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ブサイク男の下剋上~ブサイクが逆転世界で、賢者と呼ばれるまでの物語~  作者: とらざぶろー
第二章 魔境探索編

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新人冒険者、パーティメンバーを募る

 ネスク・テガロは、ディーエン侯爵家を筆頭とする東領の中でも賑わいを見せる大きな都市だ。王都へ続く街道の近くに位置しており、他の都市間を結ぶ街道が交差した場所にあるため、様々な物や人が行きかっている。


 賑わっているモノの中には、当然冒険者も含まれる。


 都市とは、魔境の近くに築かれるもの。魔境の恩恵を受け、人々は生活しているのだ。


 魔境での探索はもちろん、魔境近くでは魔物も出現することがあるため、街道の警備や護衛など冒険者にとって多くの仕事がある。それ故、魔境の大きさに比例して冒険者の質も高くなり、ネスク・テガロでは中堅ながらも粒ぞろいの冒険者がそろっていた。


 残念ながらゴールド級は存在していないが、シルバー級冒険者は5パーティと、中級の魔境を抱える都市としては多い。


 ギルド長によってはシルバー級は魔力量が一定以上必要という項目を設けたり、魔力量が多ければ昇級しやすいという優遇をしている都市もある。しかし、ネスク・テガロの冒険者ギルドのマスターであるラーテラは、魔力量はあくまで目安とし、しっかりと能力を見極めて昇級させている。


 これが、他の都市よりもシルバー級の質は高いと言われている所以ゆえんだ。


 この方針はラーテラが現役時代、魔力量から不当な扱いを受けた者たちを見てきたことに起因している。


 ラーテラは元シルバー級の冒険者であるが、シルバー級へ成れたのは魔力量が低い者たち―――ロストに教えてもらった剣術があったからだ思っている。魔力量が多い者たちほどそういった小手先の技術を毛嫌いするものだが、ラーテラは技術こそが人を強くすると信じているのだ。


 しかし、国家の方針は魔力量に依存した戦闘を推奨している。一都市のギルド長風情が、その方針を真っ向から否定することはできない。ラーテラは技術こそ人を高めると信じていながらも、それを提唱することができない歯がゆい思いをしていた。


 しかし、それでもやれることはやっている。ラーテラがギルド長を務めるようになってからは、魔力量に依存した戦いを好み、技術どころか知識さえ持ち合わせていない者の昇級は無くなった。


 逆に、今まで見られていなかった魔力量が少ない者でも、しっかりとした技術と知識があれば正当に評価されるギルドをラーテラは作り上げたのだ。


 それは魔法使いであり侯爵家の令嬢であるブーシィも同様だ。最初こそ、魔法使いの自分をアイアン級にしておくなんてどこのどぐされ者じゃゴリャァ!! と怒り心頭であったが、ラーテラの話を聞いて説得され、その生き方を是として認めたほどだ。


 ブーシィは『魔法使いほど魔力量があれば技術なんて関係ない』と今でも思ってはいるが、ラーテラの意思を貫く姿勢は気に入り、嫌うどころかラーテラを慕っているくらいだ。


 そんなラーテラがギルド長を務めているため、魔力の乏しい者たちはネスク・テガロの冒険者ギルドを目指す。不当な評価ばかり受けてきた者たちが、自分たちを正当に評価してもらうために。


 そしてここに一人、自分が信じた剣術は間違っていなかったことを証明せんとする女性がいた。


(ここが母さんが言っていたネスク・テガロの冒険者ギルド・・・。さすがに大きいな)


 女性の名はレリア。魔力が全てにおいて優先されるこの世界で、魔力無し(ロスト)として産まれた欠落者。


(魔力が無かろうと力があればのし上がれる・・・か。私たちの剣が弱者の剣ではないと証明するには、ちょうどいい場所だな)


 彼女は腰にいている母の形見の剣を一度撫で、決意を秘めてギルドの扉を潜っていった。




 ◇




「以上で冒険者のランクについての説明となります。何かご質問はございますか?」

「いや、大丈夫だ。その、とても分かりやすかった」


 レリアはにこやかに笑みを浮かべて説明してくれている受付嬢を見て、たじろいでいた。


(私の顔を見ても目を逸らさず普通に話しかけるなんて・・・っと、そうだった。今は仮面を付けているのだったな)


 レリアは醜い顔を隠してくれている仮面を思い出す。


(それでも、髪と肌の色でロストとはわかっているだろうに・・・さすが受付嬢と言うべきか)


 魔力が高ければ高いほど容姿が優れ、逆に魔力が少ない者ほど醜い容姿となる。それを証明するように、レリアのような魔力が完全に無いロストは、醜悪な容姿の者しかいない。それこそ、道行く人々が思わず二度見し、汚物を見たような眼を向けてくるほどに。


 魔力が他よりも著しく劣っている者たちは、100人に1人くらいの割合で存在する。彼らはロストなんて呼ばれることもあるが、それは間違いである。ロストとは魔力無し(ロスト)のことを指し、微量だが魔力のある彼らは正確にはロストとは呼ばない。しかし、ロストと一括ひとくくりにされて呼ばれているのが一般的だ。


 そして、レリアのような完全に魔力が存在しない、魔力無し(ロスト)は珍しい。それこそ、一つの都市に1人いるかいないかのレベルだ。


 物珍しいロストであるが、見分けるのは至極簡単。それは、ロストに3つの外見的特徴が存在するからだ。


 老人のような白髪、ゴブリンのような尖った長い耳、そして薄汚れた褐色の肌。当然レリアもこれらの特徴が当てはまっている。仮面をしフードを目深に被ろうとも完全には隠せないため、ロストだと見分けられてしまうのだ。


 魔力を全く持っていないおぞましい容姿のロストであるレリアを見た者は、大概が侮蔑・嘲笑・憐みと言ったマイナスな視線を向けてくる。


 だが、目の前の受付嬢は違う。しっかりとこちらを見つめ、笑顔を絶やすことがないのだ。


 受付嬢は女性の憧れの職の一つだ。これだけ大きな街であれば、容姿だけでなく能力も重要視されるのか、とレリアは感心していた。この受付嬢は一流の受付嬢だと。


「ではこちらがアイアン級の証であるプレートになります。身分を証明するだけでなく、万が一(・・・)のときの身元確認にも使われますので、必ず身に着けていてくださいね」


 レリアは礼とともに、冒険者の証であるプレートを受け取った。プレートの表にはレリアという名前、裏にはネスク・テガロの文字が彫られている。


 プレートにはチェーンが付いているため、外れて無くさぬよう首にかけて服の中へしまう。その様子を見て、受付嬢が声をかけた。


「プレートは相手の実力を測るものでもありますので、ギルド内では周りに見えるよう出しておくことをお勧めいたします。パーティを組む時など、声をかける時の参考になりますので」

「なるほど。そんな意味もあるのか。そうするとしよう」


 服の中にしまい込んだプレートを、周りから見えるように取り出す。


 冒険者がパーティを組むのは、基本的に同じ強さの者同士だ。レリアがアイアン級であることがわかるようにしておかなければ、他のアイアン級がレリアに声を掛けにくくなってしまう。


「以上で説明は終わりとなります。何かお聞きしたいことはございますか?」

「パーティに入りたいんだが、どこかメンバーを募集しているパーティは無いか? それと、パーティの組み方なども教えてほしい」


 レリアは自分の剣術に自信を持っているが、一人で冒険者としてやっていけると思うほど自惚れてはいない。出来ることならすぐにでも誰かと組み、パーティのノウハウを学びたいと思っている。


「パーティはお互い同意すればすぐにでも組むことができます。パーティには大きく分けて2種類ありまして、ギルドに登録する正式なパーティと、相性を確認するための一時的な仮パーティーがございます。後者は登録の必要がありませんので、依頼を受ける際に一緒に受注する旨を教えていただければ大丈夫です」

「なるほど。お互いの相性を確認し、納得できたら正式に登録するのだな? それなら気軽に組むことができそうだ」


 パーティを組むハードルが低いことに、レリアは安堵の息を漏らす。


 いちいち登録制にしていたら、冒険者側もギルド側も手間が増えてしまう。ただでさえ冒険者はその仕事柄、信頼や相性を重視するものだ。信頼や相性が、冒険に出る前から分かることなど滅多にない。それこそ、一緒に村から出てきた幼馴染でもなければ難しいのではなかろうか。


 同じ武器でも、前衛が得意なのか後衛が得意なのか。受注する依頼には採取や探索を求めているのか、魔物討伐の依頼を求めているのか。リーダー気質なのか指示に従うタイプなのか。性格は陽気なのか荒っぽいのか。


 そういった個人の質は、一度や二度の会話ではわかりにくい。出会ってすぐならなおさらだ。言葉では自分のレベルもどうとでも虚勢を張ることができる。口先だけの関係ではなく、腹の中ではどう思っているのかまでわかっていなければ、いざというときに信頼できないものだ。


「レリアさんは前衛でしたね。アイアン級で前衛を募集しているパーティは何組かいますよ」

「本当か! ぜひ紹介してほしいのだが、いいだろうか?」


 幸先の良いスタートに思わず顔を綻ばせるレリアだが、受付嬢の表情には苦いものがあった。何か言いにくいことを伝える時のような顔だ。その顔にレリアは何を言わんとしているのかすぐに分かった。


「もちろん紹介は致します。ですが、相手がそれを受け入れるかまでは保証できません」

「私がロストだからか?」

「そうです。魔力はいざというときの保険に繋がります。ロストというだけで一時的なパーティも組みたがらない方も、残念ながらいらっしゃいます」


 魔力は冒険者にとって強さを測る、何よりのパラメータだ。身体強化の魔法が使えれば、いざというときの攻撃力の増加や、不意の攻撃に対する防御など、冒険者の命を救ってくれる万能な力なのだ。


 そんな力を、ロストは持ち合わせていない。パーティメンバーにいざというときの切り札がないなんて、冒険者からしたらそれだけでパーティを組むに値しない人物だとみなされてしまう。今後組むことがないとわかりきっているのに、お試しでも組んであげるほど駆け出しの冒険者に余裕などないのだ。


 だが、レリアもそれは承知の上。ロストとして生まれ育った彼女にとって、そういった差別は日常的なモノだからだ。耐えられるかは別として、慣れてはいる。


 初めから希望は抱くなとしっかりと伝えてくれる受付嬢に、レリアは好感を抱いた。この受付嬢は、冒険者のために働いているのだと感じられたからだ。


 自分のために、見栄のために、惰性として受付嬢をしていたならば、紹介だけしてハイさよならで終わりだ。レリアのことをしっかりと考えているからこそ、断られた後のことを考えておくようにと暗に伝えてくれているのだ。


「それは重々承知している。私もすぐにうまくいくとは思っていない。自分からも声をかけて周るつもりだ」

「わかりました。それでは今ギルドにいるパーティを紹介しましょう。付いてきて下さい」


 受付嬢は立ち上がり、カウンターを出て併設されている酒場の方へ歩いて行く。レリアはまさか受付嬢本人が案内してくれるとは思っていなかったため、自分のために受付の仕事を放って大丈夫なのかとおどおどする。


 しかし、周囲を見れば人は少なく、昼下がりということもあって受付は空いているようなので大丈夫なのだろうと一人納得した。そして受付嬢に遅れないようにと、レリアは小走りで後を追いかけたのだった。




 ◇




「クラシィさん。パーティメンバーを募集してるって言ったけど、さすがにロストは厳しいよ」

「そうですか・・・」


 あれから酒場にいたアイアン級の冒険者パーティに受付嬢が取り次いでくれたが、結果は話をするよりも先に断られてしまっていた。ロストということすら話してはいないが、レリアの容姿からロストということは隠しようがない。


「そんなロストじゃなくて、ティーチ様を紹介してくれよ」


 レリアを断った歳若い冒険者が、受付嬢に別の冒険者の名前を挙げていた。その名前に聞き覚えがないレリアだが、敬称を付けていることから有名な冒険者なのだろうと推測する。自分には縁がないだろうが、レリアはそのティーチという冒険者に興味を惹かれた。


 有名な冒険者とは、日本でいえば芸能人のようなものだ。冒険者ならば誰しも憧れ、目指すべき存在だ。


「ふん! ロストだからって話も聞かずに断る人の頼み事は聞けません!」

「ちょっ! だってロストじゃ強化魔法も使えないんだから話を聞いたってしょうがないじゃんか!」

「知りません! さ、行きますよレリアさん!」


 そんなやり取りを後ろから眺めていたレリアは、羨ましいなと思わず受付嬢に嫉妬してしまう。


(私も受付嬢クラシィさんみたいに可愛かったら、別の生き方があったのだろうか・・・)


 可愛く話し上手で、みんなが頼りにしている。自分とはまるで正反対だな、とレリアは自嘲する。


「ほらレリアさん! 行きますよ!」

「っ! あ、ああ! 今行く!」


 先に進んでいた受付嬢に追いつくと、レリアは気分を変えようと先ほど話題に出た冒険者について聞いてみた。


「ティーチ様ですか? レリアさんと同じくアイアン級の冒険者ですよ」

「アイアン級の冒険者・・・。有名な方なのか?」


 アイアン級は駆け出しの冒険者だ。あの若い冒険者の口ぶりから、てっきりシルバー級冒険者のようなベテランを想像していた。そのティーチという冒険者は、それほどまでに強いのだろうか。


「有名ですよ! 何てったってティーチ様は魔法使い様ですから!」

「魔法使い様なのか・・・・・・って!? 魔法使い様ッ!!??」


 レリアの反応に満足したのかドヤ顔をしている受付嬢の様子から、魔法使いという話は嘘ではないのだろう。その事実に、レリアは思わず受付嬢に食って掛かっていた。


「ネスク・テガロの守護者様が冒険者をやられているのか!?」

「ティーチ様は守護者様ではないですよ。貴族でもありません」

「ど、どういうことだ? 魔法使い様なのに貴族様でもないのか??」

「はい。ちなみに、守護者様であるブーシィ・ディーエン様も冒険者として活動されていますよ」

「はぁあ??」


 冒険者となる貴族など、レリアは聞いたことがなかった。それに魔法使いなのに貴族ではないという話も、混乱するレリアに追い打ちをかけていた。


「ふふふ、いい反応です」

「からかっているのか?」

「いいえ、全部ほんとのことですよ。ティーチ様はつい最近冒険者になられて、今もパーティを組まれていません。誘ってみてはいかがですか?」

「ははは・・・それこそ悪い冗談だ」


 魔法使いのような天上人と最下層のロストがパーティを組むなど、お伽話にすら存在しない。ロストが良い思いをする話など、誰も望まぬ駄作の物語りだ。


「さて、レリアさん。今いるパーティはダメでしたが、まだ募集している方もいますし、ティーチ様のように誰とも組まれていないソロの方もいらっしゃいます。きっといい方が見つかりますから、落ち込まないでください」

「ありがとう。こうなることは覚悟していたから、大丈夫だ。これから混み始める時間だろう? 後は一人で探してみるよ」

「すいません。私の方でも何人か当たってみますね」


 予想はしていたとはいえ、実際に全て断られるととショックを受けるものだ。ネスク・テガロの冒険者ギルドはロストに対して不当な扱いをしないと聞いていただけに、心のどこかで期待していたようだ。


 噂にたがわず、受付嬢の対応からロストに対して偏見が無いことはわかる。しかし、ギルドは偏見がなくとも冒険者までそうかと言われると違うのだ。


 他のギルドと比べれば偏見は少ないのかもしれない。だが、冒険者は命の危険が付きまとう仕事。偏見は無くとも、命を預け合う相棒にわざわざ弱い者を選ぶなんて、常識的にしないだろう。


(私は・・・私と母さんの剣は弱くない。魔力はないが、その分剣術を磨いてきたんだ。足を引っ張るなんてことはしない。まずはパーティを組んで、私の力を知ってもらうことから始めよう)


 ロストのレリアが自分は強いと言っても、信じてもらえない。実際に見てもらう必要があるんだ。


 レリアは気合を入れ、周囲の冒険者たちを見回す。受付嬢が言っていたように、冒険者たちは皆自分のプレートを首からぶら下げていた。その中から、アイアンのプレートを下げた冒険者たちに声をかける。


「よければ私とパーティを組まないか?」


 受付嬢も探してみてくれると言ってくれたが、レリアは自分から積極的に声をかける。この見た目から、今まで誰も助けてはくれなかった。自分のことは自分でやるのが、レリアの当たり前だ。


 一時的なパーティであれば、きっとロストの自分でも組んでくれる冒険者はいるはず。レリアはその思いを胸に、自分を売り込んでいった。




 ◇




 レリアがギルドに訪れてからどれくらいたっただろうか? 昼頃から始めたパーティ探しは、気が付けば日も沈み始め冒険者の数も多くなってきた。しかし、レリアとパーティを組んでも良いと言ってくれる冒険者は、一向に現れない。


「僕らも冒険者になったばかりの初心者だけど、さすがにロストだと足引っ張られちゃうかな~って」

「そんなことはない! 私の母は元冒険者だったから、知識も技術も教え込まれてきた! 一度組めばわかってもらえるはずだ!」

「技術って・・・ww 君って本物のロストでしょ? 魔力が無くてどうやって魔物と戦うんだよ。お荷物確定じゃないか」

「ち、違う! 私は剣術を磨いて―――」

「いい! いい! ロストと組むほど暇じゃないんだよ! 他当たってください」


 また一組、レリアはパーティを組むことを拒絶されてしまった。


 これで何度目かもわからない。それくらいの人数に声をかけ、すべて断られている。


 レリアは自分の持つ能力をアピールしても、全てが逆効果となってしまった。


 冒険者としての基礎的な知識は母から教わったことを話せば、『お母さんのランクは何だったの? え、アイアン級? ・・・あぁ~記念で冒険者になった感じ? それかいろんな街に行くための身分証明書のためとか?』と、母を馬鹿にするように肩を竦めてくるのだ。


(あんなカスはこっちから願い下げだ!! 危うく殴りかかってしまうところだった)


 母から鍛錬を受けた剣術を売り込めば、『ちょw 剣術ってww それはないっしょww まじやばいっしょww』と何を言っているかあまりわからなかったが、剣術を馬鹿にされたことだけは伝わった。


(私と母さんの剣術を馬鹿にするなんて・・・柄に手をかけただけで済んだのが奇跡だった。私も辛抱強くなったものだな)


 レリアは、母と鍛錬し磨いていった剣術を何よりも誇りに思っている。その剣術をもって、『剣術は弱者の証』という常識をぶち壊すために冒険者となったのだ。剣術は、レリアが唯一引くことができない一線だ。


 しかし、ここまで断られるのは予想外であった。パーティは臨時に組むこともできるということを聞いてからは、臨時ならばロストの自分でもパーティに加えてくれる人もいるだろうと少し楽観的になっていた。


 だが、よく考えればそんな簡単にいくわけがないことはすぐに理解できた。アイアン級の報酬は少ない。人数が多ければ報酬を山分けする分、少ない報酬がさらに少なくなってしまう。下手すれば足が出てしまうほどに。


 依頼一つを受けるのにも報酬に悩まされているのに、足手まといだろう魔力の無いロストの新人をパーティに加えてくれるほど余裕がある者たちは、きっと稀だ。


 さらにレリアを追い込んだのは、ロストとも揶揄されるほど魔力の少ない者にも断られてしまったことだ。ロストと周りから言われてはいたが、彼らはわずかだが魔力を持っていたし、レリアのように褐色な肌など身体的な特徴は出ていなかった。


 彼らは完全に魔力の無いレリアに対し、『魔力無し(ロスト)魔力無し(ロスト)同士で組んでくれ』と相手にすらしてくれなかった。似た者同士であるはずなのに。ロストが冒険者としてやっていくことの大変さを知っているはずなのに。


 頼みの綱だったロストのパーティにも断られたレリアは、冒険者への声掛けにも焦りが出てきていた。まだまだ冒険者は大勢いる。依頼に出ていて、ここにいない冒険者の方が多いはずだ。そういった事実は頭で理解していても、つい悪い方へと考えてしまう。


 〝ここでも一人ぼっちなのか″と。


「すまない。パーティメンバーを募集していないだろうか? もしよければ私と―――」

「あ゛あ゛? 俺はカッパー級だぞ? 相手見てから声かけやがれ新人!!」


 焦るレリアは、間違ってカッパー級の冒険者へ声をかけてしまった。カッパー級がアイアン級に声をかけることは許されている。しかし、逆は重大なマナー違反である。


 相手の冒険者を侮っていると捉えられるし、自分は上のランクでもやっていけると驕っているとも思われる。ひいては、ランクを決めている冒険者ギルドに不満を持っていると言っているようなものだからだ。


「す、すみま・・・せん・・・」

「・・・ったく。気ぃつけろ」


 レリアが声をかけた冒険者は苛立ち交じりに注意すると、酒場の方へと歩いて行った。カッパー級冒険者の魔力を込められた怒気をまじかで受け、レリアは思わずすくんでしまった。


「クスクス・・・今の見た?」

「笑っちゃだめよ。あの子、きっとカッパー級の実力があるのよww」

「必死だなぁ。まぁ、ロストじゃ怖くて一人で街の外にも出られないだろ」

「不憫っちゃ不憫だけど、ロストじゃ仕方ねぇよな」

「せめて可愛けりゃ、マスコット的に入れてやってもいいんだけどなww」


 そんな様子を見ていた冒険者たちは、遠巻きにレリアを笑っている。本人たちは声を潜めて話しているつもりなのだろうがその声は大きく、レリアにも聞こえていた。


(また・・・また同じ。あの村と同じになってしまう・・・)


『あぁー! またロストが剣振ってる!!』

『うわ~ww ロストじゃいくらやっても強くなれねぇのにな! 剣なんて振ってないで、魔力伸ばすことでもしてればいいのに!』

『おいおい、あいつに伸ばす魔力なんてねぇだろ?』

『そうだった! あいつロストの中のロスト、魔力ゼロの欠陥品だった!!』

『『アッハッハッハwwwww』』


 レリアは、育った村のことを思い出した。大好きな母親から教えてもらった剣術の訓練をしていると、よくこうやって馬鹿にされたものだ。レリアは自分のせいで母親まで馬鹿にされているようで、悔しくて、でも言い返せなくて、泣きながら剣を振ったものだ。


(冒険者は強さが全てではないのか? ロストだって、剣術があれば強くなれるってことを証明すらできないのか?)


『やだ、ロストの子よ』

『あの母親、娘に剣術なんて教えてるんでしょ? 他に教えることいっぱいあるでしょうに』

『でもあの顔じゃ教えたって、ねぇ?』

『確かに。花嫁修業しても意味なさそうですものね?』

『『オホホホホwww』』


 レリアは母親が大好きだった。その大好きな母親が教えてくれる剣術が、何よりも大切だった。だから、無駄なんかじゃないってことを証明するために、冒険者になったのだ。


(そうだ・・・。こんなことは、いつものことじゃないか。諦め切れなかったからここにいるんだ。きっとわかってくれる人はいるはずだ!)


 レリアは周りの眼を無視し、まだ声をかけていないアイアン級の冒険者を探す。こんなことで諦めている暇はない。100人に断れられても、101人目の冒険者がパーティに入れてくれるかもしれないのだ。


(む、あの人はアイアン級だな。よし! 次こそきっとパーティを組んでもらえるはずだ!)


 レリアは自分を励まし、まだ声をかけていない冒険者へ向け、すっかり慣れてしまった勧誘の言葉を告げた。


「よければ私とパーティを組まないか?」


 その一言が、レリアの人生を大きく変えることになった。

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