夜⑧ 真の姿
オートガードが初めて破られた。
どうする!?
「がぁっ!!?」
零寿が撃った弾丸が、俺の右肩を貫く。
あまりの激痛に視界が揺らぐ俺。
「ほう、かろうじて急所は避けたか。中々勘がいい」
俺を仕留められなかったにも関わらず、冷静さを失わない零寿はもう一度黒い銃を俺に向けてくる。マズい……激痛で頭が回らない。あいつの弾丸はなんで竜のオートガードで防げなかったんだ? 一体どんな力を使ってやがる。
「おぉ!?」
俺はベクターに竜で攻撃を仕掛け、よろけさせる。こうする事で俺の前に遮蔽物ができた。零寿の攻撃の正体はまだ分からないが、これなら俺には当てられ……
「ないっ……ぎっ!?」
直後、零寿の撃った弾が俺の右足を貫いた。
「があぁっ!! 遮蔽物をすり抜けた!? ど、どうやって!? クソが!!」
「少しズレたか……。だが、次は外さない」
零寿が再度銃を構える。零寿の能力について考えるのは後だ、それよりも今はこの場を離れねぇと!
「ドラゴンブレス!!」
俺はドラゴンブレスを地面に向かって放ち、爆発を起こす。シータとベクターにダメージを負わすというよりも、煙による目眩ましが目的だ。
「もういっちょ!」
そして、今度はドラゴンブレスをジェットエンジンのように放出し、凄まじい勢いで後ろへ飛んだ。
俺の体はロケットのように吹き飛ばされ、なんとか四天王の元から離脱する事に成功する。
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「くそあの野郎! 逃げやがった!」
逃げた小間に激昂するシータ。
爆発に巻き込まれたようだが、その体には傷一つない。どうやら、持っている黒い大剣で爆発の衝撃を殺したようだ。
「ガハハッ! しかしすげぇな零寿。お前、どうやってあいつに弾を当てたんだ?」
「零式を使った」
「ガハハッ! なるほどな、お前の異能の力か!」
端的に答える零寿。理解させる気がまるでない説明だが、ベクターは納得した様子。
「零式……確か自分自身と、触れた無生物の存在を零にできる異能だったな。けど、どうやってアイツに攻撃を当てたんだ?」
「奴の竜は射程圏内に入った攻撃を全てオートガードする。その反応速度、感知力はもはや神の領域だ。どんなに速い攻撃を仕掛けても、奴のガードは崩せない。なら、奴の竜が攻撃だと認識できない攻撃をすればいい」
零式。
魔王軍四天王にして異世界転生者である零寿が持つ異能。
零寿自身と、零寿が触れた無生物の存在を零にすることができる。零の状態とは、見ることもできず、音も発さず、そして触れることもできない……存在そのものが消えている状態。だが、零になったものは零の世界では確かに存在している。零寿が撃った零になった弾丸は、現実世界では存在していないが、零の世界では軌道を描き進み続けている。そして、零寿は零式によって零の世界と現実世界を行き来することができる。
「零になった弾丸は存在が消えているため、竜のオートガードの感知には引っ掛からない。そして、オートガードをすり抜け、弾丸が奴の体と重なった瞬間に、弾丸を零の状態から実体化させる。いくらオートガードでも、既に当たっている攻撃を防ぐことはできない」
淡々と話す零寿だったが、事はそう単純ではない。
まず、銃の弾丸の速度は音速を超えている。さらに、零寿は闇属性の魔力で弾丸を強化している為、速度はそれの比ではない。つまり、前提としてこの強化された弾丸のスピードを見切れなければ、零式を用いても、相手と弾が重なるタイミングでの実体化が行えず、弾を当てることなど不可能なのだ。
零寿の常識外れの動体視力がなければ実行できない、まさに神業と呼べる攻撃だろう。
「ガハハッ! やっぱお前はとんでもないな零寿! あの無敵のオートガードをあっさり破るなんてよ!」
「造作もない。そもそも、あのオートガードは別に無敵ではない。僕でなくても破ることはできる」
「何言ってんだよ。あれはウチらじゃ無理だ。お前じゃなきゃな。そもそも、あの竜は触れただけで異能やら魔術やらを無効化しちまう。ウチらじゃ何万回やってもあいつには届かない」
「あの伝説の竜は、そもそも前世でレイトに封印されてここにいる。本当に全ての異能や魔術を無効化できるなら、封印魔術も効かないはずだ」
「確かに……」
「伝説の竜の力そのものを上回る力は打ち消せない……といったところか。とはいえ、それは伝説の竜と互角以上に戦ったレイトだからこそできるものかもしれないが。この中で可能性があるとすれば、一番魔力量の多いベクターくらいか」
「ガハハ! 確かにこの中じゃ一番魔力は多いが、魔王さんと比べられるとなぁ。ありゃ別格だ」
「だが、今の竜は前世と比べるとまだ完全ではない。お前でも可能性は十分にある。それに、無効化の力があるのは竜の部分だけだ。僕の弾丸が奴の体に効いた通り、小間竜騎自身にはなんの力も無い。つまり、小間竜騎だけに通る攻撃があれば、奴にダメージを与えることはできる。そこは、この中で一番攻撃手段が多いシータに可能性がある」
「ふふっ。流石は異世界最強の殺し屋といったところかしらぁ、零寿」
答えたのはシータではなく、高みの見物をしていたキルだった。
「元殺し屋だがな。四天王になった時点で、殺し稼業からは足を洗った」
「つーかお前も見てないで協力しろよ! アンタの幻術ならあいつにも効く可能性あるだろ!」
「残念だけど無理だわシータ。小間と竜の神経は当然繋がっている。幻術を仕掛けた時点で無効化されちゃうのよぉ」
「ちっ! 役立たずが!」
近くの木を軽く蹴り飛ばすシータ。それだけで、木は根元から簡単にへし折れた。
「とにかく、奴のオートガードを破る可能性はいくつもある。シータとベクターは今度は奴を逃がさないようにしつつ攻撃し、色々試してみるといい。その隙に僕が仕留める」
「あぁ? お前だけうまいとこ持ってくつもりかよ! ウチらにも少しはやらせろよ!」
「今、レイトと勇者カインが戦っているんだろ? なら小間竜騎をさっさと殺して、僕たちもそこへ向かえばいい。奴には前世での借りもあるしな」
「ガハハ! 確かにそりゃそうだ! しっかし、小間って奴がどこにいるのか探さねぇとな」
「問題無い。話している間に見つけた」
「はは……なんつーか、流石通り越して引くんだけど、マジで」
零寿の魔眼の性能は海藤以上。
海藤とほぼ同じ距離を感知できる上、透視と望遠能力を持つ為、より標的をスムーズに探し出すことができる。
「じゃあ行くとしよう。キル、今からいう場所に空間系魔術で飛ばしてくれないか?」
「ふふ、分かったわ。闇・空間系魔術・暗黒の扉」
直径数メートルほどのブラックホールが出現し、四天王たちの姿は闇の中へと消えていった。
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「はぁはぁ……いってぇな、畜生」
俺、小間竜騎は撃たれた箇所の激痛に耐えつつ、木陰に身を隠していた。
不幸中の幸いだが、この世界に血というものが無くてよかった。もし出血なんてしようものなら、こうして隠れていても血はどんどん流れていき、時間経過により死がどんどん近づいてくる事となる。
撃たれた箇所から弾を抜き、痛みを少し抑え、零寿の能力について考える俺。
「つっても……なんとなく想像はついたけどな……」
正確には分からないが、奴が撃った弾は、恐らく生物や物体をすり抜けることができる……のだと思う。それに、撃った弾は音も発さないし、恐らく可視化することもできない。まぁ、幽霊みたいなもんになったと思えばいいだろうか。
他に思いついた限りだと、弾の軌道を自在に変える力、相手の攻撃や防御を100%躱す力、竜と同じように能力を無効化する力、……なんてのも考えられたが、状況的に可能性は薄いと考える。
まず前者2つ。弾の軌道を変えたり、オートガードを躱して俺に弾を当てることができるのであれば、俺はここには立っていないだろう。2度も俺の脳天やら心臓といった急所を外している事から、恐らく相手をホーミングして攻撃を当てる類の力ではない。わざと外して楽しんでいる可能性もあるかもしれないが、弾を外した時の奴の反応からして、可能性は低いんじゃないだろうか。
次に、俺の竜と同じ異能や魔術を無効化する力。だが、これも恐らくは違う。2発目に撃った奴の弾丸は、遮蔽物にしたベクターという男には当たらず、その先の俺の足へと命中した。ベクターの体で俺の体が完全に隠れているにも関わらずだ……。まぁ異能や魔術の無効化もできるかもしれないが、恐らく能力の本質とは違うのだろう。
つまり奴の能力は「弾丸の軌道を曲げたり、回避能力を持たせることはできず」、「竜のオートガードに攻撃として見なされず」、「遮蔽物を通過できるが標的には当てることができるもの」である。
これらの条件を満たす能力として考えられるのは、触れたものの存在を幽霊みたいに消す力、さらには幽霊化と実体化のオンオフ……ってとこだろうと考えた。まぁ、奴自身が消えることができるのかは定かじゃないがな。
「つーか、遮蔽物をすり抜けて俺に当てられるって事は、あいつ透視もできる可能性もあるな。だとすると、木陰に隠れてても何の意味もねぇな。一番ヤバいのは、その場にじっと止まってる事だ」
俺は立ち上がるも、撃たれた痛みのせいで上手く体が動かない。
「ライフまぁまぁ持ってかれた……。威力はそこまでじゃないって事だろうが、急所に食らったらヤバそうだ」
すると、俺の目の前に突如、小さなブラックホールホールのようなものが出現した。
そしてその闇の奥から、四天王の皆さんがやって来た。
「その様子だと、どうやら僕の能力を分析できたみたいだな。竜に頼り切りのザコだと思っていたが、予想以上にやる男だ」
薄く微笑み、冷たい声で淡々と言い放つ零寿。
「おいおい。そんなどこ〇もドアみたいな力でワープしてくるなんて反則じゃねぇか? もう少し休ませてくれよ」
「はっ。それ言ったらお前の竜の方が反則だろーが」
シータに言い返される俺。まぁ否定はできないが、オートガードは既に零寿に破られている為、あまりドヤれはしなかった。
「ガハハ! んじゃま、とっとと片付けますかね!」
ゴウッ!
という風を切る音と共に、一瞬で俺の前後をそれぞれ塞ぐシータとベクター。
「テメェら……俺を逃がさない気だな」
「あったりまえじゃん! 何言ってんだ……よ!」
その言葉と共に動き出すシータとベクター。
しかし、一切の隙も生み出さぬほどに速かった先ほどの連撃と比べて、動きが遥かに遅い。というより、手数が圧倒的に少ない。何秒かのラグを設けて、2~3発攻撃を放つといった感じだ。まぁとはいえ、普通の人間の俺に見切れるレベルではないが。
「ガハハ! こんなテキトーな攻撃もガードしちまうなんてな!」
「オートに頼り切りってのも考えもんだなぁ小間竜騎! 攻撃は全部自動で防いじまうから、これだけでお前は身動き取れねぇだろ!」
「しまったそういう事か! クソ、零寿の姿が見当たらねぇ!」
前後で俺を挟んだのは、俺を逃がさない為。
そして攻撃の速度を緩めているのは、零寿の弾丸がより通りやすくする為に、俺の竜に激しい動きをさせない為だろう。万が一にも、消えた状態の弾丸と竜が重なったら、異能の無効化により消した弾が元に戻っちまうだろうからな。俺の竜は相手の攻撃に合わせて速く動く為、相手の攻撃回数が少なくなれば、それだけ動きもゆったりとしたものになってしまう。
「零寿の野郎。自分の存在も消せたのか」
完全に不可視状態になった零寿の姿を見つけることは当然俺にはできない。
「ガハハッ! 終わりだな小間竜騎!」
マズい。ガチでマズい。
この状態で弾を外す零寿ではないだろう。このままでは、俺の脳天は確実に撃ち抜かれる。
どうすれば……
「くっそがああああっ!!」
無策な俺は、ただがむしゃらに叫ぶことしかできなかった。
ここまでか……。俺は今度こそ自分の死期を悟った。
だが直後……
「な、なんだぁ!?」
俺の股間が、真っ白な巨大な光を放ち始めた。
そして、俺の額の寸前で、何かが弾かれる音が聞こえた。
これは……弾丸か? そうか、この光が零寿の弾丸を弾いたのか。
「ガハハハ! なんだこりゃ!? 滅茶苦茶光ってるぞ!?」
「まぶしいっ! どうなってんだよクソが!」
光に目をやられるシータとベクター。
今の内に逃げようと思ったが、俺は目の前の光景に、思わず見入ってしまった。
巨大な白い光は徐々に立体的になっていき、そして、竜のような形へと変貌していったのだ。
「まさか、これが……伝説の竜の真の姿なのか……?」
白一色に発光した、数メートル程の竜の姿。それはあまりにも神秘的で、圧倒的な存在感を放っていた。
竜の姿は徐々に大きくなっていく。このままいけば、とんでもないサイズになるんじゃ……
そう思ったが……
「なんか、縮んでる?」
巨大な竜はどんどん小さくなっていき、やがて、俺より少し大きいくらいのサイズになってしまった。
だが、問題はそこではなかった。
2本の角、巨大な翼、鋭い牙……竜を竜たらしめる特徴が徐々に無くなっていき、白い光は竜から人型へと姿を変えた。
そして、光は徐々に弱まっていき、人の姿がさらに鮮明に浮かび上がってくる。
そこに現れたのは……
「嘘だろ……なんでお前がここに……」
俺は目の前に現れた人物の姿に驚きを隠せなかった。
それは今までのバトルロイヤルで敗れたプレイヤー……ではない。もはや、バトルロイヤルに最初から参加していない、ここにいる事自体がおかしな人物だ。
だが、俺はこの人物をよく知っている。
「な、なんでここにいるんだよ!? 龍彦!」
「よっ! 久しぶりだな、竜騎!」
そこにいたのは、愛染龍彦。
前世での俺の親友だった。
お読みいただきありがとうございました。
まさかの龍彦登場。次回、どうなる!?




