昼㉕ 3回戦終了
生き残るのは…!?
バトルロイヤル3回戦
砂肝汐里は、目前の光景にしばらく声を出すことができなかった。
「……信じられないわぁ」
海藤咲夜と砂肝汐里は、桃木瞑亜が召喚した無数の戦闘機、パワードスーツを装着した何十体ものアンドロイド、数体の巨大ロボット兵器たちに囲まれていた。
たった2人と未来の軍事力そのものの戦い。傍から見れば結果は火を見るよりも明らか……どころか、最早勝負になるとすら思わないだろう。
「海藤、魔王キル! これがわたしの全力だ!」
「あの子の異能『武器商人』は、触れたことのある武器を召喚する異能。でもまさか、メアちゃんがここまで異能の力を引き出せるなんてぇ。これじゃ本当に戦争じゃない」
「どうした、キル。顔が引きつってんぞ」
「私は、前世で人間の持つ軍事力によって殺された。無数の兵器にアンドロイド……その中にあの子もいたわぁ。だから少しトラウマが……ね」
「つまりオマエは、あいつに殺されたと言っても過言じゃねェワケか。情けねェな」
「その時あの子も死んだから、相討ちだけどねぇ……。いくら貴方といえど、舐めない方がいいわよぉ。貴方の持つ魔術の加護でも、科学兵器の攻撃は無効化できないし……」
「まァ、確かにレーザーやら核ミサイルやらは、魔術の加護じゃ無効化できねェわな」
首をゴキゴキさせながら、退屈そうに言う海藤。
「私も加勢するわ。魔力をフルに使って、人形たちを……」
「必要ねェよ。オレ一人でやる」
そう言って、砂肝の前に出る海藤。
「待って! いくらなんでもそれはっ!」
「すぐ終わるつったろ」
海藤はそう言うと、赤い瞳を不気味に輝かせ、嗤った。
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一方。
俺、小間竜騎と万丈龍之介、気絶している紅クレアは、万丈が召喚した黄金の不死鳥に乗って、猛スピードで空を飛んでいた。
「小間。紅は起きたか?」
「さっきからスカートめくったり、パンツ脱がせたり、おっぱい揉んだりしてるんだが、全然だな。まるで起きる気配がない」
「小間……お前どさくさに紛れて自分の願望を叶えていないか?」
「そんな事ございやせんよ」
俺は澄んだ瞳でそう言った。
「桃木はあぁ言っていたが、正直、魔王2人を相手にどれだけ持つか分からない。俺たち3人でゴールする為にも、紅に起きてもらわねば困るのだが……」
「仕方ねぇ。遊びは終わりだ」
「遊んでいたのか」
「当たり前だろ」
俺はすっと立ち上がると、ズボンとパンツを思い切り脱ぎ捨て、下半身全裸になる。
そして、俺のビームサーベルをクレアの顔の前でぶらぶらさせる。
「小間。今までどんな人生を送っていたら、そんな発想に行き着くんだ?」
万丈が未確認生物でも見るかのような目で俺を見る。
だが俺は、そんな万丈の視線を無視して、儀式(?)を続ける。
「あっそれ。あっそれ。おいなりさんに白玉2つ~あっという間に六芒星~☆」
俺は歌って踊りながら、アソコの皮を思い切り引っ張り広げて見せる。
直後、クレアの裏拳が俺の股間にクリーンヒットした。
俺のアソコは、風に流され飛んで行ってしまった。
「アンタ! 私の顔の前でち〇ち〇ぶらぶらさせてんじゃないわよ! げぇ汚い! 思わず裏拳しちゃったじゃない!」
俺の儀式の効果で目覚めるクレア。相変わらずはきはきと喋り、元気なご様子。
「おっっふぉっ!? いでえええああぇぁぁえぁっ!!?」
一方の俺は、ち〇こを吹き飛ばされ、言葉にならない痛みと共に悶絶していた。
「万丈っ……すまんが、俺のち〇こを……黄金の炎で……再生……」
「お前はこの非常事態に何をやっているんだ……。全く……」
万丈の黄金の炎で、再び股間を取り戻す俺。
おかえり、俺のち〇ち〇。
「しかし、随分眠ってたなゴリラ姫。起こすのに苦労したぜ」
「……そっか。私、海藤に……」
何かを思い出し、一瞬表情が青ざめるクレア。
だがすぐに、安堵の表情へと変わる。
「2人が助けてくれたんだよね?」
「あぁそうだ。俺に感謝しろよゴリラ」
「ありがとう、万丈さん」
残念ながら、クレアの感謝の矛先は俺に向くことはなかった。
「俺は何もしていない。海藤から紅を助けたのは、小間だ」
「え? アンタが……」
すると、クレアは頬を少し赤らめながら、もじもじし始めた。
なんだ気色悪いな。
「こ、こみゃっ!」
「小宮?」
「ち、違う! こ、小間っ!」
俺の名前を盛大に噛み、仕切り直すクレア。
顔がどんどん赤くなっていく。髪も赤いし、マジで林檎みたいだ。
「あ、ありがとう……ね」
やや上目遣いで礼を言うクレア。
なんとも言えない空気が流れる。
「気にすんな。礼ならちゃんと貰ったしな」
俺は上着のポケットから、一枚の可愛らしいピンク色の布切れを取り出す。
「なっ!? なんかスースーすると思ったら! アンタまじさいっっっっってい!!」
「おー随分溜めた最低だな」
「返して! 私のパンツ!」
クレアは涙目になりながら、こちらに詰め寄って来た。
俺は、あと数センチでクレアの手がパンツを掴むという所で、ぱっ、と手を離した。
クレアのパンツが風に流されて飛んでいく。
「アンタ! 何してくれてんのよ!」
「空に~憧れて~♪」
クレアに胸倉を掴まれるも、風に飛ばされたパンツを眺めながら、口ずさむ俺。
「万丈さん! 悪いんだけど、黄金の炎で私のパンツ作り直して!」
「ついでに、さっき脱ぎ捨てた時にどっかいった俺のズボンとパンツもな」
「お前たち……」
呆れ果てて、溜息をつく万丈。
どうでもいいが、自分の背中でこんなやり取りをされている黄金の不死鳥がすごい不憫に思えてきた。
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「……ありえないわぁ」
砂肝汐里は、目前の光景にまたもや声を失っていた。
空と地上を埋め尽くす勢いで出現した、無数の科学兵器たち。その兵器たちが、いとも簡単にガラクタたちへと姿を変えたのだ。目の前の、たった一人の男の手によって。
「がはっ!」
瓦礫の山で倒れる桃木。下半身が損失しており、右腕は瓦礫の下敷きになっている。
バチバチッ……と、桃木の胴体から見える金属部分が小さな火花を散らす。
「オマエその体、アンドロイドか。100年も人間に利用されて姿がガキのままなのは、そういう事だったのか」
白髪の魔王が、瀕死の桃木へと一歩一歩近づく。
「……なんなの、あの姿……本当に、魔王じゃない……」
「だから魔王だって言ってるだろ。バカかオマエ」
桃木は先ほどの戦闘を思い出す。
海藤に向けて、呼び出した兵器たちで総攻撃を仕掛けた瞬間、海藤の姿が巨大な悪魔のような姿へと変貌した。その直後、まるで災害のような別次元の魔術によって、桃木が召喚した兵器たちは一瞬で壊滅した。
「あんなの……あんな天変地異みたいなのが……魔術だっていうの? ホントバケモンだねー……かいどうちゃん……」
「それは遺言かァ? もうちょっと面白い事言えねェのかよ」
潰した虫でも見るように、桃木を見下ろす海藤。
桃木は、目前に迫った海藤に向かって口を開いた。
「宣告! 海藤さ……」
ガシャッ!
海藤に向かって死に際の宣告を行う桃木だったが、言い終わる前に、海藤の蹴りで頭を潰されてしまう桃木。
桃木の体が砂になって消えていった。
「ククッ、あぶねェあぶねェ。今のが一番ヒヤッとしたぜ? 小娘」
愉快そうに嗤う海藤。
「どうするの海藤? 彼ら、随分と遠くに行っちゃったけど」
「問題ねェ。あいつらがどこにいるかは分かってる。追いつくのも時間の問題だ」
遠距離まで離れた人間の存在を感知するほどの海藤の魔眼。
魔王であるキルから見ても、その精度は桁違いのものだった。
「流石ね。私も手伝おっか?」
「好きにしろ」
そう言うと海藤は、なんらかの魔術で空を飛び、どこかへ消えてしまった。
「……やっぱり、あの人は格が違うわね」
砂肝はぼそっとそう呟いた。
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一方。
クレアが目覚めたので、各々ゴールへ向かう事にした俺たち。
俺のゴールと逆方向の万丈は、単独でゴールへ向かい、俺は、まだターゲットを入手していないクレアの手伝いをすることになった。理由は、何かあった時にガドストの能力で万丈の元へワープして逃げる為だ。
「取り敢えず俺のゴールを目指しながら、異能が入った宝箱を探していく」
「分かった。手伝わせちゃって、ごめん」
「気にするな。海藤を3回戦で脱落させる為だ、お前の為じゃない」
「……すーぐ余計な事言うんだから」
ぷくっと頬を膨らませるクレア。
何を急に女ぶってんだこいつ。なんて思ったが、よく考えたら普通に女だったわ。
「なんか、ここまで結構長かったわね」
走りながら宝箱を探していると、クレアが突然そんな事を言い始めた。
「あ? まぁそうだな。まだ今日で3日目なんだけどな」
「色々あったよね。あんたが私の部屋に間違えて入ったり、ミコトさんと3人で一緒に戦ったり……」
「……そうだな」
そう考えると、何故かすごい長い時間が過ぎたように感じる。
本当、俺は何回こいつに殴られたんだろうか。数えたらキリがない。
「私さ、最初神の間に来た時さ、すごい怖かったんだよね」
「そりゃ、大体の奴がそうだろ」
死んだと思ったらこんな場所で蘇り、挙げ句バトルロイヤルなんて、普通の人間だったらパニックになって当然だ。
「でも異能のカードを引きに行くとき、アンタが目の前にいて、なんでか分かんないけど少し安心したんだよね」
「なわけあるか。あんとき初対面だぞ。安心するなら、彼氏の一式にだろ」
「まぁ……そりゃ少しは安心したけど、和人は多分私の事好きじゃなかったからさ。私、夢を諦めた後も格闘技のことしか頭に無くってさ、恋愛とか全然分からなくて……」
夢とやらが何かは知らないが、クレアと一式の関係はあまり良好ではなかったようだな。
まぁ、ある意味良かったかもしれないが。一式の本性を知れば、クレアはきっと絶望していた事だろう。
「アンタはなんかこう、最初からずっと騒がしかったけど、怖がっているわけじゃなくて……うまく言えないけど、とても強い人間に見えた」
俺が強い?
思わず笑ってしまいそうになる俺。自分の人生に、人間性に絶望して死を選んだ俺が強いなどあり得ない。むしろ、弱者と言っていい。
「だから、喋ってると安心した。まぁ変な事たくさん言うから、なんかいっぱい殴っちゃったけど……」
「なんかで済ますな。お前のパンチ、この世界じゃなかったら一発で人死ぬからな」
「あはは、ごめんごめん」
何がおもろいねん。
しばらく笑い続けるクレア。
「……ありがとね」
「は?」
突然、訳の分からない事を言い出したクレア。
こいつ、マジで何言ってんだ? 気ぃ狂ってんのか?
「目が覚めるまで、海藤に拷問みたいな事されてた。死ぬのも怖かったけど、それより、この苦しみがいつまで続くんだろうってずっと怖かった」
「……」
「しばらくして、もう怖いとも思わなくなった。心が壊れていくのが分かった。意識もだんだんと薄れていってさ。でもそんな中、アンタが助けてくれた」
こいつ、普通に気が付いていたのか。
あの後すぐに倒れてたから、気が付いてるとは思わなかった。
「私には、あの時のアンタが王子様に見えた」
足を止め、微笑みながらそう告げるクレア。
俺も足を止め、耳を傾ける。だが……
「俺が王子様って……アホかよ。俺みたいなクソカス人間が、そんなキラキラしたよく分からねーもんに……」
クレアは俺の過去を知っている。
親父からクソほど暴力を受け、自らも暴力に溺れた最悪の人間だった。
この神の間に来てからもそうだ。ロクな事をした試しがない。
それを理解した上でそんな事を言ってるんだとしたら……
「バカだな、お前」
俺は面白くなって、何故か少し笑ってしまった。
「バカでもいいよ……」
クレアはそう言うと、俺の肩を軽くつかみ、抱き寄せられる距離まで近づいてくる。
クレアはうるうるした瞳でこちらを見つめると、背伸びをして自分の唇を俺の口元へと近づけてきた。
「こま……」
あと数センチで俺とクレアの唇が重なるといった、その時だった。
ドンッ! と、クレアが両手で俺を押し出すようにして、突き放した。
倒れて、地面に頭をぶつける俺。
「なにすんだお前! まさか、このタイミングで恥ずかしくなったとか言うんじゃ……」
ムキになってクレアを見る俺。
だが、様子がおかしい。
「うっ……!」
何かに苦しみだすクレア。
その直後。
ボンッ!
という、小さな爆発音が聞こえた。
クレアの胸部が破裂し、大きな風穴が空いていた。
「クレアああああっっ!!?」
俺はクレアを抱き寄せる。
「ご、め、んね……。体に、違和感があったの……。嫌な予感がして、それで……」
「喋るな!! クッソ!! 何がどうなってやがるっ!!?」
「クハハハッ! いやァ面白れェモン見させてもらったわァ……キヒヒヒッ」
悪魔のような嗤い声と共に現れたのは、海藤咲夜だった。
「そこの女と戦った時、体に魔力の爆弾を仕込ませてもらったのさ。そいつがゴールしそうになったら爆破しようと思ってたんだがなァ……絶好のチャンスが来て、つい爆破させちまったァ。ギャハハハハハハハハァッ!!」
「テメェェッ!!」
「ぷははっ! らしくねェな小間。そんな女にお熱なんてよォ。そんなガラじゃねーだろ。一時の感情でクソみてェな恋愛ドラマ見せつけやがって……クソ気持ち悪かったぜェ!? アーッハハハハハァ!!」
「上等だ……お前はマジで殺して……」
「小間っ!」
抱き寄せたクレアに、片手で投げ飛ばされる俺。
直後、邪悪な色をした光線がクレアの頭を貫いた。
「に……げ……」
「フン。脳みそぶち抜いたのに喋ってんじゃねェよ」
徐々に砂になって消えかけていたクレアを、海藤が踏みつぶす。
砂となったクレアは、風と共に流されていった。
「海藤……テメェ……マジで殺されてーみてぇだな」
「ククッいい殺気だ、心地いいぜェ。だが小間ァ、オマエも一回戦で一式をこんな感じで殺してたよなァ? なら仕方無いだろ。気まぐれで暴力を振るい続けてた報いだなァ。あへはへははは……」
薄気味悪く嗤う海藤。
だが俺は海藤を無視して、地面をガドストで殴りつけ、アスファルトを砕く。
そして、砕いたアスファルトを巻き上げるように、さらに地面を殴りつけた。
「はァん。目眩ましのつもりかァ? やる事が陳腐なんだよ小間ァ」
俺はその隙に海藤から逃げる。
しばらく走っていると、俺のゴールが見えてきた。
幸い、俺たちが探索していたところは、俺のゴールの付近だったのだ。
ゴールまであと50メートルほど。しかし……
「あめーんだよォ! 小間ァ!!」
海藤は俺を追いながら、巨大な炎の球体を作り上げ、猛スピードで飛ばしてきた。
「クハハァ!! さァ、どうする小間ァ!?」
炎の球体はあまりにも大きすぎるため、俺の力では躱すことも消すこともできない。
……海藤との距離は10メートル以内。これなら使える。
「宣告! 海藤咲夜!」
「な、なにィ!!?」
『宣告者、小間竜騎。10秒以内にターゲットを宣告して下さい』
宣告時の女神のアナウンスが流れる。
「小間のヤロウ!! オレのターゲットを見抜いていたというのか!?」
俺の言葉にかなり動揺する海藤だったが、俺の目的はそこじゃない。
直後、巨大な炎の球体が俺の体をすり抜けた。
「ま、まさか小間のヤロウ……、オレの攻撃を無効化する為に宣告をッ……!?」
そう、俺は海藤のターゲットなど知らない。
宣告のルールである、「『対象者』のターゲットを言い当てる10秒間は、『宣告者』と『対象者』への攻撃を無効化する」というルールを利用して、海藤の攻撃をスルーしただけだ。
そして、残り10秒未満。
俺はガドストの力で猛ダッシュし、自分のゴールへと辿り着く。
『プレイヤーの皆さんにお知らせです。たった今、1名のプレイヤーがゴールしました。4回戦出場枠は残り2つです』
俺のゴールにより、女神のアナウンスが再び流れる。
「ゴールしたプレイヤーはいかなる状況であっても4回戦出場が決定する。なら、ゴールしちまえば宣告中であっても問題ない」
「ククッ。やるじゃねェか小間ァ。やはりオマエは楽しませてくれるなァ」
不気味に嗤う海藤。
直後、俺に向けて高速の何かを撃ち出してきた。
俺の頭を、その何かが貫いた。
その瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、3日目夜のフェーズです。




