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昼② お前だけは許さない

スタンバイ!


 伝説の竜。


 鋼の如し硬度を誇る、白き鱗。

 全てを噛み砕く、鋭い無数の牙。

 睨むだけであらゆる生物の動きを封じるほどの威圧感を持つ、青き眼。

 まるで全生物の頂点に君臨していることを示しているかのような、神々しき2本の黄金の角。


 その姿は、まさしく伝説の竜に相応しいものだった。


 ……現れたのが、俺の股間からじゃなければ。


「ギャオオオオオオオッ!!」


「ギャオオじゃねえよ! マジお前一回帰れ!」


 伝説の竜は、俺のチ〇コと完全に同化しており、おまけに俺のズボンを突き破っている。いや本当にどうかしているよ、この状況。


「そもそも、なんでこんなことになった?」


 確か俺が引いたカードには、カードを持ちながら最初に口にした体の部位が伝説の竜に変化する、みたいなことが書いてあったはずだ。そんなバカな。カードを引いてから体の部位なんて口にした記憶は……。ない、と言い切ろうとした瞬間、俺はチャラ男の膝が俺の股間にぶつかった時のことを思い出す。そうだ、俺は確かあの時こう叫んでしまったではないか。「()()()いてえええっ!!」……と。


「……」


「ブハハ! おにいさん、股間から竜生えてんぞ! どうなってんだそれ!? マジウケるっしょ!」


「……」


「どしたんだよおにいさん! だんまりしちゃって! その竜、かなりばえるっしょ!」


「うるせえ!」


「ほぐあぁっ!」


 俺は隣で騒ぐチャラ男を殴り飛ばした。しかし……クソが。股間の竜が邪魔すぎてうまく殴れなかった。


「なにすんだよおにいさん!?」


「黙れ、お前だけは許さない」


「どしたのよおにいさん! アングリーしちゃって! ほら、スマイルスマ……ほぐあぁっ!」


 俺は再度、チャラ男を殴り飛ばした。


「こえーよおにいさん。なんだってのよ~」


 このチャラ男……マジで許さん。


「全員カードを引き終わったようですね」


 俺とチャラ男がごちゃごちゃやっていると、女神が淡々とそう告げた。


「それでは、バトルロイヤルの説明に……」


「ちょっと待てや」


 俺は勝手に説明を始めようとする女神を止めた。


「どうしました。小間さん」


 女神の表情は少し冷ややかなものだった。進行を遮られてご立腹なのだろうか。まぁ知ったことではないが。


「俺は降りるぜ、この戦い」


「え、どうしてですか?」


 女神はすごく意外そうな顔をしてそう言った。


「どうしてじゃねえよ。見ろよこの惨劇! チ〇コが竜になってんだぞ! こんな状態で戦えるか!」


「ギャオオオオッ!!」


「なんでお前まで叫ぶんだよこの駄竜だりゅうが! お前のせいでこうなってんだぞ! 大人しくしてろ!」


 俺と竜のやり取りがおかしかったのか、周りから微かに笑い声が聞こえてきた。中には「きもちわるーい」みたいな声もあった。クソ、来世で会ったら覚えとけよ。


「ですが、小間さん。本当によろしいのですか?」


「くどいな。仮にバトルロイヤルを制したとしても、こんな姿じゃ異世界に行けてもうれしくねぇよ」


 こんな状態で生まれ変わるくらいなら、大富豪が飼っている血統書付きの猫にでも生まれ変わった方がマシだ。


「分かりました。他にもリタイアしたい方がいらっしゃいましたら、挙手をお願いします」


 意外にも、俺以外にリタイアを申し出た者はいなかった。皆、それだけ強力な能力を引けたのだろうか。そいつは羨ましいこったな。なんて不貞腐れていた次の瞬間、女神が恐ろしい一言を繰り出す。


「ちなみにここでリタイアした方、及びバトルロイヤルに敗北した方は、先ほど引いたカードの能力を引き継いだまま別の生物に転生しますので、ご注意を」


「え?」


「どうしましたか小間さん」


「ちょ、ちょっと待て。ってことは、俺がもしここでリタイアしたら、股間が竜のまま別な生き物になっちまうってことか?」


「そういうことになりますね」


「拒否権は?」


「すみません。魂の管理規則上、そういう扱いになってしまうので、拒否権はありません」


「……」


「よろしいですか? それでは、小間さんはリタイ……」


「待てよ。いや、待ってください」


「今度は何ですか」


 女神が少しイライラした様子でそう言った。いや、何回もすみませんね。本当に。


「女神様、俺が間違ってました! わたくし小間竜騎。スポーツマンシップに則り、正々堂々、このバトルロイヤルを戦い抜くことを誓います!」


 冗談じゃない。もしこのままリタイアして、犬にでも生まれ変わってみろ。竜が股間から生えた犬なんて、珍妙なキマイラクリーチャー以外の何物でもない。まぁ仮にバトルロイヤルで勝ったとしても、結局股間から竜は生えたままなわけだが、キマイラに生まれ変わるよりはマシだ。


「やる気になってくれましたか。それでは、現時点でのリタイア者はなしということで、バトルロイヤルを開始させていただきます!」


「イエエエエアアアッ!! フウゥゥゥッ!!」


 俺は半ばヤケクソ状態で盛り上がった。やるしかねえ。やるしかねえんだと。そう自分に言い聞かせて。よっしゃあ! バイブスあがるぜ! ポンポンポーン!(錯乱中)


「あ、ちなみに。このバトルロイヤルで優勝した方は、現在の能力を引き継ぐか、新たな能力を選びなおして異世界転生することができます」


「え?」


「そしてもう一つ。優勝者は異世界転生にあたって、ある程度条件を付けることができます。例えば、伝説の武器を持っていきたいとか、こんな仲間を連れていきたいなど。異世界転生に役に立つものであれば、叶えられる範囲で叶えましょう」


「それ、早く言ってよ~」


 それを最初に聞いていれば、リタイアのくだり丸々端折れたろうに。であれば、俺がやるべきことはひとつしかない。このバトルロイヤルで優勝する。そして、新しい能力を手に入れ、この股間の竜とおさらばしてやるぜ!


「まず1回戦の対決内容は、1対1の異能力バトルです」


「なるほど、1対1の対決か。……なんか思ったより普通だな」


「対戦相手はこちらになります」


 女神が指を鳴らすと、俺たちの上方にプロジェクター映像のようなものが映し出された。映像には、「〇〇 VS ××」といった形式で、皆の対戦相手が表示されていた。名前の隣には顔写真がそれぞれ映っている。それを見て、皆が対戦相手を確認し始めた。


「えーっと、俺の対戦相手は……一式和人いっしきかずとねぇ」


 一体どんなツラしてやがるのか、俺は名前の隣の顔写真を確認して、愕然とした。


「お、みっけた! おにいさんが対戦相手か! よろしゅう!」


「いやテメーかよ!」


 俺の一回戦の対戦相手は、俺の股間から竜が生える原因を作った張本人、あのチャラ男だった。


「では対戦の組み合わせごとに、それぞれ固有空間こゆうくうかんに転送いたします」


 固有空間こゆうくうかんってなんやねん。……と思った直後、一瞬で周りの景色が一変した。先ほどまで空間を覆いつくしていた雪のような白は、海よりも深い青に変わっていた。これが固有空間こゆうくうかんか。綺麗な景色ざんすなぁ。


「ここには俺たちしかいないのか……。それで固有空間こゆうくうかんってわけか」


 俺が周りを見渡していると、先程と同じように、上方に女神の映像が映し出された。


「さて、一回戦のルールを説明します。皆さまの視界の右上に、緑色のゲージが表示されているかと思います」


「うおっ本当だ。きもちわるっ」


「それは皆さまのライフになります」


 女神が説明した通り、俺の視界には緑色のゲージが表示されていた。なんだか目にゴミが付いたみたいで不快だな。


「ルールは至ってシンプル。時間は無制限、相手のライフを削り切ったプレイヤーの勝利です。準備はよろしいですか?」


 女神が体裁だけの確認を取ってきた。どうせ準備できてなくても始めるんだろ。


「やっべぇ! 緊張してきたわー! な? おにいさん!」


「うるせぇ。お前のせいで俺の股間がこんなことになったんだ。覚悟はできてんだろうな」


「うぇー厳しいね! けど、俺もお兄さんに2発殴られてっかんな。だからわりーけど……ここで仕返しさせてもらうわ」


「上等だ。やれるもんならやってみろや」


「それでは、バトルロイヤル1回戦……開始!」


 映像に映った女神の一言で、バトルロイヤルの火蓋は切って落とされたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

次回、ついに一回戦開始です。

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