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企業買収は恋愛に似ている

作者:牛熊
 総合モーター製造企業として国内最大手の東証一部上場企業である株式会社大日本モーター。その社長である向日重治(61)は、次世代の主力産業として見込んでいるEV関連への出遅れに頭を悩ませていた。商品開発の遅延だけではなく、事業を指揮する人材が不足している問題も抱えており、これらの解決策を部下と模索していたが決め手に欠けていた。

 そんな中、高寺電機株式会社という東証2部に上場している小さな企業に目をつける。高寺電機は元々農機関連のモーターを開発・製造する企業だったが、経営層の放蕩経営もあり売上・営業利益は右肩下がりと縮小の一途。しかし、2年前に新社長として深山耕一氏(35)が就任してから経営改革を断行。資金・人材が不足している中、負債を処分しながらEV関連の部品製造へ進出を始めていたが、徐々にその新製品が市場に認められつつあった。


「この男とこの企業が欲しい」


 出遅れている商品開発に加え、新事業を指揮する人材の確保を兼ねた一手として、大日本モーターは高寺電機の買収・子会社化を試みる。しかし、ワンマン経営者として有名だった向日社長の過去の振る舞いが仇となり、紆余曲折の末に買収は失敗。


「私はあなたのやり方を好ましいとは思わない」


 大日本モーターは最後の手段としてTOB、株式市場における株の買い占めによる力づくの買収を高寺電機に宣言する。しかしそこに、小規模な企業の買収を専門とするプライベートエクイティRomney Capitalが深山社長の支持を掲げ、友好的な買収を提案するホワイトナイトとして急遽参戦。Romney capitalは大日本モーターと同じく高寺電機を買収し、経営支援による企業価値の増大、その後の株式売却による利益確保を目論む。


「弊ファンドは利益第一ではありますが、余計な手を出して金の卵を生む鶏を殺すほど愚かではありません」


 さらなる事業拡大のために高寺電機と深山社長を求める大日本モーター、資金・人材不足を理解しながらも自らの経営理念に拘る高寺電機、利益第一ながらも深山社長の理念に賛同し支援に立ち上がるRomney Capital。

 三者三様の思いが渦巻く中、高寺電機を巡る駆け引きが始まる。
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