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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第二章 魔境探索編

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ブサイク、手柄を横取りする

 びっくりした。びっくりしたでござるよ~。何だったんでござるか、あれは・・・。


 貞一は突っ伏したまま固まっているレリアの下へ走りながら、先ほど起こった一瞬の出来事を振り返る。


 本当に一瞬だったんでござるよ。拙者が強化魔法をレリア殿にかけた瞬間、ゴブリンたちの首がぽぽぽぽーんと飛んで行ったんでござる。


 ゴブリンの首がいくつか宙を舞ったと思えば、次はゴブリンたちの問答無用な両断死体。まるでダンプカーでも突っ込んでいったかのように、あれだけいたゴブリンたちは瞬く間に死体へと変わっていった。


 あれってやっぱり強化魔法のせいでござるよね? 魔法かけた瞬間にあの惨状が起こったんでござるし。


 貞一は手をグーパー開きながら、強化魔法発動による魔力量を確認する。


 やっぱり全然減っていないでござる。炎龍の牙たちへかけた時と変わらない量でござるよ。過剰に強化魔法をしたとかではないでござる。


 魔物との戦闘で強化魔法をかけたのは、ゴブリンキング討伐作戦以来であった。しかし、普段から街の子供たちにかけたりしているので、魔法に過度な魔力をつぎ込んだりしていない。そもそもそんなやり方は分からないのだが。


 う~ん、ゴブリンたちを殺す感じは同じでなんでござるが、何でござろう・・・疾さが違うんでござるよね。


 思い出すはゴブリンキングとの開戦時。何十匹もゴブリンたちが構えている中心に向かって、治癒姫と炎龍の牙一行はお構いなしに突っ込んでいき、血煙を上げながらその全てを薙ぎ払っていった。その時の様子とレリアがゴブリン無双する姿は重なる。


 疾さ・・・洗練・・・そうでござる! 洗練されていたんでござるよ! ガド殿がダンプカーだとしたら、レリア殿はF1マシンのイメージでござる!


 力こそパワーの剛の攻撃であるガドと比べ、貞一にはレリアの戦いは洗練された柔の攻撃に映った。


 やはり剣術によるところが大きいんでござるかね・・・。というか、強化魔法強すぎではござらんか? 拙者のピーキーな爆裂魔法より、よっぽど強い気がするでござるよ。


 そして、流れるような動きでゴブリンたちを始末し、最後の一匹に迫ったところで・・・


 離れすぎて強化魔法が切れてしまったんでござるよね。もともと離れていたのに加えて、レリア殿がガンガン攻められたでござるしね。ぼーっと立っていた拙者も悪いでござるし、どんどん前へ行ってしまったレリア殿も悪いんでござるよ。うん。


 貞一は自分のせいで転げまわり土まみれになったのではないと、心の中で言い訳をする。気持ちは貸した自転車で盛大にずっこけられた気分。悪くないとは思いつつも、事前説明もせずに強化魔法をかけてしまったことへの罪悪感。良かれと思ったことが裏目に出てしまった気持ちだ。


 もちろん、最後の一匹は貞一の魔法【フォカヌポウ】によって爆裂四散された。あのまま逃げると思っていたゴブリンが、まさか強化魔法が解けて無防備となったレリアへ逆襲をしようとしたときは、貞一は慌てふためきそれはもう傑作なものであった。離れた距離を急いで詰め、なんとか魔法が間に合ったので、全て良しとしようと思っている。


 そんな貞一のせいで土まみれで突っ伏したままのレリアの下へ、貞一は辿りつく。


「レリア殿、そのぉ大丈夫でござったか?」


 貞一が声をかけるも、レリアは茫然と肉塊となったゴブリンの残骸を見ている。


「お、怒っているでござるか? ごめんでござるよ・・・急に強化魔法をかけたりして・・・」


 炎龍の牙たちへ強化魔法をかけた時も、一度慣らさせてほしいと前日に練習していた。一流冒険者の炎龍の牙たちでさえ練習が必要なのに、初心者も初心者のアイアン級になったばかりのレリアに対し、それも戦闘中に魔法をかけるのはさすがに常識的によろしくないだろう。


 常識破りが異世界転移の醍醐味とはいえ、これでは無いとさすがの貞一も理解している。


 貞一がオロオロと話しかけるが、レリアに反応はない。


「ま、まさか怪我でもしたでござるか!? それはいけないでござる! 医者を! ブーシィ殿を呼んでこなければ! メディーーーック!!」


 レリアの反応の無さから大怪我でも負ったのかと考えた貞一は、先ほどまでの怒られやしないかと怯えていた様子から一転、えらいこっちゃと慌てだす。


 だが、そんな貞一を他所に、レリアはガバリと勢いよく起き上がったかと思えば、ギョロリと貞一を凝視する。仮面ごしのため表情は分からないが、その様子は異常であった。


 レリアは貞一の姿を捕らえると、起き上がった勢いそのままに、貞一へ詰め寄った。


「ひっ! ごめんなさいでござ―――」

「もう一度!! もう一度私に魔法をかけてくれ!! もう一度だけでいいから!!!」


 鬼気迫る様とはこのことを指すのだろう。何かにひどく怯えるように、震える手で必死に貞一に縋りついている。頼む、頼むと零れる言葉に意思はなく、うわ言の様に震える声を上げていた。


 その姿はまさに薬物中毒者のそれ。貞一は遥か昔の授業で見た、薬物に関する教育ビデオを思い出していた。


「レ、レリア殿?」

「―――ッハ!!」


 ようやく正気を取り戻したのか。貞一の呼びかけにビクリッと肩を震わすと、レリアは慌てて距離を取った。


「あ、いや、す、すみませんでした。あまりのことに気が動転してしまっていた。いや、いました。申し訳ないです」

「だ、大丈夫でござるよ。怪我がなかったようでよかったでござる」


 レリアから解放された貞一の心臓はバクンッバクンッと高鳴り、早鐘のように鼓動を刻む。動揺を気取られまいと落ち着いた振りを装うが、目が完全に泳いでいるため隠せていない。


 貞一が動揺している理由は、顔を隠すほどのブスとはいえ女性に迫られたから・・・ではない。


 恐怖。その一言に尽きる。


 突然もっと魔法を掛けてくれと迫られたのだ。そこに色っぽさなど何もなく、あるのはひたすら不気味な嫌悪感のみ。


 生気の無い声、震える肩、挙動の読めぬ行動。そこにときめきを覚える者がいたとしたら、それはとても深いごうに生きる住人のみ。ノーマルな貞一には恐怖でしかなかった。


 怖い・・・怖いでござるよ!! 何だったんでござるかあれは!? 子供たちも同じようなことは言うでござるが・・・ヤバさがダントツに違うでござる!!


 ちらりとレリアを見るも、顔を伏せ先ほどから微動だにしない。何か思案しているようにも見えるが、呆然と立ち尽くしているようにも見える。まるで薬物をキメてトリップしているような・・・


 まさか強化魔法には依存性があるのでござるか!? 強さゆえの対価でござるか!? やばい・・・やってしまったでござるよ拙者。子供たちが依存してしまったら拙者もしかしてお縄ではござらんか!?


 沈黙のレリア、きょどる貞一。そんな二人の気まずい時間はすぐに終わりを告げた。


「おーーーい!! もうゴブリンは全部殺してくれたのかーーー!!」


 声のする方へ振り向くと、警備をしていた村の男衆が集まりこちらを呼んでいる。


 ほいほいとこちらへ来て状況確認しないのは、まだゴブリンが潜んでいないか警戒しているためだろう。全員武器を持って村の入口で固まっているのは、貞一たちがやられた時を想定してのことだと考えられる。


 しっかり自分たちの身を護る行動をとっている村人たちに、改めて魔物は村人にとって脅威なのだと実感する。


 レリア殿を置いて村へ逃げていった時は、男ならもっと頑張るでござるよ! なんて思ったでござるが、彼らも彼らで護るモノがあるんでござるよね。


 ゴブリンとはいえ30匹。それも粗悪とはいえ剣や弓までこさえている。対する村の男たちは20人足らず。村の被害をできるだけ抑え、万が一に備えるのはとても重要なこと。


 そのために貞一たちを雇っているのだから、矢面に立つのは当然。文句を言うなど筋違いも甚だしい。


「片付いたでござるよーーー!!」


 貞一が村人に負けじと大きな声で返事をすると、周囲を警戒しながらも貞一たちのもとへとやってくる。


「ティーチさん、ゴブリンの討伐感謝するよ。あれだけの数のゴブリンを圧倒するとは、さすが魔法使い様だ」


 満面の笑顔とともに、村長が右手を差し出す。畑仕事で鍛えられた手はごつく、農具を扱うことでできたタコが彼の人生を物語っている。


 そんな手を、畑仕事など一度もしたことがないような、白くてぷにぷにぶよんぶよんな手で貞一は握り返す。ラーテラの時とは違い、男であれば貞一も緊張せず握手くらいできるのだ。


「拙者のおかげというより、ほとんどレリア殿が倒してくれたんでござるよ」

「いやいや、あれはティーチさんの魔法のおかげじゃないのかね?」

「確かに強化魔法はかけたでござるね」

「やっぱりそうか! あれが魔法使い様の強化魔法なのか! ロストでもあれだけ強くなれるとは・・・いやはや凄まじいものだな」


 自分の予想が当たり、嬉しそうにしたり顔で頷く村長。


「い、いや! 拙者は強化魔法を使ったでござるが、あれはレリア殿の力で―――」

「村長ーー! ゴブリンの死体なんだけどーー!」


 何故か自分の手柄になっていることを否定しようとした貞一だが、ゴブリンの死体処理をしている村人の声に遮られてしまう。


「む? 今行くからちょっと待っておれ! ティーチさん、すまないが少し村で待っていてほしい」


 村長はそう言うや否や、近くにいた少年と青年の中間くらいの子供へ、貞一たちを村へ連れてくよう指示し、ゴブリンの死体へ向かってしまう。


 あぁ、結局拙者の手柄っぽくなってしまったでござるよ・・・。実際ゴブリンを殺したのはレリア殿でござるし、嫌な気持ちにさせていたら申し訳ないでござる・・・。


 前世の職場では、貞一の成果は全て人のモノになっていた。評価が欲しいわけでも出世がしたいわけでもなかった貞一にとっては、その程度でいじめられないのであれば安いものだと思っていた。しかし、気分のいいものでは当然なかった。


 まさか拙者が人の成果を奪う時が来てしまうとは・・・。


 手柄を横取りしたようで、気まずい貞一。ちらりとレリアを見るも、先ほどから俯いているばかりで反応がない。


 レリア殿もなんだか怖いでござるし・・・拙者胃が痛いでござるよ・・・。トホホでござる・・・。


 貞一は胃の当たりをさすりながら、元気いっぱいに村へ案内してくれている少年の後ろをトボトボついていくのであった。




 ◇




 どうしてこうなったでござる・・・。


 ドスンドスンと道を踏みしめながら、貞一はネスク・テガロへの帰路を歩く。行きはあれだけ輝いて見えた景色も、今は灰色がかって見えてしまう。


 貞一の気が重くなっているのは、ゴブリン討伐後の村での出来事。


 少年に案内された貞一は、村長宅へとお邪魔した。村長宅は他の村民の家よりも広く、貞一のような図体のでかい男であってもなんとか入ることができた。


 案内されるままに腰掛け、お茶を出されるまではよい。何ら疑問に思うことはなかった。出されたお茶がそんなに美味しくなかったことを除けば。


 おかしいのは、レリアが座らず貞一の後ろに立ったままで、周りもそれが当然とばかりにお茶すらレリアに出さなかったことだ。


 レリアが立ったままなのは、百歩譲ってよい。転んだせいで衣服が汚れているからとか、貞一の横に座りたくないとか、何らかの理由があってのことだからだ。もし後者の理由であれば、貞一は二度と立ち上がれないほどのダメージを受けること必須。貞一の横っ腹が邪魔で座れない線も濃厚だ。


 とにかく、それは強要されたものではなく、レリアの意思によるものだからだ。


 しかし、お茶を出されないというのは、明らかに周囲から煙たがられている。ニコニコ顔で案内してくれた少年ですら気にしていない様子から、得も言えぬ不気味さが感じられた。


 貞一は勇気を出してレリアに問いかけた。座らないのでござるか?と。


 今までの貞一であれば言えなかっただろう。その場の空気を察知し、ただただ気まずげに沈黙を続けていたはずだ。


 しかし、異世界で磨かれたコミュ力が、後輩の女の子を護れと囁いてきたのだ。


 そんな勇気ある行動に対し、レリアの答えは無。無だ。いわゆる無視だ。そんな選択有りなのかと問いただしたくなるほどの無視。


 これには貞一の純潔の心(ピュアハート)も粉々に砕け散った。同情を禁じ得ない。『あ、あはははは・・・おおお、お茶頂くでござるね』と乾いた笑みでお茶をすする姿は、なんとも哀愁あいしゅうの漂うものであった。


 それが始まりだったのであろうか。


 村長が来るまでに村の子供たちが貞一たちのもとへ訪れてきた。案内に来た少年含めて貞一へ話しかけてくるのだが、ただの一人もレリアへは声をかけない。まるでいない者のように扱うのだ。


 拭い難い違和感にさいなまれながらも、先ほどのダメージが回復していない貞一にはどうすることもできなかった。


 ゴブリンをどうやって倒したのー?とか、やっぱり魔法使い様はすごいね!とか、貞一への賞賛の嵐。レリアが倒してくれたと言っても誰も信じてくれず、魔法使い様のおかげだね!と村長と同じ結論に至る始末。


 何を言っても拙者の手柄になるでござるよ・・・と悩んでいると、村長がやってきた。その時も当然のように貞一には称賛の嵐と労いの言葉をかけ、レリアには冷たい一瞥いちべつをしただけ。


 大量のゴブリンの死体にホクホク顔の村長と、『そっか・・・肥料・・・』と出されたお茶の成分が気になり口を付けなくなった貞一が、依頼達成の手続きを行った。


 手続きは簡単で、依頼時に冒険者ギルドから渡される依頼達成の証となる木片を、依頼者が冒険者へ渡すだけ。冒険者はその木片をギルドに渡せば、報酬を受け取れることになっている。


 今回の依頼は、内容に対して報酬が多い、おいしい依頼だ。報酬が多い理由は、ゴブリンの死体の買い取りが含まれているためだ。魔境でゴブリンを倒しても、スルーするのが普通だ。肥料としての価値はあるが、大した金額にもならないのにかさ張る汚いゴブリンの死体を運ぶなど、それこそ依頼でなければしないだろう。


 だが、村であれば死体は村人たちが処理してくれ、冒険者たちは触る必要がない。普段は捨てる死体が金になるのだから、冒険者にとってはありがたい限りだ。


 さらに、30匹とはいえ相手はゴブリン。しっかり装備を整え魔力による強化魔法を駆使すれば、恐れるほどではない。アイアン級にとっては、経験値稼ぎにちょうどよい相手と言える。


 そんなおいしい依頼は当然人気があり競争率が高いのだが、魔法使いである貞一が受けるのならば誰も文句は言わない。受付嬢であるクラシィが直接依頼の紹介を行ったことに加え、ロストとパーティを組んだ真相の情報料だと思えば安いものだ。


 そして、村長がホクホク顔なのは、大量の良質肥料ゴブリンが安く手に入ったからだ。


『ゴブリンの討伐をしてほしい』と依頼しようにも、何体のゴブリンがいるのかなど、ただの村人が把握することはできない。そのため、過去の事例からおおよその数字を割り出し、決め打ちで依頼金が設定される。


 今回ギルド側で設定したゴブリンの数は15匹。魔境との距離や、周囲の似た条件の村での過去の討伐数から出された数字だ。


 この数字よりも当然少ないこともあるが、そこは博打の要素。後から依頼金を引き下げることはできず、当然数が多かったからといって冒険者側も依頼金を引き上げることはできない。


 もちろん、相手にゴブリン以外の魔物、例えばホブゴブリンなどがいた場合は別だ。依頼主が依頼金惜しさに虚偽の依頼をしていた場合は、今後その村からの依頼は全て断られるという厳しい罰が下される。一方、イレギュラーに発生したと判断された場合は、冒険者へギルドから臨時手当が支給されることとなる。


 今回30匹と倍のゴブリンが現れたが、問題なく対処できたことも踏まえ、臨時手当はもらえないだろう。しかし、ギルド側の想定が甘かったとし、依頼金に対するギルド側の取り分は冒険者の物となるのが通例だ。ちょっとした危険手当のようなものだ。


 ゴブリンの数がギルド側の予想と大きく乖離かいりしたのは、魔王であるゴブリンキング発生が原因である。


 ゴブリンキングによって魔境での地位が上がったゴブリンたちだが、キングがいなくなったことで後ろ盾が無くなってしまった。そのツケが周ったことで魔境での居場所がなくなり、結果魔境の外へ遠征しなければ食事にありつけなくなったのだ。


 そんな背景もあり、少ない依頼金で大量のゴブリンが手に入った村長は、ご満悦というわけだ。


 依頼達成の木片を受け取った貞一は泊っていかないかという村長の提案を丁寧に断り、帰路について今に至るというわけだ。


 貞一が困惑している理由がわかっただろうか?


 答えは手柄の横取り。


 貞一がレリアをどんなに立てようとも周囲はそれを全否定し、最後には貞一凄い!となるから不思議。よしんば貞一の強化魔法によるところが多くとも、せめて二人の手柄としたい。


 村人のレリアの接し方が、『魔法使いに寄生するロスト』というのが明け透けに見えるのが、貞一の胃を傷める原因となっていた。


 う~~・・・、やっぱり気分悪いでござるよね・・・。レリア殿はずっと黙っているでござるし、怒っているのでござるよ・・・。気まずいでござる。


 何とか会話しようとするが、話題が思い浮かばない。今まで人と話さないで生きてきた貞一にとって、そうポンポン話せることなど天気の話位しかないのだ。


「・・・最後のゴブリンは、ティーチ様の魔法で殺したんですか?」


 貞一が頭を抱えうんうん話題を捻りだそうとしていた時、なんとレリアの方から話題を提供してくれた。機嫌が直ったんでござるか!?と、これには貞一ももろ手を挙げて話題に乗っかる。


「そ、そうでござるよ! あれは拙者の魔法でござる!」

「そうか・・・。やはり、魔法とはくも強力なものなのですね・・・」


 そう言って、また黙り込んでしまうレリア。しんみりとし、気まずいというよりも暗い空気が流れる。


 貞一は爆裂魔法を、地味な魔法だと思っている。魔物が爆裂四散するのはインパクトはあるのだが、如何いかんせん魔法で攻撃した感が薄いのだ。相手を氷漬けにしたり炎で燃やしたりする攻撃魔法の方が、はるかに魔法っぽさがある。いきなり爆裂四散しても、びっくりするだけだ。


 だからこそ、レリアにとって貞一の魔法はどのように映ったのか、貞一にはわからない。もしかしたら思ってたよりも地味な魔法で、がっかりしてしまったのだろうか。


【くぁwせdrftgyふじこlp】ならもう少し派手さを演出できるのでござるが・・・。強化魔法を使わずにこちらを使えばよかったでござるかね。


【くぁwせdrftgyふじこlp】は貞一の持つ範囲攻撃魔法だ。数十匹のゴブリンがいきなり爆裂四散すればあたりには血煙が舞い、スプラッタ映画ばりの現場に早変わりする。


 貞一はそれを、キング討伐時のゴブリン掃討の時に経験済みだ。あの戦いがあったおかげで、貞一のグロ耐性は格段に上がったといえる。


 ああーー! またこの空気でござるよ! レリア殿が話しかけてくれたのだから、次は拙者が頑張る番でござる!!


 この流れを切ってはいけないと、貞一は何とかレリアに話しかける。


「す、すまなかったでござるね」


 突然の貞一の謝罪に、俯いていたレリアは顔を上げ貞一を見る。


「急に戦闘中に強化魔法をかけてしまったでござるよ。事前に練習しておくべきでござったね」


 貞一がずっと気にかけていたことを、いきなり切り出す。


 練習もさせずにいきなり魔法をかけてしまった。そのせいで効果範囲外に飛び出たレリアは転んで泥まみれになり、あわやゴブリンの凶刃の餌食になるところであった。


 大事がなかったからこうやって話せている。ここは異世界で、救急車もドクターヘリもない。貞一に怪我人への治療の心得があるわけもなく、また医療セットも持ち合わせていない。あんな粗悪な剣で斬られれば、破傷風になる可能性だってあるのだ。


 命の危険がある。これについて、貞一の認識はまだまだ甘かったと言わざる負えない。


 事前に強化魔法の練習を怠ることもさることながら、ゴブリンと対峙した際の対処方法。ゴブリンをどのように見つけるかもそうだし、何匹討伐すればよいのかの確認など、準備から戦闘に至るまでの諸々に甘さがある。


 命がけの依頼ではなく、ちょっくらゴブリンでも殺してくるかという気楽さが透けて見えるのだ。死ぬかもしれないと本当に理解していたならば、入念に執拗に丹念に準備をしていたはずだ。


 怪我を負った場合はどうするか。ゴブリン以外の魔物がいたらどうするか。その場合、ネスク・テガロの魔境に生息する魔物の中で、何が現れる可能性が高いのか。すでに村が襲われていたらどうするか。数匹が逃げてしまった場合は、どうすればよいか。貞一の攻撃魔法が効かない相手がいた場合はどうするか。逃げるのか戦うのか。逃げるのならどうやって逃げるか。ゴブリンと戦う時はどういった戦略で戦うか。ゴブリンが現れなければ、何日村で待機しなければならないのか。その間の食料はどうするか。ゴブリンが隠れ潜んでいた場合、どうやって発見するか。


 考えることは無数にある。けれども、その多くを貞一は無視して行動していた。


 貞一は甘く見ていた。ゴブリンの怖さを知っていたにもかかわらず、だ。初めてのパーティでの依頼に浮かれていたでは済まないのが、冒険者という職業なのだ。


 貞一はそのことを痛感し、レリアへ謝罪する。


「な! ティーチ様が謝ることではないです! 強化魔法を掛けていただけるような光栄を授かったにもかかわらず、活かしきれなかった私のせいです!」


 先ほどまでのしんみりした様子はどこへ行ったのやら、レリアは慌てて貞一の謝罪を訂正する。その様子は本心から言っているのだろう。声には焦りと悔しさがにじんでいた。


「依頼も詳しく調べていなかったでござるし、総じてダメダメでござった」

「それを言うのなら私にだって責があるでしょう。ティーチ様のせいではないですよ」


 レリア自身、自分が突出した動きをしてしまった反省がある。力を見せようと、貞一を待たずに突っ込んでいったことだ。


 立ち回れる自信があったからの行動ではあるが、貞一が来てからでも問題はなかった。功を焦った結果だ。その点も踏まえ、レリアも謝罪する。


 私が悪い。いやいや拙者が。と、押し問答が繰り広げられる。お互いが一歩も引かず、謝り合いの大会となった。


 そんなことを続けていたら、先ほどまであった暗く重い空気はいつの間にか無くなっていた。


「「ぷっ、アハハハハ!!」」


 それまでの空気のギャップのせいだろうか。二人同時に笑い出す。何が面白いのかわからないが、何故か面白かった。


「―――はぁ。おもしろいでござる。わかったでござるよ。お互い初めてのパーティでの依頼でござったのだし、お互い様ということにするでござる」

「ああ、そうしましょう。お互い様です」


 そういったレリアは、どこか吹っ切れた感じがした。


 貞一はレリアが強化魔法のせいで機嫌が悪くなっていたわけではないことが知れ、一安心だ。


 やっぱり、村の人の態度のせいだったんでござろうか? あれは異常でござったからね。レリア殿が魔力無ロストなのがきっと関係してるんでござるよね。聞きたくもあるでござるが、辞めとくでござるか。拙者も聞かれたくないことは多いでござるし。


 ロストについて貞一が知っていることは少ない。魔力が全くないことと、超絶ブサイクということ。


 魔力が無いことはどうでもいい。魔力の無い日本で生まれ育った貞一にとって、それがどこまでマイナスなのか理解できないからだ。


 しかしブサイクについては、一家言ある。それは貞一が生まれてからこの方苦しみ抜いてきたことだからだ。その苦しみは人一倍理解できる。


 貞一が思うに、レリアはギャップによってブスさに磨きがかかるタイプだと踏んでいる。


 レリアは顔以外完璧に近いのだ。美しくスレンダーなプロポーション。凛と響く風鈴のように澄んだ声。武術の影響か、立ち姿から所作一つとっても美しい。これで顔がブスなのだ。酷いギャップと言わざる負えない。


 陰があるからこそ光が輝くのとは逆に、顔以外ひかりが眩すぎることでブス(かげ)が限りなく濃く見えてしまうのだ。


 レリアは仮面をしているため、貞一は素顔を拝んでいない。しかし、ロストは総じて目を覆いたくなるほどのブサイクという情報と周囲の態度から、レリアが仮面で隠さざるおえないほどのブスだということを、貞一は確信していた。


「これは聞いてもいいのかわからないですが、何故最後に強化魔法を解いたのですか?」


 疑問に思っていたのだろう。レリアからそんな質問が出た。


 おっと、そうでござるか。レリア殿にとって、あれは拙者が意図的に強化魔法を解除したと思っているのでござるか。この誤解は解かなければ! 後々大きなしこりになるでござるよ!!


「あれは拙者が解除したんじゃないでござるよ! 強化魔法は、拙者から離れすぎると解除されてしまうんでござる」

「ああ、そうだったのですか。何か意図があってのことかと思っていたのですが、私が突出しすぎただけだったのですね」


 納得がいったようにレリアが頷く。貞一がぼうっと突っ立っていたから解除されてしまったともいえるが、どうやら責めるつもりはないらしい。そもそも、そういった発想に至っていなさそうだ。


「拙者も正直詳しくはわかってないんでござるよね。これくらいの距離かなぁって感覚だけでござる」

「ティーチ様でもわかっていないのですか。ですが、あれは凄まじい力でした。この経験は、生涯の自慢とさせてもらいますよ」

「そんなにでござるか?w これからも強化魔法は使っていくでござるし、レリア殿もすぐに慣れるでござるよ」


 ピタリッ。

 貞一の発言を聞いたレリアは、突然歩を止め固まってしまう。


 横を歩いていた貞一は当然気が付き、怪訝そうにレリアへ振り返る。


「どうしたんでござるか?」

「さっき・・・さっき何て言いました?」


 疑問に対し疑問が返ってくる。言葉自体はキツイが、レリアの声音は縋るようなもの。まるで、必死に考えないようにしていた夢のようなことが、現実になったことを再確認するような、そんな声音。


「さっきでござるか? 強化魔法はこれからも使うでござるし、レリア殿も慣れるって言ったでござる」


 変なことは言っていないと、貞一は返答する。しかし、レリアは固まったまま動かない。


「あ、分かっているでござるよ! 安心してほしいでござる! 拙者も効果範囲をちゃんと把握できるように、練習するで―――」

「そ、それは!!」


 興奮した様子のレリアが、貞一の言葉を遮った。その様子に貞一はビクリと震えるが、黙ってレリアに続きを促す。


「それは・・・またパーティを組んでくれるということですか?」

「へ?」


 何事かと身構えていた貞一だが、質問の意図がわからず気の抜けた返事をしてしまう。


 それをどう受け取ったのか。レリアの興奮は消え、落ち込みを誤魔化すように先ほどの質問を撤回する。


「あー、いや、すみません。勘違いしていたようですね。今のは忘れてください」

「いやいや、ちょっと待つでござるよ。またって、このパーティ解散するんでござるか?」

「え?」


 何やら会話がかみ合わない様子。


「いいでござるか? 拙者とレリア殿はパーティを組んでいるでござるよね?」

「ええ」

「それなら、次の依頼もパーティだから一緒に受けるでござるよね?」

「だから、私はロストですよ? パーティを組むのはこの一回だけではないのですか?」


 ロストだと一回だけのパーティになるんでござるか? と悩む貞一。


 少し考え、思い至る。ロスト=超絶ブスの私とまだパーティを組んでくれるのか? ということだろうと。


 超絶失礼な話だが、貞一にはその考えが痛いほど理解できた。なぜなら貞一も超絶ブサイクだからだ。ブサイク of ブサイク。ブサイク世界代表として、この異世界の地へ降り立ったのだ。


 貞一のようなブサイクにとっては、自分に自信など欠片もなく、善意を向けられるとまず疑ってしまうのだ。何か裏があるのではないか、と。


 レリアにとって、パーティを組むのは善意として受け取られるのだろう。魔法使いはこの世界ではチートポジションなのだから、当然と言えば当然か。


 ネトゲを始めたばかりの頃、クエストのパーティを募ったらベテランが来て手引きしてくれた感謝を、貞一は忘れたことがない。レリアの気持ちも、これに近いモノがあるのではないだろうか。


 当時を思い出し、貞一は郷愁きょうしゅうに浸りながらも、レリアへしっかり返事をする。


「ロストも何も関係ないでござるよ。レリア殿のゴブリンとの戦いは見事であったでござる! 剣術の凄さを思い知ったでござるよ! 拙者の強化魔法が合わされば、鬼に金棒でござる!」


 ドンッとひとつ胸を叩いて、頼れる男を演出する。しかし、日本のことわざである『鬼に金棒』がレリアに伝わっていないことを貞一は知らない。


 だがニュアンスは通じたのだろう。その言葉を噛みしめるように数秒の間を置き、レリアも貞一へ応える。


「・・・ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

「もちろんでござるよ!」


 貞一は満面の笑みで快諾する。ゲームで受けた恩を返しているようで、貞一も嬉しかった。


「ああ、世界は広いな」

「んん? 当然でござる! いろんな景色を見に行くのでござるよ!」


 レリアが零す様に言った独り言に、貞一は返答する。『そのために、報告したら特訓でござるよ!』と息巻きながら進んでゆく。そんな貞一の後ろを付いて行きながら、レリアはそっと仮面を外し、涙を拭うのであった。

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