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昼③ 圧倒的股間

強さこそ強さ


 「それでは、バトルロイヤル1回戦……開始!」


 女神の一言で、戦いの火蓋が切って落とされた。俺、小間竜騎こまりゅうきの対戦相手はチャラ男こと一式和人いっしきかずとだ。


 ……さて、一体この股間の竜で何をどう戦えばいいのだろうか。


「うぇい! いくぜ股間のお兄さん!」


 チャラ男がそう叫ぶと、チャラ男の周囲に、ダガーのような刃物が数十本現れた。刃物は地面に落ちることなく、チャラ男の周りを浮遊している。


「それが、お前の能力ってわけか」


「そゆこと、まずはウォーミングアップっしょ!」


 チャラ男が腕を動かすと、その動きに連動して、刃物がこちらに目掛けて飛んできた。


「うおっあぶね!」


 俺は横に飛んでなんとか刃物を躱すが、左足に刃物が少しかすってしまった。痛みを感じると同時に、視界の右上に映っている緑色のライフゲージが僅かに減少していることに気が付いた。転生前の体だからか、出血などの外傷は見られないが、ちゃんとダメージとしてカウントされているようだ。このライフゲージが尽きたとき、俺はこのバトルロイヤルに敗退し、晴れて股間から竜が生えた珍妙な生き物に生まれ変わることになる。晴れて生まれ変わってもきっと腫物扱いされるんだろうな。股間が腫れてるだけに……。なんつって。


「よく躱したね股間のお兄さん。けど、次はこんなもんじゃないっしょ!」


 チャラ男が叫ぶと、先ほどの数倍はあるであろう数の刃物が出現した。


「おいおい……これは流石に躱しきれないぞ!」


「躱してもらっちゃ困るっしょ! そんなわけで、死んでくれお兄さん! アディオス!」


「し、死にたくねえええええええっ! 誰か助けてええええええ!」


 俺は叫びつつ、死を覚悟した。ここまでか……そう思った、次の瞬間だった。


 ゴウッ!!


 ……と、重量感のあるナニかが、一瞬で全ての刃物を叩き落した。


「ウェ!? どうなってるっしょこれぇ!?」


 刃物を叩き落したナニかの正体は、俺の股間から生えた伝説の竜だった。


「だ、駄竜だりゅう!? お前がやったのか!?」


「ギャオオオオオアアアアアアッ!!」


 す、すげえ。あんな大量の刃物を一瞬で……。これが駄竜の力なのか? でも、最初に引いたカードには伝説の竜の力を得る、としか書いていなかったような……。俺はポケットにしまっていたカードを取り出し、再び内容を確認する。


「あれ、なんか色々書き足されてる!?」


 最初に見た時より文章が明らかに増えていた。増えた文章の詳細は以下の通りだ。



・あらゆる異能、魔術、物理攻撃を無効化できる。ただし、竜に変異した部位のみ。使用者本人に攻撃が当たる場合はその限りではない。


・竜の射程範囲(約2メートル)に入った攻撃を自動防御できる。使用者の死角からの攻撃であってもガード可能。ただし、使用者が回避行動を取った場合は、回避行動が優先され、自動防御されない。


・ドラゴンフレイムで全てを焼き尽くす。



「おいおい……クソ強いじゃねえかよ」


 攻撃は何も効かず、なにもしなくても攻撃は自動防御される。とんでもないぶっ壊れ性能に、俺は思わず震えた。まぁ最後の説明だけすげー雑だけど……。書くの飽きただろ、絶対。


「見直したぜ駄竜。いや、竜さん。あんたマジですげぇよ!」


「あ、ありえないしょ……こんなの、反則っしょぉぉ!!」


 チャラ男は明らかに動揺していた。まぁ無理もない。俺もこんな能力持った奴が相手だったら泣きたくなる。それも、竜が股間から生えているようなふざけた外見のやつならなおさらだ。


「なら……これならどうっしょ!!」


 チャラ男が叫ぶと、数にして数百本…いや、下手したら千本ぐらいの刃物が現れた。先ほどとは違い、刃物は俺の周囲を隙間なく囲っていた。


「これが俺の最大火力だ! いくら竜が勝手に守ってくれるからって、この数は捌ききれないっしょ!」


「ははっ、愚かだなチャラ男よ」


「なんだと!?」


「断言しよう。お前の攻撃は俺には届かない」


 竜の凄まじい強さを知るや否や、調子に乗った発言をしてしまったものの、もし本当に捌ききれなかったらどうしよう……。あの数の刃物の防御に失敗して、黒ひげ危機一髪のようになった自分を想像して、少し漏れそうになった。……あれ? でも、俺のチン〇って今竜になっているわけだけど、お〇っこってどこからでるんだろう。


「なら、串刺しになるっしょ!」


 雨のような数の刃物が、俺に目掛けて飛んできた。こ、怖い。ビビッてうっかり回避行動を取りそうになるが、それだと竜のオートガード能力が発動しないらしいし……。今はこの竜を信じるしかない。逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ。


「うわあああああああああああああっ!!」


 俺は恐怖を紛らわすために、目を瞑って叫ぶことしかできなかった。金属を弾くような、キンっ……という音が、1秒未満の感覚で連続して聞こえてくる。高音のガトリングガンのような音は、俺に恐怖を与えると同時にまともな思考を奪っていく。……しばらくすると、音が全く聞こえなくなった。おそるおそる目を開けてみると、目の前には、地べたに落ちる無数のナイフと、その光景に愕然とするチャラ男の姿があった。


「う、うそっしょ……。ありえねえっしょ! あんだけあった数のナイフが360度、隙間なく飛んでくるってのに、全部弾くなんて、どんだけ速いんだよ!」


「は、ははは!! ほ、ほらな言ったろ? 俺には届かないってなぁ!」


「いやお兄さん、バリバリ目ぇ瞑ってたっしょ。完全にビビってたっしょ」


「はっ! お前の攻撃なんざ、目瞑ってても当たらねえってことだよぉ! フハハハハ!!」


「ギャオオオオオオッ!!」


 俺がドヤ顔で高らかに叫ぶと、股間の竜もそれに呼応して咆哮をあげた。若干うるさかったが、まぁよしとしよう。気分いいし。


「クソっ。まさかコイツがここまで強い能力を引き当てていたとは!」


 チャラ男が先ほどまでとはまるで別人のような顔で激昂していた。


「それがお前の本性ってわけか。チャラ男よぉ」


「クソっ! 1回戦からここまで手こずらされるとは……かくなるうえは……」


「かくなるうえは……とかねぇんだよ! くたばれクソチャラ男がぁぁ!!」


 いくら強力無比な能力を手に入れたとはいえ、相手の切り札が出るまで待つつもりはない。俺の叫びと共に、股間の竜が口に炎を蓄え始めた。


「ま、待つっしょ! 話せば分か……」


「黙れ交渉決裂だ散れ! ドラゴンフレイム!!」


 俺は早口でまくし立てると、股間の竜が凄まじい勢いで口から炎を吐き出した。


「ま、まだなにも言ってな……あぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 チャラ男に回避の余地を与えぬほどの速度で吐き出された炎は、チャラ男を一瞬で焼き尽くした。すげぇ火力だな。まるで太陽が放出するプロミネンスのようだ。まぁ、プロミネンスなんて図鑑とかでしか見たことないから、正直よく知らんけど。


「が…ご…」


 プスプス……と、チャラ男を焼き尽くしていた業火は沈下し、焦げ臭い煙を上げていた。


『そこまで! 小間竜騎 VS 一式和人 ! 勝者は小間竜騎!』


 スーパーウェルダンに焼きあがったチャラ男を眺めていると、女神の声がアナウンスのように流れてきた。それと同時に、周囲の景色が元々いた真っ白な空間に戻っていた。どうやら決着がついて、元の場所に帰ってこられたようだ。既に周りには、戦いを終えたと思われるプレイヤーたちがいた。


「皆さん。たった今、1回戦全ての対戦カードの勝敗が決定致しました」


 女神は透き通った声でそう告げた。俺とチャラ男の対戦カードがほぼ最後だったというわけか。皆、随分と決着つけるの早いな。


「勝者の皆さまはおめでとうございます。そして、敗者の皆さまにはここで退場していただきましょう。皆さまの来世に幸あれ」


 透き通ってはいるが、どこか感情の乗らない声で女神はそう告げた。


「クッソ! まさか1回戦で負けるとは思わなかったっしょ」


 真っ黒こげだったチャラ男の体は、いつの間にか元の状態に戻っていたが、足元付近から、体が青白い霧のようになって徐々に消えていくのが見えた。そうか、これが女神の言うご退場ってやつか。正直、こんなチャラ男に情などわかないと思っていたが、自分が直接手を下したことを思うと、流石に罪悪感が……


「罪悪感は……感じねぇな、全然。まぁ、来世はトイプードルにでも生まれ変われるといいな。せいぜいアホそうな女子高生にでも可愛がってもらえ」


「はっ、やっぱクズいっしょ。股間のお兄さん」


「クズか。死ぬ前たまに言われてたな。家族とか親友とかから」


「ガチのお墨付きじゃん。マジうけるっしょ」


「全然面白くねぇ。つか、意外と消えるまで時間かかるな。耳障りだから、頭部から消えてくれりゃよかったのに」


「……小間竜騎。お前、マジ許さねえからな。来世覚えとけよ」


「あいよ、犬小屋買って待ってるぜ」


 適当にそう答えると、少し奥の方から女の子が涙を流しながら走ってくるのが見えた。そう、あの子は……林檎のような赤い髪が印象的な美少女、くれないクレアちゃんだ。カードを引いて能力を決めるとき、俺の前に並んでいた子だ。もしかして、俺の勝利を喜んでくれているのだろうか。だとしたら、なんていい子なんだろうか。俺は両手を広げ、走ってくるクレアちゃんを迎い入れる準備をした。


「さぁ、おいでクレアちゃん!」


「やだぁあああ!! 行かないで和人ぉ!」


 ……え?


「クレア。ごめんなぁ、俺、負けちまったっしょ」


「死んじゃいや! 私にとっては和人が全てなのぉ!」


「俺にとっても、クレアが全てだぜ。ガチのマジで。1周回ってもマジで」


「和人ぉ!」


「クレア!」


 唖然として見ていると、クレアちゃんとチャラ男は、愛を確かめ合うようにキスをし始めた。なんだこの茶番は……。要するにあれか。こいつら、付き合ってたってわけか。純真な美少女だと思ってたクレアちゃんは、普通に彼氏持ちだったってわけか。……うわ、なんかすげー萎えたな。


「クレア。最期に、言いたいことがあるっしょ」


「う、うん! なに?」


「あのさ、俺……」


「いつまで喋ってんだよ。はよ消し飛べや」


 俺はイライラして、つい、消えかけのチャラ男に蹴りを入れてしまった。腰の部分まで消えかかっていたチャラ男の体は、子供が作った砂のお城のようにあっけなく崩れ去った。


「いやあああああ!! 和人おおおおおおおおお!!」


「……クレアちゃん」


 俺は、悲しみの渦中にあるクレアちゃんの肩に、そっと手を置いた。そして、励ましの言葉を贈った。


「彼は……勇敢な戦士だったよ」


「アンタがやったんだろうが! このゴミクズがぁ!」


 クレアちゃんは可愛い顔に似合わぬ言葉遣いで、怒りの感情を俺に向けてきた。どうやら勇敢な戦士というフレーズがあまりお気に召さなかったようだ。ここは、正直に言い訳するとしよう。(?)


「違うんだよクレアちゃん。足が滑ったんだ。ほら、ここってさ、どこ見渡しても真っ白じゃん? 俺、これ雪だと思うんだよね。やっぱ雪降った日って足元滑るじゃん。きっとそういう……」


「うるせぇ死ね!」


「ほぐぁ!!」


 言い訳をしていると、鳩尾にドスン……と重みのある衝撃が走った。


「かっ……こ……な、んだこれ。息が……できねぇ」


 俺は一体何を食らったんだ? 朦朧とする意識の中、俺はクレアちゃんの右の拳から、僅かに蒸気があがっていることに気が付いた。もしかして、今のパンチか? こんな弾丸みたいな速度と威力のパンチを、こんな女の子が? こいつ何者……いや、なんの能力を使った? 俺に向かってくる攻撃は、股間の竜がオートガードしてくれるはず。まさか、竜が認識できないほどの速度だったってことか? かなりの当たり能力を引いた俺だが、このバトルロイヤル、思ったより簡単にはいかないかもしれないな。


「決めたわ、小間竜騎。私はこのバトルロイヤルで、必ずあんたをぶちのめす! 和人の敵は私が討つ!」


 失いかけた意識の中、少女の強気な叫びが、俺の頭に響き渡ったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

次回、他にもキャラが何人か出てきます。

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