表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/103

夜② 不法侵入

前回までの登場人物


小間竜騎こまりゅうき

股間に伝説の竜を宿したおとこ


・女神

異世界バトルロイヤルを仕切る銀髪の美女。優しそうだが、どこか無機質。小間に当たりが強い。


くれないクレア

赤髪の美少女。彼氏の一式を小間に倒され、小間を目の敵にしている。戦闘力高め。


一式和人いっしきかずと

チャラ男。小間に1回戦で敗れる。


・イリス

黒髪に赤いメッシュのホスト風の男。ガラが悪く、小間に喧嘩を売る。


・エリス

ボディーガードのような巨漢の男。イリスの腰巾着。


海藤咲夜かいどうさくや

金髪の爽やかイケメン。いいやつ。小間とイリスの揉め事を仲裁する。


 俺、小間竜騎こまりゅうきと金髪爽やかイケメンの海藤咲夜かいどうさくやは、白いドアを通った。


 そこは、今までの現実離れした空間とは違っていた。さながら高級ホテルの客室フロアのようだった。プレイヤー毎に用意された個室のものと思われるドアが、廊下の壁沿いにずらっと並んでおり、長い廊下の突き当りには、個室のドアより大きな扉がある。あのデカい扉が、おそらく食堂やら大浴場の入り口なのだろうか。時間があったら行ってみるとしよう。


「すごい広いね小間君。ここが本当のホテルだとしたら、学生の僕たちじゃとても来れる場所じゃないね」


「あぁ。無駄に豪華だな。明日死ぬかもしれないし、今のうちに堪能しとこうぜ」


「はは……。物騒だね。あながち間違っていないだけに、笑えないよ小間君」


「すまん。ただのブラックジョークだ」


「まぁ何事にも動じないのは君の強さだけどね。じゃあ、とりあえず僕は自分の部屋に行ってみるよ」


「あぁ俺もそうするよ。食堂か大浴場で会ったらよろしくな」


「うんよろしく。じゃあまたね」


 そういうと、海藤は廊下に向かってすたすたと歩いていった。さて、俺も自室に向かうことにしよう。女神の話だと、最初に引いたカードに自室の番号が書いてあるとか言っていたな。俺はポケットにしまっていたカードを取り出し、部屋の番号を確認する。


「27番か。……どこだ? 見取り図というか、なんかないのか?」


 辺りを見渡してみると、白いドアの右側にそれらしきものがあった。27番の部屋は……まぁまぁ奥のほうだな。俺は見取り図を確認し、27番の部屋に向かう。


「さぁ着いたっと」


 俺は躊躇うことなく自室のドアを開ける。


「おぉ、広いな。かなり贅沢だな」


 玄関と廊下、左側には洗面所、奥には広々とした洋室がある。全部合わせて18畳くらいありそうだ。


「おいおいダブルベッドじゃねえか。冷蔵庫もあるし、クローゼットもある。本当、至れり尽くせりだな」


 こうも凄いと、逆にどう過ごすか迷うな。疲れていたので、横になって休もうかとも思っていたが、広い一室を見たらテンションが上がってきた。


「まっ、とりあえず日課の筋トレでもやるか」


 ガチ勢とまではいかないが、俺は筋トレが趣味だった。筋トレの際は、基本全裸になると決めているので、俺は全裸になることを決意する。上着を脱ぎ、そしてズボンを……あれ?


「なっ!? ぬ、脱げないだと……!?」


 そう、股間から生えた竜はズボンを突き破って現れたため、いくらズボンを下に引っ張っても、竜が引っかかって脱げることはなかった。


「ふざけんなお前! なんか、亀の頭みたいな感じで引っ込められないのか!?」


「……」


「おい、聞いてんのかよ」


「……グゥ」


「てめぇ! こんなときに居眠りかクソが! この駄竜だりゅうが!」


 そういえばこいつ、夜のフェーズになってから一度も声を発してなかったな。夜になった途端居眠りとか、クソジジイかよ。俺はムカついて竜を殴りつけるが、硬すぎる皮膚に拳が痛んだ。竜をなんとか引っ込められないかと無理やり股間に押し付けるが、そんな機能は最早存在しないらしく、変化はなかった。


「……仕方ない。発想の転換だ。竜じゃなくこのズボンをどうにかしよう」


 俺はありったけの力を込めて、ズボンのファスナーを両手で左右に引っ張った。


「はあぁぁいやあぁぁっ!!! ちぎれろおぉぉ!!」


 ミチミチ……とズボンの繊維が少しずつ切れていく音が聞こえてきた。


 もう少しだ。負けるな俺。服に縛られる世界なんて窮屈だろ。だったら、羽ばたいてみようぜ。


 ミチミチ……ブチブチ!!


 ズボンの繊維が俺の力に耐えられなくなり、繊維の切れる音が加速して威力を増していった。


 そして、ついに……


 ビリビリィ!!


「んっふぉおおおおおおおおおおっ!!! 勝ったぁあああああああっ!!!」


 俺の下半身を拘束していた窮屈な鎧は、俺の膂力りょりょくの前に儚く散り、俺の肉体は肌色一色で染められた。


「俺は、自由だああああぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は自由になった喜びを噛みしめ、雄たけびをあげた。


 その時だった。


 ガチャッ


「はーさっぱりしたー」


「……は?」


「……え?」


 ノックもせずにドアを開け、俺の部屋に来客が現れた。しかも、その相手は……


「紅……クレア」


 俺を目の敵にしている赤髪の美少女、紅クレアだった。


「あ、あんた……こんなところでなにやってんのよ」


「……なにって」


 なに俺の部屋に勝手に入ってきてんだよ、とかそんなツッコミが浮かばないくらい、俺の気持ちは消沈していた。……あれ、俺マジでなにやってたんだっけ。


「……なにやってるのか、聞いてるんだけど?」


「己の器を……計っていた」


「なに言ってるか全然意味分からないんだけど」


 僕もです。


「あんた、覚悟はできてるんでしょうね」


「いや、それは……」


 見切り発車の言い訳を口に出しかけて、ふと冷静になる。いや、確かに女子に俺の肉体美(やや誇張表現)を見せつけてしまったことは申し訳ないが、よくよく考えれば、ここは俺の部屋だ。何をしていようと部外者にとやかく言われる筋合いはない。つまり、俺は被害者というわけだ。


 ……というわけで、俺が口に出すべきなのは、言い訳でも謝罪でもなく……


「いやああああ!! 覗きよおおお!!!」


「なっあんた! この状況でよく被害者ヅラできるわね!!」


「被害者だろ! ここは俺の部屋なんだから!」


「何言ってんの!? ここは私の部屋よ!!」


「……へ?」


 こいつ、今なんて言った? 私の部屋……だって?


「あんたの部屋、何番?」


「……27番」


「ここ26番。あんたの部屋はこの隣よ」


「……」


 どうやら、見取り図で自分の部屋を確認はしたものの、部屋に入るときに番号を確認しなかったのが仇になってしまったようだ。


「……いやぁ失礼。俺としたことが、見間違えをしてしまったようですな」


「……」


 俺は紳士を装って、さっさとこの部屋から出ることにした。


「さて、邪魔者は退散するとしますかな。そうだお嬢さん。最後にひとつ、頼みごとを聞いてもらってもいいかい?」


「……」


「ズボンとパンツ破けちゃったから、下着貸してくれない?」


「貸すわけねぇだろ変態野郎がぁっ!!!」


「ごぼぉ!!」


 クレアは目にも止まらぬスピードで俺に近づくと、渾身のボディブローを俺に食らわせた。肺の酸素を全てぶちまけ、呼吸ができなくなってしまった。クレアは、そんな俺に一切容赦せず、うずくまりかけた俺の首を凄まじい握力で締め付け、片腕で俺をドアの方までぶん投げた。砲弾のような勢いで投げつけられた俺は、ドアごと廊下に飛び出してしまった。


「ぐはっ……背中打った……マジで息できねぇ……あいつ……ゴリラかよ」


 ちなみに俺の股間の竜はというと、あるじの危機にも関わらず爆睡を決め込んでいた。


「この、だ、竜が……ちゃんと、ガードしろよ……」


「小間竜騎!」


 俺がのたうち回っていると、いつの間にか玄関付近にいたクレアが叫びだした。


「明日の昼フェーズ覚えときなさいよ。今の分と和人の分、100倍にして返してやるから」


 バタン!


 ……と、勢いよくドアを閉めるクレア。あれ、ドアってたった今壊れなかったっけ? そう思い、俺の下敷きになっていたはずのドアを見ると、影も形もなくなっていた。


「俺がのたうち回ってる間に、復元したのか?」


 外見は高級そうなホテルにしか見えないが、やはり神の間というべきか、休憩所ひとつ取っても普通じゃねえな。


「夜のフェーズって休憩時間のはずなんだけどな……」


 心なしか、昼の戦いより疲れた気がしたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

次回はエセ関西弁が登場。それと女神から大事なお話があります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ