昼㉓ 覚醒
海藤が…ついに。
バトルロイヤル3回戦。
俺、小間竜騎と万丈龍之介、桃木瞑亜は砂肝の話を聞いていた。
「……これが、アリサとしての私の記憶ってわけ。どう? 面白かったぁ?」
笑顔でそう語る砂肝汐里。
「アリサは人間と魔族のハーフだった……そして、海藤の手で完全な人間であるアリサと、完全な魔族であるキルに分離された」
険しい表情でそう話す万丈。
「そうそう。そして、この神の間で再会した……。その後私は、アリサとクレアちゃんを操ってお友達にしたってわけぇ」
そういう事か。アリサ……鳥皮好実が魔王キルだと言われて、俺が違和感を覚えた理由。
それは昨晩、魔除けの香水を鳥皮に吹き掛けてもノーリアクションだったからだ。普通魔族であれば、あの香水の匂いに耐え切れない為、鳥皮をシロと断定していた。万丈の幼馴染だって言ってたしな。
だから、鳥皮が魔王キルだと言われた時は少し混乱したが、本物の魔王キルである砂肝汐里に操られていただけなら納得がいく。だが、代わりに別な疑問が生まれてしまったが……。
「意味わかんねーな。なんでそんな事を……」
思わず口にしてしまう俺。
「え? だって寂しかったから。海藤はバトルロイヤル中、しばらく正体を隠しておきたかったみたいだしぃ、一緒に行動できないなら、一人ぼっちで寂しいでしょ? それだけぇ」
「ぼっちが寂しいからって、わざわざ記憶を一部改竄して友達のフリをするなんて、クソ虚しいな」
「なんとでもどうぞぉ。あ、ちなみにだけどぉ。アリサには、アリサ自身が私とクレアちゃんを操ったと思い込むように幻術をかけておいたから、クレアちゃんにかけた幻術とはまた少し別物なんだよねぇ」
「なるほどな。お前はアリサに操られてるフリをして、自分の正体を隠す事に徹底した訳か。まんまと騙されたぜ。ミコトやらアリサやら、違う奴を魔王キルだと疑っちまった。だがよぉ砂肝、1個聞いていいか?」
「なぁに?」
「海藤の正体を俺が暴くときに使った香水、お前が平気だったのはなんでだ?」
そう。これが別に生まれた疑問。
魔王キルが誰であれ、3回戦進出者のほとんどは魔除けの香水を嗅いでも平気だった者ばかりだった。だから、魔王キルの正体を暴くことに随分と難儀してしまったが……。
「あぁあの香水ね。私ねぇ、前世で魔術の実験をたくさん繰り返してきたの」
「あ? なんの……」
「その時に、色んな薬品を体に投与してきたのよぉ。超シンプルな話よ。私、激臭にはすごい耐性があるのよ。まぁ流石に魔除けを直接体に浴びてたら、耐えられなかったかもしれないけどねぇ」
「はっ。そんなんアリかよ……」
そんな理由は流石に予想できねぇな。
「……なんで」
小さく、そう呟いたのは桃木だった。
「なぁにー? メアちゃん」
「あんたが人間を憎んでいたのは分かった。けど、なんで人間界にわざわざ攻めてきたの? 完全に別次元の世界の事なんて、放っておいてくれればよかったのに!」
徐々に声を荒げる桃木。
そうか、俺は詳細を聞いていないが、桃木と魔王キルには因縁があるんだったな。しかし、人間界に攻め込むって……想像以上にスケールのデカい話みたいだな。
「あー。それはまた別のお話だねぇ。私の計画の為っていうかさぁ」
「だーかーらー! あんたの計画って何なの!?」
イライラした様子の桃木。普段のほほんとしている桃木からは考えられないな。
「んー……それも話してあげたかったけどぉ、ごめん。彼がもう起きちゃったから」
砂肝がそう言うと、彼女の足元付近に徐々に半透明の人影が浮かび上がってきた。
その人影の正体は海藤咲夜だった。どうやら砂肝が幻術で隠していたらしいな。
ただ、海藤は首を切断されたまま死体のように寝っ転がっており、とても生きているようには見えない。
「ねぇ。さっさと首くっつけて起きてよぉ」
砂肝が死体同然の海藤に声を掛ける。
すると首無しの海藤の体が、人形のように起き上がった。起き上がった海藤は、足元にある自分の頭部を拾い上げ、再度自分の首へとくっつける。
ゴリゴリバキメキッ! と、人体から聞こえてはいけない音が鳴り響き、海藤の頭部が首にくっつく。
生命の常識を覆すような、なんともオカルトな光景だ。
「……あァーあ。なんか随分寝た気がするが、気のせいかァ?」
「やっと起きたわねぇ。貴方のおかげで昔話に花咲いちゃったじゃない」
「いい事じゃねェか。オレに感謝しろ」
そう言った海藤の髪色が、金色からさらに脱色されていき、白髪へと変わっていく。さらにバチィッ! と、稲妻のようなものが海藤の周囲をスパークし始める。
なんだ……? 今までの海藤とは何かが違う。あいつが常に放っている突き刺すような殺気が、さらに鋭くなった気が……。
「どういう事だ……」
そんな海藤を見て、驚きを隠せない様子の万丈。
「なんだ、どうしたんだよ万丈」
「信じられないことだが……奴の魔力が前世よりも高まっている」
「はっ……冗談じゃねぇなそりゃ。なんでそんな事に?」
「俺にも分からない……」
そんな俺たちを見た海藤は不敵に嗤い、逆立っていた髪をさらに掻き上げ、オールバックにする。
「ククッ。待たせたなァ。さァ、続きといこうか」
覚醒した海藤の瞳の奥に宿る闇は、さらに深く悍ましいものになっていた。
お読みいただきありがとうございました。
3回戦も終わりに近づいてきました。
生き残るのは、はたして誰なのか…!?




