昼⑧ 再戦
一式の能力が明らかに!
そして……!?
「久しぶりだねぇ! 股間のお兄さん♡」
俺、小間竜騎の前に現れたのは茶髪の軽薄そうな少年。
ジョーカーを名乗ったその男の名は、一式和人。
俺が一回戦で倒したはずの相手だ。
「信じらんねぇよ。なんで生きてんだお前」
「ウェーイ! そりゃ当然の疑問だよね~! 俺の正体を暴いた褒美に、ジョーカーの能力を教えてやるよ」
一式が喋り終わった瞬間、俺の頭の中にある情報が流れてきた。
「これは……お前が持つジョーカーの能力か?」
「そそっ! 人の頭に情報を送るってのは初めてやったけど、できたみたいで何よりだわ!」
俺の脳内に送り込まれた情報は以下の通り。
『E-01 : 採長補短の道化師』
・一度触れたプレイヤーの異能をコピーして使用できる。(コピー数に限度は無い)
・一度触れたプレイヤーに変身することができる。
・バトルロイヤルに敗北した際、一度だけランダムで他のプレイヤーの体に憑依し、復活することができる。ただし復活できるのは、この復活能力を発動した60秒以内に敗北した場合のみであり、復活能力を発動してから60秒以上経過した場合、この復活能力は使用できなくなる。
「ちっ。こりゃ想像以上だな……」
「だろぉ? 俺はこの異能でお兄さんとクレア以外の異能は全てコピーしたからな! 今の俺はほぼ無敵といっていいぜ!」
ハイテンションで騒ぎ立てる一式。テンションはウザいが、言ってることはあながち間違いではない。
もう一人のジョーカーである俺と、スペードの3を持つクレア以外の異能をコピー……つまり、51人の異能が全て使えるという事だ。そんなもんチートにもほどがある。
だが、少し気になるのは……
「テメェ。一体いつ51人の異能をコピーしやがった」
一式が異能をコピーするには、プレイヤーに触れる必要があるらしい。
だが、51人全員に触れるタイミングなんてあったか?
「あ~それか。それはねぇお兄さん。1回戦が始まる前に、他のプレイヤーにダル絡みするフリして、ぽんぽんぽん! ……っとコピーさせて貰いましたわ。マジあざまっす!」
何言ってんだコイツ……と思った俺だったが、直後、一式が1回戦前にしていた行動を思い出す。
そうだ。確かにあの時こいつは、他のプレイヤーに馴れ馴れしく話しかけたり、肩に手を回したりしていた。
「そうか……。あの時はうぜぇチャラ男が状況把握もできずに騒いでるのかと思ったが、あの時既に異能をコピーしてやがったのか」
「辛辣だねぇ股間のお兄さん! でもそうなのよ! 俺、意外と抜け目ないっしょ?」
へらへらと笑う一式。
「いちいちイラつかせやがるなテメェは」
「それはこっちの台詞だよ。小間竜騎」
突如、まるで人格が入れ替わりでもしたかのように、冷淡な声でそう言った一式。
「本来、最強の異能を引き当てた俺が負けるなんてあり得なかった。相手が同じジョーカーであるお前じゃなけりゃな。全ての異能と物理攻撃を無効化するジョーカー。いくら51人の異能をコピーしていても、そんなバケモンが相手じゃどうしようもない。だから俺は余計な異能を使わずに、早々にお前に勝つことを諦めた」
淡々と話し始める一式。先ほどまでとは、まるで別人のようだった。
だが見覚えが無い訳じゃない。1回戦で俺に追い詰められた時も確かこんな感じだった。
「小間。お前がドラゴンブレスを放つ直前、俺は復活能力を発動させ、一度負けることにした。今後お前の弱点を探って、確実に俺の手でお前を殺すためにな!」
「はっ。意外と執念深いじゃねえかチャラ男。それで1日目の夜、空木勇馬の体に乗り移ったお前は、俺とクレアの前に現れたって訳か」
「そうだよ。お前とクレアの異能をコピーするためにね。だが結局、それは叶わなかった」
分かりやすく、残念そうな溜息をつく一式。
「小間、1回戦で俺がお前に負けた時に言ったこと覚えてるか?」
「さぁ? お前の事も今の今まで忘れてたくらいだしな」
「あはは! まぁいいさ! 要するに、お前の事は死んでも許さねぇって事だよ!」
一式がそう叫ぶと、一式の周囲に大量の刃物が出現した。
1回戦の時と同じように刃物の全てを浮遊させ、こちらを狙っている。
「おいおい。もう始めんのか一式。お前の正体を当てたら、海藤の情報を教えてくれるんじゃなかったのか?」
「あはは! バカかよ! あんなもん嘘だっつーの! 必死に俺の正体を暴こうとするお前の姿……さいっこうに無様だったぜ! バカがかっこつけて頭使った気になってんじゃねぇよクソチンピラ!」
「なるほどな。くっだらねー事に時間を割いちまった俺も俺だが、しょうもねえ事にこだわり続けるテメーもテメーだなチャラ男。1回負けたくらいでキャンキャン吠えてんじゃねえよ犬っころが」
「なんとでもいいなよ! この3回戦はお前を潰す絶好の機会だ! なんせお前は今、伝説の竜の力を使えないんだからなぁ!」
その直後。
数千という夥しい数の刃物が、俺目掛けて射出された。
「確かに今、あの駄竜のオートガードは使えねぇが……」
俺はガドストによる紫のオーラを纏い、大量の刃物から全身を守った。
いくら高速で射出されているとはいえ、刃物の威力などたかが知れていた。防ぎきるならこのガドストでも事足りる。
ガドストの紫のオーラの前に、大量の刃物が無残に散って落ちていく。
「はっ。誰の異能を使ってるのか知らねぇが、流石にこんなんじゃ俺は倒せねーぞ?」
「いやぁ1回戦の再現でもしようと思ってさ。懐かしいっしょ? あ、ちなみにこれは桃木瞑亜ちゃんの異能ね。コピーした異能の中で一番使えねぇから、ウォーミングアップには持って来いなのよ」
「桃木の異能だと?」
桃木瞑亜。
あいつが異能を使っているところをそんなに見た訳じゃないが、2回戦でのあいつの戦闘を見る限り、巨大ロボットを操ったり、レーザービームを出したりと、かなりやりたい放題な異能を使っているように見えた。
使ってみないことには分からないが、あの高火力な異能が一番使えないというのは、どうも腑に落ちなかった。
「はっ。桃木の異能を使ってできるのがただのナイフ投げとはな。他人の異能をコピーしてもこのレベルでしか使いこなせねーんじゃ、とんだ宝の持ち腐れだな。黒ひげのおっさんでも飛ばして遊んでろ」
「……」
軽く煽ってみるも、一式から反応は無い。
だがそれは怒りで言葉も出ないという感じではなく、呆れてものも言えない、といった様子だった。
「ぷっ! あはは!」
突如、笑いを堪えきれなくなり吹き出す一式。
「そっかそっか! ごめんごめん! 小間はこの異能使ったことないから分からないよね!」
高いおもちゃやゲームを自慢する子供のような、幼稚なマウントをとってくる一式。
「何がおかしいんだか」
「大方、2回戦の桃木ちゃんを見て、巨大ロボを操ったりそこからレーザービームを出したり、そんな夢みたいな異能だと勘違いしちゃったんだと思うんだけど……あれはそんな便利なものじゃないよ」
手品の種明かしをするように続ける一式。
「あれはあらゆる武器、兵器を無尽蔵に出して使える異能なんかじゃない。正確には、一度触れたことがある武器、兵器を無尽蔵に出して使う異能なのさ」
「一度触れたことがある武器を……。あ? ちょっと待て、じゃあ……」
「そっ。俺が触れたことのある武器なんて、せいぜい興味本位で買ったことがあるナイフくらい。だからこの異能で出せる武器は、その刃物くらいしかない訳」
一度触れたことがある武器や兵器を無尽蔵に出して使う異能。
だとしたら、桃木は……
「でも桃木は違った。あの異能を使ってガトリングやミサイルどころか、パワードスーツや巨大ロボみたいな現実離れした兵器まで呼び出していた。なぁ小間君。桃木は、一体どこからこの神の間にやって来たんだろうね」
一式は不敵に笑いそう言った。
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一方。
3回戦のステージ上、小間竜騎と一式和人から少し離れた場所では……
「まさかあの軽そうな男の子がジョーカーで、しかも他のプレイヤーに憑依して復活していたなんてね」
アリサは海藤の口から、もう一人のジョーカーの正体を知り、軽く驚いた様子を見せた。
「あァ。一度だけ復活し、ランダムなプレイヤーに憑依する能力なんてたまったもんじゃねェ。知らず知らず、オレたちは大きな危機を回避してたって訳だ」
「本当よねぇ。憑依されたら、実質元の体の持ち主からしたら負けみたいなものだしねぇ」
海藤とアリサは淡々と話し続けていた。
前世での幼馴染、アリサの裏切りにより打ちひしがれる万丈などお構いなしに。
「さァて。お喋りも飽きてきたし、そろそろやる気出してくれ勇者サマよォ」
海藤は万丈に話しかけるも、反応は無い。
「あーあァ。どうしちまったんだよ。仲間と協力していたとはいえ、前世でこのオレを封印一歩手前まで追いつめた勇者サマがよォ」
「いいじゃないの。わざわざ眠れる獅子を起こして面倒な戦いすることないじゃない。さっさと殺しましょうよ」
「オレは無抵抗な生物を殺すのは好きじゃねェ。やっぱ殺しってのはよォ、死に際のリアクションがあってナンボなんだよ。死に際にどれだけ阿鼻叫喚し、みっともなく生にしがみつくか、それに至るまでどれだけ痛めつけられるか、それに尽きるんだよ。なのに、腕や足を切り落としても無反応な人間が相手じゃ萎えるだろ?」
「あら。勇者サマは別に痛覚が無くなった訳じゃないんだから、試しに腕でも落としてみればいいじゃない。勇者サマも痛みで起きるかもしれないわよ」
「それもそうだな」
あれだけこだわりを話していたにも関わらず、あっさり万丈に攻撃を仕掛けようとする海藤。
そもそも、気まぐれに人を殺し続けてきた海藤にこだわりなどある筈がなかった。
海藤は人差し指を万丈に向ける。その指先に不気味な光が集約されていく。
「まずは右腕をちょんぱだァ。プラモデルみてェにバーラバラァにしてやる」
指先に集約された不気味な光が万丈に放たれるまで、あと数秒足らずといった、その時だった。
無数のミサイルが海藤とアリサに直撃し、大爆発を引き起こした。
「……なんだ!?」
ようやく、朦朧としていた万丈の意識が覚醒する。
大爆発と共に万丈の目の前に現れたのは、一人の少女だった。
「いやー2回戦と同じ異能を拾えるなんてさいこーだと思わない? ねー、ばんじょー」
小柄な少女、桃木瞑亜はゆったりとした口調でそう言った。
「桃木、どうしてここに?」
「いや? たまたま通りがかっただけー。まー万丈には2回戦助けて貰ったし、そのお返しみたいなー? あとはねぇ……」
桃木は、火花と煙の奥から無傷で姿を現した海藤とアリサに視線を向けた。
「わたしもあの2人に用があるんだよねー。特にあの全身タトゥーの魔女にさー」
「あァ死ぬかと思った。オイ、あのチビがオマエに用があるってよォ」
ミサイルの爆発に巻き込まれたにも関わらず、非常に落ち着いた様子でアリサに話しかける海藤。
「あら。ついに見つかっちゃったわね」
海藤と同じく淡々とした様子のアリサ。
「知り合いなのか? オマエら」
「えぇそうよ……。ほら、神の間に来た時、貴方に話したじゃない。貴方が死んでから500年以上経ってるって話。あの子は、その時に私に噛みついてきた鬱陶しい人間の一人よ」
さらっと。
衝撃の事実を語るアリサ。
その事実に、万丈は驚きを隠せなかった。
「500年だと……!? 桃木、お前は一体……」
そう桃木に問いかける万丈だったが、その声は桃木に届いてはいなかった。
憤怒と殺意の混じった桃木の目は、ただひたすらに目前の宿敵に向けられていた。
お読みいただきありがとうございました。
そろそろ戦いが激しくなってきます。




