夜⑥ 勇者来訪
ついに勇者来ます。
桃木と話し終えた俺は、自室へと戻る。
部屋に入ると、紅クレアと出部栖マキナ、そして泣き止んだ砂肝汐里が落ち着いた様子で話していた。
「あっ小間。大丈夫!?」
クレアが俺に近づいて心配そうにそう言った。
「あぁ。というより、ちょっと予想外な事になった」
俺は事の顛末を説明する。
「そんな、ミコトさんが海藤と……」
2回戦、同じチームで戦ったクレアは落ち込んだ様子でそう言った。
「まだ確証は無いけどな。だが気を付けるに越したことはないってことだ」
俺は3人にそう忠告する。
というか、なんで俺はわざわざ忠告なんてしてるんだ? こいつらがどうなろうが知った事ではないだろ。
「クレア。2人を部屋に送ってやってくれ。いつまでも俺の部屋にいる訳にもいかないだろ」
俺は突き放すようにそう言った。
「う、うん。あ、待って。汐里がアンタに話したいことがあるって」
「砂肝が?」
意外だな。砂肝は俺の事を毛嫌いしているはずだが。
「汐里、さっきの話、小間に聞かせてあげて」
「あ、うん。実はぁ……」
クレアに促される形でゆっくりと話し始める砂肝。
その話は、予想の斜め上の内容だった。
「……それ本当か砂肝」
「うん。2回戦で小間の竜が私に触れた時に思い出して……」
「だとしたら、あの女はなんでそんな事を?」
「それは、分かんないけどぉ……」
「まぁ、そうだよな」
もし砂肝の話が本当だとするならば、あの女も異世界からこの神の間に来た人間ということになる。
だが砂肝が嘘をつけるようには見えないし、俺があの女に感じていた違和感へのアンサーとしても筋は通る。
「ひとまず分かった。話してくれてありがとうな」
「え? 別にいいけどぉ。あ、あのさぁ小間」
「なんだよ」
「助けてくれてありがとね」
「あ? 助ける?」
一瞬何の事かと思ったが、俺の部屋の前で串刺しにされてた事を言ってんのか?
「気にすんな。いいから部屋戻って休め」
「う、うん」
砂肝はそう言うと、クレアとデブスを連れて俺の部屋から出ていった。
「はぁ。どいつもこいつも一筋縄じゃいかねぇな」
俺はソファに腰かけ、こめかみの辺りを人差し指でぐりぐりと押す。
すると、コンコン……と自室のドアを叩く音が聞こえてきた。
「あー面倒くせぇな。いい加減休ませてほしいもんだな」
俺はソファから立ち上がり、ドアを少し乱暴に開ける。
そこにいたのは……
「すまないな、小間竜騎。少し遅れた」
「……小間。なんで裸なの」
「万丈龍之介……それと、鳥皮好実」
そこにいたのは、190センチ近い筋骨隆々のヤ〇ザ風の男、万丈龍之介と、黒紫色の髪をショートカットにしたクールビューティ、鳥皮好実だった。
「なんの用だお前ら……いや、そうか」
さっきのごたごたですっかり忘れていたが、元勇者カインに俺の部屋に来るように言っておいたんだった。
ということは、勇者カインは……
「とりあえず入ってくれ」
俺は万丈と鳥皮を部屋に入れる。
「単刀直入に聞くが、お前たちのどちらかが勇者カインか?」
俺は2人に質問を投げかける。
「あぁそうだ小間竜騎。俺こそが前世で勇者だった者、勇者カインだ」
俺の質問にそう答えたのは、万丈龍之介だった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、元勇者・万丈の過去に迫ります。
しかし、鳥皮の正体は一体何なのだろうか……?




