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夜① 変なのにダル絡みされたらプライドなんか捨てて謝ったほうが早い。

夜景を3時間くらい無心で見たい。


 異世界バトルロイヤルの1回戦が終了した。俺、小間竜騎こまりゅうきは自分の股間を竜にした元凶(ある意味で)であるチャラ男こと一式和人を1回戦で倒すことができた。だが……


「決めたわ、小間竜騎。私はこのバトルロイヤルで、必ずあんたをぶちのめす! 和人の敵は私が討つ!」


 俺が目を付けていた美少女、くれないクレアはチャラ男の彼女であり、チャラ男をぶちのめした俺を目の敵にするようになってしまった。


「勘弁してくれよ。バトルロイヤルだぞ。やらなきゃ俺がやられるんだよ」


「黙れ。私はお前をぶちのめす。もう決めたから」


 うわ。一回戦前とは別人のような、鬼のような形相だな。最初に話したときは、もっと仲良くなってあわよくば夜1回イケるかな……なんて考えていたが、もう無理そうだな。非常に残念だ。すげぇ可愛いのに。


「さて、皆さま。一回戦お疲れ様でした」


 こちらの様子などお構いなし、といった様子で女神がそう告げた。声こそ優しいものの、俺たちにまるで興味はなさそうだ。


「昼のフェーズを終えた皆さまには、次に夜のフェーズに移って頂きます」


 昼だの夜だの、なんの話やねん。そう思っていると、周囲の景色が雪のような純白から、数多の星が光り輝く夜空のような景色に一変した。地面にまで夜空の景色が反射していて、とても綺麗だった。こんな状況じゃなければ凄くいい景色なのにな。できれば何もないときに見てみたかった。一変した景色に驚くプレイヤーたちをよそに、女神は説明を続ける。


「夜のフェーズは、簡単に言うなら自由時間ですね。皆さまにはそれぞれ個室も用意しました。自分の部屋の番号は、一回戦前に引いたカードに書かれておりますのでご確認ください。また、食堂や大浴場もご用意しましたので、自室で休むなり、施設を満喫するなり、次の昼のフェーズまで好きなようにお過ごしください」


「昼にバトルロイヤル、夜は休憩か。死後になんのアフターケアもなしにいきなり戦わされたときは、本当にクソみたいなことに巻き込まれたと思ったが、意外とホワイトじゃん。神の間」


「私が話してるので静かにしてもらえますか? こかん……小間竜騎さん」


「あ……はい。なんかすんませんした」


 何故かは知らないが、女神がものすごく辛辣だった。あと、俺の名前を言い間違えた気がするのは気のせいだろうか。読み方違うから。「こかん」じゃなくて「こま」ね。


「さて、邪魔が入りましたが、説明を続けさせていただきます」


 邪魔て。


「次に夜のフェーズ中の戦闘行為についてですが、夜にはライフという概念がございませんので、いくら戦っても他プレイヤーを倒すことはできないので注意してください。とはいえ痛覚はそのままなので、痛めつけたい相手がいれば、決して無意味とはいえませんが」


「はは。バトルロイヤルの勝敗に関係ないのに、そんな意味ないことするやついんのかよ」


「……逆に言えばムカつくやつがいたら、無限に殴り続けることができるわけね」


 ボキボキ……と、クレアの拳から指を鳴らす音が聞こえた。俺の方を睨みつけている気がするが、気が付かないフリを決め込むことにした。今の俺は鈍感系の主人公だ。


「それでは説明は以上になります。こちらのドアから皆さまの個室がある空間に繋がっておりますので、どうぞごゆっくり。次の昼のフェーズの開始30分前になりましたら、全体にアナウンスをかけさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


 女神がパチンと指を鳴らすと、なにもない空間にドアが出現した。見た目は完全にどこでも行けるあのドアだ。唯一違うのは、ドアの色が白いことくらいか。


「あー疲れた。さっさと部屋に行って寝るか」


 誰かがそう言ったのを皮切りにプレイヤーたちはぞろぞろとドアを通り、別の空間に消えていった。俺が言うのもなんだけど、死んだ後にいきなりこんなところ連れてこられたのに、皆受け入れるの早いよな。本当に。


「まぁ確かに疲れたけどな。俺もさっさと部屋に行って休むか」


 ドアに向かったその時、後ろから歩いてきた誰かと肩がぶつかった。


「おっと。あーすんません」


「いてぇな。どこに目ぇつけてんだテメェ」


 俺はとりあえず適当に謝ったが、男は……いや男たち2人は、なんだかイラついた様子だった。男たちは2人とも黒いスーツを着ていた。俺がぶつかった男は、黒髪に赤いメッシュを入れたホスト風の男、もう片方は黒い肌にサングラスをした、マフィアのボディーガードのような巨漢な男だった。


「聞いてんのお前。目だけじゃなくて耳もお飾りか?」


「お前こそ、ただ突っ立ってるだけの俺にどうやったらぶつかれるんだよ。反射神経死んでるんじゃねえの」


「おい小僧。イリス様にその口の利き方はなんだ」


「イリス様? そこのエセホストのことか? そんなに大事ならお前が守れよ、3流ボディーガードが」


 つい売り言葉に買い言葉になってしまったが、面倒なやつらに絡まれたものだ。どうしたものか。


「面白れぇ野郎だなクソガキ。やっぱ股間に竜生やしてる様な奴はユーモアがあるなぁ。あぁ?」


「クソガキ? そこのゴリラはともかく、お前は俺とタメくらいだろ」


「俺がお前とタメだ? 笑わせんなよクソガキ。俺はなぁ……」


「あー悪いな。確かにタメじゃなかったかもな。お前の精神年齢は園児並みだ。ナリで判断して悪かった。早計だったよ。()()()()


「……オーケー。死にてぇらしいな。股間の竜真っ二つにしてやんぞコラ」


 どうやらホスト風の男、イリスとやらをやる気にさせてしまったらしい。夜のフェーズに戦っても意味ないってついさっき説明があったばかりなのにな。仕方ない。こうなったら2人まとめてこの竜で……


「やめるんだ、君たち」


 戦闘が勃発しそうになった次の瞬間、なにやらマイナスイオンを帯びたような落ち着いた声が聞こえてきた。


「誰だよてめぇは」


「僕は海藤咲夜かいどうさくや。夜に戦っても意味がないって、さっき女神様から説明があったじゃないか。無駄な争いはやめるんだ」


 うおっ。なんだこの金髪爽やかイケメンは。少女漫画の王子様的キャラのような、かなり整った容姿をしていた。……なんか腹立つくらいイケメンだな。だがそんな爽やかイケメンがなだめたところで、あんな頭の悪そうなチンピラホストの怒りが収まるわけがない、と思っていたのだが……


「……チッ。なんかシラけちまった。つまんねーな」


「分かってもらえたようでよかったよ。抑えてくれてありがとう」


「……悪かった。これで手打ちにしてくれや」


 イリスは意外にも引く姿勢を見せ、金髪イケメンの海藤咲夜に握手を求めた。意外と話せば分かる奴だったんだな。なんか申し訳ない気分になった。まぁ、握手を求める相手は海藤じゃなくて俺だと思うが、面倒になりそうなので黙っておくとしよう。


「うん。こんなところに急に連れてこられていきなり戦わされたら、誰だってイライラするよね。明日は正々堂々戦おう」


 海藤も握手に応じる。しかし、すごい大人な対応だな。神対応といっていい。あいつが握手会開いたら、すげぇ儲かるんじゃねえか?


「そうだな。明日は正々堂々……なんて」


「?」


「なんて……言うわけねーだろボケッ!!」


「ぐっ!」


 イリスは握手する寸前で、海藤の腹めがけて蹴りを放った。海藤は蹴りの衝撃で後ろに飛ばされてしまう。


「おい、大丈夫か!」


「今日はこれで勘弁してやるよ。クソガキ共。メインディッシュは明日の昼フェーズまでお預けだ。行くぞ、エリス」


「はい、イリス様」


 イリスはそう言うと、巨漢の男エリスと共に、白いドアの向こうに消えていった。あの野郎、元々モメてたのは俺だっただろうが。俺は追いかけてあいつらをぶちのめしたい衝動に駆られたが、今はそんな場合じゃない。


「大丈夫か海藤。 すまない、俺のせいでこんな目に。申し訳なかった」


「だ、大丈夫だよ。この程度で済むなら安いものさ」


 なんだか、海藤の器のデカさとイケメン爽やかスマイルを前にして、自分がとても惨めに思えた。俺は倒れている海藤に手を差し伸べようとしたが、股間の竜が邪魔で上手くしゃがめなかったので断念した。マジごめん。


「立てるか?」


「うん。ありがとう、小間君」


 手を差し伸べないと上から目線で言ってるみたいで、なんか申し訳ないな。こいつが蹴られたの半分俺のせいなのに。


「でも小間君は強いね。こんな状況なのに、あんな怖い人たちに言い返しちゃうなんてさ」


「いやお前のほうがよっぽど……あれ、なんで俺の名前知ってるんだ?」


「はは。ここに来てすぐに女神様とモメて、しかも股間から竜が生えてきた人の名前を覚えるなって方が難しいよ」


 爽やかスマイルと穏やかボイスで言ってはいるが、悪意のなさが逆にグサッときた。


「マジでなにやってんだ……俺。なんでこんな目に……」


「ごめんごめん! 悪気はなかったんだ! ここに来てから信じられないことの連続だけど、お互い頑張ろう」


「は、はは。お前はいいやつだな。すげーイケメンだし」


「そんなことないよ! 僕なんかより小間君の方がイケメンじゃないか! 股間から竜は生えてるけどさ」


「まぁな、俺も顔だけはいいってよく言われ……って最後の一言は余計だろ」


「あはは! そうだね、ごめん!」


「ったく……」


 くだらない会話で笑いあう俺と海藤。


「じゃ、そろそろ俺たちも休みに行くか。」


「そうだね」


 そう言って俺と海藤は、それぞれの個室に繋がる白いドアへと向かう。ここに来てからツイていないことばかりだったが、こんないいやつと出会えたのは、案外悪いことじゃないかもしれないな。


 だが、この戦いが異世界転生を賭けたバトルロイヤルである以上、いずれこいつとも戦うときが来る。


 そのときが来たら、俺は……いや、今はいい。


 俺は余計なことを考えるのをやめて、海藤と共に白いドアを通った。

 

お読みいただきありがとうございます。

次回も新キャラがでます。今後、キャラを前書きである程度整理していきますので、よろしくお願いします。

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