夜⑥ 死霊術
小間、復活!
バトルロイヤル4回戦。
俺、小間竜騎の股間の竜が、ついに復活を果たした。
「ギャオオオアアアアアアッ!!!!!」
「さぁ、おふざけはここまでだ。あとは蹂躙するのみ」
「貴方、なぁに全裸でカッコつけてるわけぇ? いっつもバカの一つ覚えみたいに脱げばいいと思って……本当つまらない男ねぇ」
「俺は真面目にやってるだけだ。現にこうして股間の竜が復活する事には成功した訳だし。なぁ、魅惑の魔女さんよぉ」
これまで余裕の笑みを浮かべていたキルだったが、今は真逆。俺の思惑通りにいったことが大変気に入らないようで、怒りを抑えるので必死な様子だった。
「貴方……いつから私の『魅了』の事に気が付いていたのかしらぁ?」
「ほぉん、その力は『魅了』っていうのか。ちなみに気が付いたのはついさっきだな。一日目の夜、俺の下半身マッパに動揺したお前の前でのみ、俺の竜が眠りから目覚めたのを思い出してな。理屈は知らんが同じ状況を再現すれば、ワンチャン竜が目覚めるんじゃないかと思っただけだ」
額にピキピキと青筋を立てるキル。
だが直後、すぐに冷静さを取り戻す。
「『魅了』はね……私、キルが生まれた時から持っている、いわば呪いのようなものなのよぉ。私の心がなんらかの形で動揺すると、自動で発動して異性を勝手に魅了しちゃうのよねぇ。とはいえ、今まではこんなマイナスの形で働くことなんてなかったわぁ。むしろ幻術にかけやすくなるくらいだから、メリットしかなかったのに……まさか私の『魅了』に伝説の竜を目覚めさせる力があったなんて……」
冷静に話しているつもりなんだろうが、イライラしてほぼ愚痴を垂れ流しているような状態のキル。
「残念だったな。ベラベラ喋ってないでさっさと俺を殺しておくべきだったな。大方、海藤の指示で俺を殺すように言われたんだろうが、むしろ悪手だった。お前じゃなくて海藤が俺の方に来てたら、俺は伝説の竜を一切使えないままあっさり殺されていただろう」
「べらべら喋ってるのは貴方の方でしょ? 伝説の竜を復活させたからって、もう勝ったつもりなのかしらぁ? いい気になっちゃって、運だけでここまで来た男のくせに」
「まぁ確かに悪運が強かっただけかもしれんが、運も実力の内って言うし、それに一回死んだ人間の運に負ける程度の実力なんて、どのみちたかが知れてんだろ」
「……猿の分際で、調子に乗らないでよねぇ」
「ざまぁねぇな。うっきっきー」
猿の真似をしてふざけて踊り出す俺を、殺意剥き出しで睨みつけるキル。
とにかく死ぬほど見下していた人間(特に俺)にコケにされたことが大変気に入らないご様子。
「いいわぁ……小間竜騎。どんな手を使ってでも、貴方は私の手で殺してあげるわぁ」
直後、俺の頭上に渦のようなものが現れる。
「糸引!」
極細のワイヤーのようなものが数本、渦の中から俺目掛けて飛び出してきた。
しかし……
「パワーーっ!」
俺は力の叫び声と共に、極細のワイヤーを全て弾き返す。
まぁやったのは全部俺の股間の竜だけど。
「なるほどな。今の糸でお前は相手を操ってたわけか。でも残念、俺は誰かの思い通りになる事が嫌いなのさ」
「一回弾いたくらいでっ……調子に乗らないでよねぇ!!」
直後、驚異的な跳躍力で上へと飛んだキル。
「水属性魔術・滝柱!」
キルが魔術の詠唱らしきものを完了させると、文字通り巨大な滝……というより、もはや洪水が俺目掛けて凄まじい勢いで落ちてくる。
確かに、直撃したらスクラップ間違いなしの膨大な水量だが……
「やーーっ!」
俺はやーの叫びと共に、股間の竜から全てを焼き尽くす業火「ドラゴンブレス」を放つ。
火山の噴火のようなドラゴンブレスは、大量の水を瞬く間に蒸発させた。
「……炎属性で水属性を破るなんて……力技にもほどがあるわぁ」
「パワーーっ!」
力技というワードに反応して、2回目の力の叫びをあげる俺。
さっきパワーって言わなきゃよかったな……。まぁどうでもいいか。
「やっぱり正攻法じゃ無理みたいねぇ……」
「搦手を使っても無理だと思うけどな」
「ふふっ。確かに私は貴方に勝てないかもしれないけど、だからって負けもしない。違う?」
確かにキルの言う通りだ。
オートガードがある限り俺が負けることはほぼ無い。だがこの異能は、絶対的な防御力を持ってはいるが、攻撃自体は、高火力ではあるものの、確実に相手を倒せるというものではない。
接近戦に持ち込めば竜を使った直接攻撃をお見舞いできるが、残念ながら俺の機動力じゃキルに近づく事はほぼ不可能だ。
「つまりこうして距離を保っていればぁ、貴方はさして恐れる存在じゃないのよぉ」
「距離を保ってるからそらそうだろ。逃げてる時点でビビってる証拠だ」
「口の減らない男ね。いいわ、ならとっておきよ」
直後、上空に浮かぶキルの足元に、赤黒い魔法陣が3つ出現する。
「見せてあげるわ……『死霊術』!」
キルがそう叫ぶと、3つの赤黒い魔法陣から、不気味な煙が大量に吹き出す。
「……森の上で煙遊びか。環境によろしくねぇな」
「火炎放射ぶっ放した貴方に言われたくはないわねぇ」
直後、不気味な煙の奥から3つの人影が現れた。
「えぇ~。また戦争? あんまウチらをこき使ってるとタダじゃ済まさねぇぞ。キル」
「お? でもここ人間界じゃねぇぞ」
「だが、魔界でもないな……どうやらまた別の世界らしい」
呑気に話し始める人影3人。
「誰だよそいつら。お前の友達か?」
「えぇ。貴方と違って私はお友達が多いのよ」
不敵な笑みを浮かべるキル。
「彼らは私と同じ魔王軍四天王。さぁ地獄の幕開けよ、小間竜騎!」
地獄の魔女キルは、魔女に相応しい高笑いと共にそう叫んだのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、魔王軍四天王VS小間竜騎!
しかし、まさかの展開が…?




