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昼⑨ 最悪

すごい時間経ってます。


 2415年。

 ここ100年で、私たちの世界の科学技術は飛躍的な進歩を遂げた……らしい。

 「らしい」という表現になってしまうのは、私、桃木ももき瞑亜めあが生まれたのが2400年であり、私が生まれた時には、既にこの世界はほぼ完成していたからだ。

 人工知能の発達による多種業務の自動化、人工食料の開発による食料問題の解決……科学技術の進歩が私たちの生活を便利で豊かにした事例は枚挙に暇が無い。

 その中でも人工知能の発達、及びそのAIを搭載した人型アンドロイドの開発がもたらした影響は、他分野の技術とは一線を画していた。最早、人間とアンドロイドの立場が逆転しているのでは? ……とすら思えてくる。

 とはいえ、アンドロイドも万能ではない。アンドロイド1個体の寿命は人間よりも遥かに短いから生産サイクルは案外速いし、稀にアンドロイド自身が自覚できないエラーを起こすこともある。故にアンドロイドが完全に人間の代わりになれるかと言ったら、決してそうとは言えない。

 まぁ要するに、人間とアンドロイドは意外と持ちつ持たれつの関係でやっているという事だ。


 だがそんな世界は、2415年に突如終わりを迎えた。

 

 雲一つない快晴の日。

 突如、晴天の青空に真っ黒な大きな裂け目ができた。

 

 大きな裂け目から、無数の人影が現れ、地上に降り立った。

 その人影は悪魔のような姿をしていた。科学の世界ではほぼ信じられていないオカルト上の存在だ。

 地上に降り立った悪魔たちは、未知の力を使って私たち人間とアンドロイドを襲い始めた。


 これは地獄の始まりに過ぎなかった。

 この日から悪魔と人間の戦いは100年以上続き、科学によって保たれていた世界のバランスは、いとも簡単に崩壊した。



--------------------



「……魔王キル。あんたたちさえ現れなければ、私たちはずっと平和に暮らせたんだよねー」


 桃木はゆったりとした口調でそう言ったが、その言葉には明確な敵意が感じられた。


「そうよね、ごめんなさい」


 淡々と言い放つアリサ。微塵も詫び入れる気が感じられない。


「ククッ。前世での因縁か。しかし、わざわざ人間界と異世界を繋げてまで戦争仕掛けるなんて、しばらく見ない内に随分と好戦的になったもんだな、オマエ」


「私も戦争なんて御免だったんだけど、目的の為にどうしてもたくさんの人間が必要だったのよね。それに、人間界には魔力が存在しないって聞いてたから簡単に制圧できると思ってたんだけど、あっちはあっちで未知の技術を持っていて……本当、物事ってうまく運んでくれないわよね」


「そうか、オレがいた頃から500年以上経ってるんだったな。科学の力が発展した未来の人間界……一度見てみたいもんだなァ」


「貴方の生まれは人間界だったわね。悪いことしたわね。生まれ故郷を滅ぼすような真似して」


「ククッ構わねェ。強いて言えば、オレ自身の手で全部破壊してやりたかったってだけだな」


 敵意剥き出しの桃木を無視して話し始める海藤とアリサ。

 直後、そんな2人に再度攻撃を仕掛ける桃木。


「敵を前に雑談なんて随分とよゆーだね! そのままハチの巣になんなよ!」


 桃木の倍以上のサイズを誇る銃身を持つガトリングガン。

 隙の無い銃弾の嵐を、海藤とアリサにお見舞いする。

 だが……


「そういえば、貴方の力って今どれくらい戻っているの? 私は完全に戻ったけど」


「90%近く戻ってる。……が、あと1ピース足りねェ」


「1ピース?」


「あァ。オレをオレたらしめるもの……その記憶だけが丸ごと欠けてやがる」


「あらそうなの? てっきり記憶は全部戻ってると思ってたわ」


「このピースさえ手に入れば俺は()()()に戻れる。だが、この記憶だけは時間経過と共に戻る気がしねェ。何か別の方法を探さねェとな」


 降り注ぐ銃弾を見えない壁のようなもので防ぐ海藤とアリサは、普段と変わらぬ様子でそう話していた。


「あちゃー魔力の壁かー。やっぱり普通の重火器じゃ効果はないねー。ばんじょー!! さっきからぼーっとしてるけど起きてる!?」


「……アリサは、桃木のいた世界にまで、なんて事を……」


「ばんじょー。さっきから何言ってるの? ありさありさって……」


 ぺちぺちと、万丈の頬を叩く桃木。

 そんな様子を見て、アリサが口を開く。


「詳しい説明は省くけど。私はそこの万丈の幼馴染なのよ。彼は私の正体が魔王キルだと知って、意気消沈してるみたい」


 完全に他人事のアリサ。その言葉には最早感情がなかった。


「……そっか、やっぱりばんじょーは異世界の人間だったんだね。ということは、あなたがこかんちゃんが言っていた勇者カイン?」


「……あぁ」


「わたしたちの世界はキルに滅ぼされた。たくさんの大切な人を失った……。ばんじょーは?」


 桃木は、敢えて万丈の心の傷に触れた。


「……俺は故郷を、家族を友人を……海藤に全て奪われた」


 桃木の言葉で、再び自らの傷と向き合う万丈。

 一瞬、苦悶の表情を浮かべたが、徐々に目に光が戻っていく。


「失ったものはもう戻らない。けどさ、私たちがこの神の間に来たのって、きっとあいつらを止めてほしいっていう神様からのメッセージな気がするんだよねー」


「……」


「ここでわたしたちがあいつらを止めなかったら、あいつら、またいろんなものを奪っていくよ」


 その言葉に、万丈は再び立ち上がった。


「……すまなかった桃木。俺たちの手で奴らを倒すぞ」


「うん!」


 顔を合わせ、互いの意思を確認し合う万丈と桃木。

 

 そんな2人に向かって、海藤の指から邪悪な光線が放たれる。

 2発、3発、4発と……連続で放たれた光線は巨大な爆発を巻き起こした。


「どいつもこいつも他人の為だの目的の為だの、くだらねェんだよ」


 海藤は喜怒哀楽をぐちゃにぐちゃにかき混ぜた醜悪な笑みを浮かべる。


「それを聞いて安心したよ、海藤」


 直後、万丈と桃木を包んでいた爆炎を、太陽の様に輝く黄金の光が吹き飛ばした。


「やはりお前は純粋な悪だ! おかげで何の躊躇いもなく貴様を消せる!」


「ほう。それは確か、ゴールデン不死鳥フェニックス……だったかァ」


 全長5メートルほどの不死鳥は、黄金の炎を全身に纏い、巨大な翼を羽ばたかせる。

 さらに万丈の手には、ゴールデン不死鳥フェニックスの輝きにも劣らぬ光を放つ聖剣「アテナ」が握られていた


「おぉー。ばんじょーすげー準備万端だねぇー。まぁわたしもだけどー」


 不死鳥と聖剣の輝きと共に現れた桃木の全身は、黒鉄のパワードスーツに包まれていた。


「はッ。黄金の不死鳥に伝説の聖剣……光属性のオンパレードだなァ。なるほど、オレを魂ごと消し去るつもりかァ」


「当然だ。万が一にも、貴様らを再び転生させるわけにはいかない!」


「あら……あの子たちやる気満々じゃない。どうするのよ海藤。あれだけ強大な光だと防ぐのは難しそうよ。桃木ちゃんの攻撃も、人間界の未知の技術が使われているから、魔術の加護も効かないし……」


 流石に狼狽えるアリサだったが、一方の海藤の表情には、変わらず猛毒たっぷりの笑みが浮かべられている。


「いいねェ……。殺す気満々じゃねェかァ……。()()()()


 海藤のその言葉と同時に、万丈と桃木から全力の攻撃が放たれた。

 万丈は「アテナ」に黄金の炎を纏わせ、それを全力で振り下ろす事で光の奔流を一線上に放ち、桃木はパワードスーツの掌に青白い光を集約させ、両腕から巨大なレーザービームを放つ。

 直撃すれば、いかに海藤とアリサといえど大ダメージは免れない。

 しかし……


「解除。そして()()()


 海藤のその一言ともに、万丈と桃木の渾身の一撃はいとも簡単に消し飛ばされた。


「バカな。いくら海藤でも、今の攻撃を簡単に無効化できるはずが……」


「今の防がれちゃうと、ちょーっとショックだよねぇー」


 霧散した光と共に、海藤とアリサが姿を現す。


「バカな。あれは……」


「うわー……マジか」


 現れた海藤の姿を見て、万丈と桃木は驚愕した。

 正確には海藤の右腕。それが大きく姿を変えていた。


 白き鱗、鋭い牙、青い瞳に、神々しい黄金の角。

 海藤の右腕は、伝説の竜へと姿を変えていた。


「うそでしょー……。あれってこかんちゃんのドラゴンだよねぇ……」


「最悪だ……よりによって海藤の手に渡るとは!」


「ククッ……アーハハハハハァッ!! イイ面ァするじゃねェかァ。だがこれで終わりじゃねェぞ。お楽しみはこれからだァ! ギャハハハァッ!!」


 悪魔じみた高笑いをする海藤。

 全てを無に帰す伝説の竜は魔王の手に渡り、2人の勇者に牙を剥こうとしていた。



お読みいただきありがとうございました。

次回、小間と一式の戦いが始まる!?

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