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昼㉓ 逆上

2回戦敗退が決まった小間竜騎。

果たして、このまま脱落となってしまうのか…?


「最後に、第5位はチーム6。平均点は1001点。生存者は小間竜騎こまりゅうきさん、くれないクレアさん、天上てんじょうミコトさんの3名です」


 バトルロイヤル2回戦の結果発表。

 

 俺、小間竜騎と紅クレア、天上ミコトの3人によるチーム6は5位という結果に終わった。

 3回戦に出場するのは上位4チームの為、これで俺たちの敗退は確定した。


「……噓でしょ?」


 まだ事実を受け入れられないクレアが、絶望した表情でそう言った。


「……」


 ミコトはある程度覚悟していたのか、さして驚いた様子は無いものの、その目には涙を浮かべていた。


「いやー危なかったでやんす! なんとか滑り込んだでやんす!」


 そんな俺たちに構うことなく、4位でギリギリ生き残ることができた松笠剛平は喜んだ。


「すまないでやんすね……小間っち」


 俺の肩にそっと手を置く松笠。


「でも死んでもおれたち、友達でやんすから。安心して逝くでやんす」


 とてもこれから消える人間に向けた言葉とは思えない。

 やはりこいつは友達でもなんでもないな。


「……2人共、本当にごめん」

 

 すると突然、クレアが頭を下げ始めた。


「私が……私のせいで」


「……もういいんですよ。クレアちゃん」


 ミコトはそんなクレアを抱き寄せる。どうやら消える覚悟ができたらしい。

 だが、俺はというと、そんな覚悟は微塵もできていなかった。


「まだだ……」


 俺はお通夜ムードの2人にそう告げた。


「……まだって。何が?」


「まだ、ここにいるチームの平均点が発表されただけだ。勝ち進むチームが決まった訳じゃない」


 訳が分からないというよりは、俺の言う事なんてもうどうでもいい、といった表情のクレアとミコト。


「……竜騎君。平均点が発表されたということは、私たちはもう……」


「そう自暴自棄になるなよ。まぁ黙って見てろ」


 クレアやミコトだけではない。他のプレイヤーたちも、こいつ何言ってるんだ? みたいな顔で俺を見ていた。ただ一人、海藤咲夜を除いて。

 殺気剥き出しの目で俺を睨みつける海藤。こいつはなんとなく俺が何をしたか見当がついているのだろう。

 そんな俺たちを眺めていた女神が、再度口を開く。


「では続きまして、脱落チームを発表いたします」


 やはりまだ終わっていなかったか。あの女神も性格の悪いことをする。

 俺と海藤を除いた、周囲のプレイヤーたちがざわつき始める。

 そんな中、先陣切って女神に話しかけたのは、チーム4の桃木だった。


「どういうこと~? もう上位4チームが決まったんだから、今さら脱落者とかどうでもよくな~い?」


「黙って聞いて下さい」


 ぴしゃり、と桃木を黙らせる女神。

 女神はそのまま続ける。


「脱落チームは、チーム5、チーム9、チーム7、チーム3」


 学校の教師が毎朝点呼を取るように、機械的に脱落チームを読み上げる女神。


「以上の4チームは、プレイヤー、及びモンスターとの戦闘行為にて脱落となりました」


 戦闘行為か。チーム5と9は知らないが、チーム7は俺たちと一時、共同戦線を組んだ渡辺亮わたなべりょうたちのチームだ。ここはモンスターの黒騎士によって全滅させられた。

 そしてチーム3。海藤を勇者と勘違いしたチンピラ魔族のイリスとエリス、臆病眼鏡の西園寺のチームだ。モンスターに倒されたのか、プレイヤーに倒されたのかは分からないが、後者なのだとすれば、恐らく海藤に返り討ちにされたのだろう……となんとなく予想する。

 ここまではいい。問題はここからだ。

 そして女神は、さらに脱落チームの名前を読み上げた。


「続きましてチーム2。こちらは反則行為によって脱落となります」


 その瞬間、水を打ったように空気が静まり返った。

 チーム2の脱落。すなわちそれは、ここにいる松笠剛平の脱落を意味する。


「……は? め、女神様。今、チーム2って言ったでやんすか?」


「はい」


「な、は、はあぁ!? なんで! なんでおれが脱落でやんすか! 意味不明でやんす! 大体、反則行為ってなんのことでやんすか!? おれはルールに則って! 普通に戦ったでやんす!」


 動揺を隠しきれない松笠。当然だ。2回戦を4位で通過できると思ったら、まさかの脱落。

 天国から地獄とはまさにこのこと。しかもそうなった理由が分からないとあっては、騒ぎ立てるのも無理はない。


「皆さまには説明していない、唯一の禁止事項がございます」


 綺麗だが機械的な声で、女神が続ける。


「それは、同チームプレイヤーの殺害。つまりは仲間殺しです」


 周囲が再度ざわつき始める。

 その疑問は最もだ。禁止事項を説明しないゲームなんて聞いたことがない。

 けどまぁ、丸っきり説明してなかったわけでもないがな。


「そんなの聞いてないでやんす! なしなし! おれは4位で通過でやんす! 死ぬのは小間っちのチームでやんす!」


 クソガキの様に喚き散らかす松笠。


「2回戦開始直前に言ったではありませんか。『最後までチームでちゃんと協力して戦うことをお勧めします』と」


「いや! そんなの説明したことにならないでやんす!」


「え~っと、つまりまつかさは、点数欲しさに同じチームのプレイヤーを殺したってこと?」


「うっわ。流石のボクでもそれはせいへんわ。人としてどうなん?」


「ぐっ……」


 チーム4の桃木と空木からの思わぬ援護射撃(?)にたじろぐ松笠。


「(なんで、なんでこんなことになったでやんすか!? 仲間を殺すことが反則になるだなんて、そんな明言されていないルール、誰が気が付け……)」


 何かを考えていた松笠。すると突如、俺の胸倉をつかみ始めた。


「騙したでやんすね! 小間ぁ!」


「何が」


「お前! 最初からこうなることが分かっていて! 俺を騙したでやんすね!」


「そんなこと言ったけか」


 わざとらしくすっとぼける俺。

 まぁ冗談は置いといて、勿論、これは俺が全て仕組んだことだ。



--------------------



 遡ること、4時間前。

 巨大ガニを倒した直後、松笠と2人で会話していた時のこと。


「松笠。少しいいか」


「どうしたでやんすか?」


「お前に話したいことがある」


「話……でやんすか」


「あぁ、それは……この2回戦の勝率を上げる方法だ」


「勝率を上げる? どうやってでやんすか?」


「同じチームのプレイヤーを2回戦が終了する直前に殺すことだ」


「は? な、なんでそんなこと……っ! 平均点を上げるため、でやんすか」


「そう。この2回戦は、チームの総合得点を最終的に残ったチーム内の人数で平均化する。つまり、2回戦が終わる時に人数が少ないほど、平均点が高くなるってことだ。あんまり早く殺し過ぎると、強力なモンスターが出てきたときに全滅しちまうかもしれないからな。だからあくまで2回戦が終了する直前に、だ」


「た、確かに勝つ確率は上がるでやんすが……。鬼でやんすね、小間っち」



--------------------



 あの時。俺は既に、仲間殺しという禁止事項の存在に気が付いていた。

 

 何故、この2回戦の勝敗を決める要素が、合計点ではなく平均点なのか。

 それは、目先の点数に目がくらんだ自己中心的な愚者を炙り出すため。だから、敢えて平均点を勝敗の基準とすることで、愚者に仲間を殺すことを想起させる。そして行動に移した愚者は即脱落、ということだ。

 こんな禁止事項を設けたのは悪人を二度と異世界転生させないため、というのもあるだろうが、女神は恐らくこの禁止事項で海藤咲夜……蟻道冷人を脱落させるつもりだったのだろう。仲間のことなど考えるはずもない海藤をこの禁止事項という名の罠に嵌め、合法的に排除するために。

 とまぁ、以上の要素と2回戦開始前の女神の言動などから、俺は禁止事項の存在に気が付いたって訳だ。

 

「小間! お前が言ったでやんす! チームの人数が減れば点数が上がるって! だから! だから!」


「俺は思いついたことを話しただけだ。強制した覚えはない」


 そう、強制した覚えはない。

 俺はほんの少し囁いただけだ。仲間を殺すという選択をしたのは、他でもない松笠自身だ。

 だが、俺は松笠なら必ず仲間殺しを実行してくれると信じていた。

 巨大ガニと戦っていたあの時、俺たちチーム6の協力を仰げないと感じた松笠は、すぐさま女湯の話をして、俺を味方につけようとした。自分が助かるためなら平気で他人の弱点を利用する、そんな人間が、悪魔の囁きを無視できるはずがない。必ず目先の欲に飛びつくはずだと、信じていた。

 だから松笠にはちゃんとお礼を言わないとな。お前の愚行のおかげで、俺の首の皮一枚繋がったよ。


「ありがとな松笠。俺の事を信じてくれて。お前が友達思いでよかったよ」


「……ぐっ……ああああああああああぁぁぁぁ!!」


 仲間を殺した人間に対する、最高の皮肉。

 噴火しそうなくらい顔を真っ赤し、言葉にならない怒りを叫びだす松笠。


「クク……アハハハハァ!! 小間ァ、やっぱりオマエは最悪の部類の人間だなァ。危うくオレも嵌められるところだったぜェ」


 海藤が愉快そうに嗤いながらそう言った。

 そう、俺がチーム1の前で海藤の正体が蟻道冷人であることを暴いたのも、海藤の手で仲間を殺させ、脱落させる為だった。

 海藤が元魔王で快楽殺人鬼であることを知ったデブスと砂肝は、当然不信感を抱く。そんなデブスと砂肝を丸め込んで海藤を5人で倒す、という方向に持っていき、海藤の手で仲間を殺させるつもりだった。

 まぁ5人で海藤を倒せるならそれはそれでよかったし、デブスか砂肝のどちらかが海藤に殺された後はすぐに逃げるつもりだった。なんせ俺の竜には異能と魔術を無効にする能力がある。最悪他の奴が海藤に殺されても、俺だけは助かるからな。

 だが、海藤もこの禁止事項に気が付いていた様で、俺の考えていることがすぐにバレてしまったため、結果的に、あんな結界に50分も閉じ込められる羽目になっちまったがな。


「よろしいでしょうか。では現在4位のチーム2が脱落となった為、代わってチーム6が繰り上げで4位となります」


「み、ミコトさん!」


「えぇ。素直に喜んでいいのか分かりませんが、取り敢えず生き残ったみたいですね」


 安堵の表情を浮かべるクレアとミコト。

 隣で代わりに死ぬ松笠のことなどお構いなしだ。


「くそおおおおおおおおおおおっ!!!」


 怒りを声に出し続ける松笠。


「ムカつくでやんす! ムカつくでやんす!」


 這いつくばり、地面を両腕で叩き続ける。

 可哀想に。松笠。


「こ、こうなったらぁ!」


 すると突如体勢を変え、女神に向かって走り出した松笠。

 何をする気だ?


「最期に筆下ろししてくれでやんすーーーーーーー!! 女神様ぁぁぁぁっ!!!」


 走りながら服を脱ぎ、あろうことか全裸になって女神を襲おうとする松笠。


「……きも」


 それを見た女神は、今まで聞いたことのないほど冷徹な声でそう言った。

 そして、人差し指を松笠に向け、軽くぴんっと弾く。

 

「え?」


 キュボッ!

 ……という、1秒にも満たない爆発音のようなものと共に、松笠は一瞬で消し炭になった。

 灰となった松笠の最期を見届ける俺。というか松笠、筆下ろししてくれってことは、やっぱりあいつ童貞だったんだな。可哀想に。南無阿弥陀仏。

 いやぁ、それにしても……


「あいつ全裸になって女神に襲い掛かるなんて、変態かよ」


 下半身まっぱでフルチンドラゴン丸出しの俺が言うと完全にブーメランだな、というジョークをかましたのだが、特に誰もツッコんではくれなかった。


「では以上を持ちまして、2回戦を終了致します! 皆さま、お疲れさまでした!」


 この後に、よぉ~! パン! とでも続きそうな勢いで、女神が強引に締めた。

 こうして、バトルロイヤル2回戦は幕を下ろしたのだった。



お読みいただきありがとうございました。

次回、2日目の夜のフェーズへ突入します。

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