昼⑦ 正体
場面転換が少し多めです…。
「……あっぶねー」
俺、小間竜騎は天上ミコトからの不意打ちの攻撃をガドスト(攻撃は最大の防御)を使って防御した。
「……あら。防がれちゃいました」
俺は紫のオーラを足に纏い、突き蹴りをミコトに放つ。
だが、ミコトはそれを軽快な動きで躱し、バックステップで俺と距離を取る。
持っている刃物がひしゃげているのを見て、ミコトは溜息を漏らす。
「残念です。今のはいけると思ったんですが……私が攻撃することに気が付いていたのですか?」
「いや、ただ単に胡散臭かっただけだ」
「胡散臭かった……?」
「アホか。いきなりあんな告白されても信じる訳ねーだろ」
まぁ本当言うと、最初からこいつの事を信じてなんかいなかったが。
「やっぱりお前、海藤の仲間だったんだな。魔族……いや、魔王キルか?」
俺は率直にミコトに質問する。
「魔族? 魔王キル? よく分かりませんが、私はそんな奴知らねぇですよ」
若干崩れかけた粗い敬語でミコトがそう言った。
「すっとぼけたって無駄だぜ。お前が海藤の仲間だって事はもう分かってんだよ」
「だーかーらぁ、魔族だの魔王キルなんてのは全然知らないんだって。まぁ海藤の仲間だって事は認めるけどね」
どういう事だ?
てっきりミコトの正体は魔族なんだと思っていたが、そうじゃないのか? だとすると、ミコトは単純に海藤と手を組む為に海藤と接触したという事か?
「でもそうね。私の事を何か別の名前で呼ぶなら……『ジョーカー』が正しいかな」
「あ? ジョーカーだと?」
万丈と話していた「E-01」の異能を持つ、俺の伝説の竜「E-02」とは別のもう一人のジョーカー。それがミコトだというのか? いやだが……
「ありえねぇな。「E-01」の枝番を持つ者は、2回戦の時点で既にいなかった」
「おーなんだ。枝番の意味には気が付いていたのか。やるねぇ小間君」
ミコトの口調がどんどん崩れていく。
ミコトの顔と声のはずなのに、口調が変わるだけで別人と話している感覚になる。
「確かに「E-01」の異能を持つ人は2回戦の時点でいなかったよね。けど、間違いなく私は「E-01」のジョーカーだよ」
「どういう事だ。一体どうなって……」
俺はそこまで言いかけてある事を思い出した。
それは1日目の夜。ある人物たちとの会話だった。そうか、何故あの時あいつの異能の力が俺たちに効かなかったのか。今、合点がいった。
「そうか。お前……」
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「ジョーカーですって?」
くすんだ銀髪の魔女のような風貌をした女、鳥皮好実……アリサはそう言った。
「あァ」
アリサの疑問に答えるつもりが無いのか、短くそう答える海藤。
「どういう事かしら。貴方の切り札って事?」
「トランプのジョーカーって意味だ。俺たちに与えられた異能は、全部トランプのマークと数字に紐づいてやがるのさ」
「トランプの? ……あぁそう言う事。それで最初54人もいたのね」
海藤の雑な説明で何となく理解した様子のアリサ。
「じゃあ天上ミコトがそのジョーカーだっていう訳ね?」
「いやァ? アイツはジョーカーじゃねェよ」
「どういう事? 貴方がジョーカーの話をしたんじゃない。私の事からかっているのかしら?」
「クク……そう言う事じゃねェよ」
理解できないといった様子のアリサを見て、楽しそうに嗤う海藤。
そんな海藤は2回戦で起きたある出来事を思い出していた。
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それは2回戦「モンスターハント」にて、海藤がチーム3の西園寺を追い回していた時の事。
森に逃げ込んだ眼鏡の少年、西園寺を暗殺するべく息を殺していた海藤だったが、直後、何者かの手によって西園寺が倒されてしまった。
「クハハッ。人の獲物を横取りするとはいい度胸だな。死ぬ覚悟はできてんだろうなァ」
「……」
人影に話しかける海藤だったが、反応は無かった。
しかし直後、人影はあるプレイヤーへと姿を変えた。
「……ほォ。オマエは確か……。まさか、そんな異能を持っていたとはなァ。こりゃ面白くなってきたなァ」
「……」
「他人に姿を変えることができるとはなァ。だがそれは、さっき眼鏡を殺した力とは別の力だ。まさかオマエも魔術が使えるのか?」
「魔術?」
そこで初めて、その男は口を開いた。
「何の事か分からないが、これは全て異能の力だよ」
「異能だァ?」
「しかし海藤君。君がこんなに荒々しい性格だったなんて知らなかったよ。まるで猛獣じゃないか」
「んなくだらねェ事はどうでもいい。オマエの異能に興味が湧いた。どんな能力か言え。話してる間は殺さないでおいてやる」
男の首の辺りを指差す海藤。
海藤と男の間にはある程度の距離があるが、その気になればいつでも殺せる……といった趣旨の発言をする海藤。
「はぁおっかないな。分かったよ。俺の異能は……」
男が口を開いた、その直後だった。
『皆さま。2回戦のモンスターハントバトルも残すところ1時間となりました』
女神の透き通るような声のアナウンスがステージ全体に響き渡った。
『そこで、残り1時間はボーナスタイムとさせて頂きます。ボーナスタイムの詳細はこちらになります』
男と海藤の目の前に、ボーナスタイムの詳細について記載された映像が映し出される。
「なるほど……なぁ海藤君。ひとまずここは一時休戦にしないか?」
「あァ?」
「この2回戦が終わったら、夜に君の部屋に向かうよ。そこで全て話す」
「ククッ。オレは今話せと言ったんだがなァ。どうやら死にてェらしいな」
「ここで俺を見逃してくれたら、今後俺の力を君に貸してもいい」
「ほォ。それが嘘だったら?」
「……その時は殺してくれて構わない」
「クハハハッ!! 面白れェ! だがそいつはオマエの異能次第だな。とりあえず面白そうだから、今は見逃してやる。だが、もしオマエが今日の夜オレの前に現れなかったら、その時は3回戦で真っ先にオマエを殺す」
「……それでいいよ」
『以上になります。皆さま、最後まで諦めずにチームで協力して戦って下さい。それでは』
男と海藤の会話の切れ目と共に、女神の声も聞こえなくなった。
海藤はボーナスタイムの詳細を再度確認する。
「クハッ。どうやら2回戦はここからが本番みてェだな。んじゃ、オレも行くとするかねェ。オマエも自分のチームに戻るんだなァ」
海藤はそう言うと、サイコキネシスを使ってどこかへ飛んで行ってしまった。
「……ふぅー。あいつマジこえぇー」
海藤がいなくなったのを確認し、男は胸を撫で下ろしたのだった。
「さて、俺もあいつらと合流しますかね。いきなり80以上のモンスターがわんさか出てきたせいで、うっかりはぐれちまったけど……おっと。話し方をそろそろ戻さねーとな。どんなんだっけか……えーっと」
男は何度か軽く咳ばらいをする。
「こんな感じやったっけなぁ。いやぁ関西弁なんて基本喋らんから、慣れへんわぁ」
男はぎこちない関西弁でそう言った。
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「そうか。お前、ミコトじゃねぇな」
「へぇ。私が天上ミコトじゃないなら、誰だっていうの?」
「……空木勇馬だろ。お前」
ミコトと同じ姿と声をした目の前の人物に、俺はそう告げた。
すると直後、テレビのチャンネルでも切り替えるかのように、目の前の人物の姿が変わった。
金髪ロングの女性から、黒髪で糸目の少年の姿に。
「……よく気が付いたなぁ。なんで分かったん?」
下手な関西弁でそう言った空木だったが、動揺している様子は見られない。
「ずっと気になっていた。俺の竜の力がクレアに通じない理由を」
俺が持っていた伝説の竜は、異能と魔術を無効化し、さらに全ての攻撃をオートガードすることができる。あの異能を発動している限り、俺に攻撃が当たることはまずあり得ない。だが、何故かクレア相手にはオートガードが発動せず、それどころか、異能の無効化が働いている様子も無かった。
「1日目の夜、お前が俺とクレアに接触してきた時、お前はこう言った。「自分の異能が効かなかったのは俺とクレアだけ」だって。あんときはその理由が分からなかったが、今なら納得がいく」
「へぇ……どうして?」
少しずつ答え合わせをする俺を見て、空木は楽しそうにそう呟いた。
「俺とお前が「ジョーカー」なら、クレアは「スペードの3」だからだ」
スぺ3返し。
トランプゲームの1つ「大富豪」のルールに、ジョーカーが単体で場に出ているときに、スペードの3を出せば流すことができる、というルールが存在している。
基本的には最弱カードの1つであるスペードの3だが、こと1対1においてのみ、最強カードのジョーカーを倒す事ができる。
「俺の異能がクレア相手に全く機能しなかったのも、1日目の夜にお前の異能がクレアに効かなかったのも、クレアの異能「A-03」がスペードの3だと仮定すれば一応筋は通る。なんでこの「スぺ3返し」だけバトルロイヤルに反映されているのかは知らないが、要はジョーカーの異能はクレアには一切通じないのさ」
「なるほどねぇ……」
「つまりだ。俺と同じように、クレアに異能を無効化されたお前こそが、もう一人のジョーカーって事になるんだよ。空木勇馬」
「くくっ。あっはははは!」
突如、狂ったように笑い出す空木。
「半分正解や。小間君」
「あ? 半分だと」
俺を試すかのような挑発的な言い方をしてくる空木に、若干イラつく俺。
「確かにボクは「E-01」のジョーカーや。けど、ボクは空木勇馬やない」
「何を訳の分から……」
言いかけて、硬直する。
そうだ。まだ妙な点がある。
空木勇馬がジョーカーなら、何故2回戦の時、空木勇馬の異能は「B-01」と表示されていた?
もし空木がジョーカーなら「E-01」と表示されるはず。
なんで……いや、まさか……。
「……1日目の夜、クレアはお前に違和感を持っていた。空木にしてはやけに饒舌だの、関西弁が下手だの言ってやがった。俺は1回戦前の空木勇馬を知らないから、そんな事言われても知ったこっちゃなかったが……」
「……ふふっ」
「まさかあの時……既に空木勇馬に成りすましてやがったのか? それも変身とかいうレベルじゃなくて、体ごと乗っ取る……みたいな」
「ふふ……せぇかぁい。やるねぇ小間君。ふふっ、なんだか楽しくなってきたよ俺。テンション抑えるので必死だわマジで……」
「クソが……じゃあテメェは何者なんだよ」
「え、マジで? それ聞いちゃう? ここまで来たら自分で考えた方が楽しいと思うぜ? だから教えねぇーよ」
「テメェおちょっくってるとブチ殺すぞ」
「やれるもんならやってみなよ。けどまぁ、もし俺の正体を当てられたら、海藤に関する情報を教えてもいい」
「海藤の情報だと?」
「そそっ! だから頑張ってみてよ」
徐々に口調が崩れていく空木勇馬……の姿をしたジョーカー。
舐めた口ききやがって。こうなったら、こいつの正体を暴いて海藤の情報を手に入れた後でブチのめす。
……さて。俺は怒りで沸騰しかけた頭を、一度クールダウンさせる。
こいつは1日目の夜の段階で、既に空木勇馬の体を乗っ取っていた。一体どうやって?
「乗っ取っていた」という事は、他のプレイヤーが空木勇馬を操ってジョーカーを名乗っている……とは考えにくい。自分の意識ごと空木勇馬の体に移した、という事だ。つまりタイミング的に考えても、ジョーカーの正体は1回戦で既に敗北したプレイヤーの可能性が高い。なんで負けたプレイヤーが復活してるのかは知らないが……。
そこまで考えて俺はふと、2回戦で表示されていたプレイヤーたちの枝番を思い出した。
「……まさか」
「おっ! なんか分かった!?」
ジョーカーの口調がどんどん軽薄なものになっていく。
俺がこいつの正体に迫るほど、こいつも自分を偽るのを放棄し始めていた。
「2回戦で表示されていたプレイヤーの枝番。あれを見た時、妙な違和感があったが、やっとその正体が分かった」
「おぉ! その違和感とは!?」
うざったいほど軽い口調に変わるジョーカー。
思えば、この軽薄な口調にも聞き覚えがあったな。
「枝番が綺麗すぎたんだよ。同じ数字の奴が必ず2人ずつ存在してやがった」
「え、そうなの? それは俺知らなかったわ。つか、そんな事よく覚えてんね小間君」
例えば「B-01」と「D-01」、「A-02」と「C-02」、「A-13」と「D-13」……といったように、あの時俺を除いた26人の枝番は「AかBの1~13」の計13人と「CかDの1~13」の計13人だった。
「え? てか、それがなに? 今度は俺が分かんなくなっちまったよ! ウケる!」
「つまり、1回戦の対戦相手の組み合わせがランダムだったら、ここまで綺麗な並びにはならないって事だ。1回戦の対戦相手は「AとBブロック」と「CとDブロック」に分けられ、その中で同じ数字を持つ者同士が戦った。「A-01」対「B-01」、「C-01」対「D-01」って感じでな。この法則なら、2回戦で生き残った奴らの枝番があぁなるのも納得がいく」
「はぁ~なるほどねぇ。よくそんな細かい事分かったな」
「……でだ、1回戦でこの法則通りに戦うと余り物が出てくる。それがジョーカーだ。だから、必然的に1回戦のジョーカーの対戦相手は、同じジョーカーという事になる」
「……」
やっと話の本筋を理解したのか、減らず口を閉じて黙るジョーカー。
「つまり、1回戦で「E-02」のジョーカーを持つ俺の対戦相手だった者こそが、俺と同じジョーカー「E-01」という事になる」
「……ふふ」
不気味に笑うジョーカー。
幾多のプレイヤーを欺き、楽しむその姿は、まさに道化師に相応しいものだった。
「なんでテメェが生きてんだよ、チャラ男……いや、一式和人!」
「……ぶっははは! 正解っしょ! 久しぶりだねぇ! 股間のお兄さん♡」
男は糸目で黒髪の少年から、茶髪のチャラそうな男へと姿を変えた。
俺の股間から竜が生えた元凶にして、紅クレアの彼氏。一式和人。
因縁の男との戦いが、始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございました。
もう一人のジョーカー、チャラ男こと一式和人は何故生きていたのか。




