昼⑩ 敗北者の末路
敗北者とは…?
バトルロイヤル2回戦、モンスターハント。
俺、小間竜騎、紅クレア、天上ミコトのチーム6は、「D-09」という名の黒騎士との戦いに挑もうとしていた。黒騎士のレベルは81、今までのモンスターとは桁違いだ。
そして、俺たちの後ろには黒騎士が率いるモンスターの大軍。ちょっとヤバいなこれは。
「さて、どうしますか……竜騎君」
「どうもこうも、やるしかねぇわな。とはいえ、後ろのモンスターの大軍も無視はできねえ。ミコト、すまないが黄金の炎で壁かなんか作って、後ろの奴らがこっちに来れないようにしてくれないか」
「……分かりました」
「クレア。さっきの黒騎士の斬撃、見えたか?」
「正直、見えなかったわ。速いだけじゃない……。剣を振る直前、剣そのものが消えたように見えた」
「やっぱりか。あの剣の秘密を暴かないことにはどうしようもないな」
俺たちが話し合っていると、突如、黒騎士が口を開いた。
「相談は済んだか? 人間どもよ」
「はっ。お喋りできるとは驚きだな。モンスターのくせに達者な日本語だな」
「口の減らぬ小僧だ。その口、黙らせてくれる」
「クレア! まずは俺が突っ込む! あいつの動きを見ててくれ!」
「あ、ちょっと!」
俺は黒騎士目掛けて走り出す……が、股間の竜のせいでやはり動きが遅い。
「愚かな」
黒騎士は短くそう言うと、再び剣を構える。さっきと同じように剣が姿を消し、そして……
ガギィンッ!!
火花が散る音と共に、俺目掛けて振り下ろされた姿なき剣が弾かれた。
「なにっ!?」
「俺の竜はオートガード性能付きだ。例え俺に剣が見えてなくても、跳ね返すことは可能だ」
正直、見えない剣に対して俺の竜の力がどう働くかは賭けだったが、正常に動いてくれてよかった。
そして、振り下ろす直前まで不可視状態だった剣が再び姿を現した。
俺は再び黒騎士から距離を取る。
「ほう、貴様の竜。オートガードだけでなく、異能を無効化することができるようだな」
「まぁな。ん? 待て、お前今……」
「なら、速度を上げたらどうなるかな?」
黒騎士は剣を再び消し、俺に振るってくる。
今度は一撃ではなく連撃。あまりに凄まじい速度故、俺の目では追うことはできないが、股間の竜は正確にそれらをガードする。
「ククッ。この速度にも付いてくるか。ふざけた姿だが、力は本物のようだな」
「そりゃどうも」
確かにガードはできるが、速すぎてこちらから攻撃を仕掛けることができない。それにこいつには、渡辺と塩浜の渾身の一撃を防ぐほどの盾がある。攻撃、防御、スピード……どれも一級品で隙が無い。
やはり俺一人では、こいつには勝てない。
「クレア。どうだ」
「滅茶苦茶速いし、剣が消えてるから分かりづらいけど、アンタのおかげで間合いは見切ったわ」
「マジかよ。お前天才ゴリラ?」
「ゴリラは余計よ。握りつぶすわよ」
いや、その脅し文句は完全にゴリラだろ。
まぁ冗談は置いといて、やはりこいつの異常な格闘センスは頼りになる。
「ミコト。そっちはどうだ?」
「とりあえず黄金の炎で壁を作って、モンスターが来れないようにはしたのですが、ただ……」
「どうした?」
「いえ、特に問題は無いのですが……壁を作った瞬間、モンスターたちが少し離れてしまって。何か企んでいるのでしょうか?」
確かに、ミコトが作った壁から少し距離を置いているように見える。
てっきり黒騎士の方から回り込んで来るのかと思ったが、最早動く様子もない。
「何かに怯えている? 黄金の炎……なるほどな。試してみる価値はあるかもな」
「どうしたのですか? 竜騎君」
「恐らく黒騎士たちの弱点はミコトの黄金の炎だ。壁があるから後ろの奴らは一旦放置で問題ない。ミコトもこっちに加勢してくれ」
「分かりました」
「ククッ。話し合いの多い奴らだ」
「そう言うなよ。お前の殺し方に関する話し合いだ。なんなら、ご希望の死に方があればリクエストしてくれて構わないぜ?」
「アンタ……なんであんなバケモノ相手に普通に話せんのよ」
「知らん。そんなことより作戦がある。耳貸せ」
俺は顔を近づけた2人に作戦を伝える。
「さぁて、行くか!」
俺がそう叫ぶと、ミコトはクレアの体に黄金の炎を放つ。もっとも、これは攻撃用のものではなく、回復・再生用の黄金の炎だ。クレアの体が黄金の炎に包まれていく。これでクレアは多少のダメージを負っても回復できる上、黒騎士に対してはこの黄金の炎がダメージとしても働く。
そして、俺とクレアは黒騎士目掛けて走り出す。だが……
「アンタ足遅っ!」
「お前が速すぎんだよ! いいから俺に構わず先に行け!」
ジェット機のようなスピードで突き進むクレアとかたつむりレベルのスピードで進む俺。
うさぎと亀のスピード差どころではないことは、誰の目にも明らかだった。
「ククッ面白い! 来い!」
黒騎士は再び剣を消し、クレアに振るう。
だが剣が見えないにも関わらず、クレアはそれを屈んで躱す。
クレアは見えない剣撃を躱しながら、黒騎士の懐まで踏み込む。カウンターを狙うクレアだったが、凄まじい速度の連撃を躱すことに精一杯で、中々反撃ができない。
そこで、俺の出番って訳だ。
「やっと着いた! 遅くなってごめんね!笑」
「笑ってないでさっさと行きなさいよノロマ!」
俺は黒騎士の剣に近づき、オートガードで連撃を止める。その隙に、黒騎士が持つ巨大な盾をクレアが蹴りで上方へ弾く。
よし! 黒騎士の両腕が無防備なこの一瞬なら……
「今だ! ミコト!」
俺の掛け声と同時に、ミコトは黄金の不死鳥を召喚した。
黄金の不死鳥は黒騎士目掛けて飛翔していく。
「クハハッ! なるほど、狙いは悪くない! だが……」
黒騎士の体が、黒紫の雷に包まれていく。
塩浜が操っていた雷とは違い、より禍々しい威圧感を放っていた。
「剣術だけが俺の力だと思ったか! 返り討ちにしてくれ……」
黒騎士がそう言いかけた直後、黒騎士の全身を覆っていた黒紫の雷が、ぱっと消えた。
「わりーな。なんか厄介そうだから消させてもらったわ」
黄金の不死鳥に視線が行き過ぎて、完全に足元の俺のことを失念していた黒騎士。
俺はそんな黒騎士の足に竜を噛みつかせることで、黒紫の雷を無効化した。
「クソ! おのれぇ!」
「あぁそうだ。パニクってるとこわりーんだけど、上見てみ」
「はっ! そんな子供だましの手には乗らないぞ!」
そりゃ残念。嘘をついたつもりはなかったんだがな。
今、お前の頭上には、盾を弾くと同時に上にジャンプした紅クレアがいるってのに。
クレアは、黒騎士の頭に思い切り踵落としを叩き込んだ。
「おらあぁぁぁっ!!」
「!?!? グッア!?」
クレアの渾身の踵落とし。それも、黒騎士の弱点である黄金の炎付きだ。
そして、踵落としで怯んだ黒騎士に黄金の不死鳥が体当たりを食らわせた。
「グアアアァァァァァッ!!!!」
黒騎士の体は黄金の炎に包まれ、焦げ臭い蒸気を上げながらのたうち回る。黒騎士の頭上に表示されていた緑色のライフゲージが尽きる寸前まで減少した。
どうやら俺たちと戦う力はほぼ残っていないようで、その場で仰向けになって倒れる黒騎士。
この戦いは俺たちの勝利だ。
「やってくれたな貴様ら……。敢えて俺の弱点である黄金の不死鳥を囮にすることで、攻撃を畳みかけるとは」
「いや。俺が2人に言ったのは、俺とクレアが突っ込むから、ミコトは隙を見て黄金の不死鳥をぶち込んでくれってことだけだ。あとはその場の思い付きだ」
「……こんな作戦とも呼べぬものに、この俺が破れるとはな」
「まぁこっちも必死なんでな。作戦というか気合勝ちだ。お前みたいにはなりたくないしな」
「?」
首を傾げるクレアとミコト。
「フッ。驚いたな。まさか気が付いていたとは」
「……」
「今回の試練は随分人数が多いようだな。全部で何人だ」
「最初は54人。この二回戦が始まる頃には27人まで減った」
「54人……そうか。女神は……」
何かを言いかける黒騎士。
「しかしいいチームだ。……特にお前の異能。『ジョーカー』を引き当てたようだな」
「『ジョーカー』だと? どういう意味だ」
「なんだ説明されなかったのか? そのままの意味だ。その異能をより使いこなせば、お前は無敵の存在となるだろう」
どうやら黒騎士は、俺の股間の竜について何か知っているらしい。
「なぁ、アンタは……」
俺がそう言いかけたところで、黒騎士の体が青白い光に包まれた。
「先に逝く。俺の様になりたくなければ、精々試練をクリアすることだな!」
そう言い残し、黒騎士は跡形もなく消えてしまった。
そして、黒騎士が消えると同時に、周囲のモンスターの大軍も消えてしまった。
「ねぇ。さっきのどういうこと?」
「……まさか」
どうやらクレアと違ってミコトは気が付いたらしい。
「黒騎士は、俺たちの前にここに来た異世界転生者候補だ」
「……え? な、なんで?」
頭の整理が追いついていない様子のクレア。
「黒騎士の名前である「D-09」。これは、2回戦が始まる前に見せられたチーム分けに記載されていた枝番と酷似している」
「枝番……あっ確かに」
「そして、俺に消える剣を無効化された時、奴は「異能を無効化することができるようだな」と言った。これはあいつの能力が異能であることを示している。恐らくあの枝番は、異能に与えられた何らかの番号なんだろうな」
少しずつ理解してきた様子のクレア。俺は話を続ける。
「このバトルロイヤルが始まる前に女神が言っていた、敗者の処遇について覚えているか?」
「えーっと……」
「『ちなみにここでリタイアした方、及びバトルロイヤルに敗北した方は、先ほど引いたカードの能力を引き継いだまま別の生物に転生しますので、ご注意を』って仰ってましたね」
何も思い出せないクレアに対して、ミコトはあの時の女神の言葉を一言一句違わず言ってのけた。とんでもない記憶力だな。
「そう。まとめると、黒騎士は俺たちより前に神の試練に参加した者。そして試練に失敗し、異能の力を引き継いだモンスターとして生まれ変わった存在……ってことだ。俺たちもこの試練……バトルロイヤルに負けたら、モンスターになって再利用され続けるってわけだ。エコだねぇ」
「そ、そんな……」
ガクッと項垂れるクレア。
敗北者は神の奴隷。それも、あの黒騎士は以前の記憶を保っているように見えた。
自分がモンスターになった経緯を覚えていた状態で、神の手駒として利用され続ける。想像以上に敗北者の末路は厳しいものだった。
それにしても、黒騎士の名前であった「D-09」。今回チーム9に振り分けられた白崎祥吾という男の枝番も確か「D-09」だった。枝番が重複していることには、何か意味があるのだろうか。
そして、黒騎士が俺の異能に対して言った「ジョーカー」という言葉。
何かが引っ掛かる。この胸騒ぎはなんだ?
モンスターの大軍が消え、見晴らしのよくなった草原。
だが俺たちの心は、何故か晴れることはなかったのだった。
バトルロワイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』
残り2時間50分
脱落チーム:チーム5(土井恭平、山下トミカ、唐沢和也)
チーム7(斎藤連、渡辺亮、塩浜聖)
チーム9(白崎祥吾、レックス、終始)
お読みいただきありがとうございました。
次回、元勇者の正体が…!?




