夜⑫ 完全体
再び万丈VS海藤です。
「な、なんだあれ……」
筋骨隆々の黒い肉体、黒い翼、2本の角が生えた頭部……距離が離れている為、細かくは見えないが、百メートルを超えた巨大な悪魔の姿を確認し、思わず言葉を失う俺。
「あれは……俺が前世で戦った魔王だ」
かつて異世界で魔王・蟻道冷人と戦っている龍彦は、戦々恐々とした様子でそう言った。
「という事は、あれが海藤の真の姿って事か……想像以上にバケモノじみてやがるな……」
規格外のサイズだけじゃない。ここまで離れていても、今までの海藤とは桁違いの魔力を感じ取れた。
「これは最悪の……がっ!?」
突如、全身に正体不明の激痛が走る。
「おい竜騎! 大丈夫か!? さっきのダメージがまだ……」
「いや、違う……。大丈夫だ」
クソが。まだ抑え込めると思っていたが、どうやら俺が思っている以上にチンタラやってる時間はないらしい。恐らく海藤があの姿になったことが関係しているのだろう……。
「万丈……」
俺は海藤と戦っているであろう万丈の身を案じる。
あいつまさか……死んじゃいねえだろうな?
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時は少し遡る。
小間竜騎と愛染龍彦が魔王軍四天王と戦っている一方で、この男たちもまた激戦を繰り広げていた。
「クハハハッ!! 粘るなァ万丈! さっさと殺されちまえばいいのによォ!」
「黙れ! 俺は貴様を倒すまでは死ねん!」
サイコキネシス。海藤が所持する異能だが、海藤自身が完全に力を取り戻した影響で、サイコキネシスの性能もさらに向上していた。
不可視の力によって重力波のような一撃を万丈に放つ海藤。しかし、万丈はそれを伝説の剣「アテナ」でなんとか防ぐ。
「ククッ。見えない攻撃にも難なく対応してくるか。腐っても勇者だなァ」
そう言った海藤は、手元に赤黒い魔法陣を出現させ、そこから黒く輝く剣を取り出した。
「その禍々しい魔力……魔剣か……」
「いや、コイツは聖剣『グラム』。オマエの聖剣アテナに匹敵する伝説の剣だ」
「それが聖剣グラムだと……?」
聖剣グラム。
異世界の神話に登場する伝説の勇者「エト」が、かつて魔王「サタン」との戦いで使った伝説の聖剣と言われている。
しかし海藤がグラムと呼んだその剣は、あまりにも聖剣のイメージとはかけ離れていた。
「ククッ。まァ信じられねェのも無理ねェか。コイツは持ち主の魔力によって大きく姿を変える、ちょっと風変わりな聖剣でねェ。元々は純白な聖剣だったんだが、オレが使っているうちにこんな姿になっちまったのさ。ククッ」
「貴様……伝説の聖剣に泥を塗りおって……!」
「ハ。伝説なんて持て囃されて埃被っていくくらいなら、たとえどす黒く汚されたとしても使ってもらえた方が聖剣も本望だろうぜ」
露ほども思っていない事を淡々と話す海藤。
「ククッ。さァて万丈! 互いに元勇者同士! どちらが勇者に相応しいか決めようぜェ!」
「ふざけるな! 誰も貴様の事など勇者とは認めない!」
「ヒャハハハッ! そうかよォ!」
瞬間、海藤が握っているグラムの剣身が4つに割れた。
「なっ!?」
「ギャハハハァ! ドタマから食らいついてやりなァ! グラム!」
4つに割れたグラムが生物のように流動的にうごめき、凄まじい速度で膨張していき、万丈へと襲い掛かる。
万丈はかろうじてこれを躱す。しかしグラムはさらに分裂し、やがて黒い獣のような姿になっていった。
「魔剣に見える……どころか、剣の原型を留めていないな。これじゃ魔獣だ」
「クハハハッ! コイツはとにかく食い意地が張っていてなァ! 特にオマエのような小奇麗な魔力は大好物でねェ!」
再び四方八方から万丈へ襲い掛かるグラム。万丈は素早い剣捌きと洗練された動きでこれを防ぎ、躱していく。しかし……
「くっ。その剣……魔力を食らうのか」
「ククッ。だから言ったろ、オマエの魔力が大好物だってなァ」
万丈の聖剣から魔力を吸収し、さらに膨張し、分裂するグラム。
先ほどの倍以上の速度と数の攻撃が万丈を襲う。流石の万丈もこれら全てを防ぐことはできず、グラムに右肩を噛まれてしまう。
「くっ! どけぇ!」
右肩に噛みついたグラムを、光属性の魔力を宿した剣で退ける。
「ライフを少し持っていかれたか……」
回復魔術を使い、ライフの回復を試みる万丈。しかし……
「なんだ……? ライフが回復しない?」
「クハハッ。そういえば言い忘れていたぜ、勇者サマ」
海藤は首をゴキゴキ鳴らしながら続ける。
「このグラムは相手から魔力やライフを吸収する。しかしそれだけじゃねぇ。吸収した魔力やライフは二度とオマエに戻る事はねェ。つまり、グラムの攻撃を直接食らう度に、オマエの魔力とライフの上限はどんどん減っていくのさ」
「なんだと……」
万丈は視界に映る自分のライフバーを確認する。これまではダメージを食らうと、ゲージの中の緑色のバーだけが減少していたが、今回はバーだけでなくゲージごと減少している。上限ごと削っていくというのは、どうやら嘘ではないらしい。
「ククッ。上限ごと減っている以上、奪われたオマエのライフが回復する事はねェ。魔力も同様だ」
「くっ……」
「ハハハッ、いいツラだなァ勇者サマ! さァて、続きと行こうぜェ!」
これまで勇者として幾千もの窮地を凌いできた万丈だったが、グラムを前にして今までに無い危機を感じていた。
グラムの攻撃を聖剣「アテナ」で防げば魔力が奪われ、防げずに直接食らえばライフと魔力が奪われる。海藤がライフと魔力を奪い強くなっていくのに対して、万丈はライフと魔力を奪われ衰弱していく。戦いが長引けば長引くほど万丈が不利になっていくのは、火を見るよりも明らかだった。
「ならば……短期決戦しか無いか」
万丈は大きく深呼吸をし、体から無駄な力を抜く。
「光属性魔術・蛍光!」
万丈の体から無数の光の球体が出現し、四方八方へ飛び出していく。
飛び出した光の球体に誘き出され、万丈ではなく光の球体を食らおうとするグラム。
「俺の魔力が好物なんだろ!? なら好きなだけ食え!」
分裂したグラムが光の球体によって誘き出された事で、万丈から海藤までの道を塞ぐものは無くなった。
「ちィ!」
「俺の体から離れた魔力であれば、上限が削られることはない!」
そう。上限が削られるのは、あくまで万丈から直接魔力やライフを吸収した場合のみ。
既に万丈から放たれた魔術を吸収しても、万丈の魔力値に影響はない。
「(この隙にッ!)」
神速。海藤ですら目で追うのが困難なレベルの速度で、一気に海藤との距離を詰める万丈。
「ハッ! バカが!」
直後、海藤が握っている柄の先から、さらにもう一つの剣身が飛び出す。
飛び出した剣身は黒い獣に姿を変え、万丈に牙を剥く。
「これで全部だって言った覚えはないぜェ!? 万丈ォ!」
グラムの攻撃が万丈の目前まで迫る。
しかし直後……
「冥王星!」
「なァ!?」
万丈は自らが所持する異能「冥王星」を発動させる。全てを消し飛ばす漆黒の物質は、グラムの攻撃を消し飛ばし、さらに海藤の腕ごとグラムを消し飛ばした。
「がアァッ!」
「これで終わりだ海藤ぉ! 光・炎属性魔術・天照!」
万丈が持つアテナが、光り輝く炎を纏った。太陽のように輝く炎剣はそのまま、海藤の心臓を貫いた。
「あァがアァオウエアァッッ!!!?」
炎、水、雷、風、土……これら全ての属性の加護を持つ海藤に、5大属性の魔術は通用しない。しかし、海藤の弱点である光属性を纏った炎は別。光り輝く炎の一太刀が、海藤の邪悪な魔力を内側から焼き尽くしていく。
「うおぉぉぉぉっっ!!!!」
ありったけの魔力を込め、天照をさらに強化させる万丈。
あとはこの炎剣を万丈の頭部目掛けて振り上げるだけ。そうすれば、アテナの力によって海藤の邪悪な魂を焼き切る事ができ、海藤が復活する事は二度と無い。
「終わりだぁ!!」
ただ力一杯に叫ぶ万丈。例え魔力を燃やし尽くしてもいい。
例え死んでも、海藤だけは……魔王だけはここで確実に消し去る。そんな万丈の思いが、海藤の穢れを燃やし尽くして……
「認めてやるよ。ここまでよくやったな、勇者カイン」
直後。
ゴウッ! と、海藤を中心に巨大な爆発が巻き起こる。大爆発は一瞬で数百メートルまで広がった。
「がぁっ!?」
凄まじい大爆発の勢いに、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった万丈は、爆発と共に森の奥へと姿を消した。
「もう少し遊んでやる予定だったが、まァいいか。完全体となったオレサマの力で、キサマを闇に葬ってやるよ万丈ォ!」
バキメキグチャッ!!
と、海藤の骨や肉が砕け潰れる音と共に、海藤の肉体から巨大な黒い腕が飛び出す。
さらに足、尻尾、翼が生え、海藤の新たな肉体が形成されていく。それは加速度的に巨大化していき、ついに百メートルを優に超える巨大な魔王の姿となった。
「グオオオアアアアアアアッッ!!!!」
完全なる魔王となった海藤の咆哮が森中へと響き渡る。大地は震え、空は暗雲に包まれ、これまで穏やかだった海までもが荒れ始めた。
その様子はまるで自然全体が、これから始まろうとしている地獄に怯えているかのようだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、小間&龍彦と零寿の戦いが始まります。




