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夜② 過ち

小間と海藤の意外な因縁が明らかになります。


 自室に戻ってしばらく休んでいると、万丈龍之介が俺の部屋へやって来た。


「……やはり、その竜は股間からしか生えてこないのか?」


 万丈が今更な質問をしてくる。


「あぁ。3回戦が終わった瞬間に股間から生えてきやがった。俺に選択肢は無いらしい」


 確か体の部位を言った瞬間にその部位がドラゴンに変化する……って能力だったはずだが、実に股間が重くて仕方が無い。


「で、万丈。俺に聞かせたい事があるって?」


「あぁ。今の異世界の現状についてだが……」


 万丈は桃木から聞いた異世界の状況について説明し始める。


「俺が死んでから500年以上も経ってんのか……。しかも、魔王キルが魔族を率いて人間界に攻めてきて、異世界と人間界が繋がっちまったとは……なんつーか、情報量が多すぎてパンクしそうだ」


 まさかここまでぶっ飛んだ話だとは夢にも思っていなかった。

 桃木が言っていた、人間界も異世界も変わらないってのは、この事を言っていたんだな。


「つーか、魔王キル……砂肝がわざわざ人間界に攻めてきた理由ってなんなんだ?」


「そこについては、桃木も知らないらしい。だが……」


 万丈は少し間をおいてから、再び口を開く。


「キルが率いる魔王軍は、人間を殺す前に必ず生け捕りにしていたそうだ」


「生け捕りねぇ……妙な話だな」


 キルの過去の話を聞いていれば分かる事だが、あの女はとにかく人間が嫌いらしい。


「人間を使って何かを試していた……とか?」


「さぁな。俺も詳しくは分かっていない」


 まぁそりゃそうだろうな。


「別に気にする事じゃねーか。結局やる事は変わらねえ。あいつらをぶちのめすだけだ」


「あぁそうだな。なんとしても、海藤と魔王キルを異世界に転生させることだけは阻止しなければならない。特に海藤……奴は災厄そのものだ。万が一にでも奴が転生したら、いよいよ世界はおしまいだ」


「災厄ねぇ……」


 俺は心の奥底が少しざわつくのを感じる。


「どうした」


「海藤が災厄そのものなら……もし、その災厄を生み出した原因となった者がいたとしたら、そいつはもっと最悪だろうな」


「なんだ、どういう意味だ」


「3回戦終了時に、俺の頭に過去の記憶が流れてきた。その時に思い出したことがある。いや、知ったというべきか」


「そういえば、海藤の奴もそんな事を言っていたな。何か関係があるのか?」


 神妙な顔つきの万丈。

 もし俺がこの話をしたら、万丈は俺の事を許してくれるだろうか。一緒に戦い続けてくれるだろうか。

 どうなるかは分からない。だが話しておかねばならない。決して避けては通れない道だ。

 俺は一息ついてから、再度口を開いた。

 俺が過去に犯した過ちを、万丈に聞いてもらう為に。



--------------------



「嘘でしょ……?」


「ククッ。そんなつまんねェ嘘つくかよ」


 一方。海藤の自室に訪れていた砂肝は、海藤の口から放たれた衝撃の事実に動揺していた。


「信じられないのも無理ないでしょ? 貴方が小間竜騎と前世で……人間界で一度接触していたなんて」


「あァ。それどころか、今のオレがあるのは完全にあいつの影響と言っていい。ククッ。奴はずっとオレと同じタイプの人間だとは思っていたが、まさか前世であんな因縁があったとはな」


 乱暴にテーブルに足を乗せて話す海藤。


「……いつ知ったの?」


「3回戦であいつがオレの首を切り落とした時だ。その時に、記憶が頭に流れてきたのさ」


「あの時目覚めるのが遅かったのは、そういう事だったのね」


「あァ」


 海藤は短くそう答えた。


「ねぇ、一体、小間竜騎との間に何があったの?」


「いちいち話すのは面倒だ。オマエの脳内に直接送ってやるよ」


 そう言うと、海藤は手をスッとこちらに向ける。

 その瞬間。海藤が3回戦で見た記憶と全く同じものが、砂肝の脳内に流れ始めた。


 

 これは、人間界にいた頃の蟻道冷人の物語。

 生まれた時からどす黒い破壊衝動を抱えていた少年が、悪魔へと姿を変える物語だ。




お読みいただきありがとうございました。

次回、蟻道冷人の過去編です。

ちょっとブラックな話です…。

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