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夜⑧ 異名

鳥皮の正体とは


「……私の名前は『アリサ』。ここにいる万丈龍之介……カインの幼馴染だよ」


 鳥皮好実とりかわこのみは深刻な表情でそう告げた。


「幼馴染ねぇ……」


「あぁ。鳥皮……アリサは俺の幼馴染だ」


 何故か同じことを復唱する万丈……もとい勇者カイン。


「ということは、鳥皮は万丈と同じ村出身か。蟻道冷人ぎどうれいとが村に攻めてきたときも、万丈と一緒にいたのか?」


「……えぇ」


 簡潔にそう答える鳥皮。俺とは必要最低限の会話以外交わしたくないといった様子だ。


「まぁお前らが幼馴染なのは分かった。だが今はそんな事どうでもいい。鳥皮、お前はなんで砂肝とクレアを騙すような真似したんだ?」


「……悪気は無かった」


「お前の気持ちはどうでもいいからさっさと答えろよ」


 言葉を濁してばかりの鳥皮に若干イラつく俺。


「……この神の間に来た時に、私は既に蟻道……海藤咲夜の存在に気が付いた。彼に正体がバレないように、『鳥皮好実』の姿に最も年代が近い女の子たちに紛れ込むことにした」


「クレアと砂肝を洗脳して友達のふりをすることで、海藤から身を隠そうとしたって訳か」


「……そう。その直後にカインがこの神の間に来ていることに気が付いた」


「あぁ。そしてアリサから全てを聞いた俺は、このバトルロイヤルに蟻道冷人ぎどうれいとが海藤咲夜として紛れ込んだことを知った。それが1日目の夜の事だ」


「はぁ。つか、1日目の夜に海藤の正体に気が付いていたなら、2回戦でなんで手を打たなかった?」


「小間は知らないだろうが、海藤には『対属性魔術の加護』というものがある」


「なんだよそれ」


「属性魔術に対する無敵耐性の事だ。例えば、炎属性の加護を持っていれば炎属性の魔術が一切通じなくなるのだが、海藤は5大属性全ての加護を持っている」


「5大属性……とやらはよく知らんが、要は属性を持つ攻撃はほぼ通じないってことか?」


「そうなるな。しかも奴の異能によって自動展開されたサイコキネシスの防御膜によって、無属性の物理攻撃や異能による攻撃も簡単には通らない」


「あいつ、そんなに鉄壁の要塞だったのか」


「奴を倒せるのは、強力な光属性の魔術か、サイコキネシスの防御を破れる強力な無属性攻撃だけだ」


「まぁ細かい事は知らんが、要はやろうと思って倒せるほど簡単じゃないって訳だな」


「そういうことだ。だが、策が無い訳じゃない」


 そう言った万丈の手が、太陽の様な眩しい輝きに包まれた。

 そして、人間ほどの大きさを誇る金色の両手剣が、光と共に現れた。


「やたら眩しいな。何その剣?」


「これは伝説の剣『アテナ』だ」


「あー。確かお前らの村で守られてたっていう? 駄目じゃないか勝手に持ち出したら。村の掟を忘れたのか?」


「小間は俺たちの村出身じゃないだろう。村の何を知っている」


 うわ。すげぇ真面目に返された。

 真面目な話に飽きてちょっとふざけたらこれか。ひどい話だ。


「この『アテナ』に宿る膨大な光の魔力。こいつで海藤を魂ごと消滅させる。二度と転生できないようにな。もうこれ以上、俺たちの様な被害者を出す訳にはいかない……」


 そう言った万丈の表情からは、怒りと悲しみ、そして覚悟が混ざった複雑な感情が滲み出ていた。

 しかしそれも一瞬。万丈はそれらをグッと抑え、話を続ける。


「だが、奴が隙を見せることはそうそう無い。そこで、お前の力も必要になってくる訳だ。小間」


「この伝説の竜で、あいつのなんたらの加護やらサイコキネシスガードやらを無効化する訳だな」


「そういう事だ。頼むぞ」


「あぁ分かったよ。あ、そうだ」


 俺はふと、先ほどの桃木との会話を思い出す。


「お前ら、『魔王キル』って知ってるか?」


「魔王……かどうかは分からないが、『地獄の魔女キル』なら知っている。『地獄の魔女』『魅惑の魔女』『人形使い』……色々な異名で呼ばれていたが、蟻道冷人ぎどうれいとが率いていた魔王軍の四天王だった女だ。前世で俺たちが魔王城を攻めた時にアリサが倒してくれた」


「アリサ……あぁ、鳥皮が倒したのか」


「……えぇ。けどなんで小間竜騎がキルの事を知ってるの?」


桃木ももきから聞いた。あいつ曰く、キルは先代の魔王の死後、そのまま魔王の座を引き継いだらしい。お前たちの言う通りキルが元々蟻道の部下だったなら、キルの先代の魔王が蟻道ってことで間違いなさそうだな」


「キルの奴、あの戦いの後も生きていたのか……。いや待て。蟻道が死んだ後だと?」


 理解ができない、といった様子の万丈。


「俺もついさっき知ったんだが、死んでからこの神の間に来る時間には、どうやら個人差があるらしい」


「……なるほど。つまり桃木瞑亜ももきめあは、私たちが蟻道と戦って相討ちになった後の時代から来た人間ってことね」


「いや。それが、桃木はどうやら人間界からここに来たらしい」


「人間界……小間がいた世界の事か」


「そうだ」


「桃木は、一体何者なんだ……」


「俺も分からん。確かなのは、桃木と魔王キルの間には何らかの因縁があるってことだ。あぁそれと、お前たちにもう一つ言っておきたいことがある」


 俺はこほん、と咳払いをして話を続ける。


「さっき、天上ミコトと海藤が話しているのを見かけた。ミコトは自分から危険な奴に話しかけるような奴じゃない。もしかしたら、ミコトは前世で海藤と何か関係があったのかもしれない。最悪の場合、ミコトがその魔王キルである可能性も……」


「天上ミコトが!? バカな!」


 突如、俺が話している途中で声を荒げる万丈。


「な、なんだ。急に叫びやがって」


「いや……すまない。取り乱した」


「……天上さんが魔王キルである可能性は低いと思う」


 小声で横槍を入れてきた鳥皮。


「ほう。そりゃ一体なんでだ?」


「……彼女の異能は『黄金の不死鳥』。あれは確か光属性に分類される異能だったはず。元々魔族だった者は光属性の異能や魔術を使えないの」


「あ、そうなの?」


「魔族が光属性の異能や魔術を使うと、身体や精神に多大な負荷がかかるんだ」


「なるほどねぇ。魔族からすれば、光属性の異能や魔術はダメージを負ってまで使うもんでもないってことか」


 2回戦でミコトが『黄金の不死鳥』の使うところは何度も見てきたが、その際に疲弊している様子は一切見られなかった。


「だとすると、ミコトが海藤と話していたのは一体何だったんだ……」


「それは分からないな。元々、海藤は異世界転生者……小間がいた世界の人間なんだろう? ならば、その時の知り合いなんじゃないのか?」


「海藤の野郎は元々連続殺人犯だからな。そんな奴と知り合いとなると、どのみちヤバい奴に変わりはなさそうだ。まぁとにかく、謎が多い桃木に怪しさ爆発のミコト。警戒するのは海藤だけじゃねえってことだな」


「……分かった。気を付ける」


「小間の言う通りだな。それに、海藤を倒すまで俺たちは仲間だ。できる限りお互いにフォローしていこう。では、そろそろ休むとするか。遅くにすまなかったな、小間」


「あぁ、さいなら」


 そう言うと、万丈と鳥皮は立ち上がり、俺の部屋から出ていった。

 謎が解けるどころか、むしろ分からない事が増えた気がするが、なんとなくまとまった雰囲気で、この集まりは締められたのだった。



お読みいただきありがとうございました。

次回は、ある人物が神の間に来た時のお話です。

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