異世界転生
「……なんだ、ここ」
気が付くと、俺、小間竜騎は草原の中にいた。
どこの草原なのかも分からないが、取り敢えず倒れている体を起こす。
雲一つない晴天の下、そよ風が優しく体を撫でた。
「空気が気持ちいいな」
俺は大きく深呼吸をする。体内に入った澄んだ空気は、俺の体にリラックス効果を与えてくれた。
それと同時に、俺の意識が、記憶が徐々に鮮明に蘇っていく。
「そうだ。バトルロイヤルはどうなったんだ……」
神の間。そこは死者の魂が迷い込む場所。
そんな現実離れした世界で、俺は異世界転生を懸けたバトルロイヤルに巻き込まれた。
バトルロイヤルの勝者は晴れて異世界転生。それ以外の敗者はモンスターに生まれ変わって、生涯女神の奴隷コース。
俺はそんなバトルロイヤルを1回戦、2回戦と勝ち抜き、ついには最後の4人になるまで生き残った。
「……龍彦」
バトルロイヤル4回戦。
俺は異世界の元魔王である海藤咲夜に、心の奥底の闇をこじ開けられた。
その結果、悪の衝動に支配された俺は破壊を望み、そして、その果ての死を望んだ。
とめどなく溢れる悪意の矛先は、異世界の元勇者である万丈龍之介、改心した(?)元魔王キル、そして、俺の唯一の友人である愛染龍彦にまで向けられた。
「龍彦と戦った所までは覚えてる……。でも、その先の記憶が無い」
何度思い出そうとしても、同じ箇所で記憶が途切れてしまう。
何故? 疑問に思っていたところでふと気が付く。
違う。これは覚えていないのではない。
恐らく俺は、龍彦との戦いに敗北し、死を迎えたのだろう。
だから俺はその先の出来事を知らないのだ。
「でも、だとしたらなんで俺はこうして生きている?」
鏡を見た訳では無いが感覚で分かる。これは間違いなく俺の体だ。
だが、バトルロイヤルに負けたのであれば、こうして俺が生きている理由が分からない。
「まさかここは、バトルロイヤルの敗者が集まる場所なのか?」
それならば、こうして俺が生きている事にも説明が付く。
俺は小さく溜息をつく。
……嫌だなぁ。敗者はモンスターになって女神の奴隷。
負けるまではぶっちゃけ他人事だったが、いざ当事者になるとその重みがより現実味を帯びてきた。
「マジで何やってんだ俺。闇とか破壊とか破滅願望とか……うわ、思い出したら恥ずかしくなってきた」
不思議と。4回戦で俺を苦しめていた闇とやらが体から消えたのを感じる。
体と心の毒素が全て取り除かれた感覚。おかげであの時のような悪感情が今は一ミリも無い。
代わりにあの時の自分の気持ちに一切共感できなくて、急に羞恥心を覚えてしまった。
「はぁ。まぁ過ぎたことは仕方が無いが、他の敗者はどこにいるんだ?」
俺は周囲を軽く見渡す。ここが本当に敗者の集まる場所なのだとしたら、俺以外に人がいてもおかしくは無い筈だが。まさか、他の敗者は既にモンスターになっちまったのか?
なんて事を考えていると、俺の視界に見覚えのある女子の姿が映り込んだ。
「あっ。小間……」
紅クレア。
肩につく程度の綺麗な赤髪、くりっとした目が特徴の美少女。しかし中身はマウンテンゴリラ級に強い戦闘狂。3回戦で、海藤から俺を庇って敗退となってしまったプレイヤーだ。
「うぃっす、久しぶりだな。つってもあれから1日も経ってないが」
「えっ? あ、あれ? なんで小間がここに……え?」
驚くと同時に、顔を少し赤らめ、何故か恥ずかしそうにするクレア。
あぁ、そういえば。俺は3回戦で、クレアに告白に近い事をされたんだった。
そうか、それを思い出して恥ずかしくなっちまったんだな。可愛い奴だ。
「どうしたんだよクレア。ほら、お前の王子様だぞ~」
「ア、アンタっ……! あの時私が言った台詞を……」
さらに顔を真っ赤にさせるクレア。また殴られるかと思ったが、クレアは涙を滲ませながら俺に近づくと、俺のほっぺを軽く掴む。
「でもよかった……。小間も無事だったんだね」
「クレア……」
全く、どこまでも優しい女だなこいつは。思えばバトルロイヤル中もずっとそうだった。クレアは自分よりも友人や仲間を第一に考えて動いていた。誰よりもバトルロイヤルに向かないが、誰よりも勝ち残るべき少女だったと、今になって思う。
「お前も無事で何よりだ」
クレアに釣られて同じ言葉を使ってしまったが、この状況を無事と言うべきかは正直分からない。それでも、俺たちは再会を喜んだ。
俺は手を伸ばし、クレアの胸を揉みしだく。
「はぇ!?」
驚きすぎて、よく分からん小動物みたいな声をあげるクレア。
「うむCカップ、程よい大きさの胸だ。間違いない、本物のクレアだ」
「アンタどこ触ってッ!! ……はぁ。もうアホなんだから」
おっぱいを揉みしだいたのに、何故か大して怒られなかった。
「小間にはもう怒るだけ無駄」とでも言いたげに、クレアは呆れた溜息をついた。
いずれにせよ、俺の人柄がセクハラ問題に勝利した決定的瞬間だった。俺はクレアの程よい乳を揉みしだきながら、小さく頷き、勝利を噛みしめる。
しかし、ここで予想外の出来事が起こる。
「分かったから、もう放してってば」
おっぱいを揉み続ける俺の頭部に、クレアが軽くチョップをかましてきた。
速度も威力もかなり抑えられた、ひらがなで表記できそうな可愛らしいちょっぷ……のつもりなのだろうが、「超人化」で無敵の身体能力を得たクレアのちょっぷは、俺の頭蓋骨にとっては最早デモンストライク。
ミシミシ……と、木材がしなりながらゆっくりと折れていくような音が、俺の頭蓋骨から聞こえてきた。
「あ、あぁ……」
死にかけの動物のような、か弱い呻き声をあげる俺。
染み渡るような激痛は、俺から数少ない語彙力を奪っていった。
「ご、ごめん小間! 痛かった!?」
「か~み~さ~ま~」
「小間が壊れてリトルグ〇ーメンみたいに!? てか似てない!」
クレアとふざけたやり取りをしていると……
「お前たちは、相変わらず何をやっているんだ……」
黒い短髪に、190センチ近い長身、筋骨隆々の肉体を持つコワモテ勇者、万丈龍之介が姿を現した。
「万丈さん、なんでここに!?」
「紅。お前も無事だったか……」
クレアと万丈が協力して戦ったのはほんの短い間だったが、それでもお互いの無事を確認し、安堵した様子を見せる2人。本当にお人好しな奴らだ。いやそんな事よりもだ……
「万丈、どうしてお前がここに……うっ!?」
「こ、小間。どうした? まさか記憶が……」
「いや頭蓋骨が痛くて……」
「ごめん小間ぁ~」
軽く泣きながら謝るクレア。泣きたいのは俺である。
俺はふらつく頭を押さえつつ、万丈に話しかける。
「つーか万丈。ここがどこか分かるか? 俺たちは一体どうなった? これから俺たちはモンスターにされて女神さまの奴隷一生分コースか?」
「落ち着け小間。しかしそうか。その様子だと、まだ何も聞いていないようだな」
「聞いていない? 誰から?」
「代わりに俺が話そう。あれから俺たちがどうなったのかを」
万丈は草原に座って、静かに語り始めた。
バトルロイヤル4回戦。一体誰が勝ち残ったのか。
そして、その結末を。
お読みいただきありがとうございました。
バトルロイヤルは一体どうなったのか?




