昼⑰ 暗殺
謎
チーム3のイリスとエリスを撃破した海藤咲夜は、どこかへ逃げていったチーム3の西園寺孝明を探しに、森へと向かっていた。
「さァて……。眼鏡を探すのはいいが、殺すのは中々骨が折れるな」
『羊を以て牛に易う』という、逃走に特化した異能を持つ西園寺は、直接的な戦闘力は持たないが、生存という面においては最強クラスの存在だった。
かといって、チーム3唯一の生き残りである西園寺を生かしておくと、2回戦を突破されてしまう可能性が高くなる。2回戦終了時に、チーム毎に総合点を生存者数で割った平均点を算出し、その平均点が高いチームの勝利……というルールのため、現状、生存者が西園寺一人のチーム3は、総合得点を丸々ゲットできる状態にある。
「仮に見つけても、奴に恐怖心を抱かせたらまた逃げられちまうからなァ。こういうのはあまり好みじゃねえが、暗殺するしかねェな」
海藤は魔眼と呼ばれる特殊な眼を使い、西園寺の気配を探る。
その感知範囲は半径数キロメートルにまで及ぶ。
「ククッ……見ィつけたっと。まァまァ離れてるな」
海藤はサイコキネシスで自分の体を浮遊させ、砲弾のように飛ばす。
時速300キロ近い速度で飛行する海藤。僅か2~3分で西園寺がいる付近へ到着した。
「(いたいた。できれば眼鏡が恐怖に慄く顔が見たかったが、仕方ねェか。サクッと殺すとするかね)」
木々に隠れながら、西園寺を狙う海藤。
臆病な子羊の背後に、死神の足音が忍び寄る。
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西園寺孝明はずっと悪に怯えながら生きてきた。
西園寺自身は、アニメや漫画、ゲームが好きなごく普通の少年だった。西園寺自身も、そんな普通な自分の人生を悪くないと思っていた。しかし、西園寺が住んでいた場所は、西園寺が望む普通とは真逆で、とにかく治安が悪いことで有名だった。人一倍臆病な西園寺は、登校するだけで近隣の不良に絡まれないか、毎日不安で仕方がなかった。
僕は普通に生きたいだけなのに、なんでこんな奴らに怯えて生きなきゃいけないんだ。
西園寺は、たむろしている不良を見るたびにそう思っていた。
だがある日、たまたま目が合った不良グループに、西園寺はカツアゲされそうになってしまう。西園寺は恐怖のあまり不良たちから走って逃げだす。だが、必死に走っていたせいで周りを一切見ていなかったため、誤って車道に飛び出してしまい、交通事故で命を落としてしまう。
そして、西園寺はこの神の間へとやって来た。
最初はとても信じられなかった。人間離れした美貌を持つ女神に、他の異世界転生者候補、そして候補同士でのバトルロイヤル。ありえないことの連続だ。
だが、バトルロイヤル1回戦、『羊を以て牛に易う』で回避した攻撃がたまたま相手に当たったことで、西園寺は1回戦を突破した。
ここまでは良かったのだが、バトルロイヤル2回戦のモンスターハントにて、イリスとエリスと同じチームになってしまう。西園寺が最も苦手な人種の2人だった。
だが、数多のモンスターや敵チームを一方的に倒していく2人の姿を見て、西園寺は考えを改めた。
自分が死ぬ原因を作った「悪」の人種。なら今度は、自分が異世界に行くためにこいつらを利用してやろう……と。しかし、その目論見はイリスとエリスがちっぽけに思えるほどの「絶対悪」の存在によって外れることとなる。
「な、なんでだよ……。なんで僕がこんな目に!」
『羊を以て牛に易う』で戦線離脱した西園寺は、必死に森を走っていた。
あのイリスとエリスをいとも簡単に倒してしまった海藤咲夜。西園寺が真正面から戦っても、万に一つも勝ち目の無い相手だった。そんなバケモノが次に狙っているのは、確実に西園寺だろう。
「なんでこんな時に昔のことを思い出すんだよ! くそぉっ!」
絶体絶命な状況での過去の想起、それはまさに走馬灯と呼ばれるものだった。
だが、西園寺の足はいつまでも駆けてくれはしなかった。
「ハァ……ハァ……ここまで来れば……しばらくは大丈夫だろう……少し休憩しよう……」
先ほど戦闘が行われた場所からはかなり遠くへ来れた。海藤咲夜といえど、ここまで来るにはかなり時間がかかるだろう……と、高を括る西園寺。
だが、西園寺は知らない。海藤咲夜には桁外れの機動力があることを。
相手の位置を一瞬で特定できる「眼」を持っていることを。
そして、海藤は既に西園寺の近くまで来ていることを。
疲れを無視して動かし続けた足を休ませる西園寺。
雲一つ無い晴天を眺め、どうやって海藤から逃げ切るかを考えていた、次の瞬間。
西園寺の意識が、突如として途絶えた。
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「あァ?」
森に隠れ、西園寺の命を狙っていた海藤だったが、ここで予想外の出来事が起きた。
森で休んでいた西園寺が、何者かによって殺害されたのだ。西園寺の体が、青白い砂になって消えていった。
海藤は、目前にいる人影に話しかける。
「クハハッ。人の獲物を横取りするとはいい度胸だな。死ぬ覚悟はできてんだろうなァ」
「……」
人影からは何の反応も無い。そんな人影に対し殺気を剥き出しにする海藤だったが、直後、何かを目撃して表情を変えた。
「……ほォ。オマエは確か……。まさか、そんな異能を持っていたとはなァ。こりゃ面白くなってきたなァ」
海藤は嗜虐的な笑みを浮かべながら、人影に向かってそう言ったのだった。
バトルロイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』
残り1時間
脱落チーム:チーム3(イリス、エリス、西園寺孝明)
チーム5(土井恭平、山下トミカ、唐沢和也)
チーム7(斎藤連、渡辺亮、塩浜聖)
チーム9(白崎祥吾、レックス、終始)
お読みいただきありがとうございました。
次回、新たなチームが登場します。




