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夜⑤ 魅惑の魔女

4回戦開幕!

しかし股間が機能不全!

どうする!?


 バトルロイヤル4回戦。

 生存者は4人で、これが最後の戦いとなる。今までで一番気合を入れて臨まなければならない戦いだってのに、俺、小間竜騎の命綱である股間の竜は気持ちよさそうに爆睡していた。


「この駄竜が!! こんな時にふざけてんじゃねえ! さっさと目ぇ覚ませ!」


「小間……お前……」


 呆れるというより、最悪の状況に言葉が出ない様子の万丈。


「いや、これ俺のせいじゃないだろ! いつも通り昼に4回戦をやってりゃこんな事には……」


 俺が使用する伝説の竜の異能は、異能、魔術、物理攻撃を無効化し、攻撃を全てオートガードする。そして灼熱の業火で全てを焼き尽くす。相手がジョーカーを無効化するスペードの3の異能だった場合を除けば、ほぼ無敵といってもいい異能だ。だが、そんな伝説の竜にも弱点がある。それは、夜のフェーズになると爆睡してしまい、オートガードが機能しなくなってしまう事だ。とはいえ、1回戦から3回戦は全て昼のフェーズに行われていた為、今まではさして問題にはならなかった。しかし……


「マジやべぇな……どうしよう、万丈きゅん」


「(……小間)」


 すると3回戦と同じように、テレパシーで万丈の声が頭の中に流れてくる。


「(いいか。俺の攻撃と同時に逃げろ。お前は身を隠しながら、伝説の竜を何とかして目覚めさせろ!)」


「(は、マジで? ちょっとまっ……)」


「光属性魔術・光背輪こうはいりんっ!!」


 俺の言葉を遮り、万丈が光属性の魔術とやらを発動させる。直後、万丈の背後からリング状の光が出現し、周囲の景色を真っ白に染めるほどの勢いで発光した。


「ちィ! 目眩ましか! うざってェなァ勇者サマよォ!」


「ちょっ……なにも見えないんだけどぉ!!」


 凄まじい発光に、視界を奪われる海藤と砂肝。


「小間! 今の内に逃げろぉ!!」


 なるほど、この隙に逃げろって訳か。流石だな万丈。

 だがな……


「ぐおおあああっ!! まぶしいいっ!! 何も見えねええ!!」


 残念だったな万丈。目が見えないのは俺も同じだ。

 俺は凄まじい光に視界を奪われ、その辺をのたうち回る。


「全くお前は、凄いんだかバカなんだか分からん奴だ!」


「えへ! ごめんね!」


 すると誰か(見えないけど多分万丈)に、首根っこを思い切り掴まれる。

 そして……


「風属性魔術・空気弾エアロシュート!」


「うおおはえええっ!! ジェットコースターの比じゃねぇぇぇ!!」


 ゴウッ!! ……と風の大砲と共に、俺は遥か彼方へと吹き飛ばされた。



--------------------



「全く、世話の焼ける奴だ……」


 まだ戦いが始まっていないのに、謎の疲労感に襲われる万丈。


「あーァ。小間の野郎、どっか行っちまいやがったァ」


 光が消え、徐々に視界を取り戻していく海藤。


「まぁいいんじゃない? 先に勇者サマを片付けちゃおうよぉ。私と貴方でやれば簡単よぉ」


 余裕の表情でそう言った砂肝。しかし……


「いや、もし奴のオートガードが戻ったら倒すのは至難の業だからなァ。ヤるなら今の内だな。砂肝、小間を探し出して殺してこい」


「えぇ~私ぃ?」


「……なんなら、オマエを先に殺しても構わないんだぜ? 砂肝ォ」


「分かったわよぉ。行けばいいんでしょ~」


 そう言った砂肝の姿が、栗色の髪をしたギャル風の女の子から、黒い装束を身に纏った冷徹な女魔王・キルのものへと変わった。キルは黒い装束の後背部分を翼のように変化させ、そのまま高速で飛んで行ってしまった。


「魔王キルっ……!」


「おっとォ! テメェの相手はこのオレだぜェ? 勇者サマよォ」


 キルを追おうとする万丈だったが、それを遮るように立ち塞がる海藤。


「ここに来てからオマエとヤるのは2度目だなァ。前世からの腐れ縁……いい加減ケリつけさせてもらうぜェ!!」


「こちらの台詞だ! 二度と蘇れないように消し飛ばしてやる!」


「ゲギャハハァッ!! ヤレるもんならやってみなァ!!」


 勇者カインの魂を引き継ぐ万丈龍之介と、魔王である蟻道冷人の魂を引き継ぐ海藤咲夜。

 2人の因縁の対決の幕が上がった。



--------------------



「見つけたわよぉ! 小間竜騎ぃ!!」


「あっへは☆仕事早いっすね! 砂肝さぁぁん!」


「今は砂肝じゃなくてキルだけどねぇ!」


 万丈の魔術で、最初の場所から随分と離れた地点に飛ばされた俺。着地する直前、空気の塊がクッションのようになって衝撃を全て吸収してくれた為、なんとか無事だったが、その2分後くらいに空を飛んできた砂肝……もとい、魔王キルに見つかってしまった。

 そして、ヤケクソになりながら全力疾走し、キルから逃げ回ってはいるのだが……


「そんな亀みたいなスピードで私から逃げられると思ってるのかしらぁ!?」


 キルが腕を軽く振るうと、周囲の木々を薙ぎ払うほどの衝撃波が発生する。俺はなんとかジャンプして直撃だけは避けようとしたが、威力が凄すぎて普通に吹き飛ばされてしまう。受け身を取ろうとしたが、残念ながらそこまで上手くいかず、背中を強打してしまう。


「がっは……背中打った……マジ痛いでやんす……」


 死期を悟ってプチパニック状態の為、変なテンションになっている俺。つい、今は亡き松笠の口調をマネてしまった。


「ふふっ。今の喋り方、貴方が殺した松笠君のものよねぇ? 死が近づいてお友達が恋しくなっちゃったのかしらぁ?」


「はぁ? あんな奴友達でもなんでもねぇよ。あと俺は殺してねぇ。嵌めただけだ」


「ふふっ。とことん最低ねぇ。まぁ松笠君も貴方と同じゲス野郎だし、別にいいけどねぇ」


「ゲス野郎? 何が」


「もう忘れたのぉ? 貴方、松笠君と2人で女湯覗こうとしてたじゃない」


 そういえばあったなそんな事。あの日は普通にどうかしていた。


「さぁて。じゃあそろそろ仕上げといきましょうかぁ」


 じりじりと、俺との距離を詰めてくるキル。

 俺は背中を強打して上手く動けないし、走ったところでコイツのスピードからは逃げられそうもない。

 4回戦開始早々、これはガチで詰んだかもしれない……。


「あーぁ。あっけねぇなぁ」


「あら、人生って意外とそんなもんよぉ。よかったじゃない、最後に大切なことを学べてぇ。来世ではその教訓を生かせるといいわねぇ。あら、でもここで脱落したらモンスターとして永遠にこき使われちゃうんだっけぇ? ふふっ、可哀想に」


 畜生。俺が追い詰められるのが楽しくて仕方が無いのか、べらべらと喋って焦らしやがる。

 しかし、そうか……。この神の間で死んだら、異能の力を引き継いだモンスターになっちまうんだっけか。はぁ、股間から竜が生えたキマイラかぁ。正直死んだ方がマシだと思うが、まぁ仕方が無いか。


「もういいや。殺せよ」


「ふふっ。潔いわね。安心しなさぁい。私、彼みたいに拷問したりする趣味はないからぁ。一瞬でイカせてあげる♡ 地獄でゲス仲間の松笠君と仲良くやりなさぁい」


 なんで地獄行きが確定してるんだか。まぁどうでもい……ん、地獄?

 俺は何故か、心に何か引っ掛かるものを感じた。なんだ、何がそんなに引っ掛かって……。

 あぁ、そういえば。キルの異名って「地獄の魔女」だったな。なんだ、そんなどうでもいい事が引っ掛かってたのか。くっだらね……。あれ、でもキルの異名って確か他にもあったよな……? 確か万丈が言ってたのは「地獄の魔女」に「人形使い」、それから……「魅惑の魔女」。


 直後。俺は松笠と女湯を覗きに行った時の事を思い出す。

 そうだ。あの時確か、夜のフェーズにも関わらず、股間の竜が目を覚ましたんだ。そして、あの時目の前には、下半身マッパの俺に動揺する砂肝がいた。

 ……なるほど「魅惑の魔女」か。細かい理屈はさっぱり分からないが、このまま死ぬなら試してみる価値はあるかもな。

 しかし、あれこれ考えているうちに、俺とキルの距離は僅か5メートルほどとなってしまう。

 もうやるしかねぇ! もう一度、あの時の状況を再現するんだ!


「おうらぁ!」


 俺は体に鞭打って、反動で体を起こす。そして、キルに向かってダッシュする。


「あらぁ? やぶれかぶれかしらぁ? 貴方らしくないわねぇ」


 余裕そうにくすくすと笑うキル。

 あの時キルは、俺の下半身マッパを初めて見て驚いた。だが今現在も含めて、俺がこのバトルロイヤル中にズボンを履いた事はほとんどない。今さら股間を近づけるだけじゃインパクトが弱い。

 ならば……と。俺は覚悟を決める。

 あの時以上の衝撃を与え、もう一度股間の竜を復活させるんだ!


「そいやっさぁぁぁーーーーー!!」


 俺はキルに向かって思い切り飛びかかる。

 それと同時に、服を全て脱ぎ去り、生まれたままの姿へと原点回帰する。

 平たく言えば、全裸でキルに向かってダイブした。


「きっ!!!? きゃああああーーーーーーー!!?」


 まるでゴキブリが顔面に向かって飛んできたかのような、嫌悪感丸出しの悲鳴をあげるキル。

 それと同時にキルは、先ほどの衝撃波を再び放ってくる。

 このまま何も起きなければ、俺はこの衝撃波をモロに食らい、あっという間にバラバラになってしまうだろう。だが、俺には確証があった。この高揚感、間違いない! あの時と同じだ!


「あっそいやっさぁっ!!!」


 直後。

 俺の雄叫びと共に、股間の竜が目にも止まらぬスピードで衝撃波をかき消した。


「なっ、なんでぇ!?」


 激しく動揺するキル。

 まぁ当然そうなる。まさか自分の能力が原因で伝説の竜が復活するとは夢にも思ってないだろうからな。


「なんとか成功したぜ。魔王キル……いや、魅惑の魔女さんよぉ!」


「なっ! 貴方、何故その名を……まさかっ!!」


 何かに気付いた様子のキル。

 だがもう遅い。こいつが復活すれば俺に敵はいない。


「伝説の竜、復活でやんすぅーーーーー!!」


「ギャオオオアアアアアアッ!!!!!」


 短い眠りから覚めた伝説の竜の咆哮が、夜空に響き渡る。


「さぁ、おふざけはここまでだ。あとは蹂躙するのみ」


 先ほどの体たらくが嘘のように、俺は死ぬほどかっこつけてそう言い放った。




お読みいただきありがとうございました。

次回、魔王軍の四天王が他にも…?

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