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夜③ 女神から大事な話があるんや

前回登場した新キャラ


・ズボンとパンツ

小間が所有する防具の一部。漢の道を阻んだため、一足先に逝った。


 俺、小間竜騎こまりゅうきくれないクレアに凄まじい力で廊下に投げ飛ばされ、全裸で大の字になって倒れていた。


「しかし、あの女。なんつー馬鹿力だよ」


「あれ、確か小間君やったよな? こんなところでなにしとるん?」


 クレアの人間離れした腕力に驚いていると、黒髪で糸目の男に関西弁で話しかけられた。


「まぁ色々あってな。ってかお前だれ?」


「あぁ。ボクは空木勇馬からきゆうま。よろしゅう。というか、小間君はなんで裸なん?」


「誤って女子の部屋に不法侵入しちまって、全裸で筋トレしようとしたら外に放り出されたんだ」


「はは! なにとるんキミ! とりあえず、ほら、立ちぃや」


 空木は爆笑すると、倒れている俺に手を差し伸べた。俺はその手を取り、空木の引き上げる力に身を任せ、そのまま立ち上がる。


「わりぃな。すまん」


「いやいや、えぇねん」


「つかやべ。上着をクレアの部屋に置きっぱなしだった」


「なんや。不法侵入した女子の部屋って、クレアちゃんの部屋だったんか」


「あいつのこと知ってるのか?」


「このバトルロイヤルが始まる前に、少し話したんや。あの子、ごっつかわええやろ」


「外見はな。あれは美少女の皮を被ったクソゴリラだ。はぁ、今しがた投げ飛ばされたばかりなんだがな」


 俺は憂鬱な気分になりながら、クレアの部屋のドアをノックする。


「クレアさーん。お届け物でーす」


 そのまま用件を伝えてもまたぶっ飛ばされそうなので、適当にごまかす。とはいっても、声色ですぐばれるだろうし、そもそもこんなところにお届け物なんてくるはずがない。どうせ出てこないだろうな、と思っていたのだが……


「はーい。お届けものってなんですかー?」


「そこには、警戒心ゼロで現れた頭の弱いメスゴリラの姿があった」


「あんた心の声漏れてんのよ! 死ね!」


「ごばぁ!」


 見事な右ストレートをモロに顔面に食らった俺は、思いっきり廊下の壁に叩きつけられた。


「いやホンマなにしとんのやキミら! 夫婦漫才かいな」


「あっ、空木くん。どうしてこの変態と一緒にいるの?」


 変態とはなんて失礼な……と、一瞬思ったが、全裸で股間から竜を生やした男に部屋に勝手に入られたら、そう呼びたくなるのも無理はないな。


「散歩してたら、全裸で横たわっている小間君を発見したんや。そや、小間君が上着をクレアちゃんの部屋に忘れた言うとったで。スマンけど、クレアちゃん取ってきてくれへん?」


「ドブネズミの着てた服なんて触りたくないわ。空木くん、部屋入っていいから代わりに回収してくれない? 部屋が臭くてかなわないの」


「んまぁ、えぇけど」


 クレアがそう言うと、空木はクレアの部屋に入っていく。しかしひでぇ言いようだな。本当に嫌われたもんだ。


「小間君、取ってきたで」


「あざす」


 俺は空木から服を受け取り、上着を着なおした。


「……小間君、下は履かへんの?」


「履かねえ。もう面倒くせーよ」


 というか、これだけ股間が隆起した後で、どうやって履くのか普通に分からない。


「ていうか空木くんさ、そんなに話すタイプだったっけ? あと、関西弁少し下手になった?」


 俺が空木と話していると、クレアがそんなことを言い出した。俺は、空木とはこれが初対面なので、知る由もないが。


「はは、いやなんも変わってへんよ。まぁでも、最初は正直テンパりまくってたからなぁ。車に轢かれたと思ったら、あの白い部屋……神の間におったからなぁ」


「空木くんも交通事故だったんだ。私もだよ」


「ホンマかいな! そりゃ奇遇やな」


 死因が一緒で会話が盛り上がるなんて、まさに神の間ならではの会話だな。


「しかし、ホンマに驚いたで」


「え? あぁ、うん。そうだよね。まさか、こんな死後の世界があったなんて。今でも信じられない」


「あぁ、すまんな。そっちの話じゃあらへん」


 頭に疑問を浮かべるクレア。


「キミら2人にさっきから能力をかけてるっちゅーのに、全然効かへんのよ。いやぁ、ホンマに驚いたで」


 空木の発言を聞いた瞬間、クレアは空木から距離を取り、構えを取る。


「おー流石、反応早いのぉ。けど、能力をかけ続けていることには気が付かなかったようやな」


「……お前、夜のフェーズに戦っても意味ないっていう話聞いてなかったのか?」


「それはプレイヤーを倒せないってだけの話やろ? 能力が使えへんわけやない」


 確かに。バトルロイヤルの勝敗に関係ないだけで、戦うこと自体はできる。俺もクレアに能力でボコボコにされてるわけだし。だとすると、俺の竜が爆睡を決め込んでいて全く動かないのは少し謎だが。


 警戒する俺たちに構わず、空木は楽しそうに話を続ける。


「1回戦だけじゃ、まだ能力について知らない部分が多すぎる。せやからこうして、皆が油断しとるときに隠れて能力をかけとったっちゅうわけや」


「アンタ……他の人たちにもこんなことしてるわけ?」


「今のところ、効果がなかったのはキミらだけやけどな。なんでやろなぁ。まぁでも、効かない相手もいるっちゅうのはいい発見やな。それに、他にもそれっぽいことやってる人はおったで」


「そうなのか。ちなみにどんなやつだった?」


 俺は、空木を睨み続けるクレアに変わって会話を続けた


「ガラの悪そうな2人組やったな。すれ違う人ほぼ全員に喧嘩吹っかけとったで。まぁボクはおっかないから、あの人らには絡みに行ってへんけどなぁ」


 あのチンピラ2人組か。となると、あの時俺にぶつかったのもわざとである可能性が高くなってきたな。


「あのクソ野郎どもが」


「なんや知っとったんかいな。まぁとにかく、キミらもボクみたいなやつには気を付けることや。じゃないと、気付かぬ間に情報を吸い出されてる、なんてことになるかもしれへんで」


「アンタ、自分が同じことやっといてよく言うわね」


「これは生き残りをかけたバトルロイヤルやからな。勝つためならなんでもやったるわ。ま、じゃあボクはこれで。まだ試したいこともあるしなぁ。ほな、さいなら」


 空木はへらへらとそう言うと、食堂や大浴場があると思われる扉の方向に歩いて行った。


「なんなのアイツ! いい人だと思ったのに! 本当サイアク!」


 お怒りの様子のクレアは、当たり散らすように、自室のドアを閉めた。


 なんとなく、俺はドアが閉まり切る前に、クレアの部屋に再び侵入した。


「怖いかクレア。不安なら、今夜は俺が一緒に寝てやるよ」


「なんで入ってきてんだよクソ変態野郎が!」


 今度は強烈な蹴りをお見舞いされ、再び部屋から廊下に吹き飛ばされた。


「あー床が冷たくて気持ちいいな」


 クレアを見ると、何故か知らんけどからかいたくなる。こんだけ殴られてるのにな。ひょっとしたら、俺にはマゾっ気があるのかもしれない。


「つか、折角の休憩時間なんだ。俺もさっさと部屋に行こう」


 夜のフェーズになってから、まぁまぁの時間が過ぎているのに、自室に入っていないプレイヤーはおそらく俺だけだろう。


「あなたは下半身裸でなにをしているんですか。小間竜騎」


「あ、女神……さま」


 自室に戻ろうとしていると、透き通るような声と美貌を持つ女神に声をかけられた。


「下半身裸になるのに理由なんていらないだろ。てか、あんたこそなにしてんだよ。こんなところで」


「……小間さん。あなたにお話があります」


「こちらこそよろしくお願いします。きっとこれから色々な壁が立ち塞がってくると思うけど、2人で乗り切っていこう」


「あなたは、一体なんの話をしているのですか」


「俺のことが好きだから付き合ってくれって話じゃねぇの?」


「反吐がでますね」


 反吐て。言葉遣いのわりぃ女神だな。


「周りに聞かれたくない話ですので、あなたの部屋に行ってもいいですか?」


「いいぜ。なんなら朝まで泊まっても……」


「それはないです」


 泊ってもいいぜ、と言いかけたところで、遮るように女神に否定された。そんな爆速ばくそくで否定せんでもええやん……。


「まぁいいや。入れよ。散らかってるけど」


「この短時間で部屋を散らかせるなんて、逆に才能ですね」


「いや、俺もまだ自室には入ってないから全然綺麗だと思うぞ」


「……何故そのような無意味な嘘をつくのですか?」


「俺が人間として生まれたからだ」


「意味が分かりません」


「全生物の中で、嘘を付けるのは人間だけだからな。4エイプリルフールしか嘘をついちゃいけないなんて、人生勿体ないだろ。だから俺は、呼吸をするように嘘を……」


「早く入れてください」


「はい」


 またもや遮られてしまった。少しは聞いてくれてもいいのにな。俺は女神を先導するようにして、自室に入る。まぁ、そもそもこいつが用意した部屋だから、そんなことしなくてもいいのは分かっているがな。


「で? 話ってなんだよ」


「……小間さん」


 俺と女神は、それぞれ別々のソファに腰掛ける。先ほどまでと違い、かなり深刻な顔つきになる女神。それほど重要な話なのだろうか。


「折り入って頼みがあります」


「……あまりいい予感はしないな」


 女神は深呼吸をすると、再度口を開いた。


「このバトルロイヤルに、かつて異世界の魔王だった者がいます」


「魔王だと?」


「小間さんに、その元魔王を倒していただきたいのです」


 想像の斜め上の頼み事に、俺は声を出すことができなかった。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、女神からの頼みごとを掘り下げていきます。

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