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約束  作者: 悠香
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第7話

 わたしは目に入った大きな建物の中に入ることにした。しばらく休んで身を隠したかった。

 扉を手で押して入ると遠くで人の話し声が聞こえた。誰かいる。

 わたしは念のために銃を握った。

 足音がしないように静かに歩いていると奥の扉から男が一人出てきた。男は足を止め、わたしを見て硬直した。

 どうしてやろうか。

 そう考えていると男に続いて女が出てきた。

 二人と目が合った時、まっさらで何も無かったわたしの過去がうっすら見えた気がした。

 つい最近、わたしはこの二人に会っている。

 人々の悲鳴の中にこの二人はいた。

「逃げろ!」

 男がそう叫ぶとわたしに背を向けて女と逃げようとした。

 待て、逃げるな。

 わたしは反射的に男の足を狙った。だが、ぼんやりしていたせいで外してしまった。

 逃がさない。

 わたしは急いで二人を追いかけた。

「美雨!逃げろ!」

 二人は棚の陰に隠れようとした。わたしはもう一度男の足を狙って撃った。

 男はその場に転んで動けなくなった。

「悟さん!」

 女は足を止めて男に近寄った。そして怯えた目でわたしを見た。

 小さな耳鳴りが聞こえる。そして胸の奥が熱くなるのを感じた。

 この女を殺したい。

 銃を構えようとすると物陰から若い男が現れた。

「悟さん!しっかりしてください」

 若い男の目は恐怖に満ちていた。仕方ない、まずはこの若い男を…。

「勇紀!動かないで」

 すると次は若い男の背後からまた違う女が現れた。邪魔が入った。

 その女は迷うことなくわたしに近付いてくる。

「あなたも動かないで」

 今まで会って来た人間たちとは違う。わたしは少し警戒した。

 女はポケットから銃を出すと、それをわたしに向けた。

 わたしはその女を観察した。この女は何か違う。そうだ…。




 アスカは銃を握りしめて『天使』から目を離さないようにした。

 本当は悟のことが心配でたまらない。今すぐ悟の怪我を診てあげたい。だが、ここで少しでも目を離したら『天使』はきっと誰かを殺してしまう。

 『天使』に遭遇してしまった。『天使』の動きが予想以上に早かった。

「あなたの目にはわたしへの恐怖がない」

 突然『天使』がわたしに話しかけた。

「だからあなたを殺す気になれない」

「さっきから何を言ってるの」

「今のあなたを殺してもつまらない」

 『天使』はそう言って何か考えるように首を横に曲げた。

「あなたを殺す価値がない。あれ…?」

 このままでは駄目だ。

「勇紀!何か『天使』を縛るものを持ってきて。あと椅子!」

 わたしは背後にいる勇紀に声をかけた。

「は。はい!」

 勇紀が慌てて紐を探しに行くのが聞こえた。

「…わたしを捕まえるの?」

「そうよ」

「捕まえてどうするの?」

「さあね」

「わたしを殺す?」

「もう黙って」

「もう少しで何か思い出せそうなの。だから殺さないで」

 ほとんど瞬きをせず淡々と話す『天使』が気味悪い。

 アスカは『天使』持っている凶器に目が入った。

「銃をよこして」

「どうして?」

「いいからよこして」

「あなたも持ってるのに?」

「あんたに銃を持たせられないって言ってるの」

 落ち着け。アスカは必死に自分に言い聞かせた。冷静に、少しでも怖がれば『天使』はそれを感じ取る。

 『天使』は瞬きをせずにアスカに銃を差し出した。アスカはそれを受け取るとポケットに入れた。

 『天使』はアスカから目を離さない。ずっとアスカの様子を観察しているようだった。

「美雨!悟の様子は?」

 アスカは気がおかしくなりそうだったので美雨に話しかけた。

「足を撃たれたみたいで…。どうしよう」

 美雨はとても焦っているようだった。

「俺は…、大丈夫だ」

 悟の声が聞こえた。

「何ともないから心配するな」

「そんなわけないです。足、すごい血が出てます」

 とりあえず、悟の怪我は命に関わるものじゃない。それだけでもよかった。

「アスカさん!」

 『天使』の後ろから勇紀が椅子を持ってやって来た。椅子の上には鎖が置いてある。

「紐よりもこのほうがいいと思って…」

「うん、ありがとう」

 アスカが椅子に座るように促すと『天使』は黙って従った。

「悟さん、待っててください。今助けますから」

 美雨がそう言ってどこかに走っていくのが聞こえた。何をするつもりなのだろう。

 アスカは素早く鎖で『天使』を縛った。

 アスカはこんなもので『天使』の動きを封じられるとは思っていなかった。だが、形だけでも『天使』を動けないようにしないと落ち着かなかった。

「少しでも動いたらただじゃすまないからね」

 アスカは『天使』にそう言って悟のもとに向かった。

「悟、大丈夫?」

 悟は右足をおさえながら苦しそうに息をしていた。血が床にゆっくり広がっていた。

「ごめん、足を引っ張ってばかりだな」

「そんなことない。わたしがもっとしっかりしていれば…」

 悟に「ごめん」と言われるとアスカは何故か胸がすごく苦しくなった。苦しくて涙が出そうになる。

「そんな泣きそうな顔をするなよ。俺は大丈夫だ」

 悟の優しい声が辛い。

「悟さん!」

 美雨が息を切らしながら戻ってきた。その手には何故か包丁が握られている。

「美雨、何をする気だ?」

 美雨の手は震えている。悟は何をする気か気づいたようだった。

「やめろ、美雨」

「でも、悟さんが…」

「このぐらいの足のけがなら何とかなる。だから何もするな。みんなに秘密がばれるぞ」

「美雨さん…?」

 勇紀は訳が分からないという顔をしていた。

「きっと、大丈夫です。わたしは悟さんの怪我を治したい」

 美雨は悟の側でしゃがむと服の袖をまくった。そして包丁で悟のズボンを切って撃たれた場所をよく見えるようにした。

「美雨、何をするの?」

 アスカは美雨に声をかけたが、美雨は答えずに目を閉じて大きく深呼吸をした。

 そして美雨は包丁で自分の腕の皮膚を切り落とした。

「美雨!何してるの?」

 アスカは驚いて美雨の手を止めようとしたが美雨はその手を振り払った。そして美雨は切った皮膚で悟の傷口を覆った。

「これで大丈夫」

 美雨がそう言うと傷口がみるみる塞がっていき、完治してしまった。

「よかった…」

「何言ってるんですか。美雨さんの腕が…」

 勇紀が焦ったように言うと美雨が切った腕を見せた。腕が元通りになっている。

「え…?」

 勇紀は目を丸くして驚いていた。

 アスカも今見たことを受け入れることが出来なかった。こんなことありえない。

 美雨は普通の人間ではなかった。美雨は『アンナ』の人間だ。しかも、『アンナ』の中でも最も特別な存在。

 美雨は『女神』だ。




 『女神』は『アンナ』であり、『女神』は再生の力で全ての生き物を癒す。

 その再生の力は計り知れず、怪我だけでなく老化した細胞を復活させることも出来る。

 その力を応用させ、『アンナ』という会社は大きくなった。

 『女神』なくして『アンナ』は存在しない。

 そう教えられた。

 初めて聞いた時は全く意味が分からなかった。だが、教えられたことは必死に覚えた。

 生きていくためにがむしゃらになるしかなかった。


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