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昼⑬ 蟻道冷人の正体

今回はよく喋ります。


「お前が蟻道冷人ぎどうれいとだろ。海藤咲夜」


 俺は海藤咲夜に向けてそう言い放った。

 場がしばし静寂に包まれる。最初に口を開いたのは紅クレアだった。


「あんたさぁ、話聞いてた? いくらなんでもそれはないでしょ」


「まぁ気持ちは分かる。こんな爽やかイケメンが元魔王だなんて信じられないよな」


「小間君……僕を疑っているのかい?」


「そうだな」


「少し……いや、すごくショックだよ」


 海藤は少し落ち込んだ様子でそう言った。


「でも、なんで僕が……」


「海藤。昨日、1回戦が終わった後のこと覚えてるか?」


「え? う、うん。でもあのあと小間君とはすぐ別れたよね?」


「そう、すぐにだ。お前は初めて来るはずの神の間で、見取り図を見ないでまっすぐ自分の部屋に向かったよな? なんで見取り図も見ないで自分の部屋が分かったんだ?」


「え……それは」


「前に来たことがあるから覚えてたんじゃないか? どこにどの部屋があるかどうか」


 実は、昨日こいつが部屋にまっすぐ向かった時点で、少し妙だと思っていた。

 まぁ怪しい奴は他にもいたから、この時点では絞り込めていなかったが。


「小間君。申し訳ないんだけど、見取り図があることに僕は気が付いていなかった。いきなりバトルロイヤルに巻き込まれて、少しでも早く休みたくてね。あの後、少しウロチョロして自室を探す羽目になったんだ。マヌケだよね……あはは……」


 まぁそんな感じで返してくるだろうな。流石の俺もこの程度のことで海藤を蟻道冷人だとは断定はしない。

 次にどう切り出すか考えていると、栗髪ギャルの砂肝汐里すなぎもしおりが口を開いた。


「てか小間さぁ。あんた海藤君がイケメンだからって、変な因縁付けるなんてマジサイアクなんだけどぉ」


「アホギャルは黙ってろ」


「はぁ!? こいつマジイラつくんですけどぉ」


 言葉通り、イライラした様子の砂肝汐里すなぎもしおり

 そんな気まずい空気を変えるべく動き出したのは、意外にもクレアだった。


「でも小間。あのイリスって奴は海藤君のこと勇者って呼んでたじゃない? てことは、海藤君は元勇者で確定なんじゃないの?」


 いい質問だ。メスゴリラにしては上出来だ。


「そう。その発言のせいで俺も勘違いしかけたが、実際は違う。海藤は元勇者『カイン』なんかじゃない」


「勘違い……ですか?」


 不思議そうな表情でミコトがそう言った。俺は説明を続ける。


「確かに海藤が元勇者で、イリスが元魔王であるように思える。けどな、イリスは俺たちにこうも言ってたんだよ。『最初こんなところに連れてこられた時は正直気が乗らなかった』ってな。こんなところ……っていうのは神の間のことだろうな。だが、蟻道冷人は元々異世界転生者だった。だとすると、最初に神の間に連れてこられた、というイリスの発言とは噛み合わない。なんせ蟻道冷人は異世界転生する際に、この神の間に来たことがあるはずなんだからな。だから、イリス=蟻道冷人という仮説は成り立たない」


「ヴふん……。じゃあなんで、あのイリスはさくやちんのことを勇者って?」


「蟻道冷人は魔王になる前、人間や魔族など、種族を問わず無差別に生物を殺し続けたって話はしたよな?」


「ヴふん……。そうね」


「もしもイリスが、蟻道冷人によって殺された魔族の一人だとしたら。もしも魔族であるイリスが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう認識していたとしたら。イリスが蟻道冷人を勇者だと勘違いするのも納得がいく」


「小間君……」


「イリスは蟻道冷人を勇者と勘違いしたまま殺された魔族。そして、今回初めて神の間に連れてこられ、蟻道冷人の生まれ変わりである海藤を発見し、復讐しようとしている。この考えならイリスの発言とも食い違いはない。そして、お前が昨日、知らないはずの場所で迷うことなく行動できたのも辻褄が合うんだよ。海藤」


「う~ん。なんか頭痛くなってきた」


 クレアが理解できないといった様子でそう言った。

 それに続けて海藤が口を開いた。


「小間君。確かに君の推測に今のところ矛盾はない。でも所詮は推測の域を出ないよ。何も証拠はないじゃないか。それにイリスが僕たちに嘘をついている可能性だってある。神の間に来るのは初めてだと、僕らにそう思わせることで攪乱させることが目的だったのかもしれない。しかも、イリスが蟻道に殺された魔族であるなんて、完全な君の予想じゃないか」


「随分饒舌に喋りだしたな海藤。推理モノの追い詰められた犯人って大体そんな感じだよな。極めつけには証拠がないだろ、なんて言い出して白を切り出す。まさに今のお前みたいだな。ちなみに、イリスが俺たちを攪乱させようとしているかもしれないって言ったが、それはない。何故なら、あいつは俺たちが元勇者と元魔王を探していることなんて知らないからだ。わざわざ嘘をついて俺たちを攪乱させるメリットがない。というより、そもそも攪乱させられるとも思っちゃいねぇのさ」


「……」


 黙秘を貫く海藤。やれやれ、強情な犯人サマだぜ。


「じゃあよ海藤。そんなに言うなら、今から証明してくれよ」


 さて。前置きが長くなったが、ここからが本題だ。

 俺は上着のポケットからあるものを取り出した。


「あら。確かそれは、ダーリンの部屋にあった香水じゃない。ヴふん」


「あんた、それでいい匂いだったわけね。納得だわ」


「ふぅん。小間にしてはぁ、いい香水使ってるじゃん」


「でも竜騎君。その香水がなんの関係があるんですか?」


 皆いいリアクションだな。おかげで、今から話すことに説得力を持たせることができる。

 さて、今までの話は俺の推測のみだったが、ここからは推測+嘘で海藤を追い詰めてく。


「こいつは女神様から貰った香水だ。皆が言った通り、中々いい匂いの香水だろ? そう思うよな? 海藤」


 海藤は相変わらず青ざめた表情で、無言を貫いていた。

 俺は話を続ける。


「実はこの香水、人間からすると普通の香水らしいんだが、悪の魔力を持つ者、言っちまえば魔族や魔王からすると、非常に強力な猛毒になりうるらしい。おまけにいい香りが一変して、激臭に感じちまうらしい」


 これは半分嘘だ。

 この香水は、女神が俺の部屋に落としたものを勝手にパクったものだ。故に、女神からそんな説明は受けていない。だが完全に誤りという訳ではない。恐らくこの香水は、規則やらなんやらで直接介入できない女神からの助け舟だ。あの時、俺の部屋にこの香水を落としたのも、恐らくは女神がわざとやったことなんだろう。


「海藤。お前、二回戦が始まる前に俺に聞いてきたこと覚えてるか?」


「……え? いや、覚えてないよ……」


「大浴場には行ったか? ……って聞いてきたんだよ。あの時は特に何も感じなかったが、今にしてみればやけにピンポイントな質問だったな。あれは、この香水を付けた俺の激臭に耐えられなくて、つい風呂に入ったか確認したくなって聞いちまったんじゃないか? 顔がずっと青ざめていたのもそのせいだろ。あとは俺と話すとき、ずっと一定の距離を保っていたりとかな。そりゃ臭い奴の近くにはいたくないもんな」


「そういえばぁ……海藤君、クレアたちと合流してから体調悪そうだったよねぇ~。てっきり小間がキモいからだと思ったんだけどぉ」


「ひっぱたくぞクソギャル」


「そんなことないよ2人共。チーム1だけで行動してた時は、なんとか誤魔化していただけで……。小間君と合流してから体調が悪そうに見えたのは、少しほっとして肩の荷が下りたから、誤魔化していた緊張が一気に来ただけなんだよ……。だからその香水は関係ないよ。それはただの香水だ」


「いや違う。この香水の効果は既に実証済みだ。あの男……イリスでな」


「イリス……あっ!」


 何かに気が付いたクレアが驚きの表情を浮かべる。


「あいつは俺に近づいた瞬間にこれの激臭に耐えられなくなって逃げていった。腰巾着のエリスも同様だ。なぁ海藤。さっきお前、イリスが蟻道に殺された魔族だなんて、俺の予想に過ぎない……みたいなこと言ってたな。でも違う。あいつで香水の効果を実証したから、俺はこの考えに辿り着いたんだよ」


 そう、あの時にこれがただの香水ではないことを確信した。

 この香水は、きっとイリスの言っていた通り、上物の魔除けと呼ばれるものなんだろう。

 この2回戦で、人やモンスターが香水の匂いを嫌がる様子は特に見られなかった。その上、魔除け……というフレーズから察するに、恐らく魔族に対して有効であるということは、容易に想像がついた。


「つまり、魔族であるイリスたちと同じ様にこの香水の匂いを嫌がるお前は、あいつらと同じ魔族ってことになる。そしてこれまでの判断材料から推測すると、お前が魔族……元魔王であり、蟻道冷人ってことになるんだよ。どうだ海藤。納得したか?」


「さくやちん……」


「海藤君……」


「そ、そんな。納得できないよ……ぼ、僕は勇者カインだ……世界を救うために、蟻道を……」


「なら証明してくれよ。海藤」


 俺もここまで来て、今さら海藤が自白するとは考えていない。

 なら、それを認めざるを得ない状況を作り出すまでだ。

 俺は香水に付いているキャップを外す。


「この香水。頭から全部被ってくれよ」


「……!!」


「さっき言った通り、この香水は魔族が嗅げば激臭になる。そして、体にかければ猛毒として作用する」


「くっ……!」


「お前が本当に元勇者『カイン』なら……元魔王『蟻道冷人』でないと言うのなら、これを被ってもなんの問題もないよな? 魔族だったら頭が溶けて無くなっちまうかもしれねぇけど、清廉潔白なお前なら問題ないよな?」


 繰り返すが、被ったら猛毒になる……なんて効果は確認できていない。確認できたのは、あくまで魔族の類が香水の匂いを嫌がるということだけ。だがこの嘘こそが、海藤咲夜にとって何よりの「猛毒」となる。


「ち、違うんだ。小間君! 皆! 本当に僕は……僕は!!」


 海藤が動揺しているのが手に取るように分かる。


「なら、さっさとこいつを頭から被れ。それで一発で証明できるだろ? 言い訳するよりも遥かに手っ取り早いじゃねえか」


「小間君……僕たち、友達じゃないか!!? 僕を疑うなんて!!」


「だから今後も友達でいるために被ってくれって。もし俺が間違ってたら、煮るなり焼くなり好きにしていい」


「小間君!! 僕は……僕はぁっ!!」


 必死に叫んで訴える海藤。

 だがその叫びは、俺どころか、女子4人にも届かない。


「……」


 突如、ぷつっと糸が切れた人形のように脱力した姿勢になる海藤。

 小声で何かをぶつぶつと言っているが、何も聞き取れない。

 先ほどまでと打って変わった様子の海藤。

 草原のそよ風の音だけが、耳を撫でる。

 そして……



「ふひっ」



 不気味な嗤い声がどこかから漏れる。

 その声が海藤咲夜のものだと気づくまでに、数秒かかった。


「ふふ……ひひひ……」


 徐々に嗤い声が大きくなっていく。


「ひひひ……ヒャァハハハハハハハハハァッ!!」


 狂ったように嗤いだす海藤。

 その姿は、今までの清楚な雰囲気とはまるで別物。

 凍てつくような冷たさ。そして、己の死を連想してしまう得体の知れない不気味さが、今の海藤にはあった。

 海藤は嗤いながら、綺麗な金髪を両手でぐしゃぐしゃにし、前髪を掻き上げた。


「あーァ。やめだ。やっぱ性に合わねェわ。こんな優等生キャラ。吐きそうになるぜ」


 今までの爽やかな声とは一変、悪魔や死神を想起させるような、耳ではなく心臓に直接突き刺さるような、圧倒的なプレッシャーを持った声だった。


「そうだ。僕が、いや……オレが蟻道冷人。元魔王だ」


 善人の皮を脱ぎ捨てた魔王の姿が、そこにはあった。



バトルロイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』


残り1時間35分

脱落チーム:チーム5(土井恭平どいきょうへい山下やましたトミカ、唐沢和也からさわかずや)   

      チーム7(斎藤連(さいとうれん)渡辺亮(わたなべりょう)塩浜聖(しおはまこうき

      チーム9(白崎祥吾しらさきしょうご、レックス、終始おわりはじめ



お読みいただきありがとうございました。

次回、ついに海藤と激突……!?

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