表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/103

昼⑰ 暗殺


 チーム3のイリスとエリスを撃破した海藤咲夜かいどうさくやは、どこかへ逃げていったチーム3の西園寺孝明さいおんじたかあきを探しに、森へと向かっていた。


「さァて……。眼鏡を探すのはいいが、殺すのは中々骨が折れるな」


 『羊を以て牛に易う(エスケープゴート)』という、逃走に特化した異能を持つ西園寺は、直接的な戦闘力は持たないが、生存という面においては最強クラスの存在だった。

 かといって、チーム3唯一の生き残りである西園寺を生かしておくと、2回戦を突破されてしまう可能性が高くなる。2回戦終了時に、チーム毎に総合点を生存者数で割った平均点を算出し、その平均点が高いチームの勝利……というルールのため、現状、生存者が西園寺一人のチーム3は、総合得点を丸々ゲットできる状態にある。


「仮に見つけても、奴に恐怖心を抱かせたらまた逃げられちまうからなァ。こういうのはあまり好みじゃねえが、暗殺するしかねェな」


 海藤は魔眼まがんと呼ばれる特殊な眼を使い、西園寺の気配を探る。

 その感知範囲は半径数キロメートルにまで及ぶ。


「ククッ……見ィつけたっと。まァまァ離れてるな」


 海藤はサイコキネシスで自分の体を浮遊させ、砲弾のように飛ばす。

 時速300キロ近い速度で飛行する海藤。僅か2~3分で西園寺がいる付近へ到着した。


「(いたいた。できれば眼鏡が恐怖に慄く顔が見たかったが、仕方ねェか。サクッと殺すとするかね)」


 木々に隠れながら、西園寺を狙う海藤。


 臆病な子羊の背後に、死神の足音が忍び寄る。



--------------------



 西園寺孝明はずっと悪に怯えながら生きてきた。

 

 西園寺自身は、アニメや漫画、ゲームが好きなごく普通の少年だった。西園寺自身も、そんな普通な自分の人生を悪くないと思っていた。しかし、西園寺が住んでいた場所は、西園寺が望む普通とは真逆で、とにかく治安が悪いことで有名だった。人一倍臆病な西園寺は、登校するだけで近隣の不良に絡まれないか、毎日不安で仕方がなかった。

 僕は普通に生きたいだけなのに、なんでこんな奴らに怯えて生きなきゃいけないんだ。

 西園寺は、たむろしている不良を見るたびにそう思っていた。

 だがある日、たまたま目が合った不良グループに、西園寺はカツアゲされそうになってしまう。西園寺は恐怖のあまり不良たちから走って逃げだす。だが、必死に走っていたせいで周りを一切見ていなかったため、誤って車道に飛び出してしまい、交通事故で命を落としてしまう。


 そして、西園寺はこの神の間へとやって来た。

 最初はとても信じられなかった。人間離れした美貌を持つ女神に、他の異世界転生者候補、そして候補同士でのバトルロイヤル。ありえないことの連続だ。

 だが、バトルロイヤル1回戦、『羊を以て牛に易う(エスケープゴート)』で回避した攻撃がたまたま相手に当たったことで、西園寺は1回戦を突破した。

 ここまでは良かったのだが、バトルロイヤル2回戦のモンスターハントにて、イリスとエリスと同じチームになってしまう。西園寺が最も苦手な人種の2人だった。

 だが、数多のモンスターや敵チームを一方的に倒していく2人の姿を見て、西園寺は考えを改めた。

 自分が死ぬ原因を作った「悪」の人種。なら今度は、自分が異世界に行くためにこいつらを利用してやろう……と。しかし、その目論見はイリスとエリスがちっぽけに思えるほどの「絶対悪」の存在によって外れることとなる。

 

「な、なんでだよ……。なんで僕がこんな目に!」


 『羊を以て牛に易う(エスケープゴート)』で戦線離脱した西園寺は、必死に森を走っていた。

 あのイリスとエリスをいとも簡単に倒してしまった海藤咲夜。西園寺が真正面から戦っても、万に一つも勝ち目の無い相手だった。そんなバケモノが次に狙っているのは、確実に西園寺だろう。


「なんでこんな時に昔のことを思い出すんだよ! くそぉっ!」


 絶体絶命な状況での過去の想起、それはまさに走馬灯と呼ばれるものだった。

 だが、西園寺の足はいつまでも駆けてくれはしなかった。


「ハァ……ハァ……ここまで来れば……しばらくは大丈夫だろう……少し休憩しよう……」


 先ほど戦闘が行われた場所からはかなり遠くへ来れた。海藤咲夜といえど、ここまで来るにはかなり時間がかかるだろう……と、高を括る西園寺。

 だが、西園寺は知らない。海藤咲夜には桁外れの機動力があることを。

 相手の位置を一瞬で特定できる「眼」を持っていることを。

 そして、海藤は既に西園寺の近くまで来ていることを。


 疲れを無視して動かし続けた足を休ませる西園寺。

 雲一つ無い晴天を眺め、どうやって海藤から逃げ切るかを考えていた、次の瞬間。


 西園寺の意識が、突如として途絶えた。



--------------------



「あァ?」


 森に隠れ、西園寺の命を狙っていた海藤だったが、ここで予想外の出来事が起きた。

 森で休んでいた西園寺が、何者かによって殺害されたのだ。西園寺の体が、青白い砂になって消えていった。

 海藤は、目前にいる人影に話しかける。


「クハハッ。人の獲物を横取りするとはいい度胸だな。死ぬ覚悟はできてんだろうなァ」


「……」


 人影からは何の反応も無い。そんな人影に対し殺気を剥き出しにする海藤だったが、直後、何かを目撃して表情を変えた。


「……ほォ。オマエは確か……。まさか、そんな異能を持っていたとはなァ。こりゃ面白くなってきたなァ」


 海藤は嗜虐的な笑みを浮かべながら、人影に向かってそう言ったのだった。



バトルロイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』


残り1時間

脱落チーム:チーム3(イリス、エリス、西園寺孝明さいおんじたかあき

      チーム5(土井恭平どいきょうへい山下やましたトミカ、唐沢和也からさわかずや

      チーム7(斎藤連(さいとうれん)渡辺亮(わたなべりょう)塩浜聖(しおはまこうき

      チーム9(白崎祥吾しらさきしょうご、レックス、終始おわりはじめ



お読みいただきありがとうございました。

次回、新たなチームが登場します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ