分にあんな態度を取るはずがない。照明終了。


 と、貞一は決め付けていた。深く考察せずに結論付けるのは、早漏がすること。あっ。


 悲しい事実が発覚したのは置いておき、毒風船のデスゾーンは貞一たちの予定経路からは外れているため安心だ。しかし、他にもデスゾーンが現れるかもしれないので、気は抜けない。


「少し早いでござるが、もうご飯にするでござるか」

「そうですね。明日は早いし、早めにいただくとしましょう」


 そう言って、レリアはバッグから袋に包まれたホットドッグを4つ取出し、貞一に2つ手渡した。


 荷物は手分けして持っており、レリアは食材など比較的軽いものを持っている。


 貞一が男を見せて解体工具など重い物を持っているのだが、身体強化魔法によって重さはほとんど感じていない。逆にレリアは強化魔法を受けていないにもかかわらず、大量の荷物を背負い一日歩き続けていた。


 貞一が意地悪で強化魔法をしていないわけではない。レリアが強化魔法を拒んだのだ。


 なんでも、強化魔法は力が強すぎてそれに慣れてしまうと普段の感覚までおかしくなってしまうから、大丈夫だと言うのだ。


 こんな大荷物を運ぶのだから普段ではないでござるよ! と言っても、レリアが拒むのだから無理強いはできない。


 結果、レリアは強化魔法を一切受けずに魔境まで歩き通した。貞一であればそれだけで精根尽き果てるが、レリアの様子はいつも通りだ。


 さすがに疲れてはいるようだが、明日の魔境探索には引きずらない程度だろう。


 これが若さでござるか・・・。


 貞一は眩しいものでも見るように、目を細めながらレリアを見る。


 レリアがすごいのはそれだけではない。


「ふぅ。陽が沈んでもまだまだ暑いでござるね」


 そう言って、貞一は額に浮いたラードを拭う。何度拭ったかもわからないほど今日一日で拭っているため、ハンカチはぐっしょりと濡れており、大変不快なため貞一は眉を顰める。


 現在の季節は夏。草木は燦燦さんさんと照り付ける日光を受けてぐんぐん背を伸ばし、虫たちは夏こそ俺たちの時代だと主張するように、そこかしこで跳びはねまわっている。


 身体強化魔法があるから疲れないとはいえ、そんな初夏の暑い日差しの中ずっと歩いていたのだ。モザイクをかけたほうがよいだろう貞一のハンカチの状態もしょうがないと言える。


 そんな中、なんとレリアは出会ったころと恰好が変わっていない。この暑い中フードを目深に被り、仮面まで付けている。


 顔を見せたくないのは十分に分かるでござるが、あれでは熱が籠ってしまうでござるよ。熱中症にならないといいでござるが。


 適度に水分と塩分をとるでござるよと、貞一が休憩をとる度に声をかけているため大丈夫だと思うが、それでも心配してしまう。レリアは貞一が心配するほど自分に厳しいため、疲れていても疲れていない振りをしているのではないかと思ってしまうのだ。


 疲れるのは自分がまだまだ未熟だからだ! もっと鍛えなければ! とか平気で思っていそうなのが怖い。どこの昭和スポコン漫画だとツッコみたくなる。


 貞一の方がレリアよりも一回りは年上なので、人生の先輩としてそういうところは気を付ける責任がある。


 レリアはいつも通りの格好であるが、貞一は当然夏仕様の服になっている。男の夏仕様の服など誰も喜ばないことは百も承知であるが、まぁ、ただのTシャツを着ているだけ。普段とそう変わらない格好をしている。


 だが、明日は違う。ネスク・テガロに来た初日に買った、ログという魔物の素材でできたフード付きのパーカーを着ることになる。


 この暑さの中、そこそこ厚手のパーカーを着る。


 それが如何に地獄であるか。デブでなくともわかるだろう。


 ではTシャツのまま魔境へ行くか。


 そんなことができるのは狂人だ。貞一が着るパーカーは防具なのだ。なぜ危険と分かっているエリアに防具無しでいけるというのか。


 強化魔法があるとはいえ、気持ち的な問題が躊躇ちゅうちょさせる。


 それだけではない。人の手が加えられていない雑木林の中にTシャツで行けるだろうか? いや、いけない。


 貞一は汗をきちんとハンカチで拭っていることからもわかる通り、綺麗好きなのだ。清潔を好む豚と一緒だ。


 そんな貞一は、服が汚れるのならば我慢できるが、素肌のまま雑木林の中を突っ込むなど怪我するとか以前に生理的に無理なのだ。


 それに魔境には猛毒を持った蟲だってたくさんいるのだ。パーカーという防御は、貞一の精神を護るうえでも重要な役割を担っている。


 そんな貞一の精神をガシガシ削るものはまだある。こんな草原の真ん中では、シャワーも浴びれないのだ。


 涼しい時なら我慢もできよう。だが、汗をダラダラかいた日にシャワーも浴びないなど、貞一には耐えられない。


 なまじ自分がデブで汗っかきで臭うということを自覚しているだけに、一緒にいるレリアに対し申し訳なさが凄かった。


 幸い魔道具の水筒のおかげで水に困らないため、身体を拭けるのがせめてもの救いだ。


 はぁ・・・。冒険って辛いでござるよ・・・。冒険者はキツイ、汚い、危険の3K職場でござった・・・。


 貞一の以前の職場はキツイは当てはまるが、汚くも危険でもなかった。だからこそまだやっていけたのだが、冒険者は残りの2Kも当てはまる3K職場であった。


 大して強くもない貞一のメンタルは、魔境に入る前から根を上げていた。


 もっと手軽に楽にできるモノだと思っていたでござる。明日、拙者頑張れるかなぁ・・・。


 貞一は残りのホットドッグを口に運びながら、星が煌めき出した夜空を見上げ、深いため息を吐くのであった。

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