昼④ ジョーカー
ジョーカーとは……
「俺は万丈龍之介。元勇者だった男だ」
屈強な大男、万丈龍之介はモンスターとして復活したイリスとエリスに向かってそう言い放った。
「万丈きゅ~ん! マジ助かったぜ!」
万丈のおかげで九死に一生を得た俺。
コイツが現れなかったら俺は確実に死んでいただろう。
「あぁ。それよりなんだこいつ等は」
「2回戦で敗退したプレイヤーだ。モンスターとして復活したらしい」
「プレイヤーが? どういう事だ」
「あぁ……それは」
「おいおい。何もう助かった気でいるんだバカ共が」
俺と万丈の会話を遮ってくるイリス。
「テメェが本物の勇者か。面白れぇ。フルチンドラゴンの前にまずはテメェから殺してやるよ」
「……イリス様に逆らう奴は何人たりとも許さぬ」
「小間。取り敢えずこれを持って下がっていろ」
万丈はそう言うと、右手を俺の足元に向ける。
するとあら不思議。素敵な宝箱が2つ、音もなく出現した。
「お前これまさか……異能が入った宝箱か?」
「そうだ。まだ開けるなよ? 取り敢えずこいつらを片付ける」
すげぇ。万丈きゅんマジ優秀。
この短時間でもう2つも回収したのかよ。
「片付けるだぁ? 随分余裕だな勇者さまよ。俺たちは上級魔族だぞ? そこらの雑魚と同じにしてもらっちゃ困るんだよ!」
ゴウッ! という衝撃と共に、俺を追いかけてた時とは比べ物にならないほどのスピードで万丈の元へ詰め寄るイリスとエリス。
一瞬しか見えなかったが、イリスは赤い電撃を腕に纏わせ貫手の様な一撃を、エリスはその岩石の様な剛腕を使った全力のパンチを、それぞれ万丈に放った。
「万丈っ!!」
ただの人間の俺にも分かる。あの2人の一撃がどれほど脅威的なものなのか。
魔術の事は全く知らないから、これは理屈では無い。ただの生存本能から来る直感だ。
命を刈り取る悪魔と鬼の一撃。
しかし、その一撃は万丈に届くことは無かった。
「あ? なんだこれ か ら だ が?」
「イリス さ ま ?」
ほんの刹那の間。
何故か万丈を素通りしたイリスとエリスの体は、サイコロステーキの様に細切れになっていた。
ばらばらばら
と、勇者を狙っていた悪魔と鬼の体が、積み木のおもちゃの様に無機質な音と共に散らばって落ちていく。
「上級魔族か。こちとら魔王を倒す為に鍛錬を積んできたんだ。今更貴様らごときに手こずる訳が無かろう」
堂々とそう言い放った万丈。
その手には、神々しい光を纏った黄金の剣が握られていた。
「え? もしかして、あの一瞬であいつらを切り刻んだのか?」
「……そうだが。それがどうかしたのか?」
けろっとそう言ってのける万丈。
最早俺の動体視力で追えるレベルでは無い「神速」とも言うべき斬撃。しかも、一撃、二撃だけでなく相手を細切れにするほど何度も斬りつけたにも関わらず、その斬撃の全てがまるで見えなかったのだ。
2回戦で戦った黒騎士を遥かに上回る斬撃だ。
まっ、俺はどっちも全然見えないからよくは知らないけどな!
……何はともあれ、俺を死の一歩手前まで追いつめた強敵たちは、万丈の手であっさりと消え去った。
「さて、聞かせてもらおうか。小間」
「え、何が?」
「何故2回戦で敗退したプレイヤーがこうしてモンスターとして蘇っている」
「あぁ。それの事か」
俺はこのバトルロイヤルの敗者がどのような扱いを受けるのかを掻い摘んで説明した。
「……そういう事か。それは厄介だな」
「何がどすえ?」
俺ははんなりと聞いてみたが、万丈はそれをガン無視して話を続けた。
「敗者がモンスターとして神の間に残り続ける……つまり、バトルロイヤルのルールで海藤を失格にしても、奴の魂がここに残るという事だ」
「そうか。今後、万が一にも海藤が復活するのを阻止するために、その金ピカの剣で魂ごと消し去らなきゃいけないんだっけ」
「そうだ。だが、全てが手筈通りにいくなら苦労はあるまい。最悪、海藤をこの『アテナ』で倒せなかった場合はどうにかして奴を失格に追い込む事も考えていたが、これで道は一つしかなくなった」
「まぁ、やる事がより明確になっていいじゃねぇか」
「そんな悠長に構えている場合ではない!」
「と、とぅいまてん」
そ、そんなキレなくてもええやん……。
「とにかく、これ以上奴の好きにさせる訳にはいかない。なんとしてもこの3回戦で海藤を討つ。お前も協力しろ、小間」
「はいよ。言われんでもそのつもりだ」
海藤はこのバトルロイヤルで最も危険な存在だ。
ハナから一人でやるつもりは毛頭ない。
「全く、こんな雑魚モンスターに構っている場合ではないというのに」
「まぁこの3回戦じゃ、モンスターの存在は邪魔でしかないからな。まぁでも、全く収穫無しって訳でもないぜ?」
「何? どういう事だ」
目を見開いて食い気味にそう言った万丈。
「まぁ知ってどうなるって話でも無いが……2回戦から俺たちプレイヤーの横に記載されていた枝番の正体についてだ」
「枝番……確か俺の番号は「D-10」だったな。あれに何の意味がある?」
「多分だが、あの枝番はトランプのマークと数字を表してるんだよ」
「トランプだと?」
「そうだ。どれがどのマークかは分からないが、枝番のA~Dはスペード、クラブ、ダイヤ、ハートのマークを指している。まぁ数字はそのままだ。今思えば、2回戦のプレイヤーの番号は全部1~13までだったな」
そう言った直後。
俺は何か妙な違和感を覚えたが、この違和感が消化されるのはもう少し後の事となる。
「だが小間、お前の枝番は確か「E-02」だった。その理屈だと、どのマークと数字にも当てはまらないと思うが……」
「あぁ。Eから始まる枝番は恐らくジョーカーだろうな」
「ジョーカー……そういう事か」
トランプはマーク4種類各13枚の52枚+ジョーカー2枚の計54枚で1セットとされている。今思えば、バトルロイヤル開始時の人数も54人だった。一応総数は一致する。
そこで俺はふと、2回戦での黒騎士との対話を思い出す。
奴は俺の異能をジョーカーと表現しており、意味を聞いてみたら「そのままの意味だ」なんて言っていたが、まさか本当にトランプのジョーカーという意味だったとは。直球過ぎて逆に気が付かなかった。
「しかし小間。ジョーカーである小間の異能が「E-02」、すなわちジョーカーの2枚目という事は……」
「あぁ。1枚目のジョーカーである「E-01」を引いたプレイヤーも、当然存在していることになるな」
「だが、この3回戦のプレイヤーに「E-01」の枝番を持つ者はいなかった」
「もっと言えば、2回戦のプレイヤーにも「E-01」を持ってる奴はいなかったな」
あの時枝番をざっと見渡したが、Eから始まる枝番を持つのは俺だけだったと記憶している。
「ま、という事は「E-01」を持つプレイヤーは1回戦で敗退したって事だな」
「そうなのか? 小間の伝説の竜に匹敵する異能を持つ者が、1回戦で敗退したと?」
「匹敵してるかは知らんが、まぁ強力な異能である可能性は十分あるな」
たった2枚しかないジョーカーの異能。片や伝説の竜の力を使って異能や魔術、物理攻撃を全て自動防御するぶっ飛び能力。もう片方のジョーカーが普通の異能だとはあまり考えられない。だが……
「だが1回戦で負ける可能性は十分にある。俺の伝説の竜にしたって、扱いをミスって股間から竜が生えてくるなんてアクシデントがあったんだ。ジョーカーは強力な異能である代わりにピーキーな能力……そう考えれば、1回戦で事故って負けちまっても不思議じゃねぇ。それに大前提として、使ってるのは基本普通の人間なんだ。いきなり始まったバトルロイヤルにパニくってる間にやられたとしても、別におかしくねぇよ」
「……そういうものなのか」
「誰もがお前みたいな百戦錬磨の勇者じゃねぇってことだ。まぁいいじゃねぇか。もう一人のジョーカーが生き残ってたら強敵になっていたこと間違い無しだ。邪魔者は少ない方がいい」
万丈を納得させる為にそう言った俺だったが、本当は先ほどからずっと妙な違和感を拭えずにいた。
イリスが言っていた「女神もトランプで遊ぶ」という言葉。
もし俺たちの異能をトランプに紐づけて管理する……みたいなふざけたお遊び要素が他にもあったとしたら……? 俺の考えすぎなのか?
「……まぁ。いない敵の事を考えていてもしゃーないし、お前が持ってきてくれた宝箱の中身でも確認しようぜ」
「あぁそうだな。当面の敵は海藤だ。異能を確認したら、作戦を練るとしよう」
枝番の事は一旦忘れて、俺たちは2つの宝箱に目を向けた。
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時を同じくして。
小間と万丈から少し離れた場所で、あるプレイヤーたちの戦いが始まろうとしていた。
「ヴふん……。まさか開始して早々、アナタと出くわすなんてねぇん」
バランスの悪い肉肉しさ全開の体を揺らしながら出部栖マキナはそう言った。
「ホント最悪なんだけどぉ……」
そしてもう一人。デブスと行動を共にしていた栗色の髪をしたギャル系女子、砂肝汐里も同じ意見の様だ。
2人の視線は、目の前の魔王に向けられていた。
「あァ? 誰だっけオマエ」
狂気をたっぷりと含んだ笑みを浮かべるのは、海藤咲夜。
だが、荒々しく逆立った金髪をぐしゃぐしゃといじる海藤は、とても退屈そうな様子だった。
「ヴふん……。一応、元チームメイトの筈なんだけど、忘れちゃったのかしら? 咲夜ちん」
「チームメイト……あァオマエか。そういえばいたな」
「ヴふふ。あたしたちの事なんて気にも留めてないって訳ね。こっちはいきなりジョーカー引いた気分なのに。それに、昨日の夜は随分と酷い目に合わせてくれたわねぇん」
デブスと砂肝は昨晩、海藤にいきなり襲われ拷問の様な仕打ちを受けた。
特に海藤に無理矢理乱暴された砂肝の心の傷は計り知れない。
「あァ? 酷い目だァ?」
だが、当の加害者本人である海藤は何の心当たりも無いといった様子でそう言った。
「あなた……あれだけの事をしておいて忘れるなんて、人の心はあるのかしら?」
怒りで恐怖を抑え込みながら海藤を睨みつけるデブス。
そんなデブスの視線で何かを思い出したのか、海藤は薄気味悪く嗤い出した。
「あァそうだったなァ。そう言えば、そういう事になってたっけか」
「……?」
「ククッ。そういう意味じゃ、オマエがジョーカーを引いたのは今じゃねェな」
「どういう意味かしら」
「さァな。ここから運よく逃げ出せたらアイツに聞いてみるといい」
首をゴキゴキと鳴らしながら、海藤が一歩ずつ近づいてくる。
「やっぱり、逃がしてはくれないのねぇん。しおりちゃん……あたしがこいつを足止めしておくから、アナタはその隙に逃げなさい」
「でも、それじゃマキナちゃんが……!」
「いいから。アナタ、さっきから震えがすごいわよ」
「……!」
トラウマを刻み付けた海藤を前に、体の震えを抑えられない砂肝だったが……
「私も戦うよ!」
「……何言ってるのいいから逃げなさい! アイツはバケモノよ! 2人で戦ったって勝てる相手じゃないのよん!」
「マキナちゃんを見殺しにはできないよ……。なんかさ、2回戦で一緒に戦っただけって言っちゃえばそれまでなんだけどぉ……私、いちおー友達は大事にするほうなんだよね」
先程までの砂肝の怯えた目が、覚悟を決めた強い目へと変わった。
「ギャッハハハァ! くっせェェなァ砂肝ォ! クソみてェな猿芝居カマしてんじゃねェぞ!」
「うっさい! 芝居なんかじゃない! もうあんたなんかにビビるかっての! 昨日の分、百倍にして返してやる!」
己を奮い立たせるために、砂肝は力の限り叫ぶ。
「……ヴふん。強いわねあんたは。分かったわ! ここであいつをぎゃふんと言わせましょん!」
「ハッ威勢がいいな。面白れェ。肥溜めのブタとビビりな羊にどこまでできるか見せてみなァ!」
海藤咲夜と出部栖マキナ、砂肝汐里。
元チーム1同士の戦いが幕を開けた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、海藤VSデブス&砂肝!
そして、小間と万丈にも動きが?




