昼⑯ 宣告
小間がまさか…!?
バトルロイヤル3回戦。
そのステージである殺風景な街並みは、まるでトルネードでも通り過ぎたかのように荒れ果てていた。
多くのビルは瓦礫の山と化し、大地は荒れ果てていた。
「クハハハァ! よく付いてくるな女ァ!」
「逃げるんじゃないわよ!」
海藤咲夜はなんらかの魔術を使い、空中を高速移動していた。そして、超人的な脚力で空気を蹴り飛ばし、海藤と遜色ないスピードでそれを追いかける紅クレア。
2人の戦いは、最早並の戦士では視認できないほどのスピードだった。2人が殴り合うたびに大気が爆発し、周囲のビルが軽く吹き飛ばされる。
海藤はクレアから距離を取り、近くのビルの屋上に着地する。
「ハッ。前世で格闘家や、その上級職であるバトルマスターたちと戦ってきたが、オマエほど強い奴は初めてだ」
「アンタに褒められても嬉しくないわね」
「いや光栄だと思うぜ? オレの力がまだ完全ではないとはいえ、サシの勝負でこれだけ追い詰められたのは初めてだ」
「随分余裕そうね。でもアンタ、私に100倍返しするとか言ってなかったっけ? このままだと利子だけでパンクしちゃいそうだけど、返せるアテはあるのかしら」
「ククッ。威勢のいい女だ。小間みてェに煽ってきやがって」
「それは……全然っ嬉しくないわね!」
クレアは腕を思い切り引き、フルパワーのパンチを放つ。凄まじい拳圧による衝撃波が海藤に放たれる。海藤もこれに応戦し、風属性の魔術を発動。全てを吹き飛ばす暴風が放たれる。
2人の強者が放った衝撃波と暴風が激突し、辺り一帯が消し飛ばされた。
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「最悪の組み合わせだなクソが!」
一方。俺、小間竜騎は、もう一人のジョーカーである一式和人と交戦していた。
一式はジョーカーの能力でコピーした51個の異能をふんだんに使ってくるが、こんな時に限って、今の俺に異能を無効化する竜は付いていない。代わりに攻撃は最大の防御(略してガドスト)という異能を使って、なんとか攻撃を躱したり、防御したりしてその場を凌いでいたが、今回ばかりはシャレにならないかもしれない。
『冥王星』
元は万丈龍之介が持っていた異能。触れただけであらゆる物体を消し飛ばす黒い物質を生み出し、操る異能。防御を無視した絶対的攻撃力を持つ強力な異能だが、反面、生み出した冥王星の質量に応じてライフが減るという弱点も抱えている。その為、あまり乱発できない異能である……と、万丈は言っていたが……
「冥王星と黄金の不死鳥! 最強の攻撃力と無限の生命力! このコンボに敵う奴なんざいねぇんだよ! 小間君!」
冥王星で減ったライフを、黄金の不死鳥の力で回復させるという神コンボ。万丈も回復魔術は使えるらしいが、黄金の不死鳥ほどの回復力はないらしく、一式のような使い方をしたらあっという間にライフと魔力が尽きるらしい。
まさに、チートと呼ぶに相応しいチカラだ。
「ふざけやがって! こんなもんどうやって倒すんだよ!」
一式が冥王星で発生させたのは、直径数百メートルの巨大な黒い球体。全てを消し飛ばす破壊の権化が、周囲のビルを飲み込みながら、徐々に俺に近づいてくる。
一式は黄金の不死鳥でライフを完全回復させ、そして、ただ俺をじっと見つめていた。
「(あの野郎、何ガンくれてんだムカつくぜ!)」
追い詰められてイラつく俺だったが、よく見ると、一式の視線が何かを探っているように見えた。
「(欠伸してても勝ち確定のこの状況で、何をそんなに探ってやがる……?)」
思えば、これまでの一式の攻撃には、少し違和感があった。
俺をすぐに殺さずにじっくり痛めつけたいのは分かるが、あまりにも急所を外し過ぎてるというか、俺を殺してしまわないように注意しているというか……。まぁ舐めプして俺が右往左往する様子を楽しんでいる、と言われればそれまでだが……。
「試してみるか……」
俺は大きく深呼吸する。
そして、ガドストを使い、巨大な黒い球体に向かって思い切り跳んだ。
「なっ!?」
このまま突っ込めば、俺はこの黒い球体に飲まれて跡形も無く消し飛ぶ。
しかし、あと数秒で俺の体が消し飛ぶという所で、突如黒い球体は姿を消した。
「バカじゃねえのお前!? 死ぬ気か!?」
激昂する一式。
どうやら、一式が冥王星を使って、巨大な黒い球体を消したらしい。
やっぱりな……。わざわざ俺の即死を阻止しようとしたということは……。だとすれば、アレを使えば一式を倒せる……いや、だが確証はない。しくじれば死ぬのは俺だ。
「……賭けてみるか」
俺はガドストを解除し、こめかみに指をぐりぐりと当てる。
……。
直後、俺は頭がぼーっとするような感覚に陥ったが、すぐに平常に戻る。
「わざわざ俺を殺せるチャンスを棒に振りやがって。あんま舐めプしてっと足元すくわれんぞ? 一式ちゃんよぉ」
「ったくよぉ……黒い球体を囮にしてその隙に生け捕りにできたはずだったのによぉ。余計な事すんなし。あーめんどくせ。マジ殺してやりたいわー。超うぜぇ」
一式が何か小声でぶつぶつと言っているが、全然聞こえない。
「……あっそうだ」
直後、何かを思い出した様子の一式。
「あれを使えばいけっかも! いやぁすっかり忘れてたわ! 手札が多すぎるってのも考えもんだよな! ウェイ!」
「なに急にテンション上げてんだ気持ちわりぃな」
「斎藤連クン……だったかな? あいつの異能を使わせてもらうよ」
斎藤連。確か2回戦でチーム7に所属していたプレイヤーだ。同じチーム7のプレイヤー曰く、どうやら最強クラスの異能を持っていたらしいが、モンスターの黒騎士に倒され、結局その異能を見る機会はなかったが……。
「わざわざ誰の異能を使うか宣言するなんて、マジで舐め腐ってやがんな」
「ははっ! 別に舐めちゃいないさ。この異能は1対1ならマジで最強だから、警戒する必要がないだけだよ。まぁ小間君が持ってた竜には流石に勝てないけどね。異能自体を無効化するんじゃ、最強だろうがなんだろうがどうしようもない」
「ベラベラベラベラと……勝ち誇ってんじゃねぇよ!」
俺はガドストの力で一式の背後へワープする。ガドストには、一度マーキングしたプレイヤーの元へワープできるという特殊能力があるのだ。
俺はガドストのオーラを刀のような形状に変え、余裕こいてる一式の首目掛けて振り切った。
完全な不意打ち。一式はまだ正面を向いたままだ。
だが直後……
ビイィィィィィッ!! ……という、バカでかい音と共に、強烈な振動が俺の全身に響き渡り、身動きが取れなくなってしまう。それどころか、全身に纏っていたガドストによる紫のオーラも解除されてしまった。
体の自由が利かなくなった俺は、そのまま地面にうつ伏せになって倒れてしまった。
「な、に、が……?」
「『後出しされた勝利の拳』。ざっくり言うと、相手の能力と相性最悪の異能を作り出す異能だ。炎を操る異能には水を操る異能を作る……みたいな感じでね」
倒れた俺を見下しながら、愉快そうに説明する一式。
「まさに後出しジャンケン! ってわけ。まぁ強いけど、小間君が持ってた竜のちょっと劣化版だと思って、そんなに使いたくなかったんだけどさ、こんな形で役に立つとは思わなかったよ」
「く、そ、が……」
反撃しようとするも、体が痺れて動けない。ガドストも全身の麻痺のせいか発動できない。
「ちなみに今使ったのは『後出しされた勝利の拳』で作った『防犯ブザー』って異能ね。攻撃は最大の防御を持つプレイヤーが半径5メートル以内に近づいてきたら、自動で爆音が流れて、相手を麻痺させるって感じ。まぁ名前は適当に俺が付けたから、ダサいのはご愛嬌って感じ?」
「こ、のや……」
「さーて。ゴキブリを動けなくしたところで、お次は『噓八百』の出番だ」
「な、に、を?」
「はーいお口チャーック! 俺が次喋っていいって言うまで黙っててね。「宣告」で万が一やられたらシャレにならないし。悪いけど黙っててもらうよん♪」
「!?」
一式がそう言った直後、俺の口は縫われたかのように開かなくなってしまう。
「やー実はさ、小間君が今持っている攻撃は最大の防御だけど……俺のターゲットなんだよねー」
俺が喋れないのをいい事に、本来ならば命取りである情報をあっさりバラす一式。
「だから小間君を倒すのは簡単だったんだけど、殺したプレイヤーが所持していた異能って、また宝箱になってどっかいっちゃうじゃない? そうなったら探すの面倒じゃん? だから「宣告」で小間君のターゲットを当てて、その報酬で攻撃は最大の防御を回収しちゃおうと思ったんだよね」
べらべらと考えていたことを喋り続ける一式。
「けど今回の仕様なのか、小間君の頭の中を覗いてもターゲットに関する情報が見れなかったわけ。だから戦いながらどうしようかずーっと考えてたんだけど、さっきようやく思いついたんだ」
そう言った一式の笑みに、さらに狂気が宿る。
「小間君を操って、小間君自身にターゲットを自白させればいい……ってね。噓八百は相手に幻術をかける異能だ。完全催眠とか、複数人を同時に操ったりとか、そんな都合のいいものではないけど、相手の口を無理矢理チャックしたり、聞きたい事を喋らせるくらいは朝飯前なわけ」
「!? !?」
ターゲットを自白させるだと!?
冗談じゃねぇ! そんな事されたら俺は宣告で……
「自白させた後は、聞きだした情報を元に「宣告」して、小間君から俺のターゲットを奪い取れば完了! いやぁ、まさか空木勇馬が持っていた噓八百が最後に役立ってくるとはね! あははははっ!」
勝利を確信して嬉しくて仕方がないのか、大きく高笑いする一式。
なんとか抵抗しようにも、体は麻痺して異能も使えないし、噓八百のせいで喋れないから一か八かの「宣告」もできねぇ。
マジでマズい……! どうするっ!?
「そんなわけで小間君、君のターゲットを教えてちょーだい」
一式がそう言うと、俺の口が勝手に動き出し、喋りたくも無い事を勝手に喋り出した。
「俺のターゲットは……」
そして、無理矢理自身のターゲットを吐かされる俺。
「ふぅん……。なるほどねー。おっけ、またお口チャックね!」
一式の一言で、再び喋れなくなる俺。
こほん! とわざとらしく咳払いする一式。
マジでヤバい!! どうする!? 俺がさっきゲロっちまった情報に間違いはない。正真正銘、俺のターゲットだ。このままだと「宣告」で殺されちまう!
「じゃあ小間君! 君とはこれでお別れだね! ……しかし、「宣告」ってどうやって使うんだろ? 小間君なんか知ってる? あ、そっか! 今喋れないんだよね! ごめんね~」
アホヅラでクソみたいな三文芝居をかます一式。
「女神さまー! 「宣告」使いたいんだけど、どうすればいいー?」
アホみたいな声で空に向かって叫ぶ一式。
クソが! 今すぐにでも飛びかかってブチ殺してやりてぇ!!
『宣告者、空木勇馬。対象者を指定し、10秒以内にターゲットを宣告して下さい』
俺と一式に聞こえる程度の大きさの女神の声が聞こえてきた。
今まで、透き通るような癒しの声だと思っていた女神の声だが、今の俺にとっては死神の囁きに聞こえる。
「なるほどこうやって使うのね! じゃーね小間君! 来世でまた会おうね~(笑)」
史上最高にムカつく煽り顔で、一式はそう言った。
刻一刻と、死の時間が近づいてくる。一度死んでるはずなのに……死ぬってのは、こんなにこえーのか……。
いやだ! 死にたくねぇ!!
「対象者は小間竜騎。ターゲットは……」
動揺しまくる俺を余所に、一式はファストフードでも注文するかのように淡々と、俺のターゲットを寸分違わず言い当てた。
まぁ当然か。俺がゲロっちまったんだもんな。
一式の宣告を聞いた俺は、頭がぼーっとするような感覚に陥る。
直後、目の前が真っ暗になって、何も見えなくなった。
お読みいただきありがとうございました。
一式にターゲットを言い当てられた小間。
このまま負けてしまうのか…?




