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夜⑮ 小間竜騎VSキル

二手に分かれるぞ!


 魔界四天王の内3人を倒した俺、小間竜騎と愛染龍彦は、ついにキルと相対する。


「はぁ、面倒ねぇ」


 言葉通り、気だるそうに溜息をつくキル。


「残念だったな、自慢のお人形で俺たちを倒せなくてよ」


「ふふっ。まぁでも時間は稼げたし別に構わないわぁ。彼の浸食も随分進んでるだろうしねぇ」


「浸食? 一体何の……」


 俺がそう言いかけた直後、何か気色の悪い悪寒に襲われる俺。

 一瞬だが、全身が硬直する。


「……あまり時間がねぇな」


「どうした竜騎。大丈夫か?」


「龍彦。お前はあそこで暴れてる魔王……海藤を万丈と一緒に止めてくれ。コイツは俺一人でやる」


「え、でもよ……」


「海藤は前世以上のバケモノになった。ぶっちゃけ、万丈一人で海藤を倒すのは難しい。でも伝説の竜の力を半分持つお前が加勢すれば、もしかしたら海藤を倒せるかもしれない」


「竜騎。大丈夫なのか?」


 複雑な不安が絡み合った声で龍彦がそう言った。俺がキルを一人で倒せるのか、という不安も勿論あるだろうが、単純に調子が悪そうな俺を心配しているのだろう。全く、お人好しは相変わらずだな。


「……心配いらねぇよ」


 俺は下手糞な笑顔でそう言った。自分の表情を見ることはできないが、きっとぎこちない表情をしているのは間違いない。


「分かった。けど竜騎、勝手に死ぬのだけは許さねぇからな」


 勝手に死ぬ……か。十中八九、前世で俺が自殺した事を言っているんだろうな。

 また同じ事になったら許さない……という親友からの圧を感じる。本当、俺みたいなカスの事をここまで思ってくれる奴は、どこ探してもコイツしかいないだろうな。だからこそ、これから俺が()()()()()()事に龍彦を巻き込みたくはない。でも万丈なら、きっと龍彦を……


「あぁ分かってる。片付けたら、俺もそっちへ向かう」


「……おう」


 どこか不安を消しきれない様子の龍彦は、竜人化の飛行能力を使って、天変地異の中心地へと向かって飛んで行った。


「あらぁ、いいのかしら。私の事舐め過ぎじゃない? まぁ私としては、貴方一人の方が好都合だけどね」


「好都合だ? 実は俺と2人っきりでシルバ〇アファミリーで遊びたいとか? 死体遊びの次の余興にしちゃあ随分とほのぼのしてるな」


「相変わらず意味不明ね。私は貴方の中のものに興味があるだけよ。そろそろ順調に育ってきてるんじゃなぁい?」


 コイツ……時間稼ぎってのは、そういう意味もあったのか。


「安心しろ。テメェに()()()をお披露目するつもりはねぇ。その前に俺がお前をお人形さんに変えてやるよ」


「あははっ。威勢だけは本当いいわね。ただのチンピラ風情がよくイキがるわぁ!」


 そう言ったキルは、両腕を思い切り広げて見せる。


蜘蛛スパイダーマリオネット!」


 巨大な蜘蛛の巣のようなものが、上空から俺目掛けて降ってくる。

 キルが使っていた糸引マリオネットとかいう相手を操る糸の上位版ってとこか。確かに、魔術の範囲は桁違いだが……


「雷属性魔術・ニーズホッグ」


 俺は竜の魔力を、刺々しい雷の鎧に変え、蜘蛛の巣を蹴散らした。


「へぇ貴方。魔術について何も知らない割には、伝説の竜の魔力を使いこなせているわねぇ」


 ぺちぺちと力のない拍手をするキル。どこまでも人を食ったような態度だな。まぁ俺もだけど。


「空間系魔術・土竜もぐらの穴」


 キルがそう言うと、俺の周囲の空間に大量の穴が発生する。なるほど、名前の通り土竜が掘った穴のように見える。


糸引マリオネット!」


 すると、大量の穴からそれぞれ白い糸が飛び出してきた。


「はっ。さっきと大して変わらないな」


 やり方が違うだけで根本は全く同じ攻撃に、俺はつい油断していた。

 直後、俺の足元に大きな穴が発生する。


「ちっ。本命はこっちか」


 小さなブラックホールのような穴に引きずり込まれた俺。

 穴から出た先は、キルの目の前に繋がっていた。


「幻術・悪夢の目(ナイトメア)!」


 うっかりキルと目を合わせてしまう俺。その瞬間、視界が真っ暗な世界に覆われる。

 どうやら俺は幻術にかけられてしまったらしい。だが、3回戦で異能・嘘八百(ゼロワン)を使った俺は、ある程度幻術の使い方、返し方を理解していた。


「幻術・竜の鏡(ドラゴンミラー)!」


 真っ暗な幻術の中で、俺はキルに鏡を見せるイメージを作り出す。直後、視界が元の世界に戻った。適当にやったが、どうやら幻術返しが上手くいったらしい。

 俺は一旦キルと距離を取り、地上へ降り立つ。


「驚いたわぁ。私の幻術を返してくるなんて……。卓越した魔術の才、加えて心の奥底の闇……海藤が貴方を同類だと言っていた意味が何となく分かったわぁ。まぁとはいっても、魔術の方は彼には遠く及ばないけどねぇ」


「最後の一言が余計だったなぁ。普通に褒めてくれていいのによ」


「安心して。魔王軍四天王の私と魔術合戦できるだけで相当なレベルだからぁ。しかも今日初めて魔術が使えるようになったずぶの素人なのにねぇ」


「へへ。サ~ンキュっ☆」


 鼻を指先で軽く擦って、ウインクしておどけて見せる俺。

 冗談のつもりだったのだが、キルの薄ら笑いが完全に消え、気色悪い芋虫でも見るかのような冷淡な目に変わる。あいつ本当俺の事嫌いだよな。最初に会った時からそうだったよな。なんでなん?


「……貴方って、本当クソうざいわよねぇ」


 シンプルなストレート悪口を口にするキル。

 あぁ可哀想な俺。


「お遊びはもう終わりよ、小間竜騎。必要な魔力も練れたし、これから貴方には地獄を見てもらうわぁ」


「地獄、地獄って、そんなホイホイ使ってると安っぽくなるぜ? 地獄の魔女さんよぉ」


「ふふっ。あっちでもそのウザい軽口が叩けるか楽しみだわぁ」


「あっち? なんだ、夢の国にでも連れて行ってくれるのか? 世界中~♪ どこだ~……」


「ある意味では正解ね」


 俺の呑気な歌を中断して真顔で返してくるキル。

 直後、キルを中心に禍々しい魔力が集まり始めるのを感じる。


「……なんだ、この不気味な感じ」


 どうやら呑気に歌っている場合では無かった模様。

 ゾゾゾ……と、禍々しい魔力が徐々にキルの周囲を蠢きだし、やがて周囲の空間がぐにゃりと曲がり始めた。


「……何だこれ。貧血?」


 ぐにゃりと曲がった空間に眩暈を覚える俺。


「ふふっ。貧血レベルならよかったわね。見せてあげるわ、私の究極幻術・闇世界アンダーワールド!」


 最早、原形を留めぬほどに歪曲した空間を眺めているうちに、徐々に正常な思考ができなくなる俺。


 だが、不思議と気分は悪くない。むしろ、夢見心地だ。多幸感が手を広げて、俺を抱擁しようと、待っている。だが、強烈、な、眠気……に……襲われ……俺……は……。




お読みいただきありがとうございました。

次回、万丈&龍彦VS海藤。

しかし、海藤の様子が…?

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