昼⑭ 黒結界
閉じ込められます。
「そう、オレが蟻道冷人……元魔王だ」
突き刺すような殺気を纏った海藤咲夜。先ほどまでとは、まるで別人だった。
爽やかさが印象的だった声は、獣の唸りのような低めの声へと変化し、済んだ瞳は赤く染まり、綺麗に下ろされていた金髪はやや逆立っていた。
「……それがお前の本当の姿か。海藤。いや、蟻道冷人」
「まぁ、正確に言えば蟻道冷人の記憶と力を持つ海藤咲夜だがな。蟻道冷人はとっくに死んで生まれ変わった。だからこれまで通り海藤で構わないぜェ? 小間ァ」
「か、海藤君……本当に海藤君なのぉ?」
海藤と同じチーム1の砂肝汐里が、恐る恐る海藤に聞いた。
だが、海藤は質問に答えることなく無言で砂肝を睨みつける。それだけで、砂肝は立てなくなるほど震えあがり、地べたに尻もちをついてしまう。
「よくここまで大人しくしてたもんだな。さっきまでの優男とは完全に別人だ」
「クハッ。オレはこう見えても、優男のフリをするのは得意でねェ」
「はぁん。それは殺しのターゲットを油断させるためか? 確かに、優男なら相手も油断しちまうかもな」
「まぁオレにも色々あるんでねェ」
割と普通の会話をする俺と海藤。
だが、想像以上だ。こいつはヤバい。
向こうはなんとも思っちゃいないだろうが、こっちは刃物を常に向けられながら会話している気分だ。話しているだけで、神経がすり減っていくのを感じる。
「しかし、小間ァ。オレの正体を暴いたのはいいが、少し時期尚早だったんじゃねェか?」
「あ?」
「お前が陳腐な探偵ごっこさえしなきゃ、オレはもう少し大人しくしてやってもよかったんだぜ? くだらねェ知的好奇心が先行しちまったのか知らねェが、結果的にお前の寿命を縮める羽目になっちまったなァ。ハハハハ!」
「……そうかもな」
確かに海藤の言うことには一理ある。だが、なにも俺は考え無しにお前の正体を炙り出した訳じゃない。
俺がここで動いたのは、お前をこの場で排除するためだ。お前の仲間であるデブスと砂肝は、既にお前に恐怖心を抱いている。元殺人鬼で元魔王……なんて非道極まりない存在と行動を共にする奴なんていないからな。
チームが内部崩壊しかけているこの状況こそ、女神からは明言されていないあのルールを利用するのに打って付けだ。
俺は一瞬だけ、デブスと砂肝を見る。
だが海藤は、そんな俺の一瞬の挙動で何かを察したらしく……
「……ハッ、そういう事か。やっと理解したぜ。貴様が何故、このタイミングでオレの正体を暴こうとしたのか。想像以上に頭のキレる奴だな。小間ァ」
どうやら海藤もあのルールに気が付いていたらしい。
だとしたら厄介だな。あれについて明言されると、この5対1の構図が崩れかねない。
「小間ァ。お前が考えていることは大体分かった。だが残念だったな! この状況はオレにとってむしろ好都合だ!」
「なんだと?」
「今見せてやるよ! 黒結界!」
その瞬間……黒い球体のようなものが展開され、俺たちはその中に閉じ込められた。
球体の外にいるのは海藤だけだ。
「な、なによこれ!」
「そいつはお前たちを閉じ込めるための魔術結界だ。2回戦が終わるまで、そこで大人しくしててもらおうか」
まさか同じチームのデブスと砂肝ごと俺たちを閉じ込めるとは。
だが海藤は重要な事を一つ見落としている。
「残念だな海藤。俺の竜の前では、魔術で作った結界なんて意味ねーんだよ!」
俺は腰をスイングさせ、股間の竜で結界を殴りつける。俺の股間の竜は、異能、魔術の力を全て無効化する。
股間の竜で殴りつけたことでその力が働き、ガラスが割れる様に砕け散る結界。
しかし砕け散った結界は、まるで時を逆行するかのように一瞬で元通りになってしまった。
「どういうことだ!? なんで……」
「アーハハ八ッ!! 残念だったな小間ァ。その黒結界は、例え破壊されても俺の魔力が尽きぬ限り、永遠に復活する」
「……面倒な事しやがって。ならこの結界を破壊し続けて、お前の魔力とやらをガス欠にするのもありかもな」
「クハハッ! 別に構わねェぜ? ただ、オレがガス欠になってる頃には、とっくに2回戦は終わってるだろうけどなァ!」
「クソが……」
しかもこの結界、修復速度が予想より遥かに速い。結界を割った瞬間に、割れた部分から外に脱出しようかと思ったが、どうやらそんな事はできないみたいだ。
これはマズいな……。
「クハハッ! だが安心しろ。黒結界から出る方法は他にもある」
「なんだと……」
「この黒結界の維持や修復に必要な魔力は、そこの女2人を経由して供給される。つまり、その女2人を殺せば、黒結界から出れるって訳だ」
海藤は、海藤と同じチームであるデブスと砂肝を指差しながらそう言った。
「……そう言う事か。お前、最初からこれを狙ってたのか」
「そうだ。言ったはずだぜェ? 好都合だってなァ! アーッハハハァ!」
「どういうことなの小間!? あいつの狙いって!?」
「……自分の仲間を私たちに殺させることによって、2回戦終了時の得点を上げる……恐らく、それが海藤君の狙いです」
混乱するクレアの代わりにミコトが答える。
その通りだ。恐らく海藤は他チームと遭遇したら、黒結界を使って仲間ごと他チームを閉じ込めるつもりだったんだろう。そして、黒結界の中で、自分の仲間と他チームを戦わせる。
その結果仲間が殺されたとしても、チームの得点を底上げすることができる。なんせ今回はチームの得点を、2回戦終了時に生き残っているチームの人数で平均化しなければならない。つまり、2回戦終了時までに残っているメンバーが少ない方が、高得点を獲得しやすい。
仲間が他チームに勝ったとしたら、それはそれでよし。競争相手が1チーム減ることになるし、戦いが長引けば、結界に閉じ込めた他チームを足止めできる。
つまり、どう転んでも海藤にとっては得しかないってことだ。
「汚い手使うじゃねえか海藤。女神さまがチームで協力して戦えって言ってたの忘れたのか?」
「なァに言ってんだよ小間ァ。こいつもチームプレイの一環だぜ? 2人に他チームの足止めを任せ、オレはその隙に点数を稼ぐ、立派な戦術じゃねェか」
「白々しいことを……」
「海藤! アンタ絶対許さないから!」
「ヒャハハハッ!! 威勢がいいじゃねェか女! そういや、そこの……名前忘れた。まァいいや。そこのギャルはテメェのオトモダチらしいな。どうだ!? これからオトモダチ同士で殺し合う気分は!? あとでどんなモンか教えてくれよ! まァ勝ち残れればの話だけどな! ギャァッハハハハハハァ!!」
「私は汐里を見捨てない! デブスさんも助ける! アンタの思惑通りにはならない!」
「そうかい。だが、女2人はオマエを殺す気満々らしいぜェ?」
俺は何か違和感を感じ、砂肝とデブスの方を見る。
何か妙だ。海藤に見捨てられたってのに、さっきからこの2人、何の反応もせずにずっと黙ったままだ。
まさか……
「汐里、大丈夫? 絶対にアイツを倒してここから出ようね」
砂肝に不用意に近づくクレア。
マズいっ!
「クレア離れろっ!」
「え……」
俺が叫んだ瞬間、砂肝は無機質な表情のままクレアに殴りかかった。
一瞬動揺するクレアだったが、かろうじてそれを躱す。
脱力した状態で顔を上げた砂肝。その瞳は、海藤と同じように赤色に染まっていた。
「あーァ。惜しかったな。言い忘れてたが、黒結界を作るために、そこの女2人にはオレの操り人形になってもらった。悪いが戦闘は避けられないぜ?」
「……ひどすぎる」
海藤の嗜虐的な笑みを見て、思わずそう口にするミコト。
「はぁはぁ……。クククク……ハーハハハッ!!」
だが、海藤はそんなことを意に介さず、何やら興奮した様子で不気味な笑い声を上げ始めた。
「いいねェ……お前たちが絶望に身を沈めていく姿を見ると興奮しちまうよ。さァもっと苦痛に顔を歪めてくれ。久々なんだよ人間が苦しむ姿を見るのはよォ。こればっかりは何度見ても飽きやしねェ。キモチィモンダゼあはははははぁっ!!」
喜怒哀楽……それらの感情を全てぐちゃぐちゃに合わせたような表情で、間髪入れずに喋りだす海藤。
……想像以上にイカレてやがる。女神様がコイツを危険視するのも納得だ。
「あはへは……さァ殺し合えェ!」
海藤がそう叫ぶと、砂肝とデブスが俺たち目掛けて走り出した。
もう戦闘は避けられない……。
バトルロイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』
残り1時間28分
脱落チーム:チーム5(土井恭平、山下トミカ、唐沢和也)
チーム7(斎藤連、渡辺亮、塩浜聖)
チーム9(白崎祥吾、レックス、終始)
お読みいただきありがとうございます。
次回、海藤とあの男たちがついに戦うかもしれません。




