昼㉔ 託された思い
覚醒した海藤。
どうする!?
「ククッ。待たせたなァ。さァ、続きといこうか」
白髪になった髪をオールバックし、不敵に嗤う海藤。
「凄い魔力……その様子だとぉ、どうやら記憶の1ピースとやらが戻ったみたいねぇ」
どこか嬉しそうにそう話す魔王キルこと、砂肝汐里。
「あァ。だが正確には記憶じゃなかったがな」
「どういう事?」
「前世のオレも知らなかった事実……それを知ることができたのさ」
海藤はそう言うと、俺、小間竜騎の方へ視線を向ける。
「なァ? 小間ァ……。お前のおかげで今のオレがあると言っても過言じゃねェ! 感謝してるぜェ? クハハハァッ!!」
「あ? 俺のおかげって、何の話だよ」
「ハッ。なんだよ。あの時、オマエの方には伝わってなかったのか。そりゃ残念だァ」
首をゴキゴキと鳴らす海藤。
それと同時に、砂肝汐里の姿が再び魔王キルへと変化していく。
「さァ! プレイヤーも全員揃った事だしよォ! 殺し合いを始めようぜェ! クハハハッ!!」
高らかに嗤う海藤から、ビリビリとした殺気が放たれる。その殺気は、無数の刃のように鋭く突き刺さり、重力波のように俺たちの体に重くのしかかった。
マズいな……素人の俺にも分かる。今までの海藤も十分バケモノだったが、今のあいつは別格だ。正直、今の状況でやり合っても勝てる気がしない。どうする……
「こかんちゃん。ばんじょー」
海藤の圧倒的な殺気にたじろいでいると、桃木瞑亜が俺たちの前に一歩出る。
「私がこいつらを止めるから、その間にこかんちゃんとばんじょー、そしてクレアちゃんでゴールを目指してくれない?」
桃木からの予想外の提案。それに一番驚いた様子を見せたのは、元勇者カインの万丈龍之介だった。
「何を言っている桃木。ここにいる全員で戦えば、奴らを倒せるかもしれない。紅が目覚めれば4対2、有利なのはこちらだ。俺たちも戦う」
「んーん。残念だけど、今の戦力じゃ100%こっちが負けるよ」
淡々と、力強くそう断言する桃木。
「ばんじょーも言ってたじゃん。今の海藤は前世以上だって。私の目から見てもそうだよ。まさか海藤がここまでの怪物だとは思わなかった」
「だが……」
「はっきり言うけど、ばんじょーとこかんちゃんが死んだら……いや、どちらか一人でも死んだら、4回戦で海藤と魔王キルを倒すのは不可能だよ。伝説の剣と伝説の竜、この2つの力が揃わないと、奴らには勝てない。だから、今の状況で戦う訳にはいかないの」
桃木の言う通りだ。確かに、今頭数で勝っているのは俺たちだが、今の俺に伝説の竜の力はない。その力は今、海藤が持っているからだ。
だが4回戦になれば、異能は恐らく元の持ち主に戻る。伝説の剣と伝説の竜が、奴らを倒す為のカギとなるなら、今は戦うべきじゃない。それに……
「万丈。俺たち全員がゴールしちまえば、4回戦に進むのは俺、万丈、クレア、砂肝の4人だ。海藤は、ここで脱落させておくべきだ」
4回戦の出場枠は4つで、その内1つは砂肝に取られてしまった為、残り3つしかない。
「だが……」
「残念だが、もう倒し方に拘ってられる時期は過ぎたぜ万丈。今俺たちが考えるべきなのは、海藤と魔王キルを確実に倒す事……そして、最悪の状況を回避する事だ」
「こかんちゃんは物分かりがよくて助かるよー」
「それはどうでもいいが、お前はいいのか? わざわざ率先して囮役なんて。わりいけど、お前絶対死ぬぜ?」
「うわー。モチベ下げるようなこと言わないでよこかんちゃん。やるきなくすよー」
「すまん。お前は最高の囮役だ。誇っていいぞ。そして俺たちの為に散ってくれ」
「ばんじょーとは正反対だねこかんちゃんは。異世界に行っても、勇者にはなれなさそー」
そりゃ残念だ。
「まっ、さっきの答えだけど……私は正直、これ以上生きなくていいかなーって思っててさ」
唐突に悲しげな表情を見せる桃木。
「人間も魔族も、どっちも変わらないよ。悪い奴はどこにでもいる。私は、そんな奴らに100年も利用され続けてきた。世界を守る為に……。でも、もう疲れちゃったよ」
「あ、100年? ちょっと待て、なんの話……」
「こかんちゃん、ばんじょー」
俺の言葉を遮り、俺たちの目を見る桃木。
「後の事……託したよ。必ず世界を救って」
桃木は力強くそう言い放ち、海藤と砂肝と向き合う。
小さな体だが、その背中は不思議と大きく、頼もしく見えた。
「……行くぞ万丈」
「……くっ! 黄金の不死鳥!」
万丈は黄金の不死鳥を召喚する。黄金の炎に包まれし不死鳥が地上に舞い降りる。
「小間! 紅を乗せろ! すぐに行く!」
「はいはいわーったよ!」
俺は気絶しているクレアを抱え、黄金の不死鳥の背中に乗る。
直後、黄金の不死鳥が翼を羽ばたかせ、空を舞った。
「ずっと黙って見てたけど……行かせてよかったのぉ? 貴方、あの3人にゴールされたら終わりだって理解してる?」
「問題ねェ。どうせすぐに終わる」
海藤はそう言うと、邪悪な殺気を込めた目で桃木を睨みつける。
だが、その凄まじい眼力を前にしても、桃木の目から闘争心は消えていない。
最強の魔王2人と、小さな勇者の戦いが今、始まった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、3回戦ついに決着!




