表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/103

夜① 神はサイコロを振らない

今更ですが、クレアと鳥皮と砂肝の関係がややこしいので、ざっくりとまとめます。()内は前世です。


紅クレア(紅クレア)

砂肝の幻術で、砂肝と鳥皮を前世からの友人だと誤認する。


鳥皮好実 (アリサ)

自身の正体を隠す為に、砂肝とクレアに幻術をかけ、友人のフリをしている……と、アリサは思い込んでいるが、これらは全て砂肝の幻術である。


砂肝汐里(魔王キル)

クレアと鳥皮に幻術をかけ、友人のフリをする。自身は鳥皮に幻術をかけられた被害者の一人を演出し、正体を隠蔽する。



 暗い。


 俺、小間竜騎の目前には無限の闇が広がっていた。

 1ミリも動かせない体。ペンタブラックで塗りつぶされた視界。ただ意識だけがそこにある。

 こうなってくると最早、自分の肉体が存在しているのかも疑わしい。


 そんな中、蜘蛛の糸ほどの光が一筋、俺の目に入る。

 光は徐々に力を増していき、闇を消し飛ばしていった。


 同時に、俺の意識に膨大な量の記憶が流れ込んでくる。

 それは俺の記憶だった。いや、最初こそ俺の視点で始まったものの、一周すると今度は別の人間の視点で記憶が最初から流れ始める。この現象は何度も繰り返されたが、全てを理解するのにかかった時間はほんの刹那の時間だった。


 そこで俺は全てを知った。

 あの男が悪魔となった理由。

 そして、俺が犯した過ちを。



--------------------



『皆さま、お疲れさまでした! 只今をもって、3回戦を終了致します!!』


 透き通るような声と共に、俺の意識は再び覚醒する。

 目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。ここは「神の間」。俺たち死者が異世界転生の権利をかけてバトルロイヤルを行っている場所だ。


「小間、しっかりしろ!」


 俺の目の前には、黒髪短髪の屈強な男、元勇者の万丈龍之介の姿があった。


「よぉ、万丈。お前もゴールしたんだな」


「あぁ。お前の方は海藤に襲われたらしいが、どうやら例のあれで乗り切ったらしいな」


 例のあれというのは、ゴール手前で俺が海藤に襲われた際に使用した「ダミー宣告」の事だ。

 「宣告」で相手を倒すのではなく、10秒間のインターバルでの無敵時間を利用して、ゴール直前の他プレイヤーからの妨害を阻止するのが目的だ。ゴールしてしまえば、いかなる状況であっても4回戦進出が決定するので、例え「宣告」に失敗しても、他プレイヤーに殺されても問題は無いということだ。

 まぁ万丈には事前に話しておいたが、どうやら使ったのは俺だけみたいだな。


「えぇそれでは皆さま。今から4回戦進出者を発表致します。とはいっても4人だけなので、発表するまでも無いとは思いますが」


 そう言いながらも、女神は俺たちを見渡しながら、4回戦進出者の名を一人一人あげていく。


「小間竜騎、万丈龍之介、海藤咲夜、砂肝汐里……以上、4名になります」


 白い髪をオールバックにした赤い瞳の男、海藤咲夜は不敵に嗤う。

 栗色の髪色をしたギャル風女子、砂肝汐里はただ無表情でそれを聞く。


 この2人は前世では魔王であり、この2人を倒して異世界転生を阻止するのが、俺と万丈の目的だった。まぁ俺としては、この2人が全プレイヤーの中でトップクラスに厄介だから、早めに協力して倒しておきたかっただけだが、残念ながらそれは叶わず。結果的に最後の4人まで残ってしまった。


「では今まで通り、4回戦は次の昼のフェーズからです。皆さま、それまでゆっくりとお休みください」


 淡々とそう言い残し、女神の姿は蜃気楼のように消えていく。

 そして、俺たちの自室へと繋がっている白いドアが同時に出現する。


「ククッ。ついにここまで来たなァ。小間ァ、万丈ォ……」


 海藤はそう言って、愉快そうに嗤う。


「ようやくメインディッシュの時間だァ。キサマらの血肉を食らい尽くし、再びオレが異世界の魔王となる。いや、もう異世界なんて呼べるもんでもないかァ? クハハハッ!!」


「異世界と呼べない? なんの話だ」


「それはそこの勇者サマに聞くんだなァ」


 海藤はそう言うと、砂肝汐里と共に白いドアの向こう側へと消えていく。


「万丈、さっきのって……」


「あぁ、色々と共有しておきたい事がある。今現在、向こう側がどうなっているのか、な」


「なら丁度いい。俺も思い出したことがある。いや、記憶というより、正確にはついさっき知った事なんだが……」


「分かった。取り敢えず少し休もう。しばらくしたら、そちらに向かう」


「あぁ、了解」


 万丈はそう言い残すと、先に白いドアをくぐる。

 俺は、ただただ真っ白な空間を眺めながら、呆然と立ち尽くしていた。


「いよいよですね」


「……驚かすなよ、女神様」


 俺の背後から、ついさっきどっかに行ったはずの女神が再び現れた。

 この女神は神出鬼没でとにかく心臓に悪い登場の仕方をする。しかし改めてみると、とんでもない美貌だな、この女。白銀色の髪に白い肌。宝石よりも美しいと感じさせる青い瞳。妖精のような可憐さを残しつつも、彫刻のように整った顔立ち。だが、やはり俺はこの女をどうも好きにはなれなかった。俺と目が合っているにも関わらず、その美しき瞳には何も映っていない。そこには一切の感情が無く、まるで機械や昆虫のような無機質さだけが感じ取れる。人と酷似した造形をしているだけで、中身はまるで別物。それが余計に気持ち悪いし、気に入らない。まぁ俺の私情は置いておくとして、わざわざ出てきたなら丁度いい。女神には少し聞いてみたい事があったからな。


「なぁ。アンタは俺に海藤を……蟻道冷人を倒すように、そう言ったよな?」


「はい、言いました」


 女神は作り物の笑顔でそう答える。綺麗な笑顔に綺麗な声。だが淡々とし過ぎていて、まるでAIが話しているかのように事務的でペラペラだ。まるで手応えが無い。


「じゃあなんで砂肝……魔王キルの事は俺に伏せていた? 奴も海藤と同等レベルの脅威じゃないのか?」


「当初、魔王キルは後回しで構わなかった。当面の目的は蟻道冷人の排除です。とはいっても、4回戦まで生き残ってしまっては、後回しとも言ってはいられませんが」


 お得意の規則とやらで躱されると思っていたが、意外とすんなり答える女神。


「お前、なんでそんなに蟻道冷人……海藤を排除したがってるんだ?」


「世界の調和の為です」


「それは前に聞いた。本当の理由は?」


「規則なので答えられません」


 出た、こいつの十八番。核心に迫るといつもこれだ。

 だが、今のやり取りで十分だ。試しにカマをかけてみたが、意外と上手くいった。

 「海藤を倒したい本当の理由は?」という問いに対して「世界の調和の為」だと再度答えなかった。それはつまり、女神の本当の目的は世界の調和とは別にあるという事だ。まぁ、それがなんなのかは想像もつかないから別にいい。俺が本当に聞きたかったのは、ここからだ。


「女神様よぉ。今回のバトルロイヤルのメンツ、本当に偶然集まった奴らなのか?」


「えぇ、それが何か?」


「いやなに。それにしちゃ、随分と素敵なご縁に恵まれた方々が多いと思ってな。勇者カインに幼馴染のアリサ、蟻道冷人に魔王キル。蟻道冷人を恨むチンピラ魔族2人に、魔王キルと何らかの因縁があった桃木。それにクレアとその彼氏の一式。他にもいるかも知れんが、俺が知る限りはこんなモンだ。なぁこれは本当に偶然か? ここまで因縁があって死んだ時期もバラバラの奴らが、同じタイミングでこうも集まるかねぇ? まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ガラじゃねぇが、俺は神の存在を感じたよ。だから女神であるお前に聞いてるんだけど、どうなんだよ」


「……」


 女神は無表情で沈黙を貫く。

 だが、俺はそれを無視して話を続ける。


「そして、素敵なご縁に恵まれたのはこの俺もだ。なぁ、アンタは当然()()()を知ってたんだよな? だから俺に海藤を倒すように依頼したのか?」


「規則なので答えられません」


「はっ、そうかい。まーそろそろ飽きてきたし、この辺で止めてやるよ。疲れたし、ゆっくり休むわ。あばよ女神様」


 俺は白いドアに向かってすたすたと歩き始める。


「……コマのクセにペラペラうるせーんだよ人間の分際で」


 ドアを通る直前、どこか既視感を覚える冷徹な声が女神から発せられた気がするが、俺は構わずドアをくぐり、自室へと向かうのだった。




お読みいただきありがとうございました。

次回、衝撃の事実が明らかに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ