昼⑨ 黒騎士の出現
これまで登場した異能 その3
渡辺亮
異能:炎獄
炎を操る異能。所謂パイロキネシス。自然発火、または炎を纏っての攻撃が可能。また、炎をバーナーの様にして掌から打ち出すことができる。
塩浜聖
異能:雷鳴
雷を操る能力。所謂エレクトロキネシス。電気を纏って攻撃したり、屋外であれば落雷を起こすことも可能。電気を一ヶ所に集め、レーザーの様にして打ち出すことも可能。
斎藤連
異能:???
詳細不明。渡辺曰く、「最強クラスの異能」との事。
バトルロイヤル2回戦、モンスターハント。
俺、小間竜騎率いる(嘘)チーム6と熱血男・渡辺と脱力系男子・塩浜のチーム7は、モンスターの大軍相手に一時的に共同戦線を張ることになった。
「しゃぁ! 燃えてきたぞ! ファイア!」
渡辺はその暑苦しさにお似合いな、炎を操る異能の持ち主。ムカつくほど暑苦しいが、強さは本物だ。渡辺の周囲にいたモンスターたちが一瞬で燃やされ灰になっていく。
「渡辺うるさいー。うん」
脱力しきった様子とは裏腹に、雷を操る異能を持つ塩浜。その怒涛の雷撃の威力は、渡辺の炎に勝るとも劣らない。
これは俺たちも負けてられないな。
「ドラゴンブレス!」
俺は股間の竜から出したドラゴンブレスでモンスターたちに攻撃する。
「小間君! 君の火炎放射も中々だね!」
戦いの最中、渡辺が馴れ馴れしく話しかけてきた。心なしか気温が上がった気がする。
「そりゃどうも。てか汗が飛ぶからもうちょい離れてくんね?」
「しかし小間君! ずっと思っていたんだが! 君はなんで下を履いていないんだい!?」
ガンスルーからの質問返し。マジ疲れるなこいつ。
「見りゃ分かんだろ。普通に履けないんだよ」
何故かドヤ顔で答える俺。
「確かに! 男のシンボルがデカすぎるのも考え物だね! ハハハッ!!」
「何笑ってんだお前しばくぞ」
俺の悩みの種をこうも豪快に笑われると普通に腹立たしい。
「ところで塩浜さん。チーム7のもう一人の方はどうされたんですか?」
「うん。斎藤連ってのがいるんだけど、今は別行動してるよ。ここ来る前に見かけたから声掛けといたけど、そろそろ来るんじゃない?」
「別行動ですか……ちょっと危ないですね」
「うん」
「うんって……仲間じゃないんですか?」
「いや違うでしょ。最終的には生き残りをかけて戦うわけだし。それに別行動したほうが効率的にモンスターを狩れるし、まぁ死んだら死んだでチームの平均点上がるし。どのみち問題ないよねーうん」
ミコトからの質問に対し、急に饒舌に話し始めた塩浜。まぁ間違ってはないな。それも戦略の一つだ。
「それに斎藤は僕たちより強いし、多分一人でも大丈夫でしょー。うん」
「そんなに強いのか?」
「斎藤は強いぞ! 本人の戦闘センスもさることながら、持っている異能も最強クラスだ!」
あれ、俺塩浜に話しかけたよな? なんでコイツが割り込んでくるんだ?
好きなの? 俺のこと。
「しかし数が多すぎますね。どうしましょうか竜騎君」
「今のところはノーダメージだし、このまま続行で問題ないだろ」
「場所を移しても、他のモンスターに遭遇できるとも限りませんしね」
「あぁ。というか、これだけモンスターを倒しているのに一向に数が減る気配がない。俺の予想では奥のケルベロスを倒すまでこいつらは無限に湧き続ける。点数を稼ぐならこの状況はむしろ好都合だ」
モンスターの大軍の奥で微動だにしないケルベロス。あいつがこの大軍のボスで間違いないだろう。確認できる限り、この大軍の中であのケルベロスが一番レベルが上だしな。
なんて思っていると……
「皆さん! 避けてください!」
「え? うおぉっ!」
ズドォン!!
……と、巨大な物体が空から降って来た。
「ビックリした……なんだこれ、犬の頭?」
おいこれ、今まさに話してたケルベロスの頭じゃないか?
「あー! ごめん、頭1つそっちに吹っ飛ばしちゃった!」
「クレア……」
この赤髪メスゴリラ。どこに行ってたのかと思えば、まさかボスモンスターを単独で狩ってしまったとは。
「何やってんだお前」
「何って、モンスター倒したんだけど……ってそんなことより! ヤバいモンスターが来たの! ちょっと手伝って!」
何やら慌てた様子のクレア。
「でも、このモンスターの大軍のボスはお前が倒したじゃねえか。ボスを倒したお前に今さら恐れるもんなんてないだろ」
「違うの! この群れのボスはケルベロスじゃない! もっとヤバいのがいるのよ!」
「なんだと?」
じゃあどれがボスなんだ?
そう言いかけた、次の瞬間だった。
ドサッ!
と、何やら人の形をしたものが、先ほどのケルベロスの頭のように空から落ちてきた。
「……誰だこいつ」
「なっ!? さ、斎藤! おい斎藤!」
渡辺が動揺し叫ぶ。どうやら、今落ちてきたこいつが斎藤連らしい。
斎藤は既に意識を失っており、そして、斎藤の体が青白い光に包まれ消えていく。
「嘘だよ……一体誰が?」
基本落ち着いている塩浜が動揺している。口ではああ言ってはいたが、斎藤の強さを信じて疑っていなかったのだろう。
「来たわ! あいつよ!」
今度はクレアが叫ぶ。
クレアが指さす方向を確認すると、そこには漆黒の甲冑を全身にまとった黒い騎士のような大男が立っていた。
体長は3メートルほどで、右手には自身の体の倍はあるであろう黒く輝く大剣、左手には巨大な分厚い盾をそれぞれ所持していた。
「何者だよこいつ……」
俺がそう言った直後、押しのけるように前に出た渡辺と塩浜が、黒騎士に攻撃を仕掛ける。
渡辺は炎をバーナーのように出力させ、塩浜は電撃をレーザーの様にして、それぞれ黒騎士に全力で放った。渡辺と塩浜の攻撃を食らった黒騎士を中心に、巨大な爆発が起こる。あまりの威力に、余波だけでそこらのモンスターが吹き飛ばされる。
今回のバトルロワイヤルで、こと火力に関して言えばトップクラスの異能を持つと思われる二人の全力攻撃。
これを食らえばどんな奴でも只では済まない……そう思っていたのだが。
「……これはヤバいかもね」
「嘘だろ! 俺たちの攻撃が効いてない!?」
黒騎士は巨大な盾で今の攻撃を完全に防いでいた。どころか、黒騎士が2人の攻撃を気に留めている様子はなく、軽々と大剣を振りかざした。
その瞬間、持っていた大剣が一瞬で姿を消した。
「は? どうなって……」
直後、渡辺と塩浜の体が横から真っ二つに切り裂かれた。
「うっ……」
その光景から目を背けるミコト。切り裂かれた渡辺と塩浜の体が、無機質な音を立てて地面に叩きつけられる。2人の体が青白い光に包まれ消えていく。
「そんな! 渡辺さん、塩浜さん!」
ミコトの瞳に、うっすらと涙が滲んでいるのが見えた。
何を泣いているのだろうか。確かに少しショッキングな映像だったかもしれないが、出会って20分も経っていない、それもいずれ戦わなければいけない厄介な競争相手が消えたんだ。むしろラッキーってものだろう。
問題なのは、この2人を瞬殺するほどの黒騎士と戦って、俺たちが生き残れるかどうかだ。
俺は、黒騎士の頭上のステータスを確認した。
「D-09 : Lv81」
黒騎士の名は「D-09」……というらしく、そのレベルは81……これまでとは桁違いの数値だった。
「……ちょっと、マジでヤバくない? さっきのレベル41のケルベロスですら結構手こずったのに、それのほぼ倍……」
「……あぁ。だが、逃がしてもらえる雰囲気でも無さそうだぜ」
俺たち3人の後ろにはモンスターの大軍が。
いくら全力で戦っても、これを突破するにはかなり時間がかかる。
それに……
「こいつに背を向けたら終わりだ。後ろのモンスターたちは一旦無視して、こいつを全力で倒す!」
「それしかないみたいね……」
「えぇ……」
黒騎士 VS チーム6
かつてない強敵との戦いが、幕を上げた。
この後、俺たちは知ることになる。
異世界転生できなかった人間が、一体どうなってしまうのかを。
バトルロワイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』
残り3時間10分
脱落チーム:チーム5(土井恭平、山下トミカ、唐沢和也)
チーム7(斎藤連、渡辺亮、塩浜聖)
チーム9(白崎祥吾、レックス、終始)
お読みいただきありがとうございました。
次回は黒騎士との対決。そして、ある事実が判明します。




